コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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Posted by  朝倉 淳   1 comments   0 trackback

始まりの地にて 完

 木々の中、赤いディアブロは待っていた。
 ジョーはレーシンググラブをはめ、運転席に着いた。この先は行き止まりなのでUターンして坂を下る。神宮寺のリンクが洸の位置を教えてくれる。それは2キロと離れていなかった。
 再び登坂になりそれが切れる頃、突然目の前に城壁が現れた。
 「神宮寺!ジョー!」ディアブロから降りた2人を、洸や一平が出迎えた。
 「説明してくれ、洸」
 「さっき言った通り、ここの制御用コンピュータはジャン達が見つけたミサイル発射場のコンピュータと繋がっているんだ。さっきからしきりに電波が飛んでいる。向こうの発射場に命令を出しているんだ。一刻の猶予もないよ。早くどっちかを停止させなきゃ」
 「だったら爆薬でぶっ飛ばせばいいだろ」ジョーが木箱を目にしながら言った。
 「入り口はあの城壁の正面に1つだけだ」一平が指差す。「通過しようとすると機銃掃射で狙い撃ちされる。車で突入したくても幅が狭すぎて」
 確かに彼の言う通りだ。入り口の幅は2メートルもないだろう。その細い通路が50メートルほど続いているという。ジープではとても入れない。
 「一応ベルリン支部にジェットヘリを頼んだけど」
 到着までにどのくらいの時間が掛かるだろう─。その時、一平の手にしている小型通信機が鳴った。
 「一平です。あ、ジャン」相手はフランスのSメンバーだ。「そっちのコンピュータが作動しだした!?」
 「ま、まずいぜ」難しい事はわからないが、このままではミサイルが発射されてしまうという事はわかる。「あっちのコンピュータを止めるように言うんだ」
 「いや、だめだ」神宮寺が止めた。「ヘタな事すれば、ミサイルが誘爆する」
 「だったらこっちのコンピュータを破壊するしかねえ」
 「無理だよォ!生身の人間があんな所突破できないし、あの幅じゃあ入れる車なんて─」
 “あっ!”と4人が叫んだ。
 「・・・ディアブロ・・」
 「だけどディアブロだって幅は2メートルちょっとあるぜ─え?まさか・・・」
 「その、まさかしかねえな」灰色がかった青い瞳が鋭く光り、城壁を真っ直ぐに捕らえる。「片輪で突入してコンピュータにぶつけてやる」
 その場のいたベルリン支部のメンバーが驚いて声を上げた。
 「爆薬をディアブロに積むんだ。それから入り口の前にバンクを作ってくれ。5mくらいでいい」
 「し、しかしそれは危険すぎる。第一、車をぶつけたりしたら帰ってこれなく─」
 「うるせェ!帰りなんか、向こうへ行ってから考えりゃいいのさ!急げ!」
 ジョーの勢いに男達は走り出した。口々に“無茶苦茶だ!”とののしる。
 「また言われた」ムスッと神宮寺が言った。「やはり原因はお前だ、ジョー」
 「?」
 「爆薬は積んだよ」一平と洸が言った。が、まだ何か言いたいようだ。
 「大丈夫。それにこの仕事はおれでなければできないだろ?」
 きつく微笑み、レーシンググラブをキュッと締めなおす。ああ、いつものジョーだ、と2人は思った。
 「盛り土でバンクはできたが」先ほどの男が言った。さすがに仕事は速い。
 「Danke」
 ジョーがディアブロに足を向ける。神宮寺も付いてきた。と
 「ジョージ!」
 カイザーだ。追いついてきたようだ。
 「聞いたよ。危険だ」それから神宮寺の方を向く。「君はなぜ止めないんだ!」
 「彼を止める方法があったら教えてほしいね」
 肩をすくめ、ジョーの後に続く。後ろからカイザーが“Micht dei vollem Beurisstsein!”と叫んでいる声が聞こえた。
 「ジョー、カイザーはなんて言っているんだ?」
 「ああ?あ─」ジョーが鼻をかいた。「“・・・正気のさたじゃない・・”」
 「ハハハ・・・そりゃそうだ!」神宮寺が、らしくない大声で笑う。
 「お前が笑ってくれれば強いぜ」
 ジョーも微笑みディアブロに乗り込んだ。今回は片輪走行をしなければならないので、助手席に人を乗せる事はできない。
 「Viel Gluck!」─幸運を!と神宮寺が言う。
 「Jeder ist seines Gluckhes Scchmied!(幸運の鍵は自らの手にあり)さ!」
 ジョーが答えエンジンを掛ける。ディアブロはタイヤを鳴らして飛び出した。大きく迂回し、城壁に向かってスピードを上げていく。
 元々高速走行を前提に設計されているディアブロだが、それは平らな道路での事。緩やかだが登り道になっているこのコースは、いい条件とは言えない。
 あとはジョーの腕しだいだ。
 「あの車高の低い車の片輪が、そう簡単に持ち上がるはずが─」
 カイザーの言葉が切れた。息を呑む。
 目の前を通過した赤い車体はそのままバンクに右輪を掛け、やがてバンクが切れた頃には完全に片輪となり城壁の入り口へと突入した。とたんに機銃の音が響く。通路を進むディアブロ目がけ、弾丸が降り注ぐ。
 「こりゃあ人間は確かに無理だな」ジョーが呟く。
 しかし車だって安心してはいられない。風の抵抗を抑えるために窓は閉めているが、残念ながら弾丸避けにはならない。割れて、弾丸が飛び込んでくる。
 「頼むから、後ろの爆薬には当たらないでくれよォ」
 時々、頭上を壁に擦りながらステアリングを固定する。片輪は安定していて、崩れる心配はない。問題は通路を出た時だ。
 コンピュータのある建物までの距離が短かったら、逃げる時間も短くなる。ジョーはドアのロックを外した。
 通路が切れた。建物が迫る。ディアブロを元の四輪に戻し、ジョーは飛び降りた。
 車は建物の入り口を壊して広げ突き進む。
 ドンッ!という響きと共に、車がコンピュータに突っ込んだ。爆発が起こる。時を置かずして次々と爆発音が響く。ディアブロに積んだ爆薬が誘爆しているのだ。
 ジョーは爆発と同時に通路に逃げ込んだ。
 制御しているコンピュータが壊れれば機銃も止まると読んでいた。2、3発撃ってきたが、そこまでだった。
 爆発による勢いで通路にも破片や黒煙が飛び込んできた。あとはこの通路が崩れない事を祈るばかりだ。
 ジョーは体を低くして時を待った。幸い爆発は建物だけで収まったようだ。
 やがて辺りが静かになる。瓦礫の山が動いて中からジョーが立ち上がる。が、すぐに膝をついた。さっきやられた脇腹が痛む。
 「ジョー!」通路を神宮寺達が走ってきた。上半身を引き起こす。「大丈夫か」
 「う?、久々に痛ェ・・・。やっぱバンソウコウ貼っておけばよかったかなあ」ふと、神宮寺の顔を見る。「でも、なんか懐かしいな・・、この感覚・・」
 「バカ!そんなもの懐かしがるな!」
 「神宮寺!」カイザーだ。「ジェットヘリが間もなく到着する。ジョージを運ぶぞ」
 そう言うと、カイザーはてきぱきと指示を出した。
 「・・あいつ、けっこう優秀だな」
 「まあな」
 「だけど・・おれの方が先だ」
 「え?」神宮寺がジョーを見る。
 彼は目を閉じた。神宮寺に預けている上半身がグンと重くなった。
 「ジョー、おい」
 神宮寺がジョーを抱え込んだ。

 ベルリン支部に近い総合病院の広い待合室を横に見て、神宮寺は入院棟に向かっていた。外来棟を横切る時、カイザーと出合った。ケガの手当てに来たそうだ。
 「ジョージの見舞いかい?」カイザーの言葉に神宮寺が頷く。「あまりいい患者じゃないみたいだな。医師が怖がっているって」
 「やれやれ・・・、ドイツに来てまで医師を脅しているのか、あいつは・・」
 「それにしても、Sメンバーというのはとんでもない事を考えるものだなあ」カイザーが感心したように・・いや半ば呆れたように言った。「それを実行しちまうのもすごい」
 「・・・・・」
 神宮寺は困ったように口を閉じた。“Sメンバーが”というより“ジョーが”なのだが─。しっかり自分もジョーと同類に見られているようだ。
 「じゃあ、おれ、まだ後始末が残っているから」軽く手を上げて、「相棒によろしく」
 そう言うと行ってしまった。
 神宮寺はしばらく彼を見送っていたが、再び入院棟に向かう。エレベータで5階に上がった。
 “Bitte von Besichen absehen!”と、札がかかったドアの前に立つ。
 「“面会謝絶”ねえ・・。だがこのペン書きはなんだ?」
 見ると、札の余白に明らかに誰かが手書きしたとわかるスペルが書いてあった。
 “Arztlich”、と─。
 神宮寺はドアをコンッ!と一回叩き開けた。
 「やっと来たか、神宮寺!」元気なジョーの声だ。「退屈で死にそうだったぜ」
 「お前が死んでいる間、おれ達は後始末をしていたんだぞ」
 「おれだってひどい目に遭ってたんだ。ここの医者、麻酔も効いてねえうちに切りやがったんだぜ!おまけにおれがRHマイナスのO型だとわかると、“献血してくれ”だってよ!手術前のケガ人に言うか、ふつう!?」
 「ああ・・。それでか」さっきの手書きのスペルを思い出す。「“医者の”“面会謝絶”か」
 ジョーを見ると、へへっと笑っている。いつもの悪ガキ顔だ。
 「ま、それだけ元気なら麻酔を掛けなくても大丈夫だろう。いや、いっそ掛けてもらった方が平和かも」
 「フン!」
 ジョーがそっぽを向く。手術から2日が経っているから、ジョーとしては出たくて仕方がないのだろう。
 「あ─、でもちょっとすっきりしたぜ。昨日は鷲尾さんが来てくれたし」
 ジョーの見舞いがてら着替えを持ってきてくれたそうだ。パリ本部の長官を荷物運びに使えるのはジョーくらいだろう。
 神宮寺はベッドの横にイスを持ってきて腰掛けた。ジョーがちょっと決まり悪そうに身じろぐ。
 「久しぶりだな」
 「・・そうだな」あとは言葉が続かない。静かな時間が流れる。「え・・と・・」
 こういう雰囲気は苦手だ。ジョーが無理矢理口を開く。
 「おれ、ハンブルクに行ってきたんだ。アウトバーンをディアブロで飛ばしてよ。その話も、いつか聞いてくれよな」
 「ああ」神宮寺が微笑む。ジョーの明るい顔を見て、故郷で辛い思いはしなかったのだろうと思う。「・・ディアブロ。おしゃかになっちゃったな」
 「・・・ん」一瞬視線を逸らす。「ま、いいさ。日本に行けばセリカがあるし」
 「え」
 「もう納車されてるンだろ」再び神宮寺に目を向ける。「働いて、ディアブロの弁償をしなければいけないし」
 「弁償?」
 「鷲尾さんは友人の車を安く買ったって言ってたけど・・あれは新車だ。乗り手のクセがまったくない」
 「なんだって、そんなうそを?」
 「たぶん・・、鷲尾さんはおれに詫びのつもりで買ってくれたんだと思う。おれをあの世界に入れたのは自分だ、と言って後悔していたし・・だから・・」顔を上げ、窓を見た。冬の空は珍しく晴れていた。「だけどおれはそんな物を受け取るわけにはいかない。あの人が詫びる理由なんてどこにもないんだ。だから働いて返すのさ」
 神宮寺を見てきつく微笑む。
 「もっともこのザマじゃ、Sメンバーどころか養成所からやり直しになるかもしれないがね」
 「それは向こうが迷惑だな。仕方がないからJBが引き取ってやるさ」
 「チェッ」
 ジョーがクサってベッドに横になる。キズが辛いのか・・・。いやそうではなさそうだ。
 両手を頭の後ろに組んだ彼の瞳は窓から外へ向けられ、いや、その先を見通すように青く澄んでいた。日本を出てから今までの事を考えているのだろうか。
 ふと、ジョーまでもが青く透き通ってしまうような感覚に襲われた神宮寺が口を開く。
 「それにしてもディアブロか・・・。新車だと2000万円は下らないな」
 「う??」現実に戻ってきたジョーが唸る。
 「こりゃあ当分、タダ働きだな」
 「チェ!やっぱりベルリン支部の車にしときゃよかったぜ!」
 ジョーが掛け布団を蹴った。左足が痛む。こっちの弾丸(たま)キズをすっかり忘れていた。
 「安心しろ。その間の生活費はJBでカンパを募ってやる」
 「そりゃありがとよ!」やけくそだ。神宮寺が声を立てて笑う。
 「なに?楽しそうじゃん」
 「洸」ノックもなしに洸と一平が入ってきた。「面会謝絶の札が見えないのか」
 「ドイツ語わかンないも?ん」シレッと洸が言う。
 「お邪魔なら帰るけど」一平だ。
 「あ?、帰れ帰れ。おれは重体だ。絶対安静なんだ」
 「どこが?」一平が、蹴っ飛ばされ床にずれ落ちそうな布団を直した。「それにそんな事言っていいのか?次の作戦はむずかしいぞ」
 「作戦?」神宮寺とジョーが同時に訊いた。
 「長官に、君のJB復帰を頼むのさ。けっこう困難な仕事になるよ」
 「?????」
 別に鷲尾の許しなんかいらない、とジョーは思っていた。自分は未成年じゃないし、反対されても日本へ行ってしまえばこっちのものだ。
 まさか鷲尾でも、国際警察の威信を懸けてジョーの日本行きを阻止したりはしないだろう。そんな事をしたら怖い目に遭うのは鷲尾の方だ。
 「それはまあ・・、ちゃんと話した方がいいと思うけど」神宮寺も頷く。
 「いざとなったらセリカとカウンタックとポルシェに爆薬積んで。パリ本部に突っ込んでやろうぜ!」
 洸の言葉に、“なんでおれ達の車なんだ!”と2人が叫ぶ。
 「ま、Sメンバーが4人もいるんだ。ジョーが凄んで、ミスターが合気道の技を掛けて、洸がナイフで脅し、おれがアイフルに乗せれば長官の1人や2人─」
 「それに、うまいパイが食えなくなる」ジョーの言葉にあとの3人が、え?と顔を見合わせた。 「たぶん、ママがこっちの仲間に入ってくれる」
 「なーんだ。それならもう勝ったも当然じゃないか!」
 洸が、今まで一平の言っていた“作戦”を書きとめていたノートを放り出した。神宮寺が吹き出し、それを合図にあとの3人が笑い声を上げた。
 それは久々に聞く、若い彼らの友情の想いのように明るい声だった。

              
                                            完


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Comment

淳 says... "覚書き"
ジョーがディアブロでコンピュータに突っ込んだ翌日、自転車登校中のジョウジが車に引っ掛けられた!
ひぇ~~~、だ。
幸いジョウジに怪我はないけど・・・うう、怖い。
次作で考えているスクールジャック・・書いてもいいかなあ。
2011.02.01 16:58 | URL | #vDtZmC8A [edit]

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