コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

Near miss 1

   国際秘密警察日本支部の3階にある食堂は、昼を少し過ぎているせいかあまり人がいない。
 一度に100人が食事を摂れるスペースがあるが、常に稼働しているのはその半分くらいだ。
 JBでは決まった昼休みというものはない。あくまでも個人に任されている。食事の時間も皆バラバラだ。
 「あ?、ハラ減った」
 そこへ午前の基礎訓練を終えたジョーが入ってきた。
 窓口でナポリタンと野菜ジュースを注文し、次の窓口でトレイごと受け取る。室内を見回すと窓際に神宮寺が1人座っているのが見えた。
 「よお、お前ジムに来なかったな」前に腰を下ろす。だが神宮寺はジョーの言葉に答えるどころか彼の方を見ようともしない。「どうしたんだよ?」
 「・・・ジョーか」今、気が付いたようだ。「別に・・ヒマだなあと思って・・・」
 「ヒマだあ?そりゃ今でかい事件抱えてないしな」ジョーがパルメザンチーズの容器を手にする。「いいんじゃねーの?それだけ世の中が平和だって事で─」
 「・・・何か大きな事件が起きないかなあ・・・。日曜辺りに・・・」
 神宮寺の言葉に、ジョーは手にしていたチーズをポトッと落とした。

 「そりゃ変だ。確かに神宮寺らしくない」西崎が言った。
 「そーだろ、絶対ヘンだよ。かなりヘンだ」ジョーが皆を見回す。
 ここ4階の捜査課専用の休憩室ではジョーをはじめ西崎、立花、高浜、そして一平が顔を見合わせていた。
 「事件が起きればいいなんて・・・冗談でもそんな事言う奴じゃねえぜ。何かあったんだ」
 「冗談じゃなければ本気って事か?」言った高浜の後頭部がゴンッ!と鳴った。
 「そういえばさっきも─」イテ?、と頭を押さえる高浜の後ろに、グーになったままの手を構えているジョーを横目で見ながら立花が言った。「射撃場で銃も撃たずボ?としている神宮寺を見たよ。なんか声も掛けられない雰囲気で」
 「実家で何かあったのかな。しばらく帰ってたんだろ?」
 「それならとうに実家に戻ってるさ」ジョーの言葉に、それもそうだと一平が頷く。「あいつ、コーヒーにミルク入れてたぜ。やっぱヘンだよ」
 「ジョー、お前、何かやったんじゃないのか?」
 「え?おれ?」ジョーが西崎を見た。「別に大した事は・・・。奴の秘蔵のブランディを飲んじまった事かな・・。駐車場でセリカを入れる時ポルシェを掠った事か」
 「掠ったの?ポルシェ大丈夫だった?」車好きの立花が訊く。
 「久々の右ハンドルでまごついた。セリカは大丈夫さ。ポルシェはちょっと横線走ったけど」一同顔を見合わせ、ため息をついた。「でも、それはまだバレてないと思うぜ。あ、奴のミノムシのマグカップを落として割っちまった事かな」
 「ミノムシ?」西崎が眉をひそめる。「美濃焼きのカップだろ」
 「それとも─」
 「まだあるのか?」一平が呆れた。「何やってンだ、このコンビは」
 「まっ、どれにしても大した事じゃない」シレッとジョーが言う。「あの神宮寺がボケてンだぜ。もっと重大な事さ」
 それは同感だ、と一同頷く。と、そこへ
 「ジョー!あーやっぱり皆一緒だったんだあ!」ノックもせず洸が大声で飛び込んできた。「聞いた!?今度の日曜日、神宮寺がお見合いするらしいよ!」
 「お見合い!?」男達の和音が上がる。「神宮寺が!?」
 「ニラミアイ?」ジョーが首を傾げた。「誰かとケンカするのか?」
 「ニラミアイじゃないよ。見合いだよ。ミアイ」
 「ニラミアイ?」ジョーの復唱に一平は諦めた。
 基礎にドイツ語があり、その上に日本語が成り立っているジョーには、単語がまったく違う発音に聞こえる時があるらしい。最近はかなり減っていたのだが、2ヶ月間ドイツとフランスに滞在していたのでまた再発したようだ。が、今はそれどころではない。
 「み、見合いって、その・・女の人と・・・?」
 「男と見合いしてどーすんだよ」一平が立花をじと目で見る。「それでうわの空だったのか?それも神宮寺らしくないなあ」
 「仕事以外では、結構小心者だったりして─」
 「なあ、ミアイってなんだ?」ジョーが訊いた。
 「見合いって言うのはねえ」洸が身を乗り出す。「豪華なレストランとか料亭で男と女が会って、そこに年寄りとかいて“まー、ご立派なおぼっちゃまで”“いえいえ、そちらこそお綺麗 なお嬢様で”とか言って、“まあ、あとは若いもの同士で”“そうですわね。私達年寄りはあちらで─オホホホホ・・・”って」
 「??」シナを作って笑う洸を、ジョーは気持ち悪げに見た。
 「つまり」苦笑しつつ西崎が言った。「結婚を前提とした男女が会ってだな─」
 「えー!神宮寺、結婚するのかあ!?」ジョーが声をあげた。「あいつ、あんな頭してるけどまだ若いぜえ!なのにもう─」
 「誰があんな頭だって─?」
 一同の後ろから静かに聞こえてきた声に男6人がヒッ!と飛び上がる。振り向くとお約束の如く神宮寺が立っていた。
 「あ、いや、あの」ジョーがあわてている。「おめでと神宮寺。子どもはどっちだ?」
 「・・・まだ結婚していない」
 「してなくても子どもくらい・・あ、じゃなくて、Frauの名前は?」
 「だからまだしていないって言ってるだろ!」爆発した。男達はあわてて逃げ出そうとしたが、そのドアを神宮寺がバンッ!と閉めた。「お前達!ドアを開けたまま大声でしゃべるな!JB全体に筒抜けだ!」
 まさか、と思ったがそれを口にできる勇気のある者はいない。
 「それに、ジョー」
 「えっ!?」ジョーの体が文字通り跳ねた。
 「ブランディにミノムシに、おまけにポルシェに横線だとォ」
 「え、あ、あの・・」ジョーはなんとかにこやかに落ちついて彼をなだめようとする。「だ、大丈夫だよ、横線くらい。青いボディ(ポルシェ)に赤い線(セリカ)が走って、そりゃあ見事な美しい芸術的なラインが─。あ、く、苦しい!やめろ神宮寺!」
 「・・・・・」
 目の前で国際警察最強のSメンバーと言われる2人が取っ組み合っている。
 首を絞めてくる神宮寺の顔に手を掛け掴むが、アカンベーになってしまった。吹き出すジョーに神宮寺が両手で頬っぺたを左右にビロンと伸ばした。
 「や、やへろ!ひんくーひ!」
 「っるさい!ブランディもミノムシもポルシェも直してもらうからな!」
 「おれの借金増やす気か!あ、いや・・・勘弁してくれ??!」
 「・・・神宮寺・・やっぱ変だ・・」神宮寺に引きずられて行くジョーを見ながら西崎が呟く。「それともあれが地なのか?」
 それが聞こえたのか、神宮寺がキッと振り向いた。男達は一斉にドアを閉めた。

 『神宮寺君が見合い?』モニタの中の鷲尾が驚いて森を見た。『しかし彼はまだ若いだろう。ジョージと2つ3つしか違わんと思ったが─』
 「旧家の跡取りですからね、彼は」森がにこやかに言う。「JBはなぜか妻帯者が少ないんです。家庭を持つ事は悪い事ではありません」
 『それはそうだが・・』鷲尾はちょっと複雑な面持ちになる。
 国際警察は一般の警察より危険の大きな仕事だ。部内に女性職員が少ない事もプラスして、どこの国の支部も確かに妻帯者は少ない。
 『で、祝いは何がいいかな?』
 「そんな事おっしゃると、神宮寺君にラリアットを食らわされますよ」
 『?』洸達の運命を知らない鷲尾が首を傾げた。
 「ところで長官、何か用事があったのでは?」
 『ああ、そうだった』
 国際警察本部のホットラインで世間話をしていられるほど、今は平和だ。

 神宮寺がお見合いをするという話は、あっと言う間にJB全体に知れ渡った。それどころか、いやもう結婚していて2人も隠し子がいる、いや離婚した─と、無責任な話まで飛び交っている。
 そんなこんなの話に、ガッカリした女性職員達が一斉に退職するのでは─!?と、バカな事を言い出す者もいた。
 珍しく事件を抱えていない若い男達の集まっている捜査課もその話で持ち切りだ。
 「神宮寺だったら見合いなんかしなくてもOKだろうになァ」
 「だからこそ、早くツバをつけちまおうと狙う金持ちの娘が─」
 「おれも空いてるぜ?」
 などと騒いでいる。それは例の奴らも同様だ。
 「あっという間に広がったな」高浜がため息をついた。「JBの情報伝達の早さには驚くよ。処理能力には問題あるけど」
 「ぼくのせいじゃないもんね?。ドアを開けたまま怒鳴ったのは、神宮寺も一緒!」
 「コーヒーだよ」ジャンケンで負けた立花が人数分のコーヒーを運んできた。「はい、ジョー」
 「・・・神宮寺、結婚しちまうのかな・・」ポツリとジョーが呟く。相棒としてはちょっと複雑なのか、と皆同情の目を向けた。「もう酔っ払って奴の部屋に潜り込んだり、そのスキにブランディをくすねたりできなくなるなァ・・・」
 「・・そーいう事かい」一同呆れてため息をついた。
 「だけどめでたい事なんだしさあ」コーヒーを配り終えた立花が座る。「それに神宮寺はいいおムコになると思うよ。そしていいマイホームパパに─」
 “マイホームパパ”という言葉に、一同がピタリと黙る。そして神宮寺マイホームパパのこーんな姿やあーんな姿、そーんな姿を思い浮かべ、ドッ!と吹き出した。
 「うわ?、どーんな姿だなァ、それェ!」「マグナムより威力あるぜ」
 と、テーブルをバンバン叩きながら腹を抱える男達を、少し離れた所からジッと見つめる目があった。
 「あいつら・・人で遊びやがって・・・」神宮寺だ。「次回の訓練プログラムはおれが作ってやる」
 「あいつらのだけにしてくれよ」コーヒーを持ってきた西崎が言った。「でも見合いの話は本当なんだろ?」
 まあ・・と神宮寺が頷く。
 「どんな娘(こ)だ?」
 「長野の旧家の娘らしい。今は東京の大学に通ってるそうだ」
 「女子大生か、いいなあ!で、美人か?」
 「知らないよ。写真を出される前に帰ってきた」
 「勿体無いなァ!そーいうのは大抵美人って決まってるんだぜえ」
 ウンウンとしきりに頷く西崎を神宮寺がじと目で見る。と
 『神宮寺君』タグホイヤー・リンクが鳴った。『私の部屋まで来てくれ』
 「わかりました、チーフ」スイッチを切りジョーに目を向ける。だが彼は座ったまま、まだ皆と騒いでいる。「おれだけかな?」
 「きっと仲人をやりたいって・・・、あ、それは無理か。では1番目に祝辞を─」
 「・・・お前のプログラムも作ってやるからな」
 神宮寺に睨まれ“しまった!”と思ったものの、時はすでに遅かりし─であった。

 「Sメンバーのテスト、ですか?」ソファに腰を下ろし神宮寺が訊いた。
 「先程本部から依頼があってね」森も神宮寺の前に座る。「ニューヨーク支部のアレン・フォードとリック・ジムカナーの2名がSメンバーのテストを受ける事になってね。その準備期間の教官と当日の試験官に君を指名してきたんだ。前回はイギリスのSメンバー達が担当したから順番といえば順番なんだが」
 「おれ1人ですか?ジョーはどうします?」
 「うむ・・、石丸さんに確認したのだが、まだ完全には回復してないようだな」
 先日の事件で自白剤を打たれたジョーは、その薬物がまだ体内に残っているうちに出動し、副作用によって意識不明のままJBに戻ってきた。
 すでに昏睡状態に陥っていたジョーは、石丸達医師団の呼び掛けにもまったく反応せずその日は1日眠り続けた。
 石丸は榊原病院に転院させる事も考えたが、搬送が今のジョーにどのような影響を及ぼすかわからなかったのでJBの医療室で対応する事にした。
 翌日になると細かった呼吸もだんだんとしっかりし始め、そして時々意識が戻り目を開けるが、そばにいる石丸や神宮寺達を見る事なく再び眠りに落ちる─。これが1日に何回も繰り返された。
 石丸は那須のアジトから押収されたデータを鑑識課の協力の下分析を急いだがデータは完全ではなく、また薬物自体も手に入らなかったので、その成分を完全に割り出す事はできなかった。
 今はとにかく点滴を打ち続け、ジョーの体内から薬物を外へ排出させるしか方法がない。
 しかしそれが効を成したのか、3日目の昼前にはジョーは目を覚ましなぜか洸と廊下で取っ組み合いができるまでに回復した。
 そして2日後には日常の生活に戻る事ができたのだ。
 しかし訓練はまだ午前の基礎訓練しか許可されていない。そして午後は必ず石丸の診察を受ける事になっている。
 「候補生の2人にはSメンバーのテストの前に2日間射撃や飛行訓練などを受けてもらうが、まっ、君ではなくジョーでなければ指導できないという科目はないし、どう考えても彼が教官に向くとは思えないが─。それに本部から指導及び試験官としてSメンバーのレニールが来日する事になっている」
 「でしたら、おれ1人で充分です」
 「君もフランスで銃創を負っているから、あまり無理はさせたくないのだが」
 「そんなもの、もうとっくに治ってますよ」
 「これがスケジュール表だ。夕方にはレニールがJBに到着する。出発は明日─。大丈夫、日曜までには帰京できるから─」ふと、神宮寺のじと目に気がつき、森はあわてて言葉を続けた。「エアチケットは情報課から受け取ってくれ。それから─」
 (やれやれ・・・)
 帰ってくるまでにこの騒ぎが収まっていてほしいと、神宮寺は思った。


                         →       2 へ
スポンサーサイト

Post comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackback

trackbackURL:http://junstory.blog63.fc2.com/tb.php/71-debe39b1
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。