コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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紺碧の海と風と 完

 シチリア州シチリア。
 花が咲き乱れ、オレンジなどの果樹が実り美しい海に囲まれた島。
 歴史の中で幾多の民族の支配を受け、“地中海の十字路”と呼ばれるほどいくつもの文化が入り混じっている。
 今は冬なのでさすがにオリーブやブーゲンビリエなどの花々はないが、それでも太陽は輝き海はその藍さを競っている。
 ラヴェンナ号はパレルモの港に入っていた。市街から30キロの所にファルコーネ・ボルセッリーノ・ブンタ・ライジ空港がある。その一角にグランディーテ家の自家用機が待っていた。6人乗りだが中はゆったりとした豪華な造りだった。
 ジョーは窓から眼下に広がる海を見ていた。
 なぜ来てしまったんだろう、と思う。ロレンツォの申し出はきっぱりと断った。もう彼らに用はないはずなのに。記憶の薄い母親の住んでいた家を見たかったのか。それとも─。
 そんな事を考えているうちに少し眠ってしまったらしい。心地よい振動と今までの疲れ、そして身近にいる肉親の─決して認めたわけではないけれど─気持ちとは裏腹に感じる安心感とがジョーの心の箍(たが)を少し緩めてしまったのか─。
 「ジョージ、もうすぐ着陸するよ」
 トーニの声にハッと目を開け眼下を見る。とたんに藍い─まさに紺碧の海が目に飛び込んできた。
 日本の海とは根本的に違う青・・・藍。
 船から見た海も、先日行って来たハンブルクの海も青かったが、ここタオルミーナの海はまさしくウルトラマリンの藍さだった。
 「美しい海だろう」驚き、目を瞠るジョーに満足してロレンツォが言った。「カテリーナの愛した海だ。太陽の光が海に当たり、青く輝く。その光を受けて輝くカテリーナの瞳はとても美しかった。今のお前と同じ輝きだよ、ヴィットーリオ」
 ジョーが怪訝そうに老人を見る。
 「そう、私の与えた名前だ。ヴィットーリオ・グランディーテ。私の父と同じ名前だ。お前の名だよ」
 ロレンツォがジョーの手の上に自分の手を重ねた。ジョーはその手を振り払う事はできない。
 やがて機は高台に建つ別荘の広大な前庭に着陸した。
 別荘から5、6人の男女が出てきて3人を迎える。イタリア語なのでわからないが、その言葉の端々に?ヴィットーリオ?という音が聞こえジョーの心を乱した。
 「2階の、カテリーナが使っていた部屋でお茶にしよう」
 ロレンツォが先に立って案内した。
 別荘とはいえ、ジョーが今まで暮らしてきた家よりは遥かに大きかった。
 入り口のホールの正面には大きな階段がある。2階へ登りきった正面の壁を見てジョーは足を止めた。そこには1枚の大きな絵が掛かっていた。くり色の髪にブルーグレイの瞳の少女─。
 「マンマ・・・」
 それはジョーの母、カテリーナの若い頃の姿だった。
 何かの記念に描かれたのか、少女はピンクのフワッとしたドレスを着ていた。大人っぽく斜めに体を向けポーズをとっているが、その表情はまだあどけない。今のジョーより若いかもしれない。
 「カテリーナは聡明な娘だった。おとなしいが芯が強く、自分が決めた事は最後まで貫き通す強さがあった。ジュゼッペと出会い、私らの反対を押し切ってこのシチリアを、グランディーテ家を捨ててしまえるほどに─」
 ロレンツォはジョーと共に絵を見上げた。その横顔に船で見た強気の老人の表情はなかった。この人は母を愛してくれていたのだとジョーは思った。
 カテリーナが使っていた部屋は普段が閉めきられているが、今日はこの部屋でお茶を飲み昼食も摂った。金色の縁取りが成された白い壁には多くの絵画が掛けられ、アンティーク家具が置かれていた。ガラスケースには人形やぬいぐるみが入れられている。
 驚いた事にカテリーナが使っていた頃と室内はほとんど変わっていないという。
 給仕をしてくれる者達がニコニコとジョーに話しかける。トーニが通訳してくれたが、どうやら彼らはジョーの事を?ヴィットーリオ?と呼んでいるのを知り、落ちつかない気分になった。
 「そうだ、ヴィットーリオ。お前に見せたいものがあるんだ」ロレンツォが立ち上がり部屋を出て行こうとする。が、ジョーは座ったままだ。「どうした?一緒に来てくれ」
 「おれは─ヴィットーリオじゃない」
 ジョーが言う。ロレンツォは一瞬目を眇めたが、
 「まあ、いい─。ジョージ、こっちだ」
 ロレンツォが踵を返す。ジョーとトーニが続いた。
 3人が向かったのは別荘の裏庭だった。やたらに横に長い建物がある。
 「トーニ」
 ロレンツォが促すと彼は小さなドアを開けて中に入った。シャッターが上がる。どうやら車庫のようだ。と、ジョーの耳にエキゾート・ノートが飛び込んできた。目の前に、シルバーに輝く車体がスーと走り出てきた。フェラーリF430スパイダーのオープンカーだ。
 「どうかな。お前は車が好きだとワシオが言っていたのでな。トーニに話したらこれがいいんじゃないかと言うので─。気に入ったか?」
 (・・・・・)
 ジョーは目の前のフェラーリを見つめた。もちろん憧れの車の一台で、ランボルギーニ同様早々手に入るものではない。ジョーにとっては高嶺の花である。それをおれのためにわざわざ─。
 ジョーはどう答えていいのかわからなかった。
 それに─なんだろう・・・。憧れの車を目の前にしているのに、心がときめかない。ソーで鷲尾からディアブロを見せられた時のような喜びを感じない。フェラーリが気に入らない、なんて事はない。なのにおれはなぜ喜ばないんだ・・・。
 ジョーはふと海に目をやった。紺碧のタオルミーナの海。この藍さに驚いたが、しかしそれはいつか懐かしさに変わっていた。ここへ来るのは初めてだというのに─。
 もしかしたら、今この海を見ているのは自分ではなくカテリーナなのかもしれない。
 だから懐かしさを感じるのか。ここにいる違和感がないのか。だが─。
 (ここは、おれの生きる場所ではない)
 「気に入らないか?」黙ったままのジョーに、ロレンツォが訊いた。「それなら別の車をすぐに─」
 「シニョーレ」ジョーが真っ直ぐにロレンツォを見る。その目には、今まであったトゲトゲしさが消えていた。「おれは日本に帰る。おれはジョージ・アサクラとして生きると誓ったんだ。両親がいなくなった時に、一人になった時に」
 ロレンツォが鋭い視線を向けてきた。だがジョーの目は穏やかなままだ。
 タオルミーナの海の輝きを受けたブルーグレイの瞳。
 カテリーナと同じ、一度決めたら貫き通す意志を持った強い光を放つその瞳でロレンツォを捉える。ロレンツォの瞳もしだいに緩んでいく。
 「元気で、長生きしてくれ」
 ロレンツォが一歩踏み出そうとする。が、
 「Arrivederci!(さようなら)」
 彼に背を向けジョーはしっかりした足取りで進む。その背中には誰も声を掛けられない。
 海が、いや母が見ている。
 ジョージ・アサクラとして生きる事を選んだ息子を、カテリーナが見ている。
 冬なのに心地よい風がジョーを包む。母の、その胸に抱かれているような─。
 「ジョージ!」トーニが追ってきた。「どうしても帰るのか」
 前を向いたままジョーが頷く。
 「・・・そうか」この男を止める事はできないと改めて思った。「送るよ。まさか歩いてパレルモまで行く気じゃないだろ」
 言われてジョーは足を止めた。そういえば、ここはどこなんだ?
 キョトンとした顔を見てトーニが笑った。
 彼は飛行機の操縦もできるという。小型のセスナに2人は乗り込んだ。離陸する。セスナは別荘の上を2回ほど旋回した。ロレンツォはまだ裏庭に立っていた。眩しそうに旋回するセスナを見上げている。
 やがてセスナは別荘を、タオリミーナを後方に、一路パレルモを目指して飛び去った。
 「こんな話を持ち込んで、君にとっては迷惑だったのかな」
 水平飛行に移り、トーニが言った。
 「そんな事はない。ちょっと・・・嬉しかったかな・・」え?、とトーニが見る。「おれはずっと一人だと思っていたんだ。まさかこんなにゾロゾロと親戚が、それもマフィアの身内までいるとは思わなかったぜ」
 ちょっとテレ臭そうにトーニに笑顔を向けた。
 「そうか・・。ま、マフィアはともかくフィレンツェには君のおばあさんもいるよ。またぜひ来てくれ」
 トーニも笑顔を見せる。だがその言葉にジョーは答えなかった。トーニも敢えてこれ以上言わなかった。と、
 「ジョージ、もしかしたら出港ギリギリになるかもしれないぜ。空港から30キロあるし、タクシーを飛ばしても─」
 「トーニ、空港じゃなくて港に向かってくれ。ラヴェンナ号の上空に。─神宮寺」ジョーが通信機をオンにした。相手が応答する前に、「スポーツデッキから乗客を退かしてくれ。今から降りる」
 『なんだって?何が降りるって?』
 「おれが降りるのさ。急いでくれ、もう港が見えてきた」
 まだ何か言っている神宮寺を無視し通信機を切る。時計を見ると出港30分前だった。
 「ジョージ、まさかデッキに飛び降りるつもりじゃ─」
 「大丈夫だ、トーニ」ニッと口元を歪める。「これがおれの生きてきた道さ」
 目の前にラヴェンナ号の巨大な船体が見えてきた。神宮寺の適切な・・・あるいは無茶な事ばかり考える相棒に対する免疫による処置のおかげか、スポーツデッキに人影はない。
 「ドアを開けるぜ。失速しないでくれよ」
 「待て、ジョージ!」トーニが叫んだ。「忘れていたよ」
 シャツのポケットから金色に光る物を取り出した。失くしたはずのジョーのタグネックレスだった。
 「どうしてこれを君が!?」
 「バイクの連中が現場で見つけたんだ。何かの役に立つかもって、おれに寄越したんだけど・・・。すっかり忘れていた。すまん、ジョージ」
 「・・・・・」
 ジョーの指が文字盤をスライドさせた。中には古い写真が収められている。幼いジョーを囲む両親の姿が─。文字盤をカチッと元に戻し握りしめる。
 「もう行くよ。じゃあな」
 ペンダントを握ったままドアの手動レバーを引く。押し開けた。
 「Ci vediamo!」トーニが叫ぶ。
?また会おう!?─それだけわかった。
 ジョーの体が空(くう)に舞う。
 デッキまでギリギリに降りていたセスナは一瞬傾き、が、ドアが閉まると共に遥か上空へと戻った。
 ジョーは体を何回か回転させ、足のクッションを利用しスポーツデッキの上に降り立った。上空のセスナを見上げる。
 「そうだな─。また会えたら─」
 「ジョー!」神宮寺と鷲尾が走ってきた。「ジョージ!」
 「す、すみません、長官。間に合わないと思って─」
 ジョーは、激しい形相で走り寄ってきた鷲尾に一瞬たじろいた。鷲尾がジョーの前で止まる。手が伸ばされジョーが体をすくめた。が、その手はジョーの頬にソッと触れた。
 鷲尾の黒い瞳がジョーを見つめる。ジョーが途惑ったように鷲尾を見た。と、頬に触れていた手が彼の髪を掻きあげ頭の後ろにまわり、そのまま鷲尾の胸に抱き寄せられた。
 「・・・すまなかった」
 鷲尾が小さく呟く。ジョーはかすかに口元を綻ばせると小さく首を振った。鷲尾の暖かさや匂いは昔と変わらない。落ち着ける。と、
 「長官」神宮寺が声を掛けた。「船長が─」
 「あ、これはいかん」
 低空歩行してきたセスナから船上へ飛び降りたのだ。船長が事情を訊きにきたのだろう。
 鷲尾はあわてて説明に向かう。
 「お前の無茶は長官も巻き込むなあ」呆れたように言う神宮寺に、ジョーはフンッと鼻を鳴らして返した。「でも、よく帰ってきてくれたよ。出港時間が近づくにつれて、長官なんかイライラウロウロしてたぜ」
 「お前は心配してなかったのか?」
 「ん?、もしかしたらこのままイタリアに残るかもしれないと思ったよ」にこやかに神宮寺が言う。「なんせお前には多額の借金があるからな。それを─」
 「あー!」突然ジョーが声を上げた。「しまった!フェラーリ貰って売っぱらえば、ディアブロの借金なんてすぐ返せたのに─!」
 「・・・・・」
 “借金返してもこづかいくらい残ったかもしれない?”と叫ぶジョーを神宮寺が怪しげに見ている。カンの良い彼の事だ。何があったのか想像はできる。と、シャーンとドラの音が響いた。ラヴェンナ号が出港したのだ。
 「で、神宮寺。この船今度はどこに行くんだ?」
 「サルデーニャ島やコルス島をグルリと回ってマルセイユに戻るらしいぜ」
 「えー?おれ達途中で日本に飛ぶんじゃなかったのか!?」
 「─あ」
 「またマルセウユに戻るって?!?」
 謀られた!と2人は思った。が、船はもう出港してしまった。ここからマルセイユまではノンストップだ。
 「くそォ。こうなったらこの船を乗っ取って、どこか空港のある町につけてやる!」
 ジョーが走り出した。
 あいつなら本当にやるかもしれないなあ、とのんびり思い、神宮寺も後に続く。
 ふと目を向けた水平線では、太陽が藍い海に隠れようとしていた。

                                          完  


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Comment

淳 says... "覚書き"
グランディーテのシチリアの別荘をタオルミーナという綺麗な海のそばにした。が、改めてガイドブックを見てびっくりした!
なんと「ホテル・コンドール」「サンタ・カテリーナ」という教会がある。書くまで全然気がつかなかった。

書き終わるのは明日くらいかな・・と思っていたクルーズ編だが、ふと気がつくと残りページがわずか!

で、結局その日の内に仕上がってしまい翌日ボ~としてしまう。なんか気が抜けた。つまらない。
このクルーズ編ももう10ページほどほしかったな。別荘での事ももう少し書きたかった。

さて2人はまたマルセイユに戻ってしまったがそろそろ日本に帰そうかな。早くもジョーは再伊するような・・・マフィア関係の話がチラッと頭に浮かんでいるし。

そういえば先日のドラマでトラックがやばい荷物を運ぶ、話をやっていたけど・・・。
日本での仕事をそーいうのにしようかな、と思っていたのでびっくりした。
セリカじゃなくてトラックっていうのもいいかも。
2011.05.23 16:41 | URL | #vDtZmC8A [edit]

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