コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
Posted by  朝倉 淳   1 comments   0 trackback

始まりの地にて 9

 国際秘密警察ベルリン支部の精鋭達がベースキャンプを置いているゴスラーの街は、ハルツ山地ブロッケン山の北にある人口46000人ほどの小さな街だ。銀鉱の採掘に伴って発展してきた。街を歩けば白壁に赤い屋根の木組みの家が可愛い。
 総勢30人ほどの彼らはホテルには泊まらず、街はずれの皇帝居城跡近くにプレハブを建て、そこをベースキャンプにしている。ハルツの自然を研究している一行と街には説明している。
 もっともジョーはゴスラーには寄らず、山地に入っていく。
 「トレーサーまで付いているなんて・・大したものだ」
 ジョーがしきりに感心している。トレースできるのは神宮寺のタグホイヤー・リンクだけだが、ジョーにはそれで充分だった。
 実は洸はこのようにジョーを事件に巻き込むつもりはなかった。自分のプライベートの通信機もほしいなァと思った洸は、精密機器の講習でお世話になった時計メーカーでしばらく遊んでいた。
 そのうち日本からの噂で、神宮寺の新しいコンビ候補はドイツ人で、近々ドイツに行くかもしれないと聞いたのだ。
 フランスに近いじゃん。2人がうまく出会って話をしてくれるといいなァと、通信機を付けた時計をジョーに渡しに行ったのだ。
 まさかそのあとで神宮寺が一平と一緒に任務でドイツに来るとは─。さらに自分まで呼ばれるとは思ってもいなかった。もちろんジョーがドイツに行った事も知らない。これこそまさに偶然の産物だった。
 「モニタがないから見づらいけど、どうやら神宮寺はブロッケン山の近くのターレにいるらしいな」
 ジョーはちょっと考えた。ハルツ山地は山脈ではないが平野ではない。あまり勾配がきつくなるとディアブロで登るのは苦しくなる。だが行ける所まで行ってみようと思う。
 トレーサーによると神宮寺のいる所まではあとわずか4、5キロなのだから。
 そのうち時計がやたらとピピピ鳴り出した。しきりに交信しているようだ。という事は洸や一平は神宮寺と一緒ではないのか。
 やがて道の前方に“立入禁止”の看板が見えた。誰もいないので無視する。1キロほど進むと5台のジープと14、5人の人影が見えた。ジョーはディアブロをジープの横に停めた。車外に出ると2、3人の男が走り寄ってきた。
 「ここは立入禁止です」ベルリン支部の者だろう。「すぐに出てください」
 構わず進む。
 「君!」
 「おれは日本のSメンバーのジョージ・アサクラだ」えっ!と男達が声を上げる。「神宮寺と合流する」
 「しかし・・」男達はまだ迷っている。「身分証明書を見せてください」
 「極秘任務中で持っていない。通せばわかる」
 ジョーはそのまま先に進む。男達はジョーの威圧感に押され、道を開けてしまった。
 ジョーは一歩一歩確実に進む。
 いきなり侵入してきた見知らぬ男に皆驚いて目を向けたが、誰ひとり彼の歩みを止めようとする者は居なかった。
 やがてジョーの目は一人の男を捕らえる。黒い髪に黒い瞳、細身の体を黒の上下の服に包んでこちらを見ている男─
 「ジョー・・・」神宮寺がかすかに呟く。「どうしてここに・・・」
 「呼ばれた」ムスッと時計をかざしジョーが答える。「洸からの土産だ」
 「・・・あいつめ」
 「で、状況は?」
 「あまり良くない」当然のように訊き、当然のように答える。「ミサイル発射施設と制御施設は見つけた。ここは発射場で制御施設には一平達が向かっている。見ろ」
 神宮寺が指差す前方は400m四方の草原で、発射場はその向こうに建っている。建物の上からミサイルらしき物が頭を見せていた。
 「なんで進入しないんだ。制御装置があっちにあっても、その命令を受ける機械はこっちにもあるんだろうから、そいつを壊せばいい」
 「そうなんだが」神宮寺はジョーに双眼鏡を渡した。「建物の1階の奥に見えるのがそのためのコンピュータだろう。わかるか?入り口にレーザーやセンサーが仕掛けられている。通れば黒焦げだ。おまけにこの草原に入った時点で、あの建物から自動掃射される」
 なるほど、建物の5、6ヶ所に機関銃らしき物が設置されているのが見える。
 「後方の崖から降りる作戦も敢行したが、やはり掃射にあった」
 その時にケガをした5、6人が手当てを受けているという。
 「爆弾でも放り込んでぶっ壊せばいいだろ」
 「ばかな事を言うな。相手はミサイルだぞ。誘爆したらどうするんだ」
 ん?、とジョーが唸る。
 「こうなったら、ここからライフルでコンピュータを狙うしかない」
 「この距離をか?レーザーセンサーを抜けてコンピュータを狙える奴なんて─」ふと目の前の男に目が止まる。いた。「─だけど、ここからではムリだろう」
 「おそらくな。だから草原に入る」
 「入るったって!お前─!」
 その時、誰かが神宮寺を呼んだ。
 「神宮寺!作戦を練る。来てくれ!」カイザーだ。彼は神宮寺と一緒にいる見知らぬ男に目を向けた。「この人は?」
 「SメンバーダブルJのジョージ・アサクラだ」神宮寺が紹介してくれた。
 「・・そうか。よろしく」カイザーは一瞬怪訝そうな顔をしたが、事態が彼に考える時間を与えなかった。「とにかく来てくれ。さっきの作戦を練り直す」
 それだけ言うとトラックの方へ行ってしまった。
 「誰だ、ありゃあ」
 「おれのコンビ候補だ」
 「へっ!そりゃあ潰し甲斐があるぜ!」ジョーが口元を歪める。
 神宮寺は一瞬非難するような視線を彼に向けたが、すぐに苦笑する。大丈夫。いつのもジョーだ。
 ジョーは腕を組み、指で下唇を撫でる。考え事をしている時のスタイルだ。やがて1台のトラックと何台かあるジープに目をやる。
 「指揮はさっきの奴が執っているのか?」ジョーの問いに神宮寺が頷く。「よし」
 ジョーは真っ直ぐにカイザーや男達が集まっている場所に歩み寄る。その歩みは誰にも止められない。
 「また何かやばい事を考えついたな」
 神宮寺は再び苦笑して彼を追った。

 「それは無茶だ!」男達が口々に言う。「すぐに撃たれるぞ」
 「ジープにはおれが乗る。腕のいい運転手をひとり付けてくれ」男達の声を無視してジョーが進める。「トラックは、ライフルを撃つ神宮寺の盾になる。自動掃射は動いている物を優先にするから、しばらくは持つだろう」
 神宮寺が頷く。カイザーは驚いて神宮寺を見た。彼はこの無茶苦茶な作戦に、なんの疑問も持たず従おうというのか。
 「カイザー、銃を一丁用意してくれ。片手で扱える奴がいい」
 「拳銃で機関銃に対応するのは無理だ」
 「10分待つ」そう言うとジョーはジープの方へ歩き出した。
 「ジョー」神宮寺が呼び止める。「お前・・・大丈夫か」
 「・・・・・」ジョーが振り向き相棒を見る。一瞬目を眇めた。「大丈夫だ。信用してくれ」
 「・・・そうか」
 神宮寺は、再び歩き出したジョーを見送る。
 ジョーの腕前は心配していない。しかし彼は、日本での事件で銃を撃つ事はできなかった。構えてもどうしてもトリガーが引けない。
 もし今回の作戦中に同じ事が起きたら─。ジョーは自動掃射の的になる。そして援護を受ける自分もまた─。
 しかし神宮寺はジョーを信じた。今のジョーは神宮寺が日本で最後に見たジョーとはまるで違っていた。
 あの時2人はずぶ濡れになり火傷も負っていた。神宮寺の方がひどい状態だったが、彼は自分の足で立ち、歩いて病院に向かう車に乗った。
 ジョーは立てなかった。救助隊に抱えられ別の車に運ばれた。それが彼を見た最後だった。
 「だが、お前が大丈夫と言うのだから」
 神宮寺は愛用のガングラブを取り出す。
 10分後にはすべてが揃っていた。
 カイザーは神宮寺にスプリングフィールドM1903ライフルを、ジョーにはルガーP08を渡した。
 ルガーはジョーのワルサー同様、パラペラム弾を使用する。ワルサーよりは少し大きいが片手で扱えない事はない。 
 スプリングフィールドは5発の弾丸(たま)を装着できる。しかし今回の作戦ではチャンスは1回か2回しかないだろう。またジープは5台全部が目の前にある。ジョーはカイザーを見た。
 「君だけに行かせるわけにはいかない」カイザーも手にルガーを持っている。そして仲間を振り返る。「おれ達も行く」
 「フン」ジョーは鼻を鳴らしたが止めなかった。おとりのジープは多い方がいい。「神宮寺のライフルと標的の間に入るな。腕がいいから1発で撃たれるぞ」
 ジョーは神宮寺を見てきつく微笑む。神宮寺も鼻を鳴らして返した。
 「行くぞ!」
 ジョーの合図と共に、5台のジープに運転手と狙撃手が乗る。神宮寺はトラックへ走っていった。
 ジョーの乗るジープを先頭に5台とも草原に突っ込んだ。屋根のあるタイプのジープなので狙撃手はほとんど箱乗りスタイルになる。確かに片手で銃が扱えなければ辛いだろう。
 とたんに建物から弾丸が雨のように降ってきた。
 自動掃射装置は動いている物に、より反応する。5台のジープがおとりになり草原を走り回り、あわよくば機関銃を打ち砕き神宮寺の援護をするのだ。
 その神宮寺を乗せたトラックはジープより少し送れて草原に進入した。弾丸が降り注ぐ。しかしエンジンを切ると相手も撃ってこなくなった。動き回るジープに対応する方が忙しいのだ。
 スチール板の荷台の右側面がバタンと下に倒れる。中から台が横に迫り出してきた。その上にスプリングフィールドを持った神宮寺が立っている。ここから標的のコンピュータまで約400m。距離だけ見れば余裕はある。
 しかし入り口に縦横無尽に張られているレーザーセンサーの間に弾丸を通して、その奥にあるコンピュータのみを狙うのだ。おまけにおとりのジープが走っているとはいえ、神宮寺の方に向かってくる弾丸も皆無ではない。何発かはトラックの車体が盾になるだろうが、いつまでも・・・というわけにはいかない。
 そんな中で彼はライフルのスコープだけを睨み神経を集中させる。
 「アーレクは左へまわれ!マルセルは右の上の機関銃を!」
 カイザーの声が飛ぶ。そして自らも囮となり機関銃の前に飛び出す。ジープを運転するマーカスの腕も見事だ。ギリギリまで近づいて切りかわす。
 「やるじゃねえか、あのコンビ候補」窓枠に腰掛けたジョーが毒づく。「こっちもやるぜ!アレックス!」
 ジョーは運転席の短髪の男に声を掛ける。“Ja!”と勢いのいい声が返ってきた。
 ジープは一気に駆け上がる。そのジープ目掛けて機関銃の弾丸が降り注ぐ。当たらないようにソーイングし、しかし狙撃手を振り落とさない速度で走らなければならない。
 アレックスは見事にこなす。だが車体は防弾が施されているわけではないので、何発かは貫通し車内で跳ねている。あまり持ちそうにない。
 「早いとこ頼むぜェ、神宮寺さんよォ」
 2機目の機関銃を黙らせ、ジョーが呟いた。
 その神宮寺は正面入り口を真っ直ぐに見据える位置にいた。スプリングフィールドを立射に構える。スコープの先には小さくコンピュータが見える。
 時々弾丸が彼を掠る。トラックの屋根はすでにボロボロだ。まわりはジープの走り回る音や掃射音が響いている。だが一発必中を狙う彼にその音は聞こえない。
 「ゲイル!」カイザーが叫んだ。
 見るとジープの1台が火を噴いている。箱乗りしていた狙撃手は車内に滑り込んだ。
 「フィールドから出るんだ!」
 被弾して炎を上げているジープがノロノロと草原から出た。もう弾丸は届かない。乗っていた2人は素早く車外に出て走った。ジープが爆発した。カイザーはホッと息をつく。
 その時、辺りにライフルの轟音が響いた。一同ハッとして動きが止まった。
 「やったか!?」
 ジョーが叫んだ。と、急にジープが跳ねた。前輪を撃たれたのかバーストした。勢いつきジョーの体が車外へ飛ぶ。地面に落ちたところを掃射を受けた。
 「ジョージ!」目の前に大きな手が見えた。ジョーの腕を掴み、強引に車内へ引きずり込む。「大丈夫か」
 「─Danke、カイザー」ジョーが答え、が、脇腹を押さえうずくまった。
 「自動掃射がやんだ。神宮寺が成功したんだ」
 アーレクが車を草原から出した。他のジープも集まってくる。ボロボロになったトラックを捨てて神宮寺も戻ってきた。
 「ジョー」カイザーの手を借りて車を降りるジョーに駆け寄った。「大丈夫か」
 「掠っただけさ。とんだドジをしたもんだ。・・やっぱ鈍ったかな・・」
 「弾丸は残っていないし、大丈夫だろう。医療用のバンソウコウでも貼っておくか」
 「バンソウコウは嫌いだ!」
 叫んでアチチと身を屈める。神宮寺が肩をすくめ、怒鳴られたカイザーは目をパチクリさせている。
 「カイザー」アーレクだ。「コンピュータの停止を確認した。ここはもう大丈夫だ」
 「そうか」息をついて神宮寺を見る。「さすがだな」
 右手を差し出した。
 「そちらも。さすがベルリン支部の精鋭だ」握り返す。と、彼のリンクが鳴り出した。「神宮寺だ。洸か?」
 『ミ、ミ、ミスター!大変なんだよ。そこじゃなくて、こっちはあっちで、そっちはどっちで─』
 「ちゃんとしゃべろ!」横からジョーが怒鳴った。
 『あれ、ジョー?そうか、やっと来たんだね。ぼくの作った通信機に感謝してよ』
 「バカヤロウ!あれのおかげで、おれは危ない目に遭うところだったんだぞ!」
 『生きてンだから、いーじゃん』
 ジョーが唸る。口ではとても敵わない。
 『あ、ンな事言ってる場合じゃないんだ。ミスター、よく聞いて。ぼく達が今いる制御施設は、そっちの発射場の制御システムじゃないんだ』
 「なに?」神宮寺とジョーが同時に訊く。「どーいうこった」
 『ここの制御システムは、ジャン達が行っている別のミサイル発射場に繋がっているんだ。つまり制御施設と発射場が1つ1つペアになっているのさ』
 「なんだって!もう1つ発射場があるという事か!」
 「そンなもの、早いとこぶち壊せばいいだろ!」
 『そ、それが入れないんだよ。あ─』
 ガガガ・・と雑音が入り通信が切れた。その場にいる男達は顔を見合わせ沈黙する。が、
 「洸達の所に行こう」ジョーが立ち上がった。
 「しかし車が─」5台のジープはボロボロだ。走れるかどうかわからない。
 「おれの車がある。行こう」ジョーが走り出し神宮寺が続く。
 「車を修理して、おれ達も追うから!」
 カイザーの声が聞こえた。



                   8 へ     ⇔      完 へ
スポンサーサイト

Comment

淳 says... "覚書き"
2巻(6~完)ラスト。
車(フェラーリからディアブロに変わった)でボンッ!だけではおもしろくないので(おいおい)銃撃戦を入れようかな~、と考える。
その方がジョーが来た甲斐(?)があるってもの。
と、スーパーで急に「反逆のテーマ」が流れた。今までこんな曲はここで聞いた事ないのに?
スワット?銃撃戦だから?オイオイ・・・
2011.01.31 14:13 | URL | #vDtZmC8A [edit]

Post comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackback

trackbackURL:http://junstory.blog63.fc2.com/tb.php/40-a1d5aa60
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。