コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

It's my life 3

 『神宮寺君、すまないが至急栃木県の白河署まで行ってくれないか』
 「白河、ですか?」
 『那須で大型車の事故があった。どうやらジョーのトラックらしい』え!、とベッドから飛び起きた。『山嶺道路でガードレールを突き破り崖下に落ちたらしい。が、痕跡はあるのにトラックが消えてしまった。ジョーと洸もだ』
 「なんですか、それ」
 神宮寺は隣のベッドの樋口と顔を見合わせた。
 『栃木県には特別課がないので詳しい事はわからない。とにかく行ってくれないか。私から県警の本部長に君達の事を通しておく』
 「わかりました」
 見ると樋口はもう服を着始めていた。
 2人は昨夜盛岡市のホテルに一泊している。着替えの用意はしてこなかったので裸で寝ていた。時計を見ると6時を回ったところだった。ふと思いついて通信機を合わせる。
 「ジョー、洸、応答しろ」だが昨日と同じ、ガガ・・とノイズが入るばかりだ。「だめか─。いったいどうしたんだ、2人共」
 「チェックアウトしてくる」
 樋口が部屋を飛び出していった。

 目を開けたとたん、体中の血が下がっていくような感覚に襲われた。気持ち悪さに呻く。それでも自分を覗き込んでいる人物に気がついた。
 「ジョー・・・」安堵の息が漏れる。「よかった・・・」
 「洸・・・」ジョーは体を起こそうとする。洸が手伝ってくれた。「生きてたか・・」
 「ジョー」呼ばれて洸に目を向けた。彼の目は赤かった。「あんな事するなよ。ぼくの目の前で・・2度と・・。君に何かあったら神宮寺に顔向けできない・・」
 「・・・・・」
 やっと相棒を取り戻した神宮寺に─。ジョーは唇を噛んだ。
 「死ぬのは簡単だよ。でもどんな時でも生き残ってJBに戻る─。これがぼく達の最大の任務だろ」その頬に一筋、涙が落ちた。「君もだ、ジョー」
 「洸・・・」
 涙を拭う洸の右手の甲に小さなキズがたくさん見えた。ジョーの歯の痕だ。
 あの時は、それしか思いつかなかった。あのままにしておいたら、ジョーは自分が何を言い出すかわからなかった。
 「すまない・・」
 洸の考えは甘いし賛成はできない。しかし心配をかけた事は悪いと思った。
 ふと周りを見る。室内には2人だけしかいなかった。
 「奴らはどうしたんだ?」
 「君が口を割らないものだから、もう一度トラックを調べるってさ」
 「割るも何も、おれは本当に何も受け取ってはいないんだ」
 「受け取ってても、受け取ってなくても・・困ったね」洸はため息をつき、ジョーは思わず頷いてしまった。「そうだ、通信機が使えないんだ。おそらくこの建物から強力な電波が出ているか、そてともバリヤみたいに覆っているか─」
 「ナニしてンだか」天窓から光がさしてきた。時計を見ると6時を回ったところだった。「いったいどこまでがおれ達の仕事で、後は誰の仕事なんだ?」
 「案外、み?んなぼく達の仕事だったりして」
 洸の冗談にジョーが頭を抱えた。が、本当に視界が回っている。床に手をついて体を支えた。
 「大丈夫かい?横になっていた方がいいよ」それから少し声を落とす。「ドアのカギはいつでも開けられる。今のうちに体を休めておこう」
 「あいつ、実験段階だって言ってたな」床に体を横たえると冷たさが沁みてくる。が、かえって気持ちの悪さが紛れた。「ここで作っているのかな─」
 ふっと言葉が途切れた。気を失ったのか眠ったのか─。まあ似たようなものだ。
 しばらくはこのままの方がいいだろう、と洸は思った。

 「県警の仲本です。本部長から事故の詳細を説明するよう言われました」
 「神宮寺です。こちらは樋口」
 よろしく、と挨拶する2人を、仲本はちょっと胡散臭そうに見た。無理もない。彼らは仲本よりかなり若く、おまけに作業服姿だ。とても本部長が気を遣う相手には見えないのだが。
 「昨夜9時前の事です」それでも命令だから、と思い直す。「那須山嶺道路を走行中の地元の車が、何かがガードレールにぶつかる音を聞いた、と通報してきまして、白河署の者が駆けつけたところ、確かに事故の跡がありましてね。ところがサーチライトで照らしてみても落ちたはずの車が見えないんです。朝になってわかった事ですが、落ちた所は農道でして、どうやら自力でどこかへ行ってしまったようで」
 手元の書類を確かめながら続ける。
 「事故を起こしたのはタイヤ痕から5トンから8トンのトラック、ブレーキ跡がないので居眠り運転かもしれませんが」
 もし本当にその車がジョーのブロフィアだったら、居眠り運転はないと思った。ジョーが運転席では眠れない事を神宮寺は知っている。
 「実はそれらしいトラックを東北自動車道のNシステムが捕らえてまして─。何度かの車線変更をした挙句、すごいスピードで那須ICを通過して行ったようです。これが写真です」
 (ジョーだ)
 Nシステムはドライバーとナンバープレートを写す。角度が悪いのか帽子を被っているせいか顔ははっきりとは写っていないが、枯葉色の髪は間違いなくジョーだ。ただ何かあわてているように見える。いつもの彼の運転スタイルとは違う。隣の洸も大きな目をさらに見開いている。
 樋口も不可解なものを感じたのだろう。神宮寺に問うような視線を向けてくる。
 「わかりました。この件に関しては、後は我々が引継ぎます」
 神宮寺が右手を差し出した。握手かと思ったが書類を渡すのだとわかって、仲本は渋々従った。
 彼らに細かい事を訊いてはいけない。彼らの言うとおりにしてくれ、と本部長に言われている。
 「ご面倒をかけついでに、用意してもらいたいものがあるのですが」
 「え?は、はい」
 仲本が頷いた。

 「出ろ」アンリが促す。
 ジョーはまだ少しふらつく体を騙し立ち上がった。両脇に男が一人づつ付く。腕を取られたがそのままにしておいた。
 「ジョー」
 洸が何か言いたそうに目を向けてきた。
 「─わかってるよ」
 ジョーはかすかに目を眇め洸に答えた。そのまま3人の男達と部屋を出て行った。
 廊下は暗く寒い。元は小さなホテルだったのか。廃屋が好きな奴らだ、と思った。
 角を曲がったすぐの部屋のドアをアンリが開けた。室内にはイスに拘束されている男が一人と、その周りに立っている3人の男がいた。イスの男が顔を上げた。
 「あ、あんた、カージャックの」
 「ボ、ボウズ・・」男が目を見開きジョーを見た。そして、「おい、こいつは違うぞ。おれ達とはなんの関係もない。ただの乱暴運転の─」
 「とんでもない」アンリが遮る。「こいつは国際警察だよ」
 「え?」男が驚き、再びジョーを見る。「このボウズが?だ、だけど・・」
 「ボウズじゃねーよ」
 ジョーが舌を打った。すっかり有名になっている。こいつら全員捕まえてランス送りにしてやらないと、仕事がやりずらくなるなァ、と思った。
 「まあなんでもいい。それよりデータの在処だが─」
 「えー、まだ見つけてないのか?」ジョーが声を上げた。「ちゃんと捜したのかよ」
 「お前に言われたくない!今日こそ吐かしてやる」
 「やれやれ、また昨日の続きかよ」
 ジョーがため息をつき、その場に座り込む。
 「昨日のが効いているようだな」
 アンリが楽しそうに笑う。ジョーは下から睨めつけてやる。が、ふと男の方に目をやると、何か言いたそうに目配せしている。と、アンリがジョーの前に膝をついた。
 「今度あの自白剤を打たれたらどうなるかわからないぜ」
 「・・・・・」
 ジョーの喉が鳴る。そうだ、今度こそ─。と、突然後ろで何かが倒れる音が響いた。振り返るとアンリの仲間の一人が床に転がっていた。
 「ボウズ!」男が叫ぶ。
 ジョーはアンリの膝を蹴っ飛ばした。アンリが倒れるのと同時にカージャックの男に体を引き上げられた。その勢いで、抑えにかかってくる別の男を回し蹴りで倒した。
 「いい動きだ!ボウズ!」
 自らも一人の腹に膝を入れている。
 「ボウズじゃねえって!」
 ジョーが振り向きハッとした。残った男がこちらに銃口を向けていた。
 カージャックの男を押し倒し、自らの体を滑らせ銃を持った男の足を思いっきり払った。銃弾はジョーの頬を掠り、足を払われた男はひっくりかえる。
 「こ、この野郎・・」
 早くもアンリともう一人の男が体を起こす。
 「逃げるぞ!」
 カージャックの男がジョーの腕を取り廊下に飛び出した。
 「ま、まってくれ。仲間が─」
 語尾が銃声で消された。見るとどこにいたのか6、7人の男達が手に銃を持ち追ってくる。
 「こっちだ」
 男がジョーの手を引き走る。洸のいる部屋がどこなのか、わからなくなった。
 元は小さなホテルだ。間もなく外へ出た。木々が覆う山の中だ。ジョーは無意識のうちに通信機の全機能をオンにした。なぜか神宮寺がすぐそばに来ているとうな気がした。
 銃声がした。
 「もっと早く走れないのか、ボウズ」
 「いやなら、あんた一人で行けよ」
 たったこれだけ走っただけで息が切れた。昨日の薬がまだ影響しているのだろうか。頭上の木々や足元の石などを避けながら走るので余計疲れる。と、突然目の前がひらけた。足を止める。
 「しまった─」男が呟いた。
 彼らの前には道がない。あるとしたら遥か下方だ。
 やがて木々がざわめき、アンリを先頭に男達が姿を現した。
 「やばいなァ。国際警察はこういう時、どうやって逃れるんだ、ボウズ?」
 「・・・・・」ジョーはアンリを見た。
 奴の言うとおり今度あの自白剤を打たれたら自分はなにを言い出すかわからない。データの在処など知らないのだから、しゃべるとしたらそれ以外の事になる。
 国際警察の事をしゃべらない自信はジョーにはない。
 「飛び降りる」
 「え?ちょっとまて」男は谷底を覗き込んだ。「そ、そんな事をしたら」
 “ジョー、だめだ”洸の声が聞こえた。“無事にJBに戻る事も任務だ”
 (わかってるよ、洸)ジョーが口元を歪める。(死ぬためじゃない。生きるために─)
 『ジョー!』
 突然、ジョーのスピードマスターから神宮寺の声が響いた。1機の大型ヘリが近づいてくる。キャノピー越しに神宮寺の姿が見えた。
 誰かがヘリに向かって発砲した。それでも避けずに進んでくる。
 『ワイヤーを射つ!』
 (!)
 神宮寺の言う事をジョーは一瞬で理解した。作業服の上を脱いで右の手の平から二の腕に巻きつける。
 銃を構えた男達が走り寄ってきた。
 (あいつ、おれの事を無茶だと言うけど、奴の方が─)
 カージャックの男の体を左腕で抱え、いきなり広い空間へと飛び出した。
 「うわっ!」
 カージャックの男もアンリ達も驚いて声を上げた。
 「ちゃんと掴まっていろ!」
 大型ヘリからワイヤーが発射される。ジョーの横を飛ぶ。彼は右手でワイヤーを掴み、たわみを利用して自分の腕に巻きつけた。が、男2人分の体重に、手の中のワイヤーがズッと滑る。
 「く、うー」
 「樋口!早く上げろ!」
 言われるまでもない。樋口がウインチを入れる。ワイヤーが急速に巻かれ2人の体をヘリに近づけていく。
 まず男を引き上げた、そしてジョーを。
 「ジョー!」
 樋口がジョーの右腕を見た。大方は作業服でカバーされているが、所々ワイヤーが腕に食い込んでいる。出血がひどい。
 「このままJBまで飛んだ方がいい」
 「だ、だめだ」ジョーが体を起こす。「洸がまだあそこに」
 「一度JBに戻る」神宮寺が言った。「体勢を立て直してからだ」
 「神宮寺・・・」
 言い返そうとしたが、もはやジョーにはその気力はなかった。


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