コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

It's my life 2

 「だめだ。ジョーの奴まだ通信機を切ったままだ」
 洸は何度目かのため息をついた。
 彼はまだ大谷PAにいた。
 JBに連絡を取り、事の次第を説明すると返ってきた言葉はただ一つ、“ジョーと合流せよ”だった。もちろんそうしたいが、肝心のジョーがどこにいるのかわからないのだからどうしようもない。
 あれからすでに1時間半が経とうとしている。と、洸のGショックが鳴った。ジョーのコ?ルナンバーが文字盤に映し出される。
 「ジョー!今どこにいるの!?」
 『福島県の鏡石PAだ。カージャックに遭っちまった』
 「それって、仕事の相手?」
 『いや本当のカージャックだ。もう降りてどこかへ行っちまった』
 「なんだ、それ・・??」いつもと違う展開に洸も途惑う。「とにかく合流しろという命令だけど、鏡石か、遠いな。ジョー、迎えに来てよ」
 『お前が来ればいいだろ。ヒッチハイクでもして』
 「ジョーダン言ってる場合じゃないぜ。早く来いよ」
 『へいへい』
 自動車道でヒッチハイクはムリだろうと、さすがのジョーも考えたようだ。
 さらに1時間後、ジョーの運転する5トン車が大谷PAに到着した。
 ジョーは車を降りて洸を捜す。洸は小さなキッサ店にいた。窓側に座り手を振っている。
 「ごくろーさん。早かったね」
 「100キロで飛ばしてきた」
 疲れた顔で座り込んだ。帽子を取ると枯葉色の髪が現れた。前髪を掻きあげる。
 「コーヒー飲ませてくれ。あとは─」メニューを手に取り店員に注文した。「お前はいいのか?」
 「コーヒーだけで充分。なんせ君の分のホットドックやバンバーガーを食べちゃったんだから」
 「ここは、いいのかな」
 確かめ、たばこを取り出し火をつける。最近はキッサ店でも禁煙の店がある。
 普段はあまりたばこを吸わないので気にならないが、さすがに慣れない大型車を200キロも余計に走らせて疲れているようだ。テーブルに肘をつきアゴを乗せてボーと外に目を向けている。その横を紫煙がたゆたう。
 (こういう時のジョーって恐ろしいほど絵になるよな)
 いつもはブルーグレイに見える瞳も、今は光の具合かもっと濃い碧(あお)に見えた。紺碧の海のような─。
 (綺麗な碧だなァ。くやしーけど、この瞳には敵わないかも)
 「なにボーとしてんだ」ふと見ると、ジョーが怪訝そうな目で洸を見ていた。「結構いい男なのにそうやってボーとしてるからもてねえんだよ、洸」
 アハハハ・・・と笑うジョーに、“その言葉、そっくり返してやりたい。いいのは瞳だけだ!”と、洸は思った。
 「で、その後チーフから何か言ってきたか?」
 「何もないよ。車が行っちゃった時、?これか!?と思ったんだけど」
 「どうもハッキリしねえな」サンドイッチをパクつきジョーが言う。「なんだか動いているのはおれ達だけじゃないような気がする。もっと─」
 「─ジョー」
 「わかってる」小さく答え瞳をトラックに向けた。2人は大型車の周りをウロウロしている男達の影を捉えていた。 「囮に引っかかったお魚ちゃんかな」
 「釣っても食べたくないね」
 「だけど何か仕掛けられると面倒だ。行くぞ」
 テーブルに1000円札を置いて店外に飛び出した。が、その時にはすでに人影はなかった。
 「何も仕掛けられていないようだよ」
 フロアを覗き込んでいた洸が言った。ブレーキオイルを抜かれているという事も、配線を切られている事もないようだ。
 「フン」何か気に入らないように鼻を鳴らすとジョーは運転席に乗り込んだ。「とにかく北へ向かおう」
 エンジンを掛けた。

 『そちらに接触はあったかね』
 神宮寺のリンクから森の声が響く。
 「いえ、おれの方には」助手席の神宮寺が答えた。さっきまで5トン車を運転していたが、今は樋口に替わっている。「一平かジョー、もしくは西崎の方ですかね」
 『いや、一平や西崎、立花達にも連絡はないそうだ』“じゃあ、ジョーの方かな”と呟く神宮寺に、『実はジョーと洸との連絡が取れなくなっている。通信機のノイズがひどくて繋がらない。1時間ほど前までは洸と話せたんだが』
 「東北自動車道は、ジョーと立花達の2台でしたね」
 『立花と高浜はもうすぐ山形に入るそうだが、ジョーの車は見ていないそうだ』
 「・・・いやな予感がするな・・・」神宮寺の呟きに、ステアリングを握っていた樋口はギョッとして思わず手を離しそうになった。「チーフ、おれ達東京に戻ります。中央道は白鳥達に任せましょう」
 “わかった”とチーフが答えた。

 「変だなあ」ジョーが呟く。
 「変なのは最初っからだよ。はっきりと任務の内容を言わない事はあるけど─」
 「違う。変なのは車だ」“へ?”と洸がジョーを見た。「ステアリングが妙に重い、というか、言う事をきかないんだ。勝手に動こうとする」
 「ま、まさかあ。ステアリングを操っているのはジョーだよ」
 「だからわかるんだよ。─うわっ!」突然スピードが上がった。走行車線から追い越し車線へと入っていく。「な、なんでこいつ勝手に─!」
 ジョーはステアリングを左に切ろうとしたがまるで固定されたように動かない。ブロフィアは追い越し車線に入り120キロのスピードで走っていく。幸い交通量が少ないので今のところ大丈夫だが、いつまでもこのスピードで走っているわけにはいかない。
 「ど、どうなってるの、ジョー!?」
 「わからねえ!─おっ」
 急にステアリングが言う事をきくようになった。ブレーキを踏み少しづつ速度を落としていく。
 走行車線に戻った。
 「な、なんだよ、こいつ。ナイトライダーか」
 かなり前のアメリカのドラマだ。コンピュータを搭載したスポーツカーがまるで人間のように話し、主人公を助けて悪に挑むストーリーで立花のお薦めである。
 「いや、トラックは悪役だったなあ」
 「そんな事よりジョー、どこかに停めて調べた方がいいぜ」
 「そうだな─わっ、また!」ブロフィアはジョーの運転を無視して走り始めた。
 前方に那須ICが見えた。勝手にウインカーを出した。
 「おい!おれ達は降りないぜ!」
 ブレーキも効かない。
 この車にはETCが付いているので料金所のガードは開いてくれた。もし付いていなかったら激突か突破するしかなかった。どちらにしても面倒な事になっただろう。
 「ここどこ?どこまで行くんだ?」
 「知るかっ。こいつに訊いてくれ」
 ジョーがステアリングを叩く。手を放しても大丈夫だ。
 やがて車は山道に入った。2人は知らないが、那須山嶺道路である。
 実は、少し前からジョーはおかしな事に気がついていた。ブロフィアの前後に20mほど間を開けカローラが2台、ピッタリくっついてくる。確か東北自動車道の時も前後にいたような─。
 「ライフルの奴らか・・?」
 カージャック犯の男を追っていたのもカローラだった。男が降りた事を知らないのか?そんなわけないのだが─。
 だがいつまでもわけのわからない奴らの思い通りに走らされておもしろいはずがない。ジョーがキレた。
 「洸!いくぜ!」
 「ど、どこへ!?ひゃあ!」
 ブロフィアがスライドし始めた。完全に運転を支配されているのではないようだ。後部を大きく振り、後ろのカローラを叩いた。カローラは反対車線に飛ばされ大破した。
 「ジョー、まずいよ。おれ達囮だし」
 「もう飽きた!」
 そういう問題ではない。しかしキレたジョーをさすがの洸も止める事はできない。車はスピードを上げ前方のカローラに追いつこうとする。が
 「くそォ!」ジョーがステアリングをバンッ!と叩いた。「またロックされた!」
 「ジョー!前!」洸が叫んだ。
 カーブだ。しかしステアリングはロックされ動かない。真っ直ぐガードレールに向かって突っ込んでいく。ドアもロックされていた。
 「やべェ」
 ジョーがブレーキを踏む。だめだ。ガードレールの向こうは広い空間だ。ライトから外れた闇が2人の目の前に広がる。
 衝撃がきた。いつでも飛び降りられるようにとシートベルトをしていなかった。ステアリングやダッシュボードに体を叩きつけられた。
 巨大な5トン車がガードレールを破り暗闇へと落下していった。

 「ジョー、応答しろ。ジョー、洸」八王子ICの標識を目に入れ、神宮寺が呼び続けている。「だめだ、通じない。電波状態が悪いというより何かに邪魔されているようだが・・・。樋口、都心に入らず八王子で降りて東北自動車道に向かおう」
 「了解」
 樋口がウインカーを出した。

 腹に衝撃を受けた。ジョーは呻き、ゆっくりと目を開ける。人影が見えた。
 「Tag George。Wie gehts?(やあ、ジョージ。元気か?)」
 「・・・ア」ジョーが目を眇め、影を見る。「アンリ・・?」
 「よく覚えていたな」
 影─アンリがニヤリと口元を歪めた。2ヶ月前のあの事件、武器密輸組織の一人でクロードの仲間だったアンリだ。
 「きさま・・・あの時捕まったんじゃないのか」
 「ハンス達とは別行動で日本に残ったんだ。おかげでランス送りにならずに済んだ」
 アンリの後ろには3、4人の男達がいた。
 逃げた奴がいたなんてジョーは知らなかった。もっともその頃のジョーは、事件の後始末どころか自分の存在そのものを放棄していた。そんな彼に誰も事件の話しなどできない。
 「クロードは死んだそうだな」ジョーがビクッと震える。「お前達が追い詰めて殺したんだろ」
 「──」
 一瞬目の前が真っ白になった。
 ─冷たい海─庇われたクロードの胸の暖かさ─耳元にささやかれた言葉─
 ─Ich liebe kleiner  George─
 「あ・・・」
 「ジョー」
 呼ばれて我れに返った。自分の横に洸がいると今気がついた。
 「しかし驚いたぜ。おれ達が追っていたトラック野郎がまさか君とはね。国際警察をやめてトラック運転手になったのか?」
 アンリがニヤニヤ笑いながらからかう。彼が今回の任務の相手なのだろうか。またテロリストが、ザーツが関係しているというのか─ジョーには判断ができない。
 「ま、いいけどな。ところで奴から何か受け取っていないか?お前が受け取り役だろ?どこにある?」
 「は?」
 わけがわからず、アンリの顔をみつめてしまった。
 「奴がお前と接触した事はわかっている。奴はもう捕らえたが何も持っていなかった」
 「・・・・・」
 もしかして、カージャックのあの男か?じゃあ、追っていたのはこいつら?
 「大事なデータなんだ。これで完成する。どこだ?」
 「おれは何も受け取っていない」
 「今さらそんなウソが通用すると思っているのか!」
 アンリがジョーの胸倉を掴んで引き立てた。やめろ!と洸が手を出した。が、他の男に殴られ転がった。
 「本当だ。鏡石PAまで乗せただけだ」
 とたんに頬を殴られた。洸の所まですっ飛ぶ。床からアンリを睨んだが手を出してよいか迷った。
 それが弱気に見えたのか、アンリの後ろにいた男達が口々に何か言いながらジョーを蹴った。慣れてはいたが、背中の銃創跡を蹴られた時はさすがに息が詰まった。
 「やめろ!」
 洸が男達に掴みかかった。が、2人掛かりで引き離された。洸の細い体を押さえつけ、男達が鉄拳を見舞う。
 「やめろ!そいつはあの男に会っていない!」
 「だから君に訊いているんだ、ジョージ」アンリが言う。しかしいくら言われてもジョーには何も答える事はできない。「相変わらず強情な奴だなあ。─おい」
 アンリが合図をすると、残った男達がジョーを床にうつ伏せに押し付けた。その横にアンリがしゃがみポケットから小さな注射器を出してジョーの目の前にかざす。
 「自白剤だ。かなり強力らしい。まだ実験段階だからよくわからんが」
 「──」
 ジョーは伸し掛かっている男を跳ね飛ばそうとしたが、それより早く腕を取られて思いっきり後ろに曲げられた。
 「あうっ!」
 作業服の袖が捲られていくのがわかる。それでも暴れてやる。頭を床に押し付けられた。洸が自分の名を呼んでいる。
 ふいに左腕に鋭い痛みが走った。思いっきり振り回してやる。
 誰かにヒットしたらしい。一瞬体を抑えている力が弱くなった。立ち上がる─が、そこまでだった。
 「!?」
 突然、視界がブラックアウトした。自分が今どこを向いているのか、立っているのかさえわからない。と、視界が戻ってきた。床に転がっていた。起き上がろうともがいたが、腕がガクガクと動いただけだ。
 体が重い。息の継ぎ方がわからない。誰かが自分の名を呼んでいる。その声が頭の中に響きわたる。
 「話す気になったかい?」アンリがジョーのアゴを掴み、自分の方に向かせた。ジョーは小さく首を振る。「お前はあの男から何かを受け取った。どこに隠した?」
 「・・・なにも・・ない・・・」
 たったこれだけ言うのに、心臓が爆発しそうに苦しい。
 「そんな事はない。さあ思い出せ。お前の知ってる事を言ってみろ」
 「・・・・・」
 知ってる事?何だ・・。あの男に関して、知ってる事なんて、ない・・・。
 「仕方ねえ。もう1本打ってみるか」
 「アンリ、あんまりやるとヤバイってドクターが言ってたぜ」
 「こいつは仕事柄こーいう事には強いんだろうよ。あの時も3日も何の食わずに拘束されてもピンピンして逃げ出しやがった。大丈夫さ」
 アンリは再びジョーの腕に注射針をさした。動くつもりはなかったのに体が跳ねた。アンリに殴り掛かろうとするが男達に抑えられる。
 「みろ、大したものだ。こんなになってもまだ抵抗する。クロードの言ってた通り、一筋縄ではいかないらしいな」
 「ク・・クロード・・」
 彼の事なら知っている。そういえば彼はどこへ・・・。
 「クロードじゃねえ!奴から受け取った物はどこにある!知ってるんだろ!」
 「──」
 アンリの声が響く。ジョーの意識が混乱する。重く激しいうねりが全身を這い回っている。頭の中で誰かが命令する。言ってしまえ。お前の知っている事をすべて言ってしまえ─。強く圧迫してくる。
 「・・にん・・北上しろ・・」
 「ジョー!」洸が叫んだ。ジョーが何を言おうとしているのか気がついたのだ。「しっかりしろ、ジョー!何も言うな!」
 「あき・・・」ジョーは、自分が国際警察に関する事を言おうとしているのに気がついた。が、「東北・・・北上して・・・」
 ああ、だめだ。おれ達の任務だ。
 「・・ジェイ・・ビィに・・・」こんな奴らに国際警察の事を洩らすわけにはいかない─。わかっているが、口が勝手に動いていく。「国際・・・指令で・・」
 だめだ、このままでは!─ジョーは決断した。
 「だめだ、ジョー!早まるな!」
 洸が気がつき、男達を蹴散らして床に仰向けになっているジョーの体の上に伸し掛かった。左手でアゴを掴み強引に口を割ると、右手をその中突っ込んだ。
 「つっ!」
 洸が呻き、ジョーの喉が鳴った。一瞬目が合った。
 ブルーグレイの瞳が自分を捕らえているのがわかった。が、すぐに閉じられた。
 ジョーの全身から力が抜け、その上に洸が倒れ込んだ。


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