コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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我が手の下(もと)に 8

 「ザビがやられた!」「こいつ!」
 ロビーの床に転がるジョーを男達が罵倒と共に蹴り上げた。術痕が開き血が飛び散る。だがジョーは両手で頭を庇ったまま抵抗はしなかった。
 「やめろ。こいつのせいじゃない。ザビの勇み足だ」そう言うラシッドだが目の前で仲間がやられた怒りから、うつ伏しているジョーを蹴って仰向けにした。「あのぼうやが王子様だとはな」
 「・・・金目当てじゃないんだから、彼が何者でも関係ねえだろ」
 ジョーが上半身を起こし男達を睨んだ。
 まさか起き上がれるとは思っていなかったのか、男達は一瞬アッケにとられたように動きを止めた。
 「服を着替えてくる。部屋に戻らせてもらうぜ」
 血塗れの体がゆっくりと立ち上がる。
 周りの男達は皆、体が大きく厳つい。ジョーより体格のいい男がほとんどだ。
 しかし、肩から胸まで血に染めて立つジョーの盤石な威圧感がこの場を支配し、男達にそれ以上の手出しをさせなかった。ラシッドでさえ何も言えず頷くだけだ。
 ジョーは、やはり血に染まった左足を少し引きずるように踵を返した。
 「1人では行くな。誰か付いて行け」ラシッドが言ったが誰も名乗りをあげない。と
 「おれが行こう。服を替える前に包帯を取り替えないといけないからな」
 カルナタが銃先でジョーを促した。が、彼はカルナタを無視するように歩き出した。肩をすくめジョーに続いてエレベータに乗り込む。背を向けているジョーが小さく息をついた。
 「意地を張るな。あとが辛いぞ」
 「・・・あんた、目の前で仲間がやられてなんとも思わないのか?」
 とたんに胸倉を掴まれてエレベータの壁に押し付けられた。グッと持ち上げられるように押され、息が詰まる。
 「なんでもないわけないだろ。たとえ奴らでも─」
 え?と、ジョーが向けた視線から逃れるように、カルナタは顔を背け胸倉を掴んでいる手を離した。
 エレベータが開いた。長く伸びる廊下の先で人影が動いた。この階に取り残された人だろう。襲撃を受けて丸3日閉じ込められている。彼らの精神力も体力もそろそろ限界だ。
 「そこへ座れ。包帯を替えてやる」
 部屋に入るとカルナタが言った。が、ジョーは自分のバッグを掻き回し、底の方から小さなケースを取り出した。素早くパンツのポケットに入れようとし─その手をカルナタが抑える。
 「これはなんだ?」
 「─薬だ。常用している」目の前に引き出された手を開いて、白いピルケースを見せた。「色々と、気苦労の多い仕事なんでね」
 バッと手を引きポケットに入れた。それからシャツを脱ぎイスに座った。患部は口が開いていたが出血は止まっていた。カルナタが手際よく包帯を取り替える。
 「・・もう教えてくれよ、ドクタ。あんた達の目的を」左足に移ったカルナタの手が止まった。「仲間の釈放をインド政府が呑まない事はわかっているんだろ。他に何がある。ラシッドはもう少し時間がいる、と言っていたがどういう事だ」
 「・・・この事件を世界中に報道してほしいんだ」カルナタが足の包帯を解いていく。「この国は身分の差がはっきりしている。仲間の多くは地方の貧しい村の出身でね。その村の権力者が中央の役人と組み、村人が払う税のほとんどを自分のポケットに入れている。それを抗議した者は即刑務所行きだ。二度と帰ってこない。おれとラシッドはその地方の出身ではないが、まあ似たような境遇だ。そこでいくつもの村の若者が立ち上がり、やがてそれが大きな組織になった」
 「それであちこちで騒ぎを起こし、各国にその境遇を知らしめようというのか」
 「いいやり方ではないが・・・、我々にはそれしか手がない」
 「外国人旅行者を巻き添えにしているんだぜ。他国の理解が得られるとは思えない」
 「組織が大きくなっていくなかで、当初の目的を忘れてしまった者達もいる。この中にも─」
 「ザーツというテロ組織とは関係あるのか?」
 その質問にカルナタは驚いてジョーを見つめた。その目が語っている事は読み取れない。が、やがて小さく首を振り

 「聞いた事はある。しかし我々とは関係ない。あっちの方が遥かに大きな組織だ」
 「・・・・・」
 うそを言っているようには見えない。だがこんな事を続けさせるわけにもいかない。
 「集めている人質や宿泊客を解放してくれ。あんたがラシッドに言えば」無理だ、というようにカルナタが首を振った。「でなければ、強引に突破するだけだ」
 「やめたほうがいい。さっきの爆発は偽者だったが、あれから本物の爆弾を仕掛けた。小型だが爆発すればそれ相当の被害が出るぞ」ジョーが悔しそうにカルナタを睨んだ。そんなジョーを見て、なぜか笑みを見せた。「ラシッドが君を気に入ったのがわかる気がする。よく似ているな」
 「おれにもテロリストの素質があるって事か」
 「テロリストかどうかわからないが、熱いものを持っているんだろ、ここに」
 トンッとジョーの胸を拳(こぶし)で突いた。
 「おれとラシッドは生まれも育ちも違うが、何か同じにおいを感じる・・・。それでは困るのだが」複雑な笑みをジョーに向け、「もう戻ろう。ラシッドが─手、どうした?」
 「え?」カルナタの視線にジョーは自分の左手が震えているのに気がついた。「な、なんでもない。あいつら思いっきり蹴っ飛ばしてくれたからな」
 ジョーが新しいシャツを着て立ち上がりドアへと向かう。怪訝そうな眼を向けたカルナタもその後について部屋を出た。

 病院で診察を受けたルウクは、異常はなかったものの念のため1、2日の入院となった。駆けつけたアマド大臣は神宮寺達に感謝し、ルウクのそばに付き添っている。もっともルウクは自身は元気で、退院したいとダダをこねているようだ。
 「どこかの誰かみたいだな」病院の廊下で一平と水野が苦笑した。と、「神宮寺」
 エレベータから神宮寺が降りてきた。
 「軍の話はどうだった?」
 「ルウクが解放されると知った軍の上からの命令だったようだ」厳しい貌を2人に向け、神宮寺が言った。「パリ本部から抗議が行くだろうが、どうだかな。人質がどうなってもいいのか」
 あの時、ルウクはもちろんジョーも助け出すチャンスがあった。他の人質の事を考えないでよいになら、神宮寺は躊躇する事なく突入しただろう。
 「撃たれた男はどうした?」
 「ICUに移った。だが助かるかどうかわからないそうだ」
 せめてその男から情報が取れればよいが・・・、と、病室からアマドが出てきた。ルウクが話が話があるという。
 3人が病室に入るとルウクはベッドではなく、腰掛けていたソファから立ち上がって丁寧に頭を下げた。そして3人を順に見て、
 「あなたがジョーのアイボウのそば屋さんですね」言われた神宮寺は“?”と首を傾げたが、「ジョーが言っていた通りの人だ」
 「・・・・・」どのように言われてたのか、大方の見当はつく。
 「実は渡したい物があります」と、ルウクが取り出したのは1枚のSDカードだった。「ぼくが解放される時に、テロリストの1人から渡されました。ジョーの仲間に渡してくれ、と。その人は医者で、ぼくやジョーも手当てをしてもらいました。彼らの中では信用できる人だと思います」
 「わかりました。すぐに調べます」神宮寺達が病室を辞そうとしたが、
 「ジョーや人質になっている人を助けてください。ぼくがインドでの護衛を頼まなければ、こんな事には・・・」
 「王子はジョーをそばで見てきたのでしょ?大丈夫、彼は強い男です」
 神宮寺の言葉にルウクは頷きペコッと頭を下げた。3人も頷き病室を出た。
 「脇腹を撃たれたとは聞いていたが」ポツリと一平が呟く。「治安部隊突入の時か・・・」
 病院の前に停めてあった車で3人は治安部隊の本部へと戻った。あてがわれている部屋へ行き、神宮寺からSDカードを受け取った巻がアダプタにセットしパソコンに繋げた。
 「表示できればいいけど・・」
 巻の指がフラットポイントの上を滑る。
 モニタに映し出されたのは大広間に集められた20人ほどの人々、煙が漂うロビー、黒く焦げた壁に銃を持った男達、そしてルウクとジョーの姿─。
 「どうやらタージ・マハル・ホテルの内部写真のようだ」
 「この男が一番多く写ってる。リーダーかな」一平が指差した。「それにしても、その医者とやらはどうしてこんな写真をおれ達に渡したんだろう。裏切り行為じゃないか」
 「このリーダーのやり方に反感を持っているのか、それともワナか・・。あるいは・・」と、神宮寺が次に送ろうとする巻の手を止めた。「これはなんだ?」
 1枚の写真の端に写る黒い物─その場に置かれているのに違和感がある。巻がズームアップした。
 「・・爆発物?」
 「人質を集めている部屋に本物の爆弾があるって事か」
 治安部隊が突入した時の爆発は、ロビーを除いては偽者だろうと皆の意見が一致している。それから後に本物が仕掛けられたのかもしれない。これではジョーも強気に出られないだろう。と、
 「柏木!」ダリに付けていた加藤が飛び込んできた。「2回目の突入が決まった!」
 「巻!」
 走り出す神宮寺に、パソコンを抱えた巻がその後に続いた。

 2階のホールに持ってきたテレビから流れるニュースが、ムンバイ・テロについて新しい情報を伝えている。首謀者であるデカン・ムージャから今回のテロの声明文が各報道機関に送られてきたのだ。内容はカルナタがジョーに話したものとほぼ同じだった。
 「声明文を出すのが遅すぎる」ラシッドが呟く。
 テレビの前には他にカルナタやレド、マーシーがいた。ササンとギルという男が上階の人質を見張り、治安部隊との銃撃戦でキズを負った3人の男達は別室にいる。
 「おかげで3日もここに籠る事になった」
 その男達を少し離れた所からジョーが見ていた。
 床に座り足を投げ出しているのは、左足の銃創を圧迫しないためだ。縫合もできず、おまけに散々叩かれたせいでキズ口が開いてしまった。出血は止まっているが今は自然にくっつくのを待つしかない。
 体力の温存と出血が多かったため静かにしていろとカルナタに言われたが、顔色が悪いのはそのせいだけではない。そろそろ潮時だという事は、ラシッド達もわかっているだろう。このままおとなしくここから出て行ってくれればいい。人質さえ無事なら、奴らがどうなろうとジョーには関係がない。幸いザビのような過激な奴はいないようだ。だがもしも─。
 ジョーは小さく息をついた。ルウクが一緒にいた時の集中力が散漫になっている。こちらもそろそろ限界か─。
 ジョーはポケットからピルケースを出しフタをスライドした。
 「若いうちから、そんな物に頼るな」
 「!」
 いつの間に横にカルナタが立っていた。とっさにフタを閉める。
 「そういう物に頼って、命を縮めた奴をおれは何人も見ている」
 「・・・・・」
 自分の横に腰を下ろしたカルナタから顔を背け、ジョーはピルケースを仕舞った。彼自身、常用してはいけない事はわかっているのだが・・・。
 「いいんだ・・。おれ、長生きしそうにもないし・・」
 ハッと口を閉じた。テロリスト相手に何を言ってるんだ、おれは─。
 「君の親ならまだ若いだろう。子どもが先に死ぬのは最大の親不孝だ」
 「だったら大丈夫だ。親は疾うにいない」驚いたように目を見開くカルナタに─。まただ。この医者相手に、おれは─。「こんな事してるあんたの方が親不孝だと思うがね」
 「・・・まったくだ」ふっとため息をつき、その目を窓に向けた。と、
 「身代金を取る!?」
 掛かってきた電話に出たラシッドが大声を上げた。カルナタはもちろんマーシーやレド、そしてジョーも彼を見た。
 「そんな話は打ち合わせにはないぞ!」
 (相手は誰だ)ジョーがカルナタに訊こうとした時、スピードマスターが振動した。神宮寺からのメールだ。(14時再突入─2回目の治安部隊の突入か。あと1時間もないっ)
 「ドクタ」ジョーはラシッドの元に戻ろうとするカルナタの手を掴んだ。「治安部隊が突入してくる。あと1時間もない。今度ははったりは効かないぞ」
 「なぜそんな事がわかるんだ」訝しげなカルナタをラシッドが呼んだ。
 「あと1時間で治安部隊が攻撃してくる。それまでに撤退する」
 (情報が漏れている!?あの電話の相手からか!)と、レドがラシッドに小さな機器を渡した。確かあれは上階の爆弾の起爆スイッチ─。(そうか、爆発物が多数あってもスイッチがひとつなら、それを押さえれば)
 ジョーの意識が臨戦態勢に入る。肩や足の銃創も、脇腹の掠りキズもカルナタが手当てしてくれた。大丈夫。動ける。
 一瞬ポケットのピルケースに手が行ったが─、強い意識を持ってそれを抑える。
 長生きしたいわけではないが親不孝はしたくない。それにしてもテロリストの言葉に心を動かされるなんて・・・。
 「撤退ってどうやって?本部は救出に来てくれるのか?」
 若いマーシーの言葉にラシッドもカルナタも何も言わない。作戦に出たら本部をアテにしてはいけない。と、
 「ルウクといったな、あの王子様・・・」カルナタが呟いた。「ヘリを用意できると言っていたが」
 「本当か」
 訊き返すラシッドに、なぜ今ルウクの名を─とジョーがカルナタを睨んだ。
 「彼の仲間の所にいるんだろ?人質と交換にヘリを要求してみてはどうだ」
 「まて。ルウクを巻き込む事はできない。おれの仲間が賛成するはずがない」
 「なにもルウクに迎えに来いとは言っていない。パイロット付きのヘリが欲しいだけだ」
 (パイロット付きの・・ヘリ・・)
 そうだ。連絡して神宮寺と合流できれば・・・。
 だがジョーは首を縦には振らなかった。それ以上にラシッドが迷っている。彼の決断がないうちは安易にOKしてはだめだ。カルナタもそれはよくわかっていてリーダーの決断を待つ。
 「連絡しろ。人質はヘリと交換だ」ラシッドがジョーに言った。ジョーが首を横に振る。「おれ達の目的は達成された。もうここには用はない。人質にもな。安全に帰りたいだろう」
 「自分達が閉じ込めておいて勝手な事を言うな」
 チャッとジョーのアゴに銃口が押し付けられた。奴らの本部とやらは助けに来ない。治安部隊の突入は迫っている。この辺が潮時だ。
 「・・・連絡したくとも、ケータイをあんたに壊された」
 「そうだったな」
 ラシッドが言い、カルナタが自分のケータイをジョーに差し出した。


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