コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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Posted by  朝倉 淳   1 comments   0 trackback

震える心の熱き思いを 3

 「午後は一人になるけど、大丈夫?」幸子がジョーに訊いた。
 「やだなあ、健じゃあるまいし」ジョーが笑顔を見せる。「おとなしくルス番してるよ」
 「そう・・。じゃあ行って来るわね。3時半には戻ると思うわ」
そう言うと、幸子はジョーの額に口づけてキッチンの裏ドアから裏庭に停めてあるルーテシアに向かう。車内にはすでに鷲尾と健が乗り込んでいた。これから健の学校の参観に向かうのだ。
 神宮寺は少し前にパリ本部へと出かけた。いつもならジョー1人でも心配などしないのだが、昨夜は夕食も摂らずに部屋に籠ってしまったジョーが気に掛かる。案の定、翌日の昼近くに出てきて昼食もほとんど手を付けていない。
 ジョーは暖房のよく効いた居間のソファに寝っころがった。
 ふと見ると雨が降っていた。冬の冷たい雨だ。シトシトと降る音に包まれて久々に一人になった、と実感する。
 4年間、一人暮らしをしてきた彼は、自分の感情の向くまま行動してきた。部屋は自分一人だ。誰にも遠慮や気兼ねをする必要はない。
 しかしここ1ヶ月ほど、“家族”で暮らしていると時には自分の感情を隠さなければならない時もある。さっきも幸子に心配をかけさせたくないので無理に笑顔で答えた。まだ慣れないので少々疲れる。
 ジョーはコーヒーは欲しかったが、結局起き上がらずそのままウトウトし始めた。
 どのくらいの時間が経ったのだろう。ジョーはパトカーのサイレンを聞いたような気がした。だが夢か現実かわからない。器用に寝返りを打ち、ソファに丸まった。
 “ポーン”何の音か・・・近くで聞こえた。聞いた事あるのだが・・・。
 “ポーン、ポーン”また鳴った。ジョーは目を開けると前髪を掻き上げた。
 (誰か来たのかな・・・)
 音は玄関のドアチャイムだった。ジョーは玄関に向かう。まだ半分寝ていた。無造作にドアを開けた。
 「シュベール!?」ジョーは驚いた。立っていたのは副長官のシュベール・マルセだった。「どうしたんです?長官は今日は─」
 「わかっている。君に話があるんだ」
 「・・・どうぞ」ジョーは居間にシュベールを案内した。応接室よりこちらの方が暖かい。「コーヒーでいいですか?」
 「いや、いらない。それより座ってくれないか」
 「・・・・・」
 ジョーは不可解な表情をシュベールに向けたが、とりあえず言う事を聞く。
 「顔色が悪いね。寝ていたのか?」
 「え?ああ・・うたた寝してて・・・」ふと時計を見ると、幸子達が出かけてからもう2時間が経っていた。「もうすぐ長官達が帰ってきますが」
 「その長官なんだが─。どうやら健君の学校に何者かが侵入して、他の保護者や児童達と一緒に拘束されているらしい」
 「なんだって!」思わず身を乗り出す。「確かなんですか!」
 「ああ。長官自身が連絡してきた。超小型通信機を持っている」
 「・・ママや健も・・・」
 「一緒だ。他には健君のクラスの子や先生も─ジョージ!」
 シュベールは、外へ飛び出そうとするジョーを抑えた。
 「つっ!」
 ジョーが顔をしかめる。シュベールの手が彼の肩を掴んでいた。
 「え?あ─」
 ケガをしているとは聞いていたが─。とっさに手を離す。ジョーはその手をすり抜けた。
 「まてジョージ!君が行っても─!」
 「ただい─わっ!」
 ふいに玄関が開いた。神宮寺だ。勢いが付いていたジョーとぶつかる。
 ジョーは一瞬両手で神宮寺を掴んだが、そのまま床にへたり込んだ。
 「ジョー?どうした─。シュベール?」
 「いいところに来てくれたよ、神宮寺君。さあ、ジョージ」
 シュベールはジョーの肩に触れないようにして立たせる。元のソファに座らせると神宮寺にも同じ説明をした。
 「本当に・・・」神宮寺も呆然と呟く。
 「長官は今試験中の超小型通信機を持っている。侵入者の目を盗んでそれで連絡してきた。拘束されているのは子ども20人と大人・・保護者と教諭だが25人くらい。侵入者はわかっているだけで3人らしい」
 「長官が無抵抗という事は、相手は武器を持っているんでしょうか。ま、まさかそいつらの目標は、鷲尾長官─」
 神宮寺の言葉にジョーが顔を上げる。
 「それはまだわからない。長官が目当てなのか偶然なのか。国家警察が動き始めているから、間もなくテレビのニュースにもなるだろう。とにかく情報が少ない」
 「シュベール、おれ達も─」ジョーが身を乗り出す。
 「いや、君達は動かないでくれ。我々もまだ動けない」
 「どうして!鷲尾長官が捕まっているんだぜ!」
 「今の段階ではこれは一般警察の仕事だ。我々が動くと、拘束されている人の中に重要人物がいる事がわかってしまう。もしこの事件が長官を狙ったものではなく単なる偶然だとしたら、長官の身分が知られない方がいい」
 「だけど─!」
 「私は君達に出動要請に来たのではない。私の家はここから車で20分くらいでね。今日は午後から本部に出る予定だったのだが連絡が来て、本当に長官が健君の学校に行っているのかどうか確かめに寄ったのだ」
 そう言うとシュベールは立ち上がった。これから本部へ行くという。
 「君達に命令できるのは長官とモリチーフだけだろ。そのモリから君達の指揮権を預かった。ダブルJは今回の事件に介入してはならない。わかったか」
 「・・・わかりました」
 「神宮寺!お前─!」
 「よし」シュベールが頷く。「何か情報が入ったら知らせるから─。ジョージもいいな。これは命令だ」
 「──」
 ジョーはシュベールを睨んだまま返事もしなかった。だが彼もジョーの返事を待っていない。シュベールは再度神宮寺に念を押し出て行った。
 ジョーはドアを見つめ振り返る。
 「どういうつもりだ」詰問するジョーに、だが神宮寺は黙ったままだ。「このまま奴の言うとおり、ここでおとなしくしているつもりか」
 「仕方がないだろう」吐き出すように言う。「ここで本部のバックアップなしでおれ達が動くのは難しい。それに向こうの様子もわからない。ヘタに先走ると、かえって長官達を危険な目に追い込んでしまう。今はじっとしているしかない」
 「・・・・・」それはジョーにもわかる。わかるのだが、「─くそォ!」
 ソファを叩きそのまま座り込む。ソファを掴む手に力が入る。
 「だけどシュベールは、本当に長官の所在を確かめるためだけに来たのだろうか」
 神宮寺は呟き、ふと気がついて居間のテレビをつけた。France3に合わせる。
 全国放送だが、12の地方局がありローカルな情報もよく入る。が、テレビをつけたとたん、画面には大勢の人とその向こうには学校らしい建物が映った。すでに事件は発覚し、警察はもちろんテレビなどのマスコミも動き出したようだ。
 「健の学校だ・・・」ジョーが呆然と呟く。
 テレビはニュースの時間というより生中継を行っているのだろう。
 パリ郊外の静かな小さな街であるソーで、こんな大事件は初めてだった。
 ニュースではシュベールの話以上の情報はまだない。しかし監禁されている場所はわかった。それは本校舎ではなく、別棟の2階にある音楽室だという。別棟は2階建てで1階の2教室は理科室、2階の2教室は音楽室になっている。
 健のクラスは、その奥の方の音楽室で授業を受けていたらしい。したがって保護者と教諭2名もそこにいる。
 その別棟の映像は出るが、窓はカーテンが閉められているので中の様子はわからない。警察も今は情報集めに走り回っている事だろう。
 「健・・・ママ・・・」
 ジョーが呟く。何もできないでいる自分が腹立たしい。

 夕食は幸子が下ごしらえを済ませていたビーフシチューを神宮寺が仕上げたもので済ませた。ジョーはほとんど手をつけず、テレビのニュースを見ていた。
 警察は内部との連絡も取れず、進展はなかった。シュベールからも何も知らせてこない。
 手を出せなくともジョーは現場に行きたかったが、学校の周りは封鎖されていて近づけないだろう。テレビで見る方がよく見えるかもしれない。
 神宮寺はコーヒーを2つ入れると1つはジョーの横に置き、自分はそのまま2階へ持って上がった。彼はジョーから借りたノートパソコンをネットに繋げた。
 このノートパソコンは鷲尾が以前使っていた物で、ジョーに貸す際にまたブロバイダ契約をしてくれたのだという。英語とフランス語のソフトしか入っていないが、神宮寺には充分だ。
 彼はネット上で今回の事件の情報を集めようとした。何か大きな事件が起こるとネット上で色々な意見や憶測が飛ぶ。ほとんどが事実とはほど遠いが、中には見逃せない情報もある。警察の規制を受けていないので、ポロッと真実が出てくる事もあるのだ。
 ヒット数はまだ少ない。神宮寺はネットサーフィンを掛けながら、これはと思うサイトを片っ端から目を通した。
 ふっと息をつきカップを手にすると、冷えてアイスコーヒーになっていた。
 ネットを始めて3時間が経っていた。今のところ、これといって有力な情報には出会えない。
 神宮寺はコーヒーを淹れなおそうと1階に下りた。家の中が暗くシンとしている。
 いつもなら、健が起きている間は彼の声が響き、そのあと鷲尾と神宮寺のチェス対局にチャチャを入れるジョーの声がしている。
 鷲尾のチェスの腕は中々のものなのになぜか神宮寺に勝てない。負けず嫌いの鷲尾は一晩に何度も神宮寺に挑む。5回対局した時は、さすがの神宮寺も疲れ果ててしまった。ジョーなどとっくに見捨てている。彼はこういう“動かない”勝負はいやなのだそうだ。
 (一人暮らしの静けさはいいけど、大勢の人間が暮らしている家が静かなのはなあ・・・)
 ふと、自分も東京の両親に同じ思いをさせているのだと思う。子どもは神宮寺ただ1人なのだから。
 (・・あ?)キッチンに向かおうとして、隣接している居間のドアから明かりが洩れているのに気づく。(ジョーの奴、まだ・・・)
 「ジョー」居間のソファには思ったとおりジョーが座っていた。「まだ寝ないのか」
 自分の事は棚に上げて訊く。が、ジョーは答えない。見ると顔が青く体が小刻みに震えている。瞳も一点を見たまま動かない。
 「おい、ジョー」
 「─あ・・ああ、神宮寺・・・」揺すられてハッと顔を上げた。「今、ニュースを・・・」
 チャンネルがM6になっていた。アメリカものや音楽番組が多いチャンネルだが、番組の合間に6分間のミニニュースを流す。どうやらそれを見ていたらしい。
 今もニュースの時間だが、小学校占拠事件はあまり進展はなさそうだ。
 「もう寝た方がいい。何かあったらシュベールが知らせてくれるだろう」
 「だけど・・・」ジョーはテレビから離れたくないようだ。
 「顔色が悪いぞ。無理をするとケガの治りも遅くなる」神宮寺がテレビを消そうとリモコンを持った。その手をジョーが止める。「ジョー」
 「もう少し・・、頼むからもう少しだけ・・・」ジョーは神宮寺の手ごとリモコンをテーブルに押し戻した。「不安なんだ。どうしようもなく・・。もし鷲尾さん達までいなくなったらと思うと・・・」
 (・・・そうか)
 いつも強気のジョーが、なぜこんな小さな子どものように動揺しているのか、気がついた。
 ジョーは日本で家族を亡くしている。もし今また鷲尾達まで失う事になったら─。
 ジョーは家族を失う悲しみを二度も味わう事になる。
 「大丈夫。向こうには鷲尾さんがいるんだ」
 「だから心配なんだ」ジョーが顔を上げる。「いざという時、あの人は自分の家族より他人を守るだろう。でもおれは・・ママや健に無事でいてほしい・・」
 「・・・・・」
 再び顔を覆ってしまったジョーを神宮寺が見つめる。確かに彼の言う通りかもしれない。それが警察官としての鷲尾の務めであり、そしてジョーの言葉は人間としての本心だ。
 「なあ、ジョー。昼間のシュベールの事なんだが─」え?とジョーが顔を上げる。「彼は、長官の不在を確認するためだけにここへ来たのかな」
 「・・・・・」ジョーが神宮寺を見つめる。言っている事がよくわからない。
 「彼は森チーフからおれ達の指揮権を預かったと言っていた。だが今回の事件におれ達が出動しないのなら、指揮権なんていらないんじゃないか?」
 「あ・・・」確かにそうだ。
 「もしかしたらシュベールは、この事件におれ達が出る事を予測しているのかもしれない。だから指揮権を預かり、おれ達の様子を見に来た」
 「神宮寺・・・」
 「もしそうだとしたら」神宮寺もジョーを見る。「やはり休んでおいた方がいい。出動命令が出たのに寝不足で出られません、なんて言ったら長官に大目玉を食らうぞ」
 神宮寺が笑顔で言う。
 その表情を見てジョーは小さく息をつき、やっと少し微笑む事ができた。


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Comment

淳 says... "覚書き"
いつも強気のジョーの弱い部分を書くのは少し躊躇いがある。
私の前にいるジョーは、顔を上げ真っ直ぐに正面に目を向け何事にも動じない存在でいてほしい。
だが、その彼を支えているものが崩れた時、彼もまた崩れてしまうのだろうか・・・。
その時、彼のもうひとつの支えになってくれるのは・・・。

そんな事を思いながらこの章は書かれた。
2011.02.20 16:34 | URL | #vDtZmC8A [edit]

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