コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

我が手の下(もと)に 1 

 地下駐車場から7階のチーフ室に出向いた時、ジョーはイヤな予感がした。
 チーフが続き部屋にいるのがわかる。捜査資料の準備をしているのだろう。いつもは神宮寺と2人、しばし待っているのだが・・・。今ここにその相棒の姿はない。
 (・・おれ一人か・・・)続き部屋のドアを見つめ、ジョーは眉をひそめた。(情報課のパソコン1台おシャカにした件か、それともカウンタックで駐車場をドリフトした件か・・・)
 思い当たる事がありすぎて1つに絞れない。いや、それ全部かも─。
 「待たせたね」
 薄いファイルを持った森がジョーにソファを勧めた。座ってじっくり説教か、と思ったが、
 「これを見てほしい」
 1枚の写真を手渡された。
 「洸?」
 全身写真だが・・ちょっと太ったか?髪も短いぞ。何年前のだ?
 「洸ではない。西アフリカの小国ナドルの王子、ルウクだ」森がテーブルに何枚かの資料を並べる。「明日、ナドルの外務大臣が来日する。王子は大の日本びいきで、今回大臣と一緒に来日される。君には王子の護衛に付いてもらう」
 「おれ一人で!?ガキの相手!?」
 「若く見えるが王子は19才だ。君とちょうどいい」
 ニッコリと森が笑った。

 「なんでおれ一人なんだよ。おまけにもっとも苦手な護衛だぜ」ダブルJ室に相棒を見つけ、ジョーが文句を言い出した。「洸にそっくりなんだから、洸がやればいいんだ」
 「ムチャ言うな。洸はおれとコンピュータ・メンテ中だ。全部を一度に止めるわけにはいかないから、あと一週間は掛かるな」
 JBでは年に1回、全コンピュータの総点検を行う。本来管理課の仕事なのだが、神宮寺と洸が加わる方が早く済むのだ。
 「それにしても洸にそっくりだな。ナドルという国はよく知らないが」
 「5年前に大国から独立した小さな国だ。元々王制の一国家だったそうだ。独立してまた王制に戻った─と言っても、人口20万ちょっとの国で大した産業もないから王様も庶民も同じような暮らしらしい」
 「そんな国に見つかったのが、ニオブか・・」資料を手に神宮寺が呟いた。
 ニオブとは携帯電話やパソコンなどのハイテク機器に多く使われているレアメタルだ。産出量の94%がブラジル産で、レアメタルのほとんどを輸入に頼っている日本もブラジルから輸入している。もしブラジルが供給を停止すれば、日本のハイテク機器のメーカーは立ち行かなくなるだろう。
 もちろんそれは日本だけではない。
 そこへ名も知らぬ小さな国に新しい鉱脈が見つかったとすれば─。だが、ナドルにはそれを発掘したり製造したりする技術も資金もない。
 そこでナドル政府は主要大国に技術や資金の援助を申し込んで来たのだ。その最初の交渉国が日本だ。
 日本の企業のレアメタルの製造技術や環境対策の技術は世界のトップなのだ。もちろん一国だけで取引するわけではないが、交渉がうまく行けば日本が優先的に輸入できるだろう。
 「だがよ、ここまでだったらおれ達の出番はねえ。問題は国や企業以外の奴らだ」レアメタルが生み出す巨大な利益を欲する者はたくさんいる。たとえば─。「ザーツに目を付けられた。ヘタすりゃテロリストの資金源になっちまう」
 ナドルにザーツからの脅迫状が届いた。が、それでもこの交渉は成し遂げなければならない。
 「ザーツが接触してくる可能性があるな」
 神宮寺がジョーにコーヒーを渡し、自分もソファに腰を下ろす。信楽焼きのコーヒーカップを資料から離して置いた。
 「お前・・だんだんジジ臭い趣味になるな」
 「・・・誰に割られたと思ってるんだ」
 ジロリと睨む神宮寺に、ジョーが首をすくめた。
 「チッ、オケツ掘っちまった」
 「ボケツだ!」
 こんな奴に王子の世話などさせていいのか、と思ったが、決めたのは森だ。神宮寺の責任ではない。
 「さらに極秘事項がある」
 そう言うジョーに、いいのか?と神宮寺が眉を寄せた。
 「いざという時には、お前を引き抜くから話してもいいってさ」一口コーヒーを飲んだ。「王子は外務大臣にくっついての来日─という事になっているが、本当の交渉役はこの王子だ」
 森の話では、王子は10ヶ国語を操り経済や世界情勢にも精通している秀才らしい。日本を交渉の一番手に選んだのも彼だ。
 「ここんとこは、洸と違うな」
 「日本びいきだから、お前の接待ひとつで日本の運命が決まるかもしれないな」
 「あー、やっぱりヤダ。お前がやればいいんだ。ガキの扱いうまいじゃん」
 「毎日やってるからな」と相棒を見る。ムッとジョーが口元を曲げた。「代わってやってもいいけど、その代わりおれ達がやってる仕事をお前がやるんだぜ」
 「・・・・・」
 それはもっとイヤだ。ジョーは大きなため息をついた。

 翌日、ジョーは成田空港の第1ターミナル1階の国際線到着ロビーにいた。
 平日のまだ早い時間だが、ここにはたくさんの人がいる。その中にはジョー同様じっと到着ゲートを見ている黒いスーツの男達がいた。警視庁のSPだ。
 小国とはいえ一国の王子と外務大臣が来日するのだから、本来なら国賓級の待遇で迎えるべきだが、交渉国以外には知られたくない、というナルド側の事情とザーツの事もあり、表向きの交渉約である外務大臣にはSPが、そして王子にはザーツを相手にしている国際警察が付く事になったのだ。
 黒いスーツが決まりのSPと違い、ジョーはベージュのシャツにブラウンのジャケットという少々地味な恰好の普段着だ。
 今日は1日東京を見て回りたいという王子の要望に、あまり目立つ恰好は避けたのだが─。それでも長身の、独特な風貌に目を向けてくる者は多い。
 (東京を見て回りたいって・・・どこへ行きゃいいんだ?アキバか?まさかディズニーランドとかじゃねえだろうな)
 アキバはまだしも、男2人で遊園地はごめんだ。そんな事になったらどこかで女の子捕まえて・・・と、一瞬なんの仕事か忘れそうになった時、到着ゲートから写真で見た顔が現れた。
 (・・洸じゃねえか、あれ・・)
 と、疑うほどそっくりだ。違うところと言えば洸より少し背が高く、短めの茶髪ぐらいか。アフリカ人だが肌は白い。横に立つ大柄な男がアマド外務大臣だろう。まずSPが2人を確認した。王子に何か言っている。その目が、少し離れて立つジョーに向けられた。
 「Nice to meet you, It is Lurk」茶色の瞳を真っ直ぐにジョーに向け、ルウクは手を差し出した。「Thanking you is advance(よろしくお願いします)」
 「Im this place, Plerse call it joe(こちらこそ、ジョーと呼んでください)」
 握手を交わした。見かけ通りの─洸にそっくりだというのが気に入らないが─人当たりの良い爽やかな青年だ。要人を出迎えたというよりは弟を迎えに来たようだ。
 「The conversation is English?(会話は英語で?) 」
 「・・日本語、話せますか?」
 と日本語で言われ、ジョーは驚いた。資料にはルウクが日本語を話せるという記述はなかった。が、頷くと
 「では日本語で。習ったけどまだよくわからないので、使って覚えたいんです。日本語で交渉できるくらいに」
 「それだけ話せれば充分だと思いますがね」
 初対面の人間には懐かないジョーが自然と笑顔になる。実は相手が王族だというので、ていねいに対応しなければと思っていたのだが、ルウクがそれを望んでいないのがわかる。と、目の前の王子がクスッと笑った。
 「失礼、ジョー。あなたのような若い方で良かった。なるべくぼくと年齢の近い人をとお願いしたんです」
 それで一平じゃなくておれなのか。1才しか違わんぞ。本当なら洸が適任だ。いや、周りが混乱しそうだな。
 と、SPに守られた外務大臣が移動を始めた。表向きの交渉人である大臣がお膳立てし、日本の政府や企業との交渉はルウクが行う。この事は一部の関係者しか知らない。
 テロリストから王子を守るためだが、どう見ても要人はあっちだ。その大臣がチラリとこちらを見た。ルウクが軽く手を振る。
 「では、こちらも行きますか。王子様」
 「ルウクと呼んでください。でないとあなたをジョー、と呼びにくい」だが・・・とジョーが躊躇っていると、「故国(くに)ではそう呼ばれています。王族といってもわが国のような小国では1つの役割にすぎず・・・BakeryやBarbarと同様の仕事の1つです」
 駐車場で待っていたのはシルバーグレイのマークXだ。コードレスキーでドアロックを解除するジョーの手元を興味深がに見て
 「国王である父も、公務が終わったら裏庭で野菜を作ります」
 「わかりました、ルウク」ゆっくりと車を発進させ、東関東自動車道を都心へと向かう。「ところでルウク、行きたい所があるらしいが、やっぱり秋葉原とか原宿とか─」
 「この道路を作るのに、どのくらいの資金が必要ですか?」
 「は?」ジッと前を見詰めるルウクに「え・・と・・。調べておきますか?」
 「はい、お願いします」ニッコリとルウクがジョーに顔を向ける。彼の風貌を怖がらない人間も珍しい。「あ、ごめんなさい。秋葉原も原宿も行きたいけど、今回は茅場町のトウキョー証券取引所とカスミガセキの警視庁に」
 「・・・は?」
 「見学ができるんです。警視庁は予約済みです。それからこの2ヶ所はチカテツで繋がっているので、ぜひ乗りたいです。できれば電車も─」
 「・・・・・」
 ジョーがルウクの顔をまじまじと見つめた。
 「我が国は大きな産業もなく輸出できる物も少なくて─。農業とわずかに取れる鉄鉱石で暮らす貧しい国です。コウキョー交通もバスしかありません。日本も天然資源は少ないと聞きました。でも皆、豊かに安全に暮らしています。ぼくはいつか故国を日本や他の先進国のように、皆が安心して暮らせる国にしたい。そのためには色々見たいし知りたい。国作りの参考にしたい。それが国費でぼくをイギリスに留学させてくれた国民への恩返しです」
 一気にしゃべってホッと息をつくと、ちょっと恥ずかし気にジョーを見た。
 「・・今の日本語・・大丈夫でしたか?」
 「完璧だ。おれよりうまい」
 国内の犯罪件数が増えたとはいえ、世界から見れば日本は安全で豊かな国に見えるのだろう。もちろんそのためにおれ達がいるのだ。
 「考え方もな。日本からナドルに、若いのを留学させたいくらいだ」?と首を傾げるルウクにジョーはちょっと笑ってみせた。
 車はもうすぐ四街道市に入る。

 「証券取引所に警視庁見学?それはまた・・・」
 『ちょっとびっくりだろ?おかげでおれは警察の活躍を紹介するビデオを見せられ、警察資料室のオオクボナントカの写真にあいさつして来たぞ』
 「勉強になって、良かったじゃないか」リンクから聞こえるジョーの、低いがよく響く声は文句を並べているがその口調ほど不満ではないようだ。
 『おまけに昼食はマックだぜ』
 「マック?どこのレストランだ?」
 『ハンバーガー屋だ。セットメニューに付いているおまけが欲しかったそうだ─笑うな!』
 「す、すまん。だけど─」
 大きな体でハンバーガーショップの小さめのイスに居心地悪そうに座り、ハンバーガーをパクついているジョーと、おもちゃを喜ぶ洸─ではないが─の姿が頭に浮かんだ。これを笑うなと言われても無理だ。
 「いい青年じゃないか、故国(くに)想いの─。交渉が成功してナドルのためにニオブが使われればいいな」
 『うん、そうしたらまず国際警察のナドル支部を作りたいそうだ。そのためにJBも見学したいと申し入れたが、これは断られたそうだ。警視庁の案内係に、この組織を作るのにそのくらいの資金がいるかって訊いたんだぜ。見学コース以外も見たいと言ったが、これももちろんだめだった』
 「さすがにJBはな・・」止まっていたパソコンのモニタにアルファベットと数字が表示された。右手だけでキーを叩く。「関さんに頼めば、検察庁を案内してくれるんじゃないか?」
 『バカ言うな。関になんか会わせたら狼にエサをやるようなものだ。警視庁とは隣だから興味はありそうだったけど、この中には狼男やフランケンがいると言っておいた』
 「日本の警察庁をお化け屋敷にするな」検索結果が出た。「ザーツに関する新しい情報はないな。あったらすぐ知らせるよ。今ホテルだろ。今日はもう上がりか?」
 『いや、大臣やSPの目を盗んで新宿へ行く。繁華街やショッピングモールを見て。日本そばを食って・・・電車にも乗りたいって言ってたしな』
 「おい、あまりムチャな事は─」
 『おれは王子の護衛で教育係じゃねえ。王子の行く所に付いて行くだけさ』
 「チーフに知れたら、説教だけでは済まないぞ」
 『かまわねえよ。おれが護衛に向かないって事がわかってバンザイだ』
 何を言っても、ジョーがやると言ったらやるのだ。明らかに森の人選ミスだ。
 「気をつけて行けよ」
 意志のはっきりしている相棒にそれだけ言うと、神宮寺はリンクをオフにした。と、洸が入って来た。
 「早いな。もう終わったのか?」
 「まだ途中だけど、ちょっと気になるニュースが情報課のパソコンに入ってきてる」洸は自分のノートパソコンのモニタを神宮寺に向けた。「インドなんだけど、デカン・ムージャと名乗るテロ組織がインドの各地でテロの予告をしている。これザーツの末端組織という噂もあるんだ」
 モニタにはヒンディー語で書かれた予告状が表示されている。その下には意訳文が英語で書かれていた。
 「もっとも、まだ実行はされていないけど」
 「インドか・・」ザーツの末端というのは気になるが、インドでの情報ではどうしようもない。「JBか香港支部が捜査に入ったのか?」
 「まだそこまでの話じゃない。でもいつ呼び出されるかわからないから、早いとこやっちまわないと─。ぼく、Jリーグの試合観戦を諦めたんだから?」
 唸る洸に苦笑しつつ、しかし神宮寺はこの事はジョーに伝えるまでもないだろうと判断した。
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