コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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震える心の熱き思いを 6

 ジョーは、国際秘密警察パリ本部の広い廊下を歩いていた。
 廊下にはほとんど人影はない。皆それぞれの部屋で仕事をしているか外へ出ているのだろう。
 寒々とした細長い空間を、ジョーは前方だけを見つめ進んで行く。と、その先から2人の男がこちらに向かって歩いてくる。鷲尾とシュベールだ。ジョーは表情ひとつ動かさず、2人の上司に軽く頭を下げ通り過ぎようとする。
 「ジョージ」擦れ違い、鷲尾が声を掛けた。ジョーが立ち止まる。「ここで何をしている。病院に戻りなさい」
 「─入院の手続きは取っていません」振り返らないまま答える。
 「それなら家に帰りたまえ」
 「神宮寺に頼まれた事があるんです」ゆっくりと2人を振り返る。「それが済んだら帰ります、長官」
 ブルーグレイの瞳を鋭く向けながら静かに言うと、再びこれから行く方へ体を向け進む。
 鷲尾もシュベールもジョーの後姿を無言で見送った。

 『BIBLIOTHEQUE(図書室)』とガラスドアに書かれた部屋の前で立ち止まり、ジョーは管理課で作ってもらったIDカードを読み取り機に差し込んだ。
 ドアがスライドする。入ってすぐ右のドアに再びカードを入れる。ドアには『ORDINAFEUR(パソコン)』と書かれている。
 室内は20のブースに分かれていて、その中にパソコンがセットされている。ジョーはジャケットを脱いで1番窓側のブースに腰を下ろした。
 左肩は大きく動かすとまだ痛いが、医師と強引に話をつけギブスは取ってもらっている。キーボードくらいなら不自由はない。
 ジョーはパソコンを起動しネットに繋げた。
 ここの20台のパソコンは、各自がデスクで使っているパソコンとは別のサーバに繋がっている。もしサイバーテロでどちらかのサーバが被害を受けたとしても、もう一方は被害を免れるようになっている。
 ジョーの、体の割には細い指がキーボードの上を走る。彼は、入院していてパソコンを使えない神宮寺から、ここ1、2週間の大きな事件や出来事を調べるように言われていた。
 ネットでニュースや新聞社のサイトに入れば、かなり前の記事を読むことができる。しかしその対象範囲はフランスだけなのだろうか。もしユーロ全体だとしたらかなりの量になる。どこかの国の大統領が隣国を訪問する事も、大企業の株が暴落した事もある意味大事件だ。
 「ガラじゃねえんだよなあ・・・こーいうの・・」
 早くもボヤき始める。しかしやめるわけにはいかない。彼も神宮寺やシュベールの言っていた“ザーツの真の目的”とやらが気になるのだ。
 もちろんジョーは、こんな所に座ってモニタに並ぶ文字なぞ読んでいたくはない。しかしもし健からの連絡を預かっているリンクがキャッチしたとしても、それは同時にパリ本部の捜査課にも入るわけだ。同じ事をしていたのでは、さすがのジョーも本部捜査課の機動力に敵うわけはない。
 「健・・、ちゃんとメシ食ってるかな・・」
 目は文字を追いながらふと思う。
 健は賢い子どもだ。まだ6才で女の子のような可愛い顔をしているが、その瞳には時として英知の輝きさえ映す。父親の仕事の詳細は知らないが国のため・・いや世界のために重要な仕事に就いている事はわかっているようだ。
 いつだったか、健はジョーに“パパがいない時は、ぼくがママンを守る”と言った事があった。鷲尾は仕事上家を留守にする事も多かったので、その事かと思い、“おう、男だったらしっかりママを守れよ”と、彼の髪をくしゃくしゃに掻きながら答えたが、あれはもっと広い意味があったのではないか・・。
 (くそォ・・、ほんとに健に何かあってみろ。ザーツはもちろんテロリストの奴ら─)ふと目が留まる。“ユーロ反対団体”の文字がモニタ上に見えた。(これってハルツの・・)
 記事は3日前のもので、一度ドイツで計画を断念させられたユーロ反対団体が再び動き出した、というものだ。しかし扱いは小さく、これが事実なのかどうかまではわからない。それが証拠に、その翌日の新聞に続記事はなかった。
 (こいつら、あの時に一掃されたんじゃないのか)
 ジョーは気にしながらも、さらに日にちを遡っていく。
 大きな見出しの事件は皆大事件だ、全部拾っていくわけにはいかない。後はジョーのSメンバーとしてのカンに任せるしかない。
 実際彼の気を引いた記事はいくつかあった。しかし頭はどうしてもユーロ反対団体の方に行ってしまう。
 「う・・・」
 ふっとモニタがぼやけた。目を瞑り目頭を押さえる。イスに掛けておいたジャケットのポケットからリンクを取り出した。
 神宮寺のサイズに合わせてあるのでジョーには細すぎ手首にはまらない。
 時間を見ると、ここに入ってから2時間が過ぎていた。コーヒーが欲しいが食堂まで行くのは面倒だ。そういえばいつ食事をしたのだろう。空腹感はないので、まだ大丈夫だろうが─。と、室内に静かに電子音が流れた。
 『Kommunizieren(連絡します)』ドイツ語?。ジョーは目を開けスピーカーを見上げた。『George-Asakura。Bitte Kommen zu Direktorengeneral Zimmer(長官室まで来てください)』
 (長官室へ?なんだろう─。もしかしたら健が!)
 ジョーは急いでパソコンを終了させジャケットを掴むと、廊下に出てエレベータに飛び乗った。

 鷲尾は長官室の大きなデスクについて仕事をしていた。書類をチェックしサインしていく。
 傍らのパソコンのモニタには、捜査課からの捜査情報が次々に映し出される。ついそれに見入ってしまうのも今回は仕方がない。
 彼はできる事なら捜査隊に加わりザーツの行方を追いたかった。健を含め3人の子どもを連れ出し逃げたザーツのメンバーの足取りに関する有力な情報はない。
 しかし3ヶ所、捜査に値する情報が入っていた。1ヶ所はフランス国内だがあとの2ヶ所はベルギーとの国境近くとドイツだった。
 今パリ本部の捜査隊は3グループに分かれ、それぞれの地に向かっている。
 しかし長官という地位にいる鷲尾が現場に出向く事はない。彼のする事はベルギーとドイツの国際警察と連絡を取り協力を要請する事と、今抱えている他の事件との調節を指示する事だ。─と、ドアがノックされた。
 「入りたまえ」
 鷲尾は書類に目を落としたまま答える。入ってくるのが誰かはわかっている。その人物がデスクの前に立った。鷲尾が顔を上げる。肩で息をしているジョーに、一瞬眉をしかめたがすぐに気を取り直す。
 「指令だ。ジョージ・アサクラ」ジョーの目が輝く。「準備が整い次第、ドイツのシュトゥットガルトに向かってくれ。そこにいるベルリン支部の者達と合流する」
 「シュトゥットガルト?そこに健がいるんですか?」
 「健?何を言ってる。君が担当するのは別の事件だ」
 「な─!」
 「君と神宮寺君が関わったユーロ反対団体がまた動き始めたようだ。ベルリン支部から先ほど協力要請があってな。ジャン達を生かせようかと思ったが、ドイツなら君の方がいいだろうと思って─」
 「ち、長官─」
 「シュヴァルツヴァルト辺りに奴らの本部があるらしい。詳しくは向こうで─」
 「長官!鷲尾さん!」デスクをドンッ!と叩き、ジョーが叫ぶ。「あんた、あの事件からおれを引き離すつもりなのか!」
 「引き離すも何も、君はメンバーには入っていない」
 「・・・・・」ジョーが唇を噛みしめる。充血した瞳が鷲尾を射る。
 「君達に事件を選り好みする権利はない」鷲尾は引き出しから1枚のフロッピーと車のキーを出し、ジョーの前に置いた。「シュトゥットガルトのベースキャンプの場所と詳細だ。車は地下駐車場の16番の車を使いたまえ。─以上だ」
 そう言うとまた書類に目を落とす。
 パソコンのモニタは相変わらず捜査状況を次々と更新していく。そちらにチラッと目を走らせ、今だデスクの向こうに立っている男を見上げた。
 ジョーは静かに鷲尾を見下ろしていた。唇を噛みしめ、見る方向によってはアクアマリンのようにも見えるブルーグレイの瞳を鷲尾に向けている。その瞳に一筋の涙が浮かび、頬にこぼれ落ちた。
 鷲尾は驚いて立ち上がった。が、それと同時にジョーはフロッピーとキーを掴み鷲尾に背を向け出て行った。
 鷲尾は音をたてて閉まるドアを見つめたまま動けなかった。

 ジョーは一度ソーの鷲尾邸に戻ると、必要な物をバッグに詰め込みそのままシュトゥットガルトを目指した。
 今からでは向こうに着くのは夜中になってしまうが、ジョーは誰もいない鷲尾邸に1人でいたくはなかった。もちろん幸子や神宮寺に会っていくつもりもない。彼らの顔を見れば、自分が何を言い出すかわからない。国際警察に復帰したジョーには、鷲尾の命令に逆ら事はできない。できないが─今まで彼の心の奥底で燃えていた炎が、されに大きく激しくなっている事は確かだ。もし何か切っ掛けがあれば、たとえ鷲尾でもその炎を消す事はできないだろう。
 ジョーは一心にドイツに向けて車を走らせる。
 地下駐車場16番スポットにあったのは、プジョー407シリーズのセダンタイプだ。数あるパリ本部所有の車の中では1番台数が多い。
 ディアブロと比べたくないが、2,2リッター車は馬力の点でも遥かに劣る。だが一番気に入らないのは、この車がオートマ車だという事だ。ミッション車にしか乗らないジョーに鷲尾はAT車をあてがった。その事ひとつとっても、鷲尾が自分の行動を押さえつけようとしていると思ってしまう。
 この407シリーズは全車AT車だという事を、ジョーは知らなかった。
 ジョーはフロッピーを車内のパソコンにセットした。今までに判明したユーロ反対団体についての情報がモニタに流れる。チラッと目をやったがすぐに切ってしまう。そんな情報などどうでもいい。とにかく早く奴らをぶっ潰してパリに戻る事だ。
 自分の中の炎を押さえつけるために、彼はさらにスピードを上げた。

 「ジョーがドイツへ?」神宮寺は驚いて、ベッドの横に座る幸子を見た。
 「ええ。さっき退院の準備を手伝ってくれた鷲尾の秘書が教えてくれたの。今回の事とは別任務らしいわ」
 「だからか・・・」神宮寺が呟く。
 実は30分ほど前にジョーからの通信がシャルルホーゲルに入ったのだ。だが室内のせいか洸の腕が悪いのか雑音がひどくて『─反ユーロがまた動き出したらしい─』としか聞き取れなかった。
 「鷲尾は何を考えているのかしら。ジョージが健の事を心配しているのはよくわかっているはずなのに。別の事件の担当をさせるなんて─」
 「・・・・・」神宮寺は無言で幸子から目を逸らす。
 鷲尾の仕打ちはひどいように思うが、彼の立場も理解している神宮寺には鷲尾の心もわかる。
 我々が事件を選べないのと同様にパリ本部もまた、事件を選り好みする事はできないのだから。

 ジョーがストラスプールを経由してドイツに入った頃には辺りはすっかり暗くなっていた。ここからシュトゥットガルトまではまだ100キロ弱ある。
 ジョーはライン川を越えた辺りで一度休憩を取った。
 勢いついて300キロを走り通して来た。いつもの彼には大した距離ではないが、寝不足と疲労の溜まっている今のジョーにはきつい行程だった。
 路肩に車を停めエンジンを切り、暗くして車内でシートにもたれると睡魔が襲ってくる。しかしそれも一瞬の事ですぐに目が覚める。気を失いでもしない限り、ジョーは運転席で眠る事はできない。
 ジョーはカロリーメイトを口に入れエビアンで喉に押し流す。結局10分もしないうちに車をスタートさせた。ふと、いつもなら足元に3つのベダルがあるのに今は2つしかない事に途惑う。ギアもつい横に滑らせそうになる。そしてこんな小さな事に腹を立てている自分に苛ついた。

 健は他の2人の同級生と共に薄暗い部屋の中で座っていた。室内には彼ら3人しかいないが、部屋から出れば少なくとも3人の大人がいる事を知っている。
 その大人達は、“おとなしくしていれば、もうすぐおうちに帰してあげる”と言っていたが、それが本当かどうかはわからない。
 2人の友達は泣き疲れて眠っている。健はズボンのポケットからソッとタイピンを取り出した。どこかに閉じ込められたらピンに付いている小さなボタンを押すように父から言われている。しかし内蔵された電池の容量が小さいので、あまり早く押してはいけない、とも─。
 健は電池が切れたおもちゃが動かなくなる事も知っている。このタイピンも同じなのだろう。
 もう少し待ってみよう、と思い、タイピンをまたポケットに仕舞った。


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Comment

淳 says... "覚書き"
本当はこのままジョーに健を追わせようと思ったのだが・・・。
ジョーが銃を持っている姿を健に見せたくないな、と思って別の事件の担当にした。
途中でストーリーをコロッと変える事はあまりないのだが彼らも事件を選べるわけではなく自分の思い通りにならない事もあるのだと、ジョーにも鷲尾にもそして淳自身も改めて思った。
2011.03.01 15:17 | URL | #vDtZmC8A [edit]

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