コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   1 comments   0 trackback

震える心の熱き思いを 8

 5台のベンツVクラスのワンボックス・カーのうち3台はビエリを追い、1台はテュービンゲンに向かうようカイザーは指示を出した。あとの1台はベースキャンプに残す。
 ジョーはカイザーと共にベンツの後部座席に収まった。
 ビエリから反ユーロのトラックの位置が絶えず送られてくる。トラックは3台で、一旦は南に向かいやがて東に進路を取ったという。
 「ミュンヘン方向だな」
 ハンドルを握っているフレディが呟く。と、突然車内にピピピ・・・という金属音が鳴り響いた。
 「健!?」音はジョーのパンツのポケットから聞こえる。リンクに健からの連絡が─!と思ったがそれは通信だった。「神宮寺か?」
 『ジョー!健が保護されたぞ!』
 「なんだって!?ホントか!?」
 『ああ、さっき幸子ママから連絡があった』時々、ジジ・・・と雑音が入り聞きづらいが、神宮寺の声が弾んでいるのはよくわかる。『シュヴァルトヴァルトの北にカルフという小さい町があるが、そこのヘルマン・ヘッセ博物館の前で座り込んでいる3人の子どもを町の人が保護してくれた。今ママさんや長官の秘書を含む捜査隊がそちらに向かっている。あと1時間くらいで着くだろう』
 「カルフだって?おれのいる所から30キロしか離れてないぜ」
 『行けるか?』
 「いや、今は無理だ。奴らを追っている」カイザーが声を掛けようとしたがジョーが目で制する。「元気なんだろ?だったら後はママに任せた方がいい」
 『そうだな。そっちも早く片付けて、健に顔を見せてやれよ』
 「ラジャー」
 通信が切れた。ジョーは長い息をつくとシートに体を沈めた。
 「良かったな」カイザーはジョーと健の関係は知らないが、彼の様子からただの“上司の息子”というだけではないだろうと思う。「長官もホッとしているだろう」
 「うん・・」
 珍しく素直に頷いて、ジョーはカイザーに目を向けた。
 気掛かりな事がなくなったせいだろう。ジョーの瞳にはいつもの激しさはなく、ただ青く透き通って見えた。
 年上の自分達をひと睨みで黙らせるあの瞳は、今はもう子どもではないが大人にも成りきれていない21才の青年のそのままの心情を映し出している。かすかに笑みを浮かべた顔は、幼い子どものようにあどけない。
 (銃撃の中に飛び込んで行ったり、ディアブロでコンピュータに突っ込んで行った人間とは思えない。いったい?どっち?が本当の彼なんだ)
 「よおし、あとはこの一件だ」ジョーの瞳にまたあの鋭さが戻る。「カイザー、またモタモタしていたらこいつで奴らのトラックに突っ込んでやるからな」
 (・・・やっぱり?こっち?だ)
 一瞬でも、可愛いなと思った自分を激しく後悔した。

 反ユーロのトラック3台は途中からアウトバーン8号線に入った。連絡を受けたカイザー達もウルムの手前で8号線に入る。両車間は10キロくらいだ。
 「このまま行くとミュンヘンに出るな」
 呟くカイザーを横に、ジョーは先ほどからずうっと考え込んでいた。
 ミュンヘンという地名を聞いてから何かが引っ掛かっている。つい最近、その地名を目にし興味を引かれたのだが・・・。
 ふとリンクを取り出しトレーサー画面に切り替える。と、小さな点滅が移動していた。
 「ばかな。健はカルフにいるのに」点滅の位置はジョーより東─つまり前方にいる事を表わしている。それも距離にして10キロ弱・・・。「まさか・・・」
 「それは?」
 聞いてくるカイザーに、ジョーは超小型通信機をセットしたタイピンを連れ去られる息子に長官が持たせた事。その健は後方のカルフにいるのにトレーサーの点滅は自分達の前方にいる事を示している、と説明した。
 「それって、もしかしたら今追っている反ユーロのトラックにザーツのメンバーが乗っているって事か?」
 「状況から言えばそうだ。考えられない事ではないけど」ジョーは助手席のトーレス越しにフロントガラスを見つめた。「そうだ、ネットで─。カンザー、明日から世界平和会議がスイス国境近くのボーデン湖畔で始まるんじゃないか。それに参加する各国の要人が、今日明日にかけミュンヘン空港に到着する」
 「ま、まさか、奴らの狙いはその要人達か─!」カイザーが青くなる。ドイツ国内で他国の要人がテロリストに襲われ万一のことがあったら大変な事になる。「トーレス、ベルリンに今日ミュンヘンに着く要人を調べるよう伝えろ。到着時間もだ」
 トーレスは通信機のマイクを取りベルリン支部に繋ぐ。返事はすぐに来た。
 今日ミュンヘン空港に着く各国の要人は3人。それぞれ今から1時間後に2人。2時間後に1人だ。
 「時間的には合うな・・」カイザーがゴクリと喉を鳴らす。
 「カイザー、トラックを止めよう。武器準備罪だけで引っ張れる」本当は本格的なテロ行為を確認してからの方が捕まえやすいのだが、今回はそうも言っていられない。ヘタすればドイツはとんでもない非難を世界中から浴びる事になる。
 「トーレス、その旨をベルリンに伝えてくれ。デュラン!」カイザーが通信機で前を走るワンボックス・カーを呼ぶ。 「先行してトラックを追い抜かし、先の車線を閉鎖してくれ。ダルクは我々とトラックを止める」
 “Ja!”という声と共にデュランの車がスピードを上げた。
 アウトバーンは速度無制限の印象があるが、実際はトラック、バスは100キロまでと決められている。こちらがそれ以上のスピードで追えば、必ず追いつく事ができる。カイザーは万一を考え、ビエリの車は空港に向かうよう指示した。
 ジョーはプジョーに常備されていたブローニングを手にした。
 一時期、銃口を人に向けるのが怖いと思った。今もふとした拍子に心が怯える。だがこの仕事に戻ると決めた以上、その怯えはどこかに押し込めておかなければならない。
 「ジョージ」呼ばれて顔を上げた。「トラックが見えてきた」
 フロント越しに、同じ型のトラックが走っているのが見える。
 両車は日本で言う“ロマンチック街道”を突っ切り、アウクブルクの町を抜けた辺りを走っている。ミュンヘン空港に行くとしたら、後30キロほどでアウトバーンを降り、一般道に入れなければならない。なんとしてもその前にケリをつけたい。
 「ダルク!トラックの前に出ろ。挟みうちにする!」
 カイザーが前を行くダルクに指示を飛ばす。ダルクは腕のいいドライバーらしい。あっという間に3台のトラックを追い抜かしターンすると、道路に真横に車を止めた。
 1台目のトラックはとっさにハンドルを切り、4車線のうちの空いている2車線から通り抜けようとしたが、そのままひっくり返りズーと前方に滑っていく。
 「お、おい!相手は爆薬を積んでいるんだぞ!爆発したらどうする!」
 「かまうもんか」シャキン!と銃倉を押し込んでジョーが言った。「被害を受けるのは奴らだ。自分達の積荷の責任をとってもらおうぜ」
 そう言いながらスルリと窓から屋根に上がる。身を屈めプローン(伏射)に近い体勢をとる。カイザーとトーレスは窓から身を乗り出して箱乗りスタイルになった。
 「行け!」
 フレディは目の前のトラックの後方にベンツをピタリとつける。トーレスがトラックの右後輪を、カイザーが左後輪を撃ち抜く。ガクンとスピードが落ちたところをベンツは横に並びつけた。
 ジョーがトラックの荷台の天井に飛び移った。体を低くして前進する。と、トラックの助手席にいた男が身を乗り出し、銃でジョーを狙う。その弾丸(たま)を伏せて避けると、ジョーは両手でブローニングを固定し男の銃だけを撃ち落した。
 「いい腕だ」カイザーが口笛を吹き感心する。が、「ジョージ!前を─!」
 「!」
 カイザーの声にジョーは前を向いた。ダルクに行き先を遮られているのだろう。トラックが1台停まっている。それを確認した瞬間、衝突のショックが彼を襲った。
 「うわっ!ととっ!」
 フレディがベンツを急停車させたので、カイザーは振り落とされそうになる。あわてて窓枠にしがみつく。トーレスは寸でのところで車内に戻った。
 「ジョージ!」
 トラックの助手席から身を乗り出していた男は車外に抛り出された。が、屋根の上にジョーの姿はなかった。カイザーは急いで車を降りる。と
 「カイザー!」
 ジョーの声が聞こえた。トラックの運転席からだ。
 カイザーがドアを開けると、中でジョーと大柄の男が揉み合っていた。彼の2倍はありそうな大きな男に座席に押さえつけられ、ジョーは身動きがとれない。喉元を取られないようにするだけで精一杯だ。
 カイザーは銃底で男の頭を打った。3回目でやっと倒れる。その体がジョーに伸し掛かる。
 「こ、こいつ、重いって!」
 グローニングを持つ手がバタバタ暴れている。トーレスが男の体を少し持ち上げ、カイザーがジョーを引っ張り出した。
 「なにするんだ、カイザー!」
 「助けてやったんだぜ!それとももう一度あいつの下敷きになるか」ジョーは口をへの字に曲げそっぽを向いた。 「まったく強いんだか弱いんだか─」
 「カイザー!」フレディだ。「もう1台が逃げるぜ!」
 見ると今の衝突のショックで押し出されたトラックが、その行く手を遮っていたダルクの車を弾いて道を空けていた。トラックのエンジンが掛かる。止めようとするダルクを蹴散らし、トラックが走り出した。
 「1台でも行かせたらまずいぜ!」ジョーが叫び、ベンツに飛び乗る。
 「ダルク達はここを頼む!トーレス、行くぞ!」カイザーとトーレスが後部に乗り込むのを確認したフレディがベンツを出した。「トーレス、前の席に行け」
 男3人で後部席は窮屈だ。トーレスが助手席に移動しようとしてジョーにぶつかる。
 「つっ!」ジョーが左肩を押さえ声を上げた。そのまま体が横に流れる。
 「やられたのか?」カイザーが支えてやる。
 「いや・・、前のキズで・・・」
 「折れているのか?」厚いジャケットの上からだが、手当てをしている様子はない。
 「・・ひびが入っているだけだ」それだけだって大した痛みだろう。少しも気づかなかった。「大丈夫。慣れてるから」
 ジョーは口元を歪めカイザーから体を離した。そのまま前方に目をやる。
 もう何を言っても聞かないというように。
 やがて先行していたデュラン達の車が見えてきた。彼らはベンツを横向きに停め、道路を封鎖している。しかし2車線ほどのスペースがあるのでトラックは通過できるだろう。
 向かってくるトラックにデュラン達は銃を撃った。
 アウトバーンは広い中央分離帯で完全に分けられているので、対向車の心配をする必要はない。その分トラックも周りを気にする事なく強行突破に出た。
 もうすぐ両車はアウトバーンから一般道へ降りる。行き先はやはりミュンヘン空港のようだ。降りてしまったらもう無茶な事はできなくなる。
 「ビエリ、聞こえるか?」カイザーが通信機をオンにした。「今どこだ?」
 『ミュンヘン空港の中央棟の前だ』
 「爆薬を積んだトラックが1台そっちに向かっている。進入道を封鎖し止めろ」
 『空港警察とセキュリティが検問を行っている。あと20分ほどでアメリカとイギリスの要人が到着する予定だから─』
 「奴らは検問を突破して、そのまま突っ込むかもしれない。急ぐんだ!」
 『わ、わかった』カイザーの言葉にビエリは驚き、空港の建物に目をやった。
 ここミュンヘン空港は、建物全体がガラス張りの大変美しい空港だ。3階建てでそう大きくはないが中は一部吹き抜けになっていて、周り中美しいガラス張りで輝き明るい清潔感たっぷりの空港である。それ故もしここで爆発が起これば大惨事は免れない。
 ビエリとラーションが空港事務所へと走った。
 
 ジョーは自分の手の中のリンクの文字盤を見ていた。点滅は間違いなく、前方を行くトラックから発信されている。
 万一の事を考え先ほど神宮寺に確認したら、健はやはりカルフにいて時間より早く着いた幸子達に無事保護されたそうだ。
 すると、やはりタイピンだけが誰かにくっついて移動している・・・。
 (もしかしたら、健の奴がくっつけたのかもしれないな)
 聡明だが年相応のいたずらもする健の顔を思い浮かべた。幸子に言わせると、ジョーの子どもの時とそっくりの悪ガキ顔になる時があるという。
 (おれと健が似るわけないけど)
 「カイザー」通信機を切ったカイザーにジョーが声を掛ける。「トラックを止めよう。これ以上空港に近づけたら面倒な事になる」
 「しかし、どうやって─」
 「トーレス、場所を変わってくれ」ジョーは助手席のトーレスに言った。え?と振り返るのを、「早くしろ!」
 一喝されたトーレスは、あわてて後部へと体を滑り落とす。空いた助手席にジョーが滑り込んだ。
 「フレディ、トラックの左側につけてくれ」
 つまりトラックと中央分離帯の間にベンツが入るという事だ。
 「ジョージ、どうするんだ」ハンドルを握るフレディが訊く。
 「奴らを路肩に落とす」“落とす?”と3人が合唱した。「あまりいい方法じゃないけど、そのいい方法を考えている時間がない。イチかバチかだ」
 「いい方法じゃないやり方でやると言うのか!?」
 「フレディ、スピードを上げろ!何があってもアクセルから足を離すなよ!」
 ジョーがトーレスの叫びをかき消した。一瞬、指揮官はカイザ?だったなとフレディは思ったが、ジョーの命令通りベンツのスピードを上げていた。トラックの左側に入ろうとする。
 「スピードを緩めるな。そのまま突っ込め」ベンツがトラックの左側についた。「寄せろ!」
 ジョーは横からハンドルを掴むと思いっきり右に回した。もちろんフレディも逆らえない。
 ベンツのワンボックス・カーは右側にザーと滑りトラックの側面にぶち当たった。トラックはスピードを上げ逃げる。こうなったら100キロという制限速度など守っていられない。しかし荷物を積んでいる車体は重く、なかなかスピードが上がらないようだ。
 ベンツが再び車体を当てる。2車が擦れるたびに火花が走る。窓ガラスが割れるのを防ぐため窓は開けているので、火花はベンツの助手席に飛び込んでくる。
 「デュラン!」カイザーが通信機に叫んだ。「トラックの右側に入るな!巻き添えを食うぞ!」
 しかしデュランはスピードを落とすどころかさらに上げトラックの前に出ようとしている。
 「あいつ、前から抑えるつもりか」
 「いい腕してるな、デュランも」ジョーがブローニングを手にした。「彼の車が前に出たら、また寄せるんだ」
 窓から身を乗り出し、右手1本でベンツの屋根に上がった。
 左右をベンツに挟まれたトラックはその巨体を活かし、ぶつけようと車体を振ってくる。だが2車のドライバー、フレディとデュランはそんな事には慣れているようで、寄せてくるトラックをうまくかわしている。
 トラックが2車に気を移しているうちに、ジョーはトラックのパネル板に再び飛び移った。しかし今度はトラックも左右に暴れているので移動は大変だ。ブローニングを右手に持ち匍匐前進する。
 やがてデュランの車がトラックの前に出た。一般道へのICを降りられないように道を塞ぐ。
 「寄せろ、フレディ!」
 ジョーが銃を持つ手を大きく振りかぶって合図する。ベンツがスライドしてくる。と、同時にジョーは屋根から身を乗り出しトラックの前輪を撃ち抜いた。そこを左からベンツに激しく押されトラックは右にガクン!と傾く。
 ジョーが残っている前輪を撃ち飛ばした。トラックはさらに傾きズーと滑っていく。そのまま道路から飛び出した。がその時、勢いあまってフレディの運転するベンツを巻き込んだ。
 「うわああ!」
 ベンツはトラックと共に回転しながら路肩へ落ちていった。幸い下は柔らかい草地だ。あまりダメージを受けないで着地した。
 「フ、フレディ・・トーレス・・大丈夫か?」頭を押さえながらカイザーが声を掛けた。
 「大丈夫だ・・」「なんとか・・」
 「あまりいい方法じゃないって・・こーいう事かい」
 頭を振りカイザーが車外へ這い出た。と、20mほど離れて横転しているトラックの荷台がボンッ!と跳ねた。火の手が上がる。
 「まずい、逃げろ!」3人は走り、窪みがあったのでそこへ飛び込んだ瞬間、轟音を上げてトラックが爆発した。3人のいる窪みにまで金属片などが飛んで来る。が、彼らに大きなケガはない。
 「─ジョージ」ハッとしてカイザーが立ち上がる。「ジョージ、まさか・・」
 彼の目には黒い煙を引き上げて燃えているトラックが映った。


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Comment

淳 says... "覚書き"
この話の「鷲尾 健」はジョーが15才の時に生まれた設定になっている。
彼の誕生によってジョーは鷲尾家での自分の位置を─愛され育てられた事は認識しているが─改めて思い、養子縁組を断りのちに自立する道を選んだ。

もっとも設定当時はここまで考えていなかったが。
2011.04.20 14:30 | URL | #vDtZmC8A [edit]

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