コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   1 comments   0 trackback

震える心の熱き思いを 1

 “ポンッ”と電子音と共にベルト着用ランプが消える。乗客はベルトを外し、キャビンアテンダントがおしぼりや飲み物のサービスを始めた。
 「やっぱりどう考えてみても長官のいやがらせだ。職権乱用だぜ」
 「まだ言ってる・・・」窓から外を見ていた洸が、隣の一平に目を向けた。「いくら言ってももう空の上だよ。このままニューヨークにひとッ飛びさ」
 「なんでダブルJがパリに残って、おれ達がニューヨークなんだよ。おれはまだ一度もパリの夜を味わってないんだぜ。お前だってそうだろ」
 「パリの夜どころか、スーパーリーグもブンデスリーガもリーグ1(アン)も見ていない・・・」
 「くそォ、長官め。絶対、根に持ってるぜ。だいたいお前が話し合いの時に、本当にナイフなんか持ってくるから悪いんだ。よりによって長官を脅すなんてよ」
 「一平なんかガバメントちらつかせてたじゃないか!」
 「く?、パリジェンヌが?、ムーランルージュが?」
 「う?、カーンにクローゼ、パウレタが?」
 呪いの唸り声を乗せ、飛行機は大西洋を越えて飛ぶ。

         ×        ×        ×        ×         ×

 「ただいま」
 裏庭に通じているキッチンのドアが開き、大きな紙袋を2つ抱えた神宮寺が入ってきた。キッチン台に置き、ガサガサと袋を開ける。
 「よお」その音を聞きつけジョーが顔を出した。「悪いなァ、神宮寺」
 「なあに、マルシェもけっこうおもしろいぜ」袋の中身を取り出し、棚や冷蔵庫に収めていく。「それより起きていていいのか。ママさんと約束したんだろ」
 「どうせ健を迎えに行ったんだろ。大丈夫さ」
 ジョーはシャトー・マルゴーを手にし、神宮寺に向かって片目を瞑ってみせた。いつもの悪ガキ顔だ。
 ドイツのハルツで銃創を負ったジョーは、ジェットヘリでベルリンの病院に運ばれ治療を受けた。さらにコンピュータを吹っ飛ばした時の爆風で受けた無数のキズと、ジョー自身“忘れていた”と言っていた左足の銃創の手当ても併せて行われた。
 元々ケガには強いジョーなので2日も経つともう起き上がり“退院させろ!”と大騒ぎを始める。ここはドイツだからいいが、もし日本だったらサッサと“退院”して自宅マンションに帰ってしまっていたかもしれない。
 そんな中、鷲尾を病室に迎え、神宮寺、洸、一平の立会いの下、ジョーのJB復帰の交渉が行われた。
 鷲尾もある程度予想していたのだろう。彼は黙って皆の言い分を聞き─、一平が持っているコルト・ガバメントや洸が手にしているアーミーナイフもしっかりと目に収めて─最後にジョーの意志を確かめた。
 そして彼の決心を知ると小さく息をつきJB復帰を認めてくれた。
 4人が笑顔になる。
 洸が“よかったなー”とジョーの肩をバンバン叩く。ジョーはちょっと恥ずかしそうに笑って、洸をぶっ飛ばした。と、“いつものジョーだ”と一平が笑う。
 “もうこれで優秀な隊員を潰されなくて済むね”と、また余計な事を言う洸を、神宮寺が笑顔でひっぱたいた。“・・・いつもの神宮寺じゃない・・”と一平が引きつる。
 “これが世界に誇る日本のSメンバーか・・”と鷲尾が呆れた。
 その時、病室にカイザーが現れた。和やかなのか殺気立っているのかよくわからない室内の雰囲気に、ちょっと途惑っていたものの鷲尾へ連絡メモを渡す。一読し鷲尾はニマッと微笑み、一平と洸に向かってニューヨーク支部への出張を命令した。
 実は今、国際秘密警察では大陸と大陸を越えて通信ができる超小型の通信機の開発を進めているのだ。ただの通信機ではない。Sメンバーが持つ時計にはめ込めるくらい小さく、かつ高性能な物だ。もちろんトレーサーも兼ねている。
 日本の技術は進んでいるので、パリやニューヨークから技術要請を受けている。本来ならJBから技術者を派遣するはずだったのだが、目の前にうってつけの人物がいるではないか。
 “ひびき君達はニューヨーク支部へ、神宮寺君はパリ本部でそれぞれ才能を発揮してくれたまえ。森君には私から伝えておこう”
 もちろん一平と洸は抵抗した。が、長官の命令に逆らえるわけはない。
 鷲尾はジョーに、完治するまでベルリンにいるよう言ったがジョーは激しくいやがる。彼は麻酔が効く前にメスを入れられた事を根に持っていて、“こんなヤブ医者の所にはいたくない!”とわめいた。が、術後2日でこれだけ元気にわめけるほど治したのだから名医なのでは?と神宮寺は思った。
 しかしジョーは納得しない。挙句の果てに“このまま置いて行くならベンツに爆薬積んでベルリン支部に突っ込んでやるぞ!”と脅した。
 本当にできるわけないのだが、全員の表情が凍りつく。カイザーなど真っ青になって固まっている。鷲尾に助けを求めるように視線を向けた。
 こうしてジョーはめでたくフランスへ、それも入院は再び拒否したので、ソーの鷲尾宅へ戻る事ができたのだ。
 だが話を聞いた幸子が、体のあちこちのケガが完治するまでは外出しない。おとなしく寝ているように、とジョーに約束させたのだ。
 さすがのジョーも幸子には逆らえない。
 「お、シャトー・オー・ブリオンもあるじゃないか」
 「だめだぜ、ジョー。ケガ人にアルコールはよくない」
 「なに言ってるんだ。こいつの2、3本も飲めば、即─あ、いけねっ」
 ジョーがキッチンを飛び出しあわてて階段を駆け上がる。幸子のルーテシアが戻ってきたのだ。
 「ただいま!あ、ジン兄さん!」
 フランスのランドセル─キャルターブルを背負った健が神宮寺に飛びつく。彼は“兄”がもう一人増えたので嬉しくて仕方ないのだ。
 だがフランス語の方が通常語になっている健には“じんぐうじ”という発音は言いにくいらしく、いつのまにか“ジン”になっていた。
 この呼び名を思いついた時彼は、“ジョージとジングウジのジで、ダブルジジだ”と何気なく言った。
 できれば語尾を延ばさないでほしい、と神宮寺とジョーは思った。
 「荷物をありがとう、ジンさん」
 この呼び名は幸子にも移った。もちろん神宮寺は文句ひとつ言わない。
 反対に彼が幸子を呼ぶのに困ってしまった。
 “幸子さん”“奥さん”ではなんだか危ない(?)。ジョーは“ママ”と呼んでいるが、日本男子である神宮寺には気恥ずかしくて“ママ”なんて言えそうにない。ジョーも年齢的にいえば多少恥ずかしさはあるのだが、幸子を母親代わりに育っているし、元々母親を“ママ”と呼ぶ環境の中で生まれ育っているので神宮寺よりは抵抗がない。それにここではその方が自然かもしれない。
 結局“ママさん”に落ちついた。
 「すぐ昼食にするわね。健、手を洗って、ジョージを呼んできて」はーい!といい返事をして健がキッチンを飛び出して行く。「・・・ジョージ、ここにいたのでしょ?」
 「え」神宮寺が驚いて振り返る。
 「しょうがない子ね」幸子が苦笑する。
 どこの国でも、母親の目は誤魔化せられないんだな、と神宮寺は思った。
 地元の小学校に通っている健は、午前の授業が終わると昼食を摂るために一度帰宅する。そして1時半から始まる午後の授業に間に合うように学校に戻るのだ。学校までは幸子の車で15分くらいだ。
 「ジン兄さんはいつまでいられるの?」暖かいポトフをほおばり健が効く。
 「パリでの仕事が終わるまでは・・」いつなのかは、彼にもはっきりわからない。
 「それなら、ジンさんももう少し着替えがあった方がいいんじゃないかしら」
 「ブッ!」幸子の言葉にジョーが吹いた。「また破産するつもり!?」
 「だってパパや健のでは無理でしょ」確かに。「ジョージのもおそらく肩幅や胸周りが大きいと思うわ。それになんだかイメージが違う・・」
 そうなのか?
 「ジンさんにはジンさんに合う服を選ばなくては」
 ジョーが哀れみの目を神宮寺に向ける。と、
 「お前、フランス語ペラペラだよな」
 ペラペラとまではいかないが、日常会話には困らないので神宮寺が頷く。彼にしてみればフランス語より、今の2人の会話の方が不可解だ。
 「ママ、高島屋じゃなくて古着屋でもいいぜ。値切れる」
 「それは助かるわ。ついでにジョージも何着か必要ね」ニッコリと幸子が言う。「ドイツで何をしてきたのか知らないけど、持っていった服のほとんどが擦り切れたり穴が開いていたりして、とても着られないわ」
 「????」「??」それぞれの思いを胸に秘め、2人は幸子を見た。

 「なるほど。ジョーのあの目は、こーいう事だったんだなあ」神宮寺が呟く。
 彼がパリで幸子の買い物の付き合いから解放されたのは、もう5時を回った頃だった。もちろん買い物のほとんどが彼の物だったので、あまり文句は言えない。
 本当はジョーもお供する予定だったのだが、“頭が痛い。キズが疼く”とか言い出しパスした。もちろん仮病だ。したがって幸子のお供は神宮寺ひとりに任せられた。
 幸子と別れたあと、神宮寺は七区にある国際秘密警察パリ本部を訪ねた。
 技術部長のスティル・ハワードに会い、預けていたタグホイザー・リンクを受け取った。内部に大陸間でも通信可能な超小型の通信機がセットされている。
 「すごいですね。外見も重さもまったく違和感がない」神宮寺はリンクをはめながら言った。「トレーサーもセットされているんですか?」
 「ええ、両方使えると思いますよ」スティルは使用法を一通り説明すると「しばらくの間、テストしたいんです。時々通信をしますのでうまく作動するか確かめてください」
 わかりました、と神宮寺は快諾した。

 ジョーは居間のソファでひとりうたた寝をしていた。
 強がってはいるものの、正直言って脇腹の銃創はまだ時々痛む。
 ベルリンからソーへ戻って2日間、つまり術後5日めだ。痛み止めが切れたのでパリの病院で貰ったが、その薬を飲むと眠くなる。眠りは人の頭や体をリセットするためにあるとはいえ、少々眠りすぎだ。
 この頃、ジョーはよく夢を見るようになった。昔の夢はあまり見ない。先日訪れたハンブルクや日本でのあの事件の事、そしてクロードの事を・・・。
 もうとうに過ぎてしまった事なのに、彼は今だにそれらをうまく整理できていない。
 どうしてクロードを死なせる結果になってしまったのか。おれがもっとうまくやれば、彼は死なずに済んだのでは─。
 ハンブルクの家はもう自分の家ではない。故郷には行かれても、故郷に帰る事はできない─。
 今更考えてもどうしようもない事はわかっているし、こんな事は誰にも話せない。自分自身で折り合いをつけるしかないのだ。
 (だけど・・)
 ジョーは恐れていた。このままの状態で日本に戻る事を。
 もちろん日本に戻ってJBに復帰したいというには本心だ。しかし反面心配な事もある。色々な事がありすぎた日本で、自分は再びやっていけるのだろうか、と・・。
 (だけどこのままでもいられない・・。こんな事をもし鷲尾さんが知ったら・・)
 日本に戻る事を止められるかもしれない。知られる前に早く日本に帰らなければ─。しかし・・・。
 ジョーは寝返りを打ち仰向けになった。自分の荒い息遣いが聞こえてくるようだ。と、誰かが彼の名を呼んでいる。
 (・・ママ)
 ふと目を開ける。目の前に幸子の顔があった。驚いて飛び起きる。とたんに視界が回った。
 「大丈夫?ジョージ」幸子が手を添えてくれる。「風邪をひくと思って─」
 「ああ・・大丈夫」ジョーが口元を歪め幸子を見る。「あの薬、ちょっと睡眠の成分が多いみたいだ」
 そういえば彼女にはハンブルクでの事は何も話していなかったっけ・・。こんなに世話になっているのに。
 「・・ごめん」
 「え?」
 「いや、なんでもない」立ち上がった。「部屋で寝るよ。神宮寺が戻ったら教えて」
 「ジンさんなら2階で健の相手をしてくれているわ」
 「・・・そう」
 どうやら神宮寺が帰ったのも気がつかず眠りこけていたらしい。
 ジョーは居間を出て、2階の自分が使っている部屋に向かった。
 鷲尾家の2階には夫婦の居間や寝室、健の部屋と3つのゲストルームがある。そのうちの2部屋をジョーと神宮寺がそれぞれ使っている。
 (そういえば、本部から新しい通信機を持ってくると言っていたな)
 時計型通信機でフランスから日本へと通信できたら便利だろうな、と思い、見せてもらおうと神宮寺の部屋に寄る。一応ノックして開けると健と一緒に何か見ていた。
 「お、ジョー」神宮寺が顔を上げる。「お前、子どもの頃の方が外人っぽかったんだな」
 「は?」ジョーが2人の前に広げられている物を見た。アルバムのようだ。「なに見てんだよ」
 「お前の子どもの頃の写真さ。ママさんが見せてくれた」
 見るとそこには10才くらいの子どもの写真があった。確かに子どもの頃のジョーは、もう少し髪の色も明るく瞳も今より青かった。
 「この生意気そうなのは中学の時か?」
 神宮寺が1枚の写真を指差す。中学の制服だろうか。そこには紺のブレザにネクタイを締め、ムスッとした顔をしたジョーがいた。体つきもガッチリしていてブレザがよく似合っているが、不機嫌そうに上目遣いでこちらを見ている顔はまだ12、3才の少年のものだ。髪や瞳の色も他の生徒とは違うし、身長も頭ひとつ分くらい大きいので集合写真ではかなり目立つ。
 ジョーはしばらくアルバムを見下ろしていたが、やがて写真と同じ不機嫌そうな顔をしてそのまま部屋を出て行った。
 「ジョージ兄さん、怒ったの?」健が心配そうに訊く。
 「大丈夫、怒ってるんじゃないよ」
 健を安心させ、それでも気にしてジョーが出て行ったドアの方に顔を向ける。
 自分の部屋に戻ったジョーは体をベッドに放り出した。胸のタグペンダントが彼にその存在を示している。
 ジョーの子ども時代の写真は鷲尾家から始まる。それ以前の写真は火事で焼失してしまった。唯一焼け残った切れ端のような写真には、両親と7才くらいのジョーが写っていた。今はこれ以上劣化しないように特殊加工を施し、彼の胸元のタグペンダントに収めてある。
 だからアルバムにキチンと収めてくれているのは嬉しいが、ジョーは今だにそれらの写真を見てはいなかったのだ。


                            →     2 へ
スポンサーサイト

Comment

淳 says... "覚書き"
今(当時)ギャオで「G」を流しているのでつい見てしまう。これが終わるまで書かないでいようと思ったのだがやっぱダメだ。
書きたい。
ストーリーはまだ決まっていないのに最初の2、3ページができてしまうと書きたくてたまらない。
どうしてこの30年書かないでいられたのか不思議だ。で、結局書き出してしまう。

まだ日本に帰らない~。引っ張ってますね~。
2人がフランスで、鷲尾や幸子と暮らすのもおもしろいと思って。
鷲尾の一人息子の健の設定は6才。
昭和時代に設定したもので、話の流れからどうしてもその年齢になってしまった。健を出す予定とかなかったし(^_^;)
でも、スパイスになるかも?
2011.02.06 17:04 | URL | #vDtZmC8A [edit]

Post comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackback

trackbackURL:http://junstory.blog63.fc2.com/tb.php/45-950ef857