コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

It's my life 1

 神宮前1丁目の明治通りを1台の真っ赤なセリカSS─?が渋谷に向かって走っている。
 運転しているのは、おととい日本に帰国したばかりのジョーだ。今日は2ヶ月ぶりにJBに?出勤?する。
 首都高速の下を抜け右折すると、やがてまだ新しい国際秘密警察日本支部の建物が見えてきた。
 敷地に入る前に登録されている車両かどうかのチェックを受ける。このセリカでJBに来るのは初めてだ。登録は昨日済ませている。
 次に管理課のサーバと直結しているPCナビに自分のコードナンバーを打ち込む。確認できれば入り口が開くのだが、この時ジョーは一瞬、自分がまだ登録されているだろうかと思った。もし抹消されていたら─。
 しかし彼の不安とは裏腹に、入り口は今までと変わりなくスッと開いた。ジョーはホッとしてセリカを乗り入れる。そのまま地下駐車場の今まで彼が使っていたスペースへと停めた。エレベータに近いそのスペースは空いているにも関わらず、他の車は停められていなかった。
 ジョーは車を降りエレベータに向かう。と、そのドアが開いた。
 「ジョー!ジョーじゃないか!」エレベータから降りてきたのは捜査課のメンバーだ。「久しぶりだな」「なんか背が伸びたみたいだな」
 「─ああ」ジョーはちょっと気恥ずかしげに答える。と、「西崎」
 1番後ろでジョーを見つめている西崎に気がついた。一瞬、言葉に詰まる。
 「久しぶりだな、ジョー」静かに、西崎が言った。「戻ってきてくれて嬉しいよ」
 「西崎・・・おれ・・・」言いたい事はあるのに口籠もる。「─ケガはもういいのか」
 「あんなのケガのうちに入らないさ。2週間で退院したぜ」
 「あの時は、その・・すまなかった・・・」
 「なに言ってるんだ。君のせいじゃない。おれの力不足さ」ジョーの肩をポンッと叩く。「なんだよ、その顔。君らしくないぜ。向こうで丸くなっちまったのかい?そんなの君じゃない。Sメンバー・ジョージ・アサクラは不敵で鋭い奴じゃなければ」
 その言葉にジョーはかすかに口元を歪ませた。
 「色々言う奴もいるかもしれないけど、少なくともおれや立花は君が戻ってくるのを待ってたんだぜ」
 「おれもそうさ」「戻ってくると信じてたぜ」
 他のメンバーも口を揃える。その言葉にジョーは彼らに目を向けかすかに微笑んだ。
 「そうだ。あっちでの事、聞いているよ。色々あって大変だったみたいだな」
 「え?」ザーツや反ユーロの事件の事だろうか。「まあな」
 「だが、ジョー、気を落とすなよ。一生懸命働けばなんとかなるものさ。おれでよければいつでも力になるぜ。がんばれよ─。あ、いかん。もう行かないと」
 「・・・・・」
 “じゃあな”と言う西崎。
 “しっかりな”“今度昼メシでも奢るぜ”と口々に言い、出動して行ったメンバーをジョーは無言で見送った。
 なんだろう、今のは?
 確かにあっちでは大変だったし、がんばれ、というのもわかる。しかし何か変だ。皆の目が同情心に満ちていた事も引っかかる。が、とりあえず上がろうとエレベータに乗り込んだ。そのとたん固まる。
 目の前の壁には巨大な、そして多色を駆使した華々しいポスターがドンッ!と張ってあった。それには、
 『ジョージ・アサクラに愛の手を!』という表題と共に、『借金作って当分ただ働き』だの『カンパ募集!お金のない人は体で奉仕もOKよ♪』などと書かれている。
 こんな事をするのは─
 「あの野郎?!」
 バリッ!とポスターをひっちゃぶいて、ジョーは6階のボタンをぶっ叩いた。

 4日間のクルーズの後、結局彼らはパリに戻り翌日シャルル・ドゴール空港から日本に向かって飛び立った。
 2人が帰る事を知った健は珍しく泣いてダダをこねた。こうなるとジョーや神宮寺はどうしてよいのかわからなく、なだめ役は幸子に任せるしかなかった。
 よく子どもをなだめるのに、“今度の休みには、また来るから”とか、“いい子にしていたら、また遊びにくるよ”と言うものだが、2人はそんな事は口にしなかった。
 もうソーに来るつもりはないのかしら、と後日幸子が鷲尾に言った。と、
 『彼らはあまり先の約束はしないのだよ。いや明日の事でさえも─』
 夫の言葉を聞き幸子はハッとした。
 あまり先の約束をしても、彼らがそれを守れるかどうかわからない。急に仕事が入る事もあれば、その日にはもうすでにこの世にいないかもしれない・・・。だから特に親しい相手とは先の約束はしないのだという。
 そういう世界にあの愛すべき若者達は戻っていったのだと、そして今は現場に出る事もないが、そういう世界に夫もまたいたのだと幸子は改めて思った。
 帰国した翌日、神宮寺は報告のためJBに出勤した。森や佐々木、JB2の2人、そして各課長にEUであった事を報告した。ジョーは明日からJBに出てくるという。また以前のJBに戻ると皆喜んでいた。─が、戻りすぎというか─、ジョー再出勤の初日から6階は大騒ぎになった。
 ジョーはエレベータを降りるとJB2の部屋をノックもなしにいきなり開けた。室内にいた一平と洸がギョッとして立ち上がる。そこへ、
 「Hold it!(動くな)」ジョーが凄む。「Was ist das!(これはなんだ)」
 「え?なに?」2人は中途半端に腰を浮かせたまま途惑う。
 「Sie!(お前達)、これはなんだ、と訊いているんだ!」
 「あ、それ?」洸が、目の前に出されたポスターを見た。「だって君、借金が2億円もあって大変だって聞いたから、せめてもの手助けをしたいと思って─」
 「2千万だ!」バラしてどうする。「それにこの?体で奉仕?というのはなんだ!」
 「え?買い物とか掃除とか手伝う事だけど─。えー!?なに、ジョ?!??そっち?の方がいいのー?うわ?、奉仕してくれる奴いるかな?!」
 「Come on!(ふざけるな)」ジョーが洸に飛び掛る。「Was sagen die de!(こいつ、なにを言う!)おれはそんな趣味ねえぜ!」
 「ジョー、言葉混ざってるよ!」
 「っるせー!What about it!(それがどうした)」
 再び洸に掴み掛かるが身の軽さでは天下一品の洸だ。ヒョイヒョイとジョーの手を摺り躱している。
 「あ、神宮寺」一平が、ドアからヒョコンと顔を覗かせている神宮寺を見つけた。「ミスター、なんとかしてよ。部屋が破壊される!」
 「Let it be(放っておけ)」冷たく言い放った。

 「で、なんでぼくがジョーと組んで荷物運びしなきゃならないわけ!?」
 「こっちが訊きてえよ」いつもより大きなステアリングを繰りながら、ジョーが助手席の洸を睨む。「あんな事するからよ、おれと仲がいいと思われたんじゃねーか」
 「・・仲がいい相手をボコボコにするか、ふつー」光は息をつきシートに体を沈めた。
 前方に東北自動車道の浦和ICが見えてきた。ジョーが大きなステアリングを回し乗り入れる。
 今、彼らが乗っているのは日野ブロフィアと呼ばれる5トン車だ。荷台はドライバンの大型車両である。
 JBで大立ち回りをした後、ジョーと洸が受けた指令はブロフィアで東北自動車道を北上せよ、というものだった。行き先も目的も伝えられていない。追って説明するという事だ。
 この事事態珍しくはないが、いつものコンビではないのがちょっと気になる。
 「大型車両もいいな」ジョーの機嫌は直っているようだ。「運転席が高くて」
 「それにしてもジョーが大型免許を持っているとは思わなかった。年齢ギリギリだろ」
 「おれ、持ってねーぜ」
 「えー!それじゃあ無免許!?」
 「いや、なんか期間限定だって情報課で渡された」
 ほれ、とジョーが胸のポケットから平べったいカードを出して洸に見せた。
 「期間限定って・・・、遊園地のフリーチケットじゃあるまいし・・・」
 「そう言うお前は持ってるのかよ」
 「ぼくは取れないよ。普免取って2年以上経たないと取れないんだ」
 「ふうん・・」ジョーは不審気に鼻を鳴らす。免許もない者をなぜ一緒に、おれの相棒にしたのだろう。「で、積荷はなんだ?」
 「ぼく知らないよ。ジョー、見てないの?」
 「おれが来た時には、もう後ろのドアに鍵が掛かっていたしな」大型車はギアまで大きい。ジョーが楽しそうに繰る。「ま、おれ達に運ばせようというんだ。可愛い物じゃない事は確かだな」
 「・・・・・」洸がチラッと後ろを見た。これで荷台を開けたら可愛い人形がズラ?と並んでいた、というのも何だか怖いが。「これって、やっぱ囮かな・・・」
 「囮?おれ達が?」
 「これと同じ車両が後4、5台JBから出たんだぜ。おまけにこんな目立つ奴に運転させてさ。ドラマだったら絶対囮だよ」
?目立つ奴?というのはジョーの事らしい。
 彼らは深緑色の作業着に同色の帽子まで用意している。どこから見ても立派な運送業者だが、ジョーの独特の風貌を隠すには弱い。いや違和感からかえって目立つかもしれない。
 枯葉色の髪もブルーグレイの瞳も、どんな色を持ってきても決してその中に沈み込む事はない。
 「本物は今頃、神宮寺あたりがサッサーと運んでいるだろうさ」
 「ま、それならそれで気がラクだがね」ステアリングを握っているうちは機嫌がいい。赤ちゃんのガラガラだ、と洸は思った。「しかし復帰第1号の仕事にしては地味だな。ここは囮らしくハデにぶっ飛ばしてだな─」
 「囮が自分から囮とバラしてどーするのさ!」せめて片輪走行だけはしないでほしい、と洸は祈った。「こんなでかいので無茶したら一発免停だからね!」
 「元々持ってねえからいいよ?」
 ジョーが悪ガキ顔で言う。ステアリングを握っている時は無敵だ。洸の口にしっかり口で返している。
 やがて車は栃木県に入った。車でこの辺りまで来る事はほとんどない。
 自分達が囮なのか本命なのかはわからいないが、今までは何事もなく過ぎている。この車にはPCナビも通信機も付いていないので、連絡方法は2人それぞれの時計型通信機だけだ。
 パリに行く時置いていったジョーのオメガ・スピードマスターは森が保管していてくれた。彼もまたジョーは必ず戻ると信じていた一人だ。
 「何も仕掛けてこないね」
 「ん・・・」もっともこんな所で仕掛けられても困る。周りは車だらけだ。何かあって大型車が暴れれば、巻き込まれる車は1台や2台では済まない。「他の車の方に行ってんのかな。チェッ、仕事の全容がわからないから何していいのかさっぱりだぜ」
 とにかく今は命令どおり北上するしかない。もうすぐ宇都宮だ。
 「ジョー、パーキングに寄ってみようぜ」
 「そうだな。本当の囮だったらゆっくり走って敵の目についた方がいいかもな」
 そう言い車は宇都宮ICの手前の大谷PAに入った。
 車外に出て体を伸ばす。
 「コーヒーでも飲みに行こうよ」
 「いや、車から離れねえ方がいいだろう。洸、行って来いよ」
 「それじゃあ何か買ってくるよ。コーヒーもね」洸は店舗の方へ走って行った。
 ジョーは周りを見回した。同じような長距離トラックが多い。そのドライバーがシートで仮眠を取っていた。
 ジョーは車の、それも運転席のシートで眠る事ができない。ウトウトしてもすぐ目が覚めてしまう。これが繰り返されるとかえって疲れるので最初から寝ないのだ。
 11月の末ともなるとやはり寒い。つい何日か前までいたシチリアの太陽を懐かしく感じた。
 ジョーはたばこを探しに運転席に戻った。と、助手席のドアが開き見知らぬ男が乗り込んできた。
 「日本語、わかるか?」男はジョーを見て一瞬途惑ったが、「ドアを閉めろ」
 「──」
 ジョーは目の前に差し出された銃口を見て、男に目を向ける。やっと来た、と思い口元が綻びそうになるのを必死で押さえ静かにドアを閉めた。
 「車を出すんだ。北へ向かえ」助手席に座った男が言った。
 ジョーはチラッと店の方を見たがすぐに車を出した。パーキングを出て本線に戻す。 
 その頃─
 「あー!車がないー!?」
 両手にホットドックやバンバーガー、コーヒーを持ったまま洸が叫んでいた。

 ジョーは車を走らせながら男を観察していた。40才くらいだろうか。なかなか精悍な顔つきをしている。銃の扱いにも慣れているようだ。だが手にしている拳銃は改造銃のような小型のチャチな物だ。取り押さえる事は簡単だ。
 しかしこの男が今回の任務に関係しているのならヘタに手出しはできない。と、ジョーのスピードマスターがピピピ・・・と鳴り出した。男は驚いてジョーに銃口を向けた。
 「あわてるな。ただのアラームだ」文字盤を見たら洸からだとわかったが、今は全機能をオフにした。「それで、どこまで行けばいいんだ?」
 「このまま北上してくれ」
 男はそれしか言わない。森の指令と同じだ、とジョーは苦笑する。
 やがて車は福島県に入った。冬の日の入りは早い。6時前にはもう辺りは真っ暗になっていた。と、
 「来たな」バックミラーを見て男が呟いた。
 「なんだって?」ジョーもミラーに目をやる。と、突然キーンという長い音が響いた。「こ、この音は!」
 紛れもなく銃声だ。おそらくライフルだろう。バックミラーにはブロフィアのすぐ後ろについているカローラから身を乗り出し、ライフルを構えている男の姿が映っている。
 「なにあれ!あんたの知り合い?」
 「あまり会いたくない知り合いだ」
 カローラがスピードを上げた。後ろからではドライバンが邪魔してライフルを撃っても効果がないと思ったのだろう。ブロフィアの横に並ぼうとしている。
 「ボウズ、なんとか逃げ切ってくれ」
 「ボウズじゃねえ!あんな奴ら、蹴散らしてやるぜ!」ジョーは右の追い越し車線に出て来た カローラ目掛けてブロフィアをスライドさせた。「くそォ!重いぜ!」
 セリカやカウンタックと違う重いステアリングに悪戦する。ブロフィア自体、スライドしやすいように設計されているわけではない。ごく普通の5トン車だ。
 「お、おい、ボウズ。無茶するな─」
 「Get out of here!(だまれ)舌を噛むぜ!」
 ジョーはステアリングを握る腕を大きく回した。車は後部を振りながらカローラに迫った。軽く当ててすぐさま左へ切り返す。本気で当てたらカローラはすっ飛んでしまう。
 男はジョーの無鉄砲さと度胸の良さに感心したのか呆れたのかもう何も言わず、シートにしがみついている。
 「逃げるぜ」
 5トン車に迫られて意気消沈したのか、カローラは後方へ下がった。そのスキにアクセルを踏み込みカローラとの距離を一気に開けた。
 「いい腕だな、ボウズ」息をつき、男が言った。「レーサー並みだな」
 「あんた、なにやったんだ?あんな物騒な奴らに命を狙われるなんてよ」
 「知らない方がボウズのためだ」
 「だからボウズじゃねえって!」
 そう言ったもののジョーは名乗らなかった。男も訊かない。 ジョーは再び男を窺う。何か違和感がある。今回の任務の相手は本当にこの男なんだろうか。悪人には見えないのだが─。
 「次の鏡石PAへ入ってくれ」男の言うとおりにして駐車場の隅に停めた。「すまなかったな。じゃあ!」
 男がドアを開けて飛び降りた。
 「ち、ちょっと待ってくれ!」ジョーも追って車外に出る。「積荷は?いいのか?」
 「積荷?」男が怪訝そうな目をした。「何を積んでいるんだ?」
 「・・・・・」ジョーが詰まった。これってまさか・・・。「あんた本当にカージャックだけなのか?」
 変なことを言われた、というように男の表情が“?”になる。それを見てジョーが再び絶句する。と、
 「ボウズ。もしやばい事になったら、迷わず警察に駆け込めよ」
 「え?」ジョーが目を見開いた。「あんたを降ろしたのに、まだやばい事が起こるって言うのか?」
 だが男はジョーの問いに答えず、“元気でな”と手を振り闇の中に消えて行った。
 ジョーはあっけにとられて、後を追う気にもならなかった。

    
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