コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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Near miss 3

 「もうすぐリック機との合流地点だが─」
 神宮寺が周りを見回す。有視界の中には一機のセスナも見えない。
 「遅れているのかな」と、遥か前方に黒い小さな点が現れこちらに向かってくる。レニールとリックが乗る152だ。「・・おかしいな」
 神宮寺が呟く。
 リック機は水平飛行しているものの、時々片方の翼がガクンと下がったり小さく横滑りする。神宮寺から見ればまともに飛行しているとは思えない。
 「ミスター、無線が入ってる」アレンがヘッドホンを指差した。
 『・・ちら・・・レニール・・・タ・・』
 途切れ途切れでよく聞こえないが相手はレニールだ。
 「神宮寺だ!どうしたんだ、レニール!」
 『・・エンジントラ・・・リック負傷し・・・いつま・・・わからな・・』
 「エンジントラブルらしい。でもそれでどうしてリックが負傷するんだ?」
 「ミスター!」アレンが叫ぶ。「落ちるぞ!」
 リック機はカクンカクンと少しづつだが機首を下げ高度が落ちていく。とても波照間空港まで持たないだろう。
 「このコースでは空港に着く前に東側の断崖上空を飛び事になる。もしそこでコントロールが利かなくなったら」ヘタすると崖に突っ込む事も・・・。「レニール!手前のベムチ浜に不時着しろ!着水は避けるんだ!」
 『だめ・・・持たない・・』機首がまたガクンと下がった。
 「アレン!コントロールをこっちに─!」
 「え、あ─、You have control」
 「I have」
 コントロールが神宮寺に移った。152は大きく旋回するとリック機の左側に並んだ。少し高度を下げ主翼の先をリック機の胴体の下に入れて寄せていく。
 「ちょっと乱暴だが、仕方がない」
 「ミ、ミスター、何をするんです?」
 「主翼で胴体を持ち上げて浜辺まで持たせるのさ」“Oh!my god!”とアレンが叫んだ。さらに早口の英語で何かわめている。「Ammoying! Shut up!(うるさい。黙れ)」
 さっきまで温和だった神宮寺に怒鳴られアレンは口を閉じた。
 さらに機首を下げるリック機を主翼を上下に振りトンッと持ち上げてやる。ひとつ間違えたら神宮寺の操縦するセスナはリック機を支えきれず墜落に巻き込まれるだろう。額に汗が流れ落ちる。
 「アレン、高度を読んでくれ!」
 「ラ、ラジャ」騒いでいたアレンだが、さすがSメンバー候補、今は落ちついて目の前の高度計を読む。「ミスター、着水した方が安全じゃないのか?」
 「メインギアもノーズギアも破損している。胴体の下にも小さいがいくつも穴が空いている。着水したらすぐ沈むぞ。リックの負傷の具合によってはすぐに脱出できないだろう」
 それでも水際から砂に上げた方がまだマシか─。と、リック機のエンジンが止まった。一気に高度が下がる。
 「うわっ!」
 主翼の上に伸し掛かられ機体が大きく右に傾いた。コクピットのちょうど真上の部分がリック機の胴体と接触した。リック機はそのまま滑空し砂浜を目指す。
 神宮寺の操縦するセスナは主翼を傾け海へと落下していった。

 JBに波照間島での事故の一報が入ったのは午後の2時を回った頃だった。だがそれを聞いた誰もが─実際に島のJB施設から連絡を受けた通信課でさえも、“冗談だろう”と思った。
 「神宮寺がセスナで事故った!?」ジョーが声を上げた。「なんの冗談だ」
 「本当だよォ」洸は射撃場前の廊下のコーナーに西崎といるジョーを見つけると口早に告げた。「今、情報収集しているから、もう少したてば─」
 と、ジョーのスピードマスターが鳴った。森チーフからだ。
 『ジョー、至急私の部屋に来てくれ』
 「わかりました。─それじゃあ、本当に・・・」
 「急ごうよ、ジョー」洸がエレベータのボタンを押した。
 「おれも捜査課に戻った方がよさそうだな」
 3人はエレベータに乗った。

 「1時間ほど前だが、波照間島で訓練中のセスナ機に事故が起きた」
 「神宮寺が事故ったって本当ですか」
 ジョーが訊いた。室内には他に佐々木と山田、井上、中西の各課長と石丸、一平、洸が顔を揃えている。
 「トラブルが起きたのはもう一機の方だ。海へ落ちるところを神宮寺君がフォローしてたのだが、島へ着く寸前に巻き込まれて墜落したらしい。トラブルが起きたセスナは無事砂浜に不時着し、レニールとリックは収容されたのだが」
 「神宮寺と候補生は?」一平が訊いた。
 「まだ捜索中だ。レニールの話では接触後にコクピットが破損した可能性があるという。そしてそのまま海に墜落した」一同が顔を見合わせた。「あの辺りの海は岸近くは浅いが少し沖に行くと急に深くなるからな。うまく脱出していればいいが・・・」
 森の言葉にジョーが彼を見た。乱れた前髪からブルーブレイの瞳が森を射る。
 「だが気になるのはそれだけではない。施設所員の話によるとトラブルを起こしたセスナ機のエンジンに、銃撃を受けたような痕があるらしい。リックにも弾丸が掠ったようだ。そのショックで一時気を失っていたらしい」
 「飛んでいるセスナに?」山田が呆然と呟く。「いったい誰が・・・」
 「わからん。とにかく波照間に飛んでくれ。一平、行けるか?」
 「大丈夫です」一平の腕は神宮寺に負けずとも劣らない。
 「チーフ、おれも行かせてくれ」ジョーが言った。そして石丸が何か言う前に、「だめなら、おれは今から休暇届けを出しますよ」
 「なに言っとる。君の休暇など当分ない。有給をオーバーして、こっちが貰いたいくらいだ」えっ!?とジョーが焦る。「山田さん、捜査課からも4人出してください。1時間後に羽田から飛びます」
「わかりました」山田が部屋を出て行った。
 「ジョー、無理するな」石丸が言った。「実技も昨日から再開したばかりだし」
 「大丈夫。おれ、訓練より実戦の方が強いんです」
 不敵に口元を歪める。以前と変わらない、いつものジョーの表情だった。

 東京国際空港の一角に見慣れない航空会社のハンガーがある。中には数機のJB専用機が格納されている。
 今回使用するのはセスナTU206Gだ。6人乗りで平均時速222キロ、飛行距離1110キロという中型機だ。もっともこれで波照間まで直行する事はできない。途中宮崎空港で給油しなければならないのだ。
 予定飛行時間は7時間。半分は夜間飛行になるが、ちょうどいい定期便がないので仕方がない。
 一平とジョーは手分けして外部チェックを急ぐ。それが終わると内部機器のチェックに入った。
 左のパイロットシートに一平が、右のコ・パイにジョーが入る。後部シートには西崎、立花、島内、香田が乗っている。ジョーは島内と香田と組むのは初めてだった。
 『JB・A、Cleared for take─off、Runway7R、wind120 at 5(JBアルファ、ランウェイ7ライトからの離陸を許可します。風は120°方向から5ノット)』
 「Cleared for take─off、JB・A(離陸許可、JB・アルファ)」
 離陸の許可が下りた。206が大空に飛び立つ。
 「それにしても、洸がおとなしく残ったな」水平飛行に入り、立花が言った。
 「あいつこの前の事件の時、ヘリで落ちただろ。それ以来空を飛ぶのが怖いのさ」
 「それを言うならおれだって怖い」眉をしかめながらジョーが言った。「神宮寺の腕は神技だが考える事も神技だ。人間のおれにはついていけねえ。だいたいこんな鉄の塊が飛ぶ事事態おかしいんだ。地面を走っている方が安全だ」
 「いつの時代の人間だ、ジョー?」西崎が苦笑する。「第一、こんなのが地面を走る方が危ないぜ」
 「・・・その神宮寺がミスるなんて・・・」島内が呟く。が、周りの視線に気がついて、「あ・・すまん。だがあの神宮寺が空でミスるなんて信じられなくて─」
 「同感だな」西崎が言った。「だが、落ちる寸前の機を砂浜まで持たせるなんて─。いったいどんな手を使ったんだろう?」
 「下から持ち上げたんじゃないか」ジョーが言う。「翼で、トンッて」
 “まさか”と全員が苦笑した。が、あの神宮寺なら有り得るかもしれない、と思う。
 6人を乗せたセスナ機は宮崎空港で給油後再び南を目指した。
 ジョーが操縦を代わろうかと一平に言ったが、夜間飛行の経験がないので結局一平が再び操縦桿を握る事になった。
 そして夜の9時を回った頃、一同は波照間空港に降り立った。迎えに来ていた車に乗り換えJBの施設に向かう。
 常時5、6人が管理する日本で一番南にある施設で、主にメンバーの休暇や訓練のために使われる。小規模だが宿泊も医療施設もある。
 「遠い所お疲れ様です」施設長の北沢が出迎えてくれた。「先ほど神宮寺君と候補生のアレン君が救助され医療部に搬送されたところです。大丈夫、大したケガはしていません」
 “よかった”と、男達が安堵の息をつく。
 「おれ達はレニールから事故当時のことを訊く」西崎が言った。「ジョーは神宮寺の様子を見てきてくれ。訊けるようなら話を訊いてくれ」
 「わかった」
 ジョーが医療部の方へ駆け出した。チラッと島内がこちらを凝視しているのが目に入ったが今は無視した。
 2階に上がるとすぐ医療スペースに出た。北沢に教えられたとおり右側の廊下を進む。と、
 「おばさん・・・」
 「ジョーさん・・・」
 薄暗い廊下のソファには神宮寺の母、和美が座っていた。
 「どうして、ここへ・・・?」
 「森さんが知らせてくださったの。ちょうど沖縄で踊りの会があって、そこへ」
 「・・・・・」いつもならケガや入院をしても親元まで知らせが行く事はない。なのに今回はなぜ・・。それほど重症なのか。「あの、神宮寺は・・」
 「打ち身と切り傷で大した事ないそうよ。今もう一人の方と処置室に」
 和美が横ドアをチラッと見た。ここが処置室なのだろう。
 「よかった」
 ジョーは息をつきソファに腰を下ろした。7時間にわたるコ・パイの緊張はやはりきつい。しかし奴が無事なら─。では、なぜ和美に?
 「気を遣ってくださったのね」ジョーの疑問がわかったのか和美が言った。「このところケガ続きのようだし、今度の日曜の事もあるし」
 その言葉に、“ああ、奴はほんとにミアイっていうのをするんだ”とジョーは思った。
 「ねえ・・ジョーさん」呼ばれ、ジョーが隣に座る和美に顔を向けた。「力さんはまだこの仕事を続けるのかしら」
 「え?」一瞬、何を言われたのかわからなかった。「それはどういう─」
 「この仕事があなた方若い人の力で支えられているのはわかっているわ。でも万一の事を考えると、若いあなた方がキズを負うのは─」
 ふと、口ごもる。しかしジョーには和美の言いたい事はよくわかった。
 国際警察の仕事に就いているのはごくわずかな人間だ。少数精鋭といってもいい。皆、年若いがどこの警察組織にも決して劣らない、いやそれ以上の働きをしている。
 日本の、そして世界の平和を守るために彼らは立派に役目を果たしているのだ。
 しかしその分ケガを負う事も多い。特に神宮寺はこの2ヶ月の間に爆発による火傷、ドイツやフランスでの銃創、そして今回のセスナの事故─。和美が不安に思うのも当然だ。
 「あの子は弁護士になりたいと勉強していたわ。なのになぜ─」
 「・・・・・」ジョーは神宮寺を羨ましく思った。もちろん場違いなので口には出さなかったが、「それでミアイを勧めたんですか。結婚させてこの仕事を辞めさせるために」
 「いいえ、お見合いの話は偶然なの。でもその話があったから、そう思うようになったのかもしれない。私達にはもう子どもはあの子しかいない。危険な事をしてもらいたくないの。今まではケガだけで済んでいるわ。でももし─」     
 「おばさん」
 「あの子はまだ若いわ。今からだって充分他の事ができる。弁護士だってパイロットだって、いいえ、お店の店員だっていいわ。国際警察より安全な仕事なら」と、再びジョーに目を向ける。「それはあなたにだって言えるのよ、ジョーさん」
 「おれ?」
 ジョーが驚いたように目を見開く。
 「・・・おれは、いいんです。親いないし・・」なぜか微笑が浮かぶ。「おれがいなくなっても、悲しむ奴はあまりいないだろうから」
 鷲尾や幸子は悲しんでくれるだろう。神宮寺や一平達も付き合い長いからな・・・。西崎や立花は?高浜に樋口、森チーフ、榊原さん・・・。あれ?自分が思っていたより、だんだん多くなっていくぞ??
 「そんな事ありません。それにたとえ一人でも悲しんでくれる人がいるのなら、あなたは生きなければならないのよ」
 「おばさん・・・」
 ─Ich liebe kleiner Gerge─
 ─あんな事するなよ、二度と・・・─
 何人もの想いがジョーを押し包む。この慣れない感覚に途惑った。と、
 「ジョー、神宮寺の話は─」
 廊下の向こうから西崎が顔を出した。和美に気がつき、驚いて頭を下げる。
 「いや、まだだが─」
 「レニールから話が聞けた。やはり何者かに銃撃を受けたらしい」西崎の言葉に和美が息を呑む。「ミーティングをする。来てくれ」
 「くそォ、誰がそんな事を」ジョーが立ち上がり処置室に目を向けた。「彼らをこんな目に遭わせた奴を絶対に許さねえ。必ずとっ捕まえて─」
 ふと和美と目が合った。彼女は何も言わず、だが哀しそうな目でジョーを見ている。
 (幸子ママ・・)
 フランスにいた時、パリで強盗を捕まえた事がある。つい動いてしまったのだが、強盗を地面に転がした後自分を見ていた幸子の目が今の和美のそれと同じだった。
 驚きと哀しみの瞳。
 自分の言動が、彼女達を哀しませている。だが、
 (彼女が見ているのは神宮寺だ。おれじゃない)
 そう思い和美の目を振り切る。
 「神宮寺を頼みます」
 和美に言い、ジョーは西崎の後に続いた。
 他にどうしようもなかった。


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