コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

我が手の下(もと)に 完

 
 ガサッという音と人々の気配に、ソファに横になっていたものの眠ってはいなかった神宮寺が体を起こした。その眼に、窓から外を窺っているラシッドの姿が映る。ふと振り向くとジョーのブルーグレイの瞳が見えた。と、2階からカルナタが下りて来た。
 「囲まれているな」ラシッドが呟く。相手はライオンではなく人間だ。「予想より早かったな。カルナタ、マーシー、ササンを連れて裏口から出ろ。─来い」
 神宮寺の腕を掴みラシッドがドアへと向かう。
 一人残されたジョーはジャケットを羽織り─ふとポケットを押さえた。確かここに入れたはずだが─。
 「ジョー!手を貸せ!」
 階段の上からカルナタが呼んだ。なんでおれがこっちの手伝いをするんだ?と思ったが、とりあえず言うとおりにする。
 「それ以上近づくな!」入り口では神宮寺に銃を向けたラシッドが怒鳴っている。しかしもちろん相手は引かない。それどころか1発撃って来た。「くそォ!」
 「撃つな、ラシッド!」
 前方に銃を向けたラシッドに神宮寺が叫んだ。だがFN・P90が前方に向かって火を吹いた。とたんにその何倍もの銃弾が2人に向かって飛んできた。
 威嚇に対して攻撃してきた─と、相手に発砲の理由を与えてしまった。
 2人はドアを盾に銃弾を避ける。と、今度は焼夷弾が飛んできた。1階の壁に当たりバッ!と燃え上がった。
 「やめろ!ケガ人がいるんだ!」
 さすがの神宮寺も驚いた。
 一瞬、攻撃してくる奴らはラシッドと敵対している組織かと思ったが、彼らがここにいるのは不自然だし、あの装備はムンバイで見た治安部隊の物と同じだ。しかしそれなら神宮寺やジョーが一緒にいる事はわかっているだろう。これではまるで彼ら共々2人を・・・。
 「カルナタ達と合流しよう」
 神宮寺が先に立って裏口へと急いだ。
 乾燥地帯なので火の回りが速い。あっと言う間に火に包まれたログハウスの裏口から神宮寺とラシッドが飛び出してきた。
 「ジョー!」
 「こっちだ」離れた大樹の影に彼らはいた。「いい物を見つけたぜ。早く乗れ」
 公園内の見回り用のジープだ。
 2人が乗り込むと同時にジョーがアクセルを全開にした。表の道を回ると治安部隊とぶつかってしまうので、道なき道を行くしかない。
 ライオンの生息地というと平原を思い浮かべるが、この公園はジャングルが開けた場所も多少あるものの、そのほとんどが乾燥林で覆われ地面もかなりの起伏がある。ジープとはいえ運転は難しい。だが治安部隊は現場を捜索しているらしく、追っては来なかった。
 「今おれ達どこに向かっているんだ?」
 「北だ」神宮寺が答えた。「このまま行けば、公園の出入り口に行けるぞ」
 「・・・無理だ」え?、と全員がジョーを見た。と、ボン!とジープが跳ねた。ハデな音をたてて着地したジープはガタンと震え─そのまま動かなくなった。
 「チェッ!もっとガス入れとけよな!」
 車体を蹴飛ばしジョーが言った。ふと周りの男達と顔を見合わせる。
 「なんで君達まで着いてくるんだ?」カルナタが言った。「あっちへ行けば保護してくれるだろ」
 「手伝えと言ったのはあんただぜ。まさかここに置き去りって事はねーよな」
 「勝手にすればいいさ」
 ラシッドが歩き出した。移動手段は己の足のみだ。
 「道路に出られればいいが・・・」神宮寺が呟いた。
 彼はリンクで定期的に自分の位置を一平に送っている。ジャングルの中より道路の方が彼らに出会える確立は高い。と、ジョーがしきりにジャケットのポケットを気にしているのが目に入った。
 「白いケースか?カルナタが持って行ったぞ」
 「なんだとっ」
 ジョーが振り返り、一番後ろを歩くカルナタに眼を向けた。
 「ドクタが渡したものだって?なんの薬だ?」
 「・・ただの鎮痛剤」一瞬口籠り─だが踵を返すとカルナタの横に並んだ。「返してくれ」
 「相棒は知らないのだろ。あんな物に頼るなと言ったはずだ」
 「テロだけじゃなく、コソドロもするのかよ。親不孝だな」カルナタの前にジョーはゆっくりと立ちはだかる。カルナタの足も止まった。「あんたには関係のない事だ。返せ」
 「大きな声を出すと相棒に気づかれるぜ」
 前を歩いていた神宮寺やラシッドが立ち止まり、こちらを見ている。
 途惑うようにジョーの瞳が揺れた。
 「おれに服従するなら返してやる。ここにキスをしろ」と、カルナタが自らの足を指差した。
 「な─、誰がそんな事を─!」
 と、肩をすくめカルナタがラシッドの元に向かう。
 その後姿をジョーは睨めつけた。疲労感が全身を覆う。もう一歩も動きたくない。だが、
 「ジョー」
 相棒に呼ばれ、ジョーはその重い足を一歩前に出した。

 「治安部隊はテロリストの確保に失敗したそうだ」ケータイを切り柏木が言った。
 「神宮寺達はまだ奴らと行動を共にしているのかな」
 ハンドルを握る水野が呟き、辺りに目を向ける。
 ライオンの保護地区だと聞いたが森林が多く見通しも悪い。いつ大木のかげから動物が飛び出してくるかわからない。もし道沿いに彼らがいなかったら見つけにくいだろう。
 「神宮寺からのトレーサーサインだ」一平のクロノグラフに現れたオレンジ色の光点は神宮寺のカラーだ。この車の進行方向50キロといったところか。「先行している治安部隊より早く彼らを見つけたい、何かが違うような気がするんだ」
 珍しく不安そうな一平に、柏木と水野が顔を見合わせた。車のスピードが上がった。
 
 足に銃創を負っているササンのスピードに合わせているため、一行の歩みは遅かった。
 ササンはしきりに先に行くように言ったがラシッドは聞かなかった。
 途中小さな小屋を見つけたので、そこで休息をとる事にした。残念ながら車は置いていなかった。
 「ササンはこれ以上歩くのは無理だ。松葉杖かタンカを作ろうと思うが」
 「時間がない。奴らすぐに追いついてくるぞ」
 道路は通らず森林の中を来たので治安部隊に見つからずにここまで来たが、それも時間の問題だ。
 「マーシーが得意だ。30分待ってくれ」
 小屋の修理用工具が置いてあった。材料は小屋の側面を少々拝借すれば─。と、部屋を出た所でジョーが待っていた。カルナタの行く手を塞ぐ。
 「おれに服従する決心がついたのか?」
 その顔面に拳が飛んできた。
 「返してくれないなら、力づくで取り返す!」
 ギリギリで避けたカルナタを追いジョーの足が飛んだ。カルナタが左手で受け、ジョーの足を掴み思いっきり回転させた。
 「うわっ!」
 ジョーの体が床に投げ出された。抑えようとするカルナタをジョーは下から蹴り上げる。その足をカルナタは銃で受けた。そしてそのまま銃底をジョーの鳩尾に叩き込む。
 「─ぐっ」
 息が詰まり、一瞬動きが止まった。カルナタはジョーをうつ伏せにし、両腕を後ろ手に捕らえ馬乗りになった。
 「よく訓練されているが、実戦体験はまだまだのようだな」
 ぐっと腕を絞め上げた。
 神宮寺が使う武道のようなものなのか─ジョーは身動きができない。が、彼が肩にケガを負っている事を思い出したカルナタがその手を離した。ジョーは素早く体を回転させカルナタから離れる。
 肩を押さえ苦痛に顔を歪めているものの、その眼はまだ諦めてはいない。
 「もうよせ。おれの仕事をこれ以上増やさないで─」カルナタの眼が廊下の窓に向けられた。ジョーも顔を上げる。車のエンジン音だ。「追手かな」
 しかし音からして車は1台らしい。カルナタは入り口へと向かった。ジョーも後に続く。
 思ったとおり、1台のワゴンが近づいてくる。男が3人乗っていた。
 「ちょうどいい。あれをいただこう」カルナタが銃を構える。が、
 「まてっ」ジョーが銃を掴んだ。「あれはおれの仲間だ」
 「ジョー!」道路に出たジョーに水野が気がつき車を止めた。「無事でよかった!神宮寺は─」
 次々と降りてきた一平や柏木が口々に言った。が、その動きが止まった。カルナタ、そしてラシッドが銃を向けていた。その後ろに神宮寺の姿が見える。
 「─あいつらか」一平の問いにジョーが頷く。
 「その車は我々がいただく。悪く思わないでくれ」
 「ワゴン車だぜ。全員乗れるじゃねえか」
 「そんなにおれ達と来たいのか?」呆れたようにラシッドが言った。「だがここでさよならだ」
 「まってくれ」一平が言った。
 「治安部隊がこっちに向かっている。すぐに追いつかれるぞ。彼らに捕まったら安全は保障できない。彼らは─」一瞬、言いよどむが、「君達を一掃しようとしている。今、ここで・・・」
 「まさか・・・」
 ジョーは呟いた。が、ルウク解放時や今朝の事といい、確かに思い当たる事はある。ラシッドやカルナタも同様だ。わずかに銃口が下がる。と、銃声が響いた。皆とっさに身を屈める。
 ジャングルの中から現れたのは治安部隊だ。
 「司令官のダマン大佐だ。国際警察は手出しをせず、そこから離れろ」
 「国際警察だと!?」
 ラシッドが、カルナタが、ジョーを、神宮寺を見た。
 「彼らの身の安全を保障してくれ。でなければ渡す事はできない」
 「これはインド国内の事件だ。国際警察は関係ない。邪魔をするというなら─」
 ダマンの合図でラシッドやジョー達に銃口が向けられた。
 「散れ!」
 ラシッドが叫び彼のFN・P90が火を吹いた。と、治安部隊も一斉に発砲した。ラシッドやカルナタ、ジョーや一平も四方八方に散る。
 「ジョー」同時に車の陰に飛び込んだカルナタが言った。「ラシッドやササンを頼む」
 「え?」ジョーが顔を向けた時には、カルナタは後ろの森林に走り込んでいた。「まて!」
 「ジョー!」
 一平が拳銃を抛ってきた。キャッチしカルナタの後を追う。
 そのジョーとカルナタの間に何人かの治安部隊がいた。カルナタに向かって発砲している。ジョーは彼らの足を撃って動きを止めた。一平同様、何かが違うと感じていた。
 「まて!カルナタ!」
 ジャングルの、起伏の激しい地面は走りづらい。カルナタは慣れているらしくジョーとの間が徐々に開いていく。と、前方に大きな湖が見えてきた。そこにはこの湖の名の由来となるヌマワニが生息している。
 もちろんジョーは知らないが、ジャングルの水辺は危険なので湖畔を大回りし─と、突然彼の目の前にライオンが現れた。単独行動の若いオスで水を飲みに来たのだろう。
 「あ─」
 ジョーはとっさに銃を向けた。が、保護区のライオンを傷つけてよいものかと躊躇した。その一瞬のスキにライオンが飛び掛ってきた。
 「うわあ・・!」
 受けきれず地面に仰向けに倒された。鋭いツメがジョーの肩に食い込む。ちょうど銃創のところだ。激痛に気を失う事もできない。シャーと生臭い息が掛かった。
 「ジョー!」声と同時にガガガ・・・と連続音がしてライオンがすっ飛んだ。「大丈夫か」
 カルナタが自分のジャケットで肩を覆ってくれた。たちまち血に染まる。
 「ほ、保護区のライオンだぜ・・・まずいだろう・・・」
 「まずい事はたくさんしてきた。これからもきっと─」
 カルナタはジョーの腕を自分の肩に回し立たせた。湖畔にある展望台の小さな建物に運ぶ。キズを診るが前に手術をしたところも深くキズついていて出血が激しい。
 「君の仲間を呼ぼう。通信機はこれか?」
 「─え?」カルナタはジョーのスピードマスターを指している。「・・知っていたのか」
 ジョーは通信機をオンにした。が、左腕を持ち上げる事ができない。その手をカルナタがとった。
 『ジョーか。今どこにいる。ドクタは─』
 「カルナタだ。ジョーがケガを負った。すぐ来てくれ。湖の展望台にいる」
 『ケガ?ドクタ、あなたは─』が、カルナタが通信を切ってしまった。
 「一緒に来てくれ、ドクタ・・・。治安部隊に見つかったら、それこそまずい・・・」
 「国際警察がテロリストを庇うのかい?」うっすらと微笑んだ。「命を大切にしろ、ジョー。君の事を想ってくれる仲間がいる限り、君は生き続けるんだ」
 「・・・あんたに・・言われたくない・・」
 「それもそうだな」再び口元に笑みを掃き、そのままジョーの唇へと下りて行った。「おれが君に服従して、どうするんだろうな」
 朦朧とした意識の中で見るカルナタの瞳は、なぜかとてもやさしく暖かく感じた。
 その瞳がだんだんと遠ざかり─。

 「今回の件では国際警察に迷惑を掛けてしまい申し訳なかった」
 ダリ中佐が深々と頭を下げた。彼の目の前のベッドにはジョーが、その横には神宮寺が立っていた。
 公園内で治安部隊の攻撃を受けたわずか5分後、ダリが地元警察を率いて駆けつけてきた。
 実はそれまで極秘で行われてきた調査で軍内部にテロリストと通じている者がいる事がわかり、その人物の手足がダマン大佐だと判明したのだ。
 彼らはラシッド達を利用するだけして、後は秘密が洩れないうちに始末するつもりだった。が、ラシッドもササンもあの場で無事確保された。カルナタだけが逃げ失せてしまった。
 カルナタに呼ばれ展望台に駆けつけた神宮寺は、血塗れで気を失っているジョーを見つけ、設備の整ったここムンバイの病院に運んだのだ。
 ライオンのツメに裂かれたキズは20針以上縫う大ケガだった。そして2日後、ジョーはやっとベッドに上半身を起こせるようになった。
 「ルウクが解放される時やヘリでの脱出の時の襲撃も、その人物の命令か」
 「そうです。おまけにもう1つ─。ヘリに爆弾を仕掛け墜落させたのもその男の命令です」
 「あれはやはり爆発物だったんだな」神宮寺が呟いた。「今回の件は国際警察の本部から調査隊が入ります。追って連絡があると思います」
 「はい」再び深々と頭を下げ病室を出て行こうとしたが─、「ところで・・・テロリストの中に医者を名乗る人物がいたと思いますが・・彼は─」
 「カルナタ、の事ですか?」
 「今はそう名乗っているんですね。あ、では逃げ延びた男が─」
 「彼を知っているんですか?」
 「もう10年以上、この任務に就いています。私の友人です」
 「え?では─」
 「─あいつがスリーパーエージェント・・」ああ、だからか。「あいつはおれの正体を見抜いていたんだ・・」
 だからルウクを通してジョーの仲間にSDカードを渡したのだ。軍の中に内通者がいる事も承知していたのだろう。
 「くそォ、何が服従しろ、だ。最後まで騙してくれやがって─」
 服従・・・最後・・・。
 あの時、最後にカルナタはなんと言ったんだ・・。何か暖かいものが唇を覆い・・彼はなんと・・・。
 いやそれよりも彼はあの薬に気がついた。誰も、神宮寺やJBの医師達でさえ気がついていないあの薬を─カルナタは見抜いた。彼とはもう二度と会いたくない。
 「どうした?」
 「いや─、なんでもない」
 いつの間にかダリはいなくなっていた。
 ジョーは相棒に目を向けた。騙しているのは自分だ。いや、話していないだけだが、それでも後ろめたい気持ちは変わらない。いっその事、話してしまおうか。神宮寺はきっと聞いてくれる。そして─、
 「・・おれ─」
 「おっ、可愛いお見舞いだぞ」神宮寺がドアを開けた、と、
 「ジョー!ライオンと戦って勝ったんだって!メイヨノフショーを見せてよ!」
 ルウクの明るい声に、ジョーは口を閉じた。

                                               完


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