コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   1 comments   0 trackback

封印されし記憶 3

   「Willkommen!(ようこそ)」
  クロードに教えられた部屋のチャイムを押すと、にこやかな女性が出迎えてくれた。ジョーは驚いて言葉を飲み込む。
   「あら、日本語の方がいい?私、クロードのように上手じゃないけど」 
  そう言いながら中に入るようジョーを促す。どうやら部屋を間違えたわけではなさそうだ。        

 「やあジョージ、早かったね」
  クロードが笑顔を向けたが、その表情にわずかだが陰りが見えた。   
   「まあお座り。・・水割りでいいのかなぁ」が、ジョーは立ったままだ。横の女性を気にしている「ああ、セシルはもう帰る時間だ」
   「フンッ」セシルが鼻を鳴らす「ええ、ええ、帰りますよ。この穴埋めはあなたにしてもらうわよ、ジョージ」
 セシルはジョーの頬をサラリと撫でた。
   「す、すみません、クロード。おれ・・」気が付くとセシルが部屋から消えていた「あ、彼女、送らなくてもー」
   「大丈夫」ニッコリとクロードが微笑む「彼女は隣に住んでいるんだ」
   「・・・・・」
  これ以上、ジョーが口を出す事はなさそうだ。と、緊張の糸が切れたのか、軽いめまいを覚え、ジョーの体が傾く。クロードが支えてくれた
   「・・つっ・・」
   「あ、すまない」クロードが肩から手を離す「・・ケガをしたのか?」
   「・・仕事で・・ミスッちゃって・・」自嘲気味に笑う。
  ソファに腰を下ろすとクロードが水割りを置いてくれた。なんの水割りかわからないくらい透き通っている。口を付けるとかすかにウィスキーの味がした。一気に流し込む。クロードは黙って向かい側に座っている。
  勢いでここまで来てしまったが、どのように話を持っていっていいのかわからない。そこでさっき鷲尾に言われた事をそのまま話した。
   「・・そうか・・」
  しばらくしてクロードが息を漏らすように言った。
   「私に会ってはいけないと言われたのか・・」カランとグラスの中で氷が泳ぐ「なのになぜ、私に会いに来た?」
   「あ、あなたなら・・本当の事を話してくれる・・」ジョーの目を、しかしクロードは避けた「鷲尾さん達は何かを知っているんだ。おれは知らない何かを・・。でも彼らは決して話してくれないだろう。だから・・クロードー」
   「ジョージ」クロードがジョーの勢いを遮る「ワシオが君に何を隠しているかなんて、私が知っているはずないがー」
   「知っているはずだ!」ジョーが掴み掛かった「だから会うなって!?この頃、わけのわからない気持ち悪さに襲われるんだ!光が散って、真っ赤な炎がおれに向かってくる。逃げると誰かが追いかけてくる。銃声がしてーみんなあの夜の記憶なんだ!で、でもなぜ今頃になって、こんなー」
  体から力が抜けるようにジョーはソファに座り込む。
   「ワルサーの事なんだ、きっと・・。おじさんはおれに何かを隠している・・・あ、あの人だけは信じられると思っていたのに・・だ、だめだ・・もう・・」
  ジョーは再び頭を抱え込む。完全に混乱していた。
  ジョーにとって鷲尾は格別だ。今はあまり会う機会もなく、神宮寺や森らJBの仲間と行動を共にする事が多いが、ジョーが1番信頼し心の支えになっているのは、やはり鷲尾なのだ。
  なのに、その人の言葉が信用できない。明らかに自分にとって大切な何かを隠されている。
   「頼むクロード。教えてくれ。このままじゃ、おれは・・」
  クロードを見据えるその瞳にいつもの鋭さはなく、まるで小さな子どものような目だ。それでもクロードは黙っている。
  考えてみれば、いくら当時の事をよく知っているとはいえ、クロードに鷲尾の考えている事がわかるわけがない。当然、隠している事があるのかさえも・・・。
  しかしジョーは確信していた。“クロードは知っている”とー。混乱した頭の中で、なぜかそれだけははっきりとわかっていた。
  ジョーは無意識に、内ポケットに入れていたワルサーを取り出す。
  右手が、体がうまく動かない。ワルサーは上下にカクカクと震えている。左手を添えてみたが震えは止まらなかった。と、クロードが、その大きな手でワルサーごとジョーの手を覆い包む。そしてスッとワルサーを抜き取った。
  ジョーが顔を上げクロードを見る。彼はワルサーをじっと見てジョーに目を戻した。ゆっくりと隣に座ると、スッとジョーの頬に手を添えた。
   「君は本当にアサクラさんにそっくりだな・・」そのまま髪を掻きあげる「その灰色がかった青い瞳はFrau・アサクラゆずりだが・・」
   「・・・・・」
  ジョーは自分の体が小刻みに震えているのを感じた。だが、どうしようもない。何か言おうと口を開いたが言葉が出てこなかった。
   「私はワシオが何を隠しているのかは、わからない」クロードが静かに言った「だがワルサーが君の手元にあり、君がなんの疑問もなくこの銃を使っている事や今までの話から思い当たることが1つある」
   「・・・・・」ジョーが息を呑む。左肩が痛い。
   「だが・・それは本来なら私の話す事ではない。ワシオから聞くべきだ」
   「だ、だめだクロード」ジョーは小さく何度も首を振る「彼は教えてくれない・・。いや、たとえ話してくれたとしても、それを信じる事は・・」
   “できない”という言葉をジョーは呑み込んだ。
  自分を引き取り育ててくれた父の親友を信じる事ができない。初めてそう思った。情けなく辛いー。
  ジョーは自分の気力や体力が、そろそろ限界に近づいている事に気が付いていない。だが、クロードにはそれがわかったのだろう。こんな状態の彼に自分の知っている事を話していいものか迷う。
  しかし、ここでまた話をはぐらかされたら、ジョーは誰を、何を信じていいのかわからなくなってしまうだろう。
   「ジョージ」クロードは、両手を握り合わせ未だに震えているジョーの手の上に、自らの手を重ねた「落ちついて聞いてくれ。君の持っているこのワルサーは、実は・・アサクラさん夫妻を撃った銃なんだ」
   「・・・・・」
 ジョーは目を見開いて彼を見た。言われた事がよくわからない。彼の言葉の意味を理解しようとしない。
   「アサクラさん夫妻は、このワルサーで撃たれたんだよ」
   「・・な」突然、クロードの言葉を理解した「─なんて・・」
  全身が震えた。カチカチと自分の歯が鳴っているのがわかる。空気が入ってこない。息が詰まる。
   「・・そんなの・・う、うそだ・・」
  ジョーはクロードの手を掴み返した。何か言おうと口を開く。しかし喉が引きつり、声が出ない。
   「本当だよ。君は見ているはずだ」
   「お・・おれは・・」
  ジョーの表情が固まる。
  あの夜、彼はいつもより早めに寝た。遠くで言い争うような声を聞き目を覚まし、細く開いていたドアからリビングを覗く。
  血を流した父の姿が見えた。その後ろに母がいる。大きな男が2人に何かを向けているー銃声が響く。1発、2発・・・。
   「わ、わからない・・見えない・・」ジョーは頭を左右に振り続けた。
   「・・本当に、覚えていない?」クロードはなぜかホッとしたような表情になった。
   「わからない・・見たのかさえ・・」目が泳ぐ。ここはどこだ・・おれは何を・・。
   「私は検視報告書を見ている」
   「・・検視・・?」
  そうだ、あの夜の事は事故ではない。事件だ。当然、司法解剖が行われたはずだ。
  ジョーのいる世界ではよく聞くはずの言葉なのに、なぜか自分の両親とは結び付かなかった。
  事件後、男は家に火を放った。まず平屋の屋根がそのまま落下したらしい。屋根の1部がリビングを覆いアサクラ夫妻の遺体を火から守ってくれた。
  男に追われ庭に逃げたジョーは、火に巻き込まれずに済んだ。
   「・・鷲尾さんはそれ(検視報告書)まで、おれに見せないで隠していたというのか・・」
  しかしそれは違う。
  当時のジョーは、男から受けた弾丸傷(たまきず)とショックのため3日3晩、生死の境を彷徨っていた。両親の葬式にさえ出られなかったのだ。
  そんな9才の子どもに、鷲尾が検視報告書など見せるわけがない。
  ジョーの目がテーブルの端に置かれているワルサーに止まる。この銃が、おれの両親を撃ち殺した・・?あの時、男が両親に向けていたのは、この銃・・。
   「そ、それなのに・・鷲尾さんはおれに渡した・・?」ジョーの体が傾く。クロードが支えてくれた  「そうとは知らず・・おれは今までこのワルサーを・・」
  ワルサーがぼやけて見えなくなった。そのまま暗くなっていく。
  ジョーは体をクロードに預けたまま、意識を失った。

 
  JBの機動捜査隊16名と神宮寺に出動命令が下されたのは、翌日の昼近くであった。
  昨日の件で多くの者がJBに泊まり込んでいたので、この出動は速やかに行われた。
  彼らは捜査課の車に分乗し、現場に向かった。

 
  全身を押し包んでいる熱さと息苦しさとでジョーは目が覚めた。しばらくぼんやりと天井を見ていた。
  ようやく自分の部屋の天井ではない事に気が付く。跳ね起きた。とたんに左肩に痛みが走り息が止まる。少し落ち着いてからよく見ると、上半身に何も着ていなかった。
  左肩の包帯が巻き直されている。ジョーはゆっくりとベッドから降りると、ハンガーに掛かっていた自分のシャツを着た。左肩がギシギシと痛む。
  部屋の端のドアを開けると、そこはリビングに通じていた。
   「ジョージ」クロードが振り向く「よく眠れたかね」
  ジョーは返事もせず突っ立っている。クロードがコーヒーをテーブルに置いてくれた。  「いや・・その前に何か食べた方がいいかな」キッチンに戻りフライパンを取り出す「1人が長いと、こういう事がうまくなる」
  クロードは小さく笑った。器用にフライパンを扱っているクロードを、ジョーは無言で見ている。ここまで起きてきたが、まだ頭がはっきりしない。体も熱い。何も考えられない。
   「弾丸傷(たまきず)だったんだね。昨夜少し熱を出していたよ。昔とったナントカで包帯を巻き直しておいたが・・」
  それでか、とジョーは思った。それで体が熱いのなら、もうすぐ納まるだろう。やっと体が動きソファに座る。
  しかし、今度はまともにクロードの顔が見られなくなった。
  夜遅くに押し掛けて彼を責め、ベッドを占領して挙句の果てに朝食まで作ってもらっているのだ。はずかしかった。
  それに彼の顔を見ると、昨夜聞いた事が脳裏に甦ってきて息苦しい。自分から話せと迫ったくせに、なんという身勝手さだろう。と、目の前にハムエッグやトーストの乗った皿が出される。向い側にクロードも座った。
   「私も、今起きたばかりなんだ」
  微笑みながらフォークを使う。
  そういえば昨日昼食を摂ったのが最後の食事だった。ジョーもクロードにつられフォークを取る。それを見ると安心したようにクロードはテレビのスイッチを入れた。昼前のニュースをやっている。
   『ーで、30分ほど前から続いている銃撃戦ではー』2人は驚いて、テレビに顔を向けた『ー公安3課の発表によりますとー』
   「!」ガシャン!と、ジョーがフォークを落とす「・・奴らだ・・」
   「え?」
   「逃げた2人か・・。それとも別の奴らとまた・・」
  ジョーは絞り出すように言った。
  国際秘密警察の存在は、その名の通り秘密でなければならない。
  しかし事件は人々の目の前でも起こる。それに関してなんの報道もされないのはかえって不自然だ。そこでテレビや新聞で報道する時は“公安3課”の名前を使うのだ。公安3課=JBの関わってる事件だ。
  ジョーは腕時計型通信機を見た。何の連絡も入っていない。
   「くそォ・・。おれに連絡してこねえなんて・・」
  ジョーは一瞬だが、JBではもう自分は必要ないと言われたような気がした。
  しかし彼は、前日の仕事でケガをしている。入院するのをいやがったからJBに戻したが、本当なら動きまわれるようなケガではない。いくら彼らが銃弾傷には慣れているとはいえ、昨日の今日だ。森が呼び出さなかったのも頷ける。
  しかしジョーはそう思わない。昨日のミスが彼の心に残っている。
  ジョーはブレザを手にすると、そのまま出て行こうとした。
   「ジョージ!」クロードが呼んだ「忘れ物だ」
  ジョーが振り返る。目の前に彼の愛銃が差し出された。動きが止まる。手を出すのを躊躇する。と、クロードが銃をジョーの手にしっかりと握らせた。
   「君の銃だ。大切な、アサクラさんの銃だ」
   「・・・・・」
  ジョーはクロードを見て小さく頷くと部屋を出て行った。
   (そして君はアサクラさんの大切な息子だ・・。なのに私は・・)
  クロードは力なくソファに腰を下ろし、まだ事件の模様を伝えているテレビに目をやった。

 

 

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Comment

淳 says... "覚書き"
いよいよ書き始める。初日だけで16ページも書いてしまい驚く。少しペースを落としたい。でも毎日、1行でもいいから書きたい。クロードとのお付き合いをもう少し多く入れたかった。
1冊で考えていたけど2冊でもよかったかもしれない。でもこの後のパリ編もあるし・・・(たぶん)

書き始めて気が付いた。漢字が書けない!漢字ごとに辞書を調べているような気がする。おまけに細かい部分が見えない。やっぱ30年ってすごい・・。

結局彼らに仕事用の携帯電話は持たせない事にした。今まで通り腕時計を使う。
JBや駐車場などのセキュリティを書こうと思ったが、今回は勢い勝負なので次号にまわす(・・次号あるのか?)

ギャオで「ガッチャマンF」を流している。ジョーの過去のフラッシュバック。あらら・・エゴさんクレーしてるし、ジョーが南部博士に左肩撃ち抜かれてるし・・って、おい。まったくの偶然だがいつもながらよく合うものだ。
挙句の果てには公安の不祥事も。(作中では不祥事ではないが)
ほんと、書いても大丈夫かな?、と思ってしまう。

思っていたより書くペースが早い。途中で書けなくなったらどうしようと思っていたが大丈夫のようだ。
しかし以前は1回書いてまた書きなおすという事はなかったが、今は行単位で消して書きなおすことが多い。
集中力がやはり薄れている。

一週間で中盤のクライマックス・・というかワルサーの秘密が語られる所まで書き上げた。
だが淳にしては珍しく、一気に書き上げられず2日に渡った。元々細かい所まではっきり決めていなかったからかもしれないが。
メモを確かめながら慎重に、そしていつもの書き方で勢いを大切に。
2010.12.17 15:45 | URL | #vDtZmC8A [edit]

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