コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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我が手の下(もと)に 3

 朝食を済ませるとルウクとジョーは早速ムンバイの街に出た。
 人口約9700万人のこの町は、1970年代までは繊維工業と港湾貿易に大きく依存していた。しかしその後、地域経済の基盤は工業、ダイヤモンド加工業、IT産業といった分野へと大きく視野を広げていった。それらの産業のためにはもちろんレアメタルも欠かせない。
 車を使わず、2人は徒歩でまずホテル近くのインド門に向かった。
 さすがに2人共若い。一晩ぐっすり寝たおかげで、気力も体力も完全に復活している。
 「次はどこへ行きますか?この街にも証券取引所があるけど」
 しかしルウクはジッと目の前の大きな門を見たままだ。
 この門は英国王(インド皇帝)ジョージ5世夫妻の来印を記念して建立された。朝の早い時間だが、門の前の広場は観光客でいっぱいだ。
 「ルウク?」
 「ぼくの母はイギリス人なんです。色々と事情があって父とは結婚できなかった。母とは2才までイギリスで暮らしたけど、父の子はぼくだけだったので」ルウクの肌の白さはイギリス人の母の血か。「一緒には暮らせなかったけど、母には色々と世話になりました。イギリスに留学できたのも、そのひとつです。インドのあとにそのイギリスに行きます」
 アラビア海に反射した太陽の光がルウクの顔を輝かせる。
 「ジョーはご両親も、日本で暮らしているんですか?」
 「両親は10年以上前に死んだ。それからは日本人の親に育てられたから、半分は日本人のようなものだな」
 10年前・・とルウクの口が動いた。ジョーの年齢から考え、それがまだほんの子どもの頃だとわかったのだろう。一瞬途惑った顔になる。
 「今頃は天国でハラハラしながらおれの事をみてるだろうな」
 そんな事、あまり考えた事などなかったが・・・。
 それにしても、おれは親が生きている時も死んだあとも親不孝をしている。だったら人の役に立つ親不孝の方がいいな。ガラじゃねえけど─。
 「ごめんなさい。ぼくは余計な事を─」
 気まずげに言うルウクに、そんな事はない、とジョーが言おうとして─ふと、海の方へ振り向いた。観光客とインド門の間から見えるのは青く美しい海─。さっきまでとなんら変わらない光景だ。
 しかしジョーは違和感を感じていた。それがなんなのかはわからない。いや違和感というのも変だ。彼はここへは初めて来たのだから・・・。
 「どうしました、ジョー?」
 ルウクがジョーの視線を追う。そこにあるのはもちろん青い海─。何隻かの船が波間をたゆたう・・・。きっといつもの光景・・・。
 「いや・・なんでもありません」
 護衛という任務で、少し気を張りすぎているのかもしれない。ジョーは再び海に目を向けた。海風に長めの髪がサラリと靡く。違和感は消えていた。
 「あの・・・」珍しく口ごもるルウクにジョーが怪訝の目を向けた。「イギリスの母に・・パシュミナのショールを買っていきたいんだけど・・」
 ああ、とジョーが頷いた。今朝、ホテルのコンシェルジェで店の場所を訊いていたっけ。
 ホテルを挟んだ大通りにあるその店は日本のガイドブックにも載っているらしく、店内には多くの日本人がいた。
 日本語で会話するジョーとルウクに好奇の目を向けてくる。
 ジョーはパシュミナの事などわからなかったが、手触りの良い品は確かに女性が喜びそうだ。残念ながらジョーにはお土産にする相手はいないが・・・。
 ふと見ると、日本人の女の子がルウクに話しかけていた。頬を赤くし、しかしにこやかに答えるルウクは10代の青年の顔をしていた。
 ジョーは万一の時にはルウクの盾になれる位置に立ち、女の子達に目を向けていた。しかし睨み付けないように、と気を遣う。
 ルウクは将来、一国の代表として表に立つ人間だ。レアメタル大国の王子ともなればテレビやマスコミにも取り上げられるだろう。今からでも、周りの人間に悪い印象を与えたくない。
 (って、ホント、ガラじゃねーや)
 神宮寺と向かう事件ではこんな事は考えない。体を使うより疲れる。と、買い物を終えたルウクがこちらに戻ってきた。女の子達にバイバイと手を振る。
 彼女達はルウクと横に立つジョーを見て何やら言い笑っている。
 ヘンな想像してるな、あいつら・・と、ジョーがつい睨んでしまう。しかし女の子達はキャッ!と喜んでいるような声を上げた。決して女嫌いではないが、よくわからない生き物だと思う。
 「ジョーは女の子にもてるんですね」
 「は?」
 なんでそういう台詞が出てくるのか。おれに声を掛ける女の子はいないのに。
 「今の娘(こ)達もジョーの事を気にしていたし、ほら、あの娘もあっちの金髪の娘も、あなたを見ている」
 確かに自分に向けられる視線はわかっていた。しかしジョーは、ルウクの安全を確保するだけで精一杯だった。女性観光客が多い店とはいえど、気を抜く事はできない。
 「この先にムンバイ大学や高等裁判所があります。大学はともかく裁判所の見学は無理だろうなあ」
 店を出てルウクは北に向かって歩き出した。
 中心部はオートリクシャーの乗り入れが禁止されているので、人々は市バスかタクシーを使う。 あちこち回りたい観光客はタクシーを利用するが、ルウクは歩きたいようだ。ジョーとしてはタクシーかレンタカーを使ってほしかったが、あっさりと却下された。もっとも午後からは交渉があるので、そう遠くまで行かれないが─。
 昼食はインドの定食といわれているターリーを頼んだ。外国人とみてスプーンを付けてくれたが、ルウクは器用に右手で食べた。そういえば箸の使い方もうまかったっけ、と、ジョーはスプーンの世話になった。
 昼食を済ませると2人はホテルに戻った。会議室でIT企業の役員との交渉に入る。
 外出する時に着ていたシャツとGパンをスーツに替えたルウクは、堂々とその部屋へと入っていった。同席できないジョーは、会議室前の廊下での待機となった。

 「あ?、終わった?」
 エンターキーをバンッと叩き、洸が思いっきり伸びをした。その横では神宮寺が保存データの確認をしている。こちらも問題はないようだ。
 「ご苦労様」管理課課長の富山が言った。「お礼に夕食でも奢ろうかね。JBの食堂だが」
 「え?、トゥール・ダルジャンとはいわないから、せめてリージェンシーホテルのディナーくらいは?」
 「おれはシャワーを浴びて、ひと眠りしたい」神宮寺が言った。「出来れば湯船に入りたいが」
 「ジジ臭?い、神宮寺!─いてっ!」洸の頭がパコン!と鳴った。確かジョーにも同じ事を言われた。「ジョーがいなくて平和なのに、神宮寺が狂暴化してる?」
 「今のうちに寝ておかないと、誰かが寝かしてくれないような気がする」
 これだけ聞けば色っぽいが、頭に浮かんでいるのが鋭い眼つきの相棒では悪夢を見そうだ。
 「神宮寺にそんな相手がいるなんて知らなかった!これは速報で─」
 ケータイを取り出す洸の頭がバカン!!と鳴った。横で富山が引きつるように笑っていた。

 「It was very significant time(大変、有意義な時間でした)」エレベータを降り、男が言った。「明日もよろしくお願いします」
 「はい、お気をつけて」男の差し出した手を受け、ルウクが言った。
ホテルのエントランス前に停めてある車に乗り込む男達を見送る。
 「時間オーバーですね。夕食まで共にする予定ではなかったけど」すぐ横のジョーに言った。 「でもうまくいきそうです。アマドにいい知らせができる」
 「それは良かった」広いエントランスを2人は並んでエレベータへと向かう。「アマド大臣が空港に着くのは夜中ですから、それまで部屋で休んで─」
 突然、ダダダ・・・と人の走り込んでくる音にジョーが振り向いた。10人ほどの男達がフロアの中央に立ち、手にしている物を四方に向けた。
 (FN・P90!)
 その正体を悟ったと同時に、ガガガ・・・と轟音がフロア中に響いた。ジョーは自らの体でルウクを覆い、ちょうど到着したエレベータに飛び込んだ。
 「閉めろ!」
 言われるまでもなく、降りてきた客も異変を察してすぐにドアを閉めた。エレベータは再び上昇していく。
 「大丈夫ですか、ルウク。ケガは─」
 「ぼくは大丈夫。─ジョー?」ジョーから離れたルウクの服に血が飛んでいた。「ジョー」
 「大丈夫。掠っただけです」
 右の脇腹を抑え、しっかりした声でジョーが答えた。
 「なんですか。これは」「何があったんだ」
 客達がジョーに訊いた。見た事だけを彼らに伝える。それを聞いた人々は、自分達の部屋がある階で次々と降りていった。最後に2人が残った。
 宿泊階に着いた。が、ジョーは迷っていた。
 あの人数ではこのホテルを制圧するのは無理だ。脱出するのなら今しかない。しかし他に仲間がいないとは言い切れない。自分一人ならどうとでもなるが、ルウクを危険に晒すわけにはいかない。だが─
 「脱出します。おれから離れないで─」
 幸い銃は内ポケットに入っている。踵を返し─しかしすぐにガクンと膝をついた。廊下の絨毯の上に、ポタッと血が落ちる。
 「無理です、ジョー。このキズでは」ルウクがジョーを支えた。「一度、部屋に戻りましょう」
 「チャンスは今しかない。それを逃したら今度はいつ─」
 言葉が切れた。すぐ近くで銃声がした。エレベータのドアが閉まる。どこかで呼んでいるのだ。
 「くそォ・・、遅かったか」
 「戻りましょう」
 ルウクはジョーを支え立たせた。そして部屋に戻るとキーを掛け、自分のスーツケースから医療用のバンソウコウや消毒薬を出した。
 「わが国もあまり便利ではないので、旅行に出る時はいつも持って行きます。日本はホテルにありましたね」
 「ルウク、手当てはおれがやる。カーテンを閉めて、ドアの前にテーブルを」
 「あ、はい」
 ルウクが動く。要警護者に指示できる立場ではないが、この際仕方がない。
 ジョーは傷口を止血し、大型のバンソウコウを貼った。幸い、今すぐどうこうなるようなケガではない。痛みさえ我慢すれば問題はない。
 ふと気がつき、ジョーはテレビをつけた。と、
 「な、なんてこった・・。襲われたのは、ここだけではない」
 ニュースでは空港や駅、ホテルやカフェが何者かの襲撃を受け多数の負傷者が出ている、と伝えている。そして新しい情報で、タージ・マハル・ホテルに10数人の男達が乱入した事も─。
 「ジョー」
 ルウクが戻ってきた。興奮からか頬が赤い。
 「大丈夫。おれが付いています」
 ジョーはルウクの肩に手を置き、彼をソファに座らせた。
 自分達がここにいる事は、インド政府やJBも知っている。そうでなくても今夜はほぼ満室だと聞いた。
 何人の客が取り残されているかわからないが、自分一人で奴らに立ち向かい、客を守るのは無理だ。今はルウクの安全にだけ集中しよう。JBや警察が何らかの手を打つはずだ。それを見てから行動しよう。
 「─わかってるけどよ、じれったいぜ」と、ネットに繋ぎっぱなしにしていたノートパソコンがジョーを呼んだ「お、早いじゃねえか」
 『無事か』
 横線(ノイズ)混じりのモニタに神宮寺が映った。その後ろには洸の顔が見える。
 「今のところはな」ジョーが答え、ルウクがその横にやってきた。モニタに映る洸を見て驚いている。洸も目を丸くしていた。「ホントそっくりだな。鼻はルウクの方が高いけど」
 『こちらに入っている事を伝える』厳しい神宮寺の目がジョーに向けられた。『最初の襲撃は海辺にあるカフェだ。次にチャトラパティ・シバリ駅など8ヶ所。タージ・マハル・ホテルが最後だ。犯人の組織名、人数、目的は不明。ただ抵抗しなければ危害は加えないそうだ』
 「ロビーでいきなり撃ってきたんだぜ。奴ら全員PDW(個人防衛兵器)で武装していた。それで何人もの人が倒れて─」
 すぐそばにいたのに何もできなかった悔しさに、ジョーの体が震えた。
 『他のホテルから逃れて来た人の証言では、奴らアメリカとイギリス国籍の者を捜しているそうだ。1ヶ所に集められ人質にされている可能性がある』淡々と続ける神宮寺をジョーが睨んだ。が、それも無視された。『一平とチーム3(スリー)がデリーから向かっている。時間を措かずして、軍の治安部隊が参戦するだろう。その時まで─』
 突然、ホテルのどこかで爆発音がした。音の大きさから考えると、ジョー達の部屋がある海側とは反対のフォート地区に面した方だろう。それでもジョーは一瞬走り出しそうになった。
 『ジョー、今は他に目を向けるな。ルウク王子を守る事だけに専念するんだ』
 「わ、わかってるよ、そんな事─」
 ジョーはなぜ、神宮寺が淡々と言葉だけを送り出しているのか理解した。自分達が動揺したらジョーやルウクが不安がる。ヘタをすると、ジョーひとりで奴らに立ち向かおうとするかもしれない。
 賢明な神宮寺の判断だが、ウラを返せばそれだけ現状況が悪いという事だ。が、神宮寺が懸念するほど、ジョーは不安を感じていなかった。この悪状況を必ず回避できると信じていた。と、今まで冷静な貌で自分を見ていた神宮寺が、あっ、というように目を見開いた。視線はジョーの後ろに向けられている。
 「ルウク?」振り向くと、ルウクが床に膝をついていた。「どうした、大丈夫か」
 「・・・大丈夫です・・ちょっとフラッとして・・」
 無理もない。自信を持っているジョーでさえ緊張しているのだから。
 ジョーはルウクをソファに座らせると冷蔵庫からエビアンを出し彼に渡した。何本か買い置きしていて良かった。こういう時、喉を潤す一杯の水は気持ちを落ちつかせてくれる。
 『新しい情報が入ったら連絡する。部屋から出るなよ』 そう言い、神宮寺が消えた。
 音を消したままのテレビ画面には、タージ・マハル・ホテルが何事もないかのように映っていた。


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