コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   1 comments   0 trackback

震える心の熱き思いを 完

 黒い森の南西部に位置するここフライブルクは美しい大学の町だ。
 その中心部から少し離れた大きな病院の内庭に、幸子と神宮寺の姿が見える。
 「ジンさんも無茶するわね。そのケガで1人でここまで来るなんて」
 「ジョーの代わりに健の無事を確かめたかったから─」
 苦笑する幸子に、神宮寺もちょっとテレ笑いし答えた。
 カルフで保護された健達は、フライブルクの大学病院に入院して検査を受けている。しかし3人共ケガもなく元気なので今日中にフランスに戻れるだろう、と聞いている。神宮寺は1時間前に着いたばかりなのだ。
 「長官も来たがってたけど、ル・マンとベルギーに向かった捜査隊がザーツのアジトを見つけ、そっちの処理に掛かっててパリを離れられなくて─」
 ふいにシャルルホーゲルが鳴った。ジョーのサイズに合わせてあるので神宮寺には少し大きい。手首でブラブラしているのもいやなので、ジャケットの内ポケットに入れてある。
 「ジョーからだ・・?」
 『神宮寺!貨物機を下ろす!サポートしろ!』
 「・・・は?」ノイズがひどい。が、ジョーの声だ。「なに言ってるんだ?何を下ろすって?」
 『奴らの飛行機が町に落ちるのを防いだが皆のびちまった。おれが操縦桿を握ってるんだ。爆薬は積んでるんだが燃料がない。いくらも持たない』
 「・・・それってもしかしたら、水色の機体に丸いマークの付いた中型の貨物機か?」
 『よくわかったな。お前の目はGPSか?』
 「・・・今、おれの頭の上を飛んでいる」
 『えっ!?』ジョーの声と共に“ここら辺は黒い森だ!”という声が聞こえた。『こんな所、下りられないぜ。─あ、やば!燃料が─!』
 「ジョー、町の少し西にアウトバーンが走っている。そこへ下ろそう!」
 神宮寺は幸子をその場に残し、病院のそばのホテルに向かって走り出した。そこにパリ本部の捜査隊が待機しているのだ。
 「車で追う。ちょっと旋回しててくれ」
 『簡単に言うな!』
 怒鳴るジョーの後ろから、“アウトバーンって道路だぜ!”という声が聞こえた。誰だ、いったい?
 神宮寺は指揮を執っている捜査課のアンドレに事情を話し、運転手付きの車を1台出してもらう。プジョー407で、ジョーはフランスから乗ってきたのと同型だ。さらにアンドレはもう2台プジョ?を出し、舞台となるアウトバーン5号線の北と南へ向かわせた。車の通行を止めるためだ。
 「よし、ジョー!南から北へ進路をとるんだ!バーデンバーデンに着くまでにはケリをつけるぞ!」
 助手席に乗った神宮寺が頭上の機を仰ぐ。

 「アウトバーンって道路だぜ!そんな所に下ろすつもりか!?」
 「忘れたのか、カイザー」
 ジョーは隣に座るカイザーにチラリと目をやった。
 「アウトバーンは空軍が軍用機の離着陸ができるように広く作ってあるんだぜ。中型機ならなんとかなるはずだ。それに─」再び前を向く。「神宮寺がそこに下ろすと言っているんだ。大丈夫さ」
 カイザーが肩をすくめた。だが覚悟は決めたようだ。
 『ジョー』神宮寺だ。『速度計と高度計を読み上げてくれ』
 「よう、神宮寺!久々─でもないなあ。こんな形で会おうとはな」
 『カイザー!?ちょうどいい。速度と高度は?』カイザーが次々と読み上げていく。『よし、なるべく直線コースを選ぼう。おれはそっちの後方に付いている』
 「神宮寺」ジョーが静かに声を掛ける。「もしやばいと思ったら・・・皆早めに退避してくれ。なるべく離れた所に落とすから」
 『─わかった』神宮寺も小さく、しかしはっきりと答える。『だが、このおれが付いているんだ。そんな事はさせないさ』
 「─そうだな」
 ジョーが苦笑する。そうだ、何をバカな事言ってるんだ、おれは。と、目の前に真っ直ぐに伸びたアウトバーンが見えてきた。車は1台もいない。
 『いくぞ、ジョー!ランディングギア、ダウン!』神宮寺の言葉と共にジョーはレバーを引く。ガクンと一瞬機体が下がる。これは以前にも経験した。『滑走路をしっかり確認しろ。フラップ、ダウン!』
 フラップが下がると速度は落ちるが揚力が得られる。着陸操作がしやすくなるのだ。
 「なかなかうまいな、ジョージ」
 「まーな」
 ジョーが口元を歪める。その時、機内にバンッと銃声が響いた。ジョーが声を上げて操縦桿に倒れ掛かる。機が急速に降下し始めた。
 『ジョー!まだ早い!操縦桿を引け!』
 「ジョージが撃たれた!このやろう!」
 カイザーはいつの間にか後ろに来ていたあの黒髪の男を蹴り倒した。そして急いでジョーの体を起こし操縦桿を引き戻す。
 「ジョージ、大丈夫か!」
 「く、うう・・」
 銃弾は後ろからシート越しに背中に当たっている。シートに威力を弱められ、ジョーの体を貫通しなかった。熱を持った弾丸が体の中で暴れている。
 「い、いてえ・・。くそォ、あいつめ・・・」
 『ジョー!大丈夫か!エンジン出力を落とせ!時間がない!』
 「ジョージ、替わろう」
 「いや、大丈夫だ。エンジン、ダウン!」エンジンの出力を最小にする。出力が下がる分、速度も落ちていく。と、当然高度も下がっていく。「・・つっ、う・・」
 「ジョージ、やっぱり替わろう。このキズじゃ無理だ」
 「うるせェ!おれに任せておけ!」ジョーは徐々に操縦桿を倒して行った。
 『カイザー、ジョーの言うとおりにしてやってくれ。一度握った物は離さない。それより君もシートベルトをして、着陸に備えてくれ』
 まるで子どもだな、と呟き、それでもジョーの意識がはっきりしているのを見ると、カイザーは神宮寺の言うとおりにした。
 貨物機は少しづつ高度を下げてくる。バーデンバーデンまであと数キロだ。
 ジャンボに比べ速度の遅い貨物機だが、それでも車よりは速い。車の列に向かったら、車は逃げ切れない。なんとしても、道路が封鎖されているバーデンバーデンまでには下ろさないと─。
 ジョーは思い切って操縦桿をグッと倒した。キュッ!と車輪が鳴る。ガタッ、ボコッと跳ねた。ジョーが体で操縦桿を固定する。シートベルトをしているため、跳ねるたびに体を締め付けられカイザーが唸る。
 やがて機は滑って、少し左に傾いたもののアウトバーン上で止まった。
 「やったぞ、ジョージ!」カイザーがシートベルトを外しジョーを引き起こした。と、背中に当てた手にベットリと血がついた。「ジョージ!おい、しっかりしろ」
 カイザーはジョーを機外に運び出したかったが、自分も肩を撃たれているので難しい。その時、すぐ近くでガガガ・・・と連続音が響いた。思わず体を硬くする。が、
 「ジョー!カイザー!」神宮寺が飛び込んできた。続く1人が手にハンドガンを持っている。これでどこかをぶち壊したらしい。「ジョー」
 神宮寺はカイザーの手を借りながらジョーを床に下ろした。
 「ジョー、おい!」
 返事がない。思わず抱きかかえる。と、うっすらとジョーが目を開けた。
 「良かった・・・うまくいったんだな・・」
 「ああ、まあまあの出来だったぜ」
 「・・・だけど、おれはもう・・だめだ・・・」
 「なに言ってるんだ、これくらいのキズで─」
 「ハラへったあ!」
 「・・はあ!?」
 「お前の顔を見たとたん・・・ああ、もうだめだ。ハラへった。なんか食いたい」
 「・・・・・」
 「パンドゥカンパーニュに生ハムとベーコンとオニオンを挟んで食いつきたい!いやこの際テイクアウトのハンバーガーでもいいや。神宮寺─」
 神宮寺は呆れてジョーを床に抛り出した。

 情報を元にフランスのル・マンとベルギーに向かった捜査隊は小学校襲撃犯とは出会えなかったが、ザーツのアジトを見つけそこを壊滅した。
 アジトからは大量の爆発物や武器が押収された。しかし国際手配されているザーツの重要人物の確保はできなかった。
 ドイツに向かった部隊は最初フランクフルトへ向かったのだが、その後カルフの警察からパリ本部を介して健達の解放を知り保護に向かった。そしてフランスから子ども達の保護者と付き添うパリ本部捜査課のアンドレ達を待ち、到着後もう一度フランクフルトに向かったが、とうとうザーツの面々に行き会えなかった。
 後で聞いた話だが、あの黒髪の男がカルフに健達を連れて行き、ここにいるように言ったそうだ。そうすれば迎えが来る、と。
 逃がしてもらえるんだ、とわかった健がとっさにタイピンのスイッチを入れ、男のズボンのポケットに滑り込ませたそうだ。
 それを知った鷲尾が、ひどく複雑な表情をしたのをシュベールは不思議に思った。
 一方、ベルリン支部が追っていた反ユーロのアジトであるテュービンゲンからも大量の爆薬が押収されたが、幸いな事にサリンはなかった。トラックでミュンヘンに向かった男達も、貨物機に乗っていた男達も皆確保された。
 アウトバーンに貨物機を着陸させた件はドイツ政府がパリ本部に意見書を提出してきたが、“では今度はドイツ国内に落とす事にします”と言う鷲尾の言葉で決着がついた。

 「3日も何も食べないで、どうしてそう無茶な事ができるの?」
 ジョーのベッドの横で幸子が呆れたように言った。
 ここバーデンバーデンの総合病院で昨夜手術を受けたジョーは、ベッドの上で小さくなっていた。
 本当なら幸子は昨日健と共にフランスへ帰る予定だった。しかしジョーがケガをして入院したと聞き、健とここまで来たのだ。
 「ケガは仕事だがら仕方ないとしても、食事くらい自分で管理しないと─」
 「それよりマァマ。あれ、食っちゃいけない?」
 ジョーは目の前に並べられているメロンやバナナに目をやる。
 弾丸傷(たまきず)を気にするより、“ハラへった?”とわめくジョーに同情した捜査課の連中が差し入れしてくれたのだが、今のジョーには目の毒だ。
 「だめよ。固形物は明日以降だって、ドクターが言ってらしたわ」
 「ひでェ。おれ、病院で飢え死にしちまうぜェ」
 「・・1回してみればいいんだ」神宮寺が冷たく言う。「そうすれば少しはわかる」
 「お前、相棒を見殺しにする気か!」
 「可哀想、兄さん」健がポケットからキャンディを取り出した。「これ、あげるね」
 「・・・・・」ジョーは腹の足しにもならないキャンディを見つめる。「ああ・・ありがと」
 「健はやさしいわね」幸子が目を細め息子を見る。そんな彼女の様子を、ジョーは見つめた。「仕方ないわね。悪い子のお兄ちゃんのために、ドクターに訊いてくるわ」
 そう言うと幸子は健と共に病室を出て行った。
 「なんだかんだ言っても、ママさんはお前に甘い」神宮寺が苦笑する。が、ジョーは目を伏せたまま何も言わない。「お前ももう少し甘えないと、ママさん世話を焼きづらくなるんじゃないか?」
 「いいんだ」フッと神宮寺に目を向ける。「彼女は健のママで、おれのママじゃない。?ママ?と呼んでいるのは便宜上だけで、おれは?幸子さん?でも、?奥さん?でもいいんだぜ」
 フウと息をつき、ベッドに体を横たえる。しかしそれが本心ではない事を神宮寺は知っていた。
 ジョー自身、たぶん気がついていないと思うが、彼は時々幸子を?マァマ?と呼んでいる。あれはおそらく?マンマ?─ママと同意語のイタリア語だ。
 ドイツにいた頃、ジョーはイタリア人の母を?マンマ?と呼んでいたのだろうか。だから幸子に甘えたい時についその言葉が出そうになる。しかしそう呼べない。それで勝手に?マァマ?という言葉に置き換えてしまった─。
 そんな事を思いながら、神宮寺は今だに“なんで目の前に食い物があるのに─”とか、“全部叩き割ってやろうか”と物騒な事を呟いているジョーに目を向けた。と、突然ドアが音をたてて開けられた。
 「ジョージ!元気か!」
 「カイザー」2人が声を上げる。「あんた、もういいのか?」
 「なーに、あんなのケガのうちに入らんさ。いや?、今回はハードだったなァ。Sメンバーになるといつもあーなのか?若くないと持たないなあ」
 「・・・・・」神宮寺がカイザーを見つめた。彼はこんな性格だったか?以前とイメージが違う。ふとジョーを見る。 「・・お前、カイザーに何をした?」
 「は?」何って─、なんだ?
 「ジョージ、元気そうだな。よし、さっそく指揮官の訓練をしてやろう」
 「え?あ、あれ─あれは・・・そう、神宮寺の方が合ってると思うぜ」
 「ん?、まあそう言われてみれば、君より神宮寺の方が指揮官向きだ」
 「そうだよ。それにこの風貌。ドイツにはちょっといないぜ」少し声を落とす。「それにこいつなら今夜からでもOKだぜ」
 「そうだな。ここら辺は日本人なんていないから、彼の方がモテるかも」カイザーがバンッ!と神宮寺の背中を叩く。「よし!指揮官は君だ!」
 「・・・・・」
 神宮寺が思いっきりイヤな顔をしている。こういう時のジョーはロクでもない事を考えている。長い付き合いでそれはわかっているが─。
 「さ?、いこう!指揮官への道は険しく楽しい!」
  大きなカイザーの手に掴まれ、神宮寺は強引に引っ張られていく。
 「ご無事で─」
 ジョーは手を振って見送った。 

                                                                                                           完
                                                  9 へ      ←
スポンサーサイト

Comment

淳 says... "覚書き"
この話を書き終わった翌日にイギリスでハイジャックテロが阻止された、というニュースが。
爆薬を積み込もうとしたって・・・。

昭和の頃から「ダブルJ」で何か書くと、それが本当に起こるというジンクスがあるが・・・おいおい、またかよ。
書けなくなっちゃうよ、怖くて・・・。
2011.04.21 15:44 | URL | #vDtZmC8A [edit]

Post comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackback

trackbackURL:http://junstory.blog63.fc2.com/tb.php/58-2cbcc7bb