コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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紺碧の海と風と 3

 
 船のディナーは18時半から始まる。
 2時間かけゆっくり食事をしても20時過ぎには終わってしまう。
 しかしその後は場所をメインラウンジやカジノ、バーに移し、22時半のナイトスナックまで皆たっぶりと楽しむのだ。
 神宮寺もジョーもソシアルダンスやカジノには興味がなかったが、鷲尾の行く所には付き添わなければならない。
 今、彼らはカジノに来ている。
 ルーレットの前に座っている鷲尾や支部長達を遠巻きにして、計12人─24個の瞳が彼らの周辺に光っているというわけだ。
 2人は少し離れたスタンドバーでカクテルを片手に鷲尾やその周辺に目を向けていた。
 そのうち神宮寺はジョーの様子がおかしいのに気がついた。鷲尾を見ているのだが、時々落ちつかないように室内を見回し、入り口に目を向ける。瞳に何も映していない時もあり、やがて我れに返ったように鷲尾に目を戻す。その繰り返しだ。
 「ジョー」スッと神宮寺が体を寄せる。「どうしたんだ。お前ヘンだぞ」
 「あ─ああ」
 ジョーがグラスに口をつける。そのグラスが小刻みに震えていた。
 「具合でも悪いのか?やっぱり任務はまだ無理だった─」
 「神宮寺」
 ジョーが彼の言葉を遮った。だが次の言葉が出てこない。
 わけのわからない視線と70才の老人に怯えてるなんて思われたくなかった。だがこのいやな気持ちや不安を抱えたまま任務に就いているのもいやだった。
 「おれ─」
 「ジョー」ふいに名前を呼ばれ、言葉が切れた。トーニだ。「君も来てたんだ。見てくれ、こんなにチップを稼いだぜ」
 トーニが後ろに付き添わせている黒いスーツの男の手にあるチップの束を指差した。
 「ヘェ、すごいな。何でこんなに増やしたんだ?」
 「ルーレットさ。あれは確率の勝負だからね。それさえ掴んでしまえばいくらでも稼げるさ」君もやるかい?と陽気な声を上げる。「えと・・・そちらは?」
 「あ、友人のジンだ。こっちはトーニ。昼間知り合った」
 ジョーの紹介で2人は“よろしく”とお互いに握手する。後ろの男がピクリと動いた。が、トーニはそれを制すようにして、
 「明日はローマに着くな。だけどじいさまが上陸するかわからないからなあ」
 「おじいさんと乗っているのか?」
 「ああ、これが気難しいじいさまで、お守りに骨が折れる」
 “こっちも似たようなものさ”“へー、そうなんだ”と仲良く話す2人を見ながら、神宮寺はこのトーニという男に説明のできない違和感を感じていた。
 (なんだろう・・・、この男・・・)神宮寺はカウンターに肘をつき、横目でトーニを見る。(この姿が、この男の本当の姿ではないような気がする。まるでジョーに近づくために芝居をしているような・・・)
 確信はない。ただそう思った。それに─、
 (後ろの男もただ者ではない)神宮寺の、人を見抜く目はジョーより鋭い。その彼の目が密かに警報を発している。だがジョーは気がつかない。そして─、(髪の色も背格好も全然違うのに。この2人はなんでこんなにも似ているんだ・・・)
 さっきとうって変わって笑顔を見せるジョーに、神宮寺は言いようのない不安を感じていた。

 翌日、鷲尾はレッカやスイス支部長ミランと共にローマ市内観光のオプションに参加した。もちろん神宮寺とジョー、ローマ支部のバディとフォーリオ。スイス支部のジュネとロベルトも一緒だ。
 最初レッカが市内案内を申し出たのだが、自分の観光のためにローマ支部のメンバーを動員するのはよしとしない鷲尾に断られ、この船のオプションに参加する事にしたのだ。
 オプションのコースはこの市内観光の他、近郊などのいくつかのコースがあり、鷲尾達が参加したのは一番一般的なコースだった。
 ラヴェンナ号のタラップを降り、ジョーは初めてイタリアの地に立った。
 仕事でもプライベートでも訪れた事のない母の故国。それ故かジョーのイタリアに対しての知識は乏しい。ローマやフィレンツェも名は知っているがそれだけだ。
 そういえばサッカーW杯ドイツ大会の優勝国はイタリアだったなあ、と思い出す。
 ジョーは鷲尾の続いてバスに乗ろうとして、ふと回りを見回した。ラヴェンナ号の着いた港から少し離れたこの広場には何台かのバスが止まっている。人々は自分の希望するコースのバスに乗り込むのだが、その中にトーニの姿はなかった。
 (じいさんが船に残るのを選んだんだな)
 乗客全員が観光に出るわけではない。船で一日のんびりと過ごす人もいる。ジョーはちょっと残念に思った。
 このAコースは30人ほどの参加者がいた。大型のバスなのでゆったりしている。陽気なイタリア人のガイドが、イタリア語と英語を交え楽しくわかりやすく説明してくれる。
 最初に、ヴェネツィア広場の正面に建つヴィットリオ・エマヌエーレ2世祈念堂に向かった。
 イタリア統一記念を祝し建てられたネオ・クラシック様式の巨大な大理石の建物で、16の円柱が弧を描くコロナーデは圧巻だ。長く続く階段を上がるとローマの町並みやコロッセオ、パラティーノの丘などが見渡せる。
 「ローマは遺跡の中にあると言われているが本当だね」
 眼下に広がるローマの街を見ながら鷲尾が言った。彼も観光で市内を回った事はないそうだ。
 「そうですね。足元をちょっと掘れば紀元前の町がすぐ出てきますよ」レッカが言う。
 一行はコロッセオを経て真実の口広場に着いた。
 映画などでお馴染みの?真実の口?は、この広場奥の教会の入り口左にある。
 うそをつく人間がこの口に手を入れると抜けなくなるという伝説だが、多くの観光客が口に手を入れて写真を撮っていた。
 「長官、写真を撮ってあげますよ。」レッカが言った。「真実の口に手を入れてみてください」
 「い、いや、私はこういうものは信じないので・・・」
 「鷲尾さん、何か我々にうそでもついているのでは?」ミランも茶化す。
 “そうではないが、今はいやだ”と抵抗する鷲尾・・・一般の観光客になっている。
 「神宮寺、どうやら鷲尾さんはおれ達に隠し事があるようだ」そんな光景を遠巻きに見ていたジョーが悪ガキ顔で言った。「なんだろうな?。若いパリジェンヌとでも付き合ってるのかな?」
 「・・・子どもが家庭の不和になるような事、言うな」
 神宮寺がため息をついた。
 今日は朝からジョーのテンションが高い。これは不安感を抱えているという事だ。おそらくジョー自身、はっきりしない不安なのだろう。
 「ジョー、おれから離れるな」
 「なんでだよォ。護衛が2人でくっついていたってしょーがねえだろー」
 そこへスイス支部のジュネが話し掛けてきた。彼はボーデン湖周辺を守ったジョーの活躍を知っており、その話を聞きたがった。ジョーも笑顔で答えている。ドイツ語を話せるのが嬉しいらしい。もちろん長官達を視野に入れながらだが。
 昼はリストランチでローマ人気のモッツァレッラチーズをたっぷり使ったルーコラのピッツァとデザートにジェラードを食べた。ピッツァはあまり食べない鷲尾も気に入ったようだ。レッカがひとしきりローマの食文化の自慢話をしている。
 午後は一番にスペイン広場に案内された。
 正面のスペイン階段はあまりにも有名で、冬のこの時期でも似顔絵描きや花屋が屋台を並べている。
 階段の上には古代エジプトのオリベスクが建ち、その後ろの教会が広場を見下ろしている。さすがに女の子には人気の高い場所らしく、ツアー一行の女性達も盛んに写真を撮り合っている。
 ジョーはその階段を下りてくる鷲尾達を見上げていた。と
 「Fscciamo una foto insieme?(一緒に写真を撮っていただけませんか?)」
 3人組みの女の子の1人が話し掛けてきた。
 イタリア語なので意味はわからなかったが、カメラを指差しているので撮ってほしいと頼まれたと思い、気軽に“Si”と返事をした。
 とたんに腕を掴まれ、階段で待っている女の子の間に入れられた。シャッターが切られる。
 周りから“Me too!”“私達も一緒に!”と声が掛かり、ジョーは何も言えないまま女の子達の間を回っていた。
 「チェ、もててるな、あいつ」ローマ支部のバッディだ。
 「彼だろ、ジョージ・アサクラって」フォーリオが小声で言う。「もしかしたら、おれ達の敵にまわるかもしれないという─」
 ふいに言葉を切った。目の前の男が振り向いたのだ。
 「それは、どういう意味だ?」神宮寺が訊いた。
 「い、いや、別に」2人はあわてて言いつのる。「なんでもないんだ。つまり─」
 だが、それを最後まで聞いてはいられなかった。
 突然車のエンジン音が大きく聞こえた。紺色のアウディが広場に突っ込んできた。
 悲鳴が上がった。アウディは真っ直ぐに向かってくる。
 「長官!」神宮寺の目が鷲尾を捉える。彼は他の支部長達と階段を下り切ったところだった。手前には女の子に囲まれたジョーがいる。「ジョー!」
 「鷲尾さん!」
 ジョーは女の子達を車とは反対の方へ押しやり、鷲尾と向かってくる車との間に体を入れた。鷲尾を突き飛ばしアウディに目を向けた。
 (え?)アウディを運転している30代の男と目が合う。彼は真っ直ぐにジョーだけを見ていた。(・・おれ?)
 ジョーが一瞬立ち竦む。が、右腕を強く引っ張られ横転した。アウディは彼の体を掠め、階段の手前でスピンして止まった。
 「ボウッとするな!」
 勢い付き、ジョーと一緒に転がった神宮寺が彼を引き起こす。
 砂と埃が舞う中、立ち上がったジョーがアウディからフラフラと降りてくる男を見た。
 もちろん見知らぬ男だった。

 「市内に?これからか?」神宮寺の問いにジョーが頷く。時計は20時半をさしていた。ディナーが終わったばかりだ。「確かにこれからローマに降りる乗客もいるが─」
 「ほんの2、3時間だ。0時の出港までには戻ってくるよ」ジョーはジャケットを手にした。「ローマを1人で歩いてみたいんだ。その間、鷲尾さんを頼む」
 「・・・・・」神宮寺はしばし考えていた。
 ローマの夜を味わいたい乗客のために、今日の出港は夜中の0時になっている。
 初めてイタリアの地に降りて、ジョーが1人この地を歩いてみたいというのはわかる。が、本当にそれだけだろうか─。
 しかし結局彼は頷くしかなかった。
 「ローマの夜は治安が悪いぞ。気をつけろよ」
 「それはおれを襲おうなんて考えてる奴に言ってくれ」
 本部から借りたブローニングをクローゼットの中の金庫に仕舞う。金のブレスレットも同様に放り込んだ。金のタグネックレスはどうしようかと迷ったが、そのまま彼の胸に残した。
 「じゃあ、行ってくる」
 ジョーを見送ると神宮寺はリンクのトレース機能をオンにした。ジョーのコードナンバーを打ち込むと彼のクレドールの位置が表示された。ホッと息をつきオフにする。
 だがどうも気になる。
 昼間のスペイン広場での出来事。警察は単なる運転ミスによる事故だと言っていた。確かにあの車は鷲尾達を目標にしていなかったように見えた。いやあの車が向かって行ったのは・・・ジョー?
 「まさか、なあ」
 神宮寺は頭を振って自分の考えを否定した。しかし彼にはそう見えたし、運転していた男を見つめていたジョーの目にも同様の疑惑が浮かんでいた。それにフォーリオの言っていた事も気になる。
 「まさかあいつ、囮になるつもりでは─」
 不可解な事があると気になるのは神宮寺も同じだ。自ら囮になり、物事を解明しようとしてもおかしくはない。まあ、大方ジョー1人でも対応できると思うが・・・。
 そう考えたものの、神宮寺の不安は消えなかった。
 そして、彼のカンは当たっていた。
 ジョーは1人ローマの街を歩く。観光や女性と遊ぶつもりはない。街角に立つ何人もの女性に声を掛けられた。多くは?専門家?だったが、中には他から来た観光客も混じっていた。
 陽気で親切なイタリア男に比べ、ジョーはどう見てもやさしそうには見えない。が、それがかえって新鮮に見えるのか、しきりに声を掛けてくる。
 2回ほど、怖い顔をしたお兄さんが“Signore”とにこやかに言いながらナイフを出してきたり、“Mani in aleo(手を上げろ)”と近づいてきたりしたが、皆ディナーの後の運動にさせてもらった。
 昼間見て歩いた街だが、ただ付いて行っただけのせいか、ジョーは今どこを歩いているのかわからなかった。ただなるべく人の少ない、暗い道へと入っていく。
 冬とはいえ観光地のローマでは人がいない所などないのだが、大きな建物の裏に薄暗くゴチャゴチャした町並みが広がっている所もある。彼はそちらに足を向けた。
 船内での視線とスペイン広場での出来事を結ぶものはない。もしかしたら全然関係ないのかもしれない。だがジョーは自分のカンのままに行動する。今までのように─。
 突然、背中に殺気を感じた。ザワッと身震いしたくなる感覚が全身を包む。と、同時に複数のバイクの音が響いてきた。こちらに向かってくるのがわかる。
 「今度はバイクかよ」
 ジョーは一瞬躊躇った。今、彼がいる所は車が2台やっと擦れ違えるくらいの狭い道だ。周りは高い建物に囲まれている。こんな所でバイク相手に─と思っているうちに、いくつかのヘッドライトが見えた。真っ直ぐにこちらに向かってくる。
 「早いな」
 ジョーは舌を打ち、とりあえず反対方向に走り出した。が、バイクが追いついてくるのが思ったより早い。こんな狭い道で何キロ出しているんだ!と、また舌を打った。
 1台がジョーの横を走り抜けた。そちらに気をとられる。と、もう1台は後ろから突っ込んできた。スレスレに避ける。
 先に行った2台のバイクはすぐにUターンして戻ってきた。さらに後方から1台のバイクが向かってくる。
 「挟み撃ちか」
 この狭い道では避けきれない。
 ジョーは後方から迫る1台のバイクに向かって走った。ギリギリまで近づき、跳んだ。ライダーの頭を跳び箱のように手をつき飛び越したのだ。バイクはそのまま正面からくる2台のバイクのうちの1台とぶつかり転がった。車体の一部が壊れて飛んでくる。その1つが足に当たった。
 「わっ!」
 掬われ、地面に転がった。そこへもう1台のバイクが突っ込んできた。体を捻るが間に合わない。前輪が肩を跳ねた。勢いで2mほどすっ飛ぶ。が、バイクがUターンして戻ってくるまでになんとか立ち上がり反対方向に走った。
 「つっ・・・う」
 跳ねられた左腕が言う事を聞かない。後ろからバイクのエンジン音が追ってくる。
 ジョーはなるべく細い道に入っていった。もう本当にどこを走っているのかわからない。
 さらに細い路地に入り、ハッと足を止めた。行き止まりだ。ギリギリだがバイクが入ってこられる幅はある。
 左腕を押さえジョーはゆっくりと振り返った。バイクが入ってきた。無謀にも突っ込んでくる。迷っているひまはなかった。
 ジョーは跳び上がり、右手を塀の上に引っ掛けた。だが体重を支えきれずすぐに落下した。落ちたのはライダーの上だった。
 バイクは2人の男を乗せたまま塀に激突した。

 リンクが振動した。ジョーかと思ったが鷲尾だった。通信機をオンにする。
 『ジョージはどこにいる』前置きもなく、鷲尾が言った。
 「市内に出掛けていますが─」
 『なんだって』鷲尾の声が途切れた。そばにいる誰かと話しているようだ。『連絡が取れないんだ。神宮寺君、ジョージを捜して保護してくれ』
 「保護?」あのジョーを?いったい何から保護しろというのか。だが長官の命令だ。「わかりました」
 答えて、通信機にジョーのコードを打ち込む。
「ジョー、答えてくれ」返事はない。しかしクレドールの通信がオフになっているわけでもなさそうだ。「ジョー」
 再び呼ぶが、だめだ。
 通信機がオンになっているのに応答がないのは、ジョーが無視しているか、もしくは出られない状態にあるのか─。だがオンになっていればトレースはできる。
 神宮寺はジャケットを掴み部屋を出た。


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