コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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ワルサー・嘆(な)く 1

  『9ミリパラベラム弾、弾丸一致、弾溝一致、登録番号2012、アサクラ氏本人のワルサーP38コマーシャルと断定』ジョーの目が文字を追う。『被弾状態、ジュゼッペ・アサクラ─』『─カテリーナ・アサクラ、左胸に一弾─』『ジョージ・アサクラ、右腕に一弾─』
 ふいにジョーの体がビクンと跳ねた。サイレントモードにセットしておいたスピードマスターが振動したのだ。洸からだ。
 『ジョー、神宮寺や西崎達と食事に新宿に出るけど、行く?』
 「いや・・・おれは─」
 『仕事はもう終わったんだろ?行こうぜ。立花が良い店見つけたって』
 「・・・・・」
 『ジョー』神宮寺に代わった。『お前、また・・・』
 「おれ今日パスだ。やりたい事があるし」
 『ジョー』
 「わかってる」神宮寺の言葉が続かないうちにジョーが言った。「おれは・・ただ自分の中で納得したいだけなんだ」
 静かに通信機を切った。

 「付き合いの悪いのは相変わらずだなァ」勝手に切られた通信に苦笑しながら洸が言った。「最近少しは皆と一緒に行動するようになったと思ったのに」
 「神宮寺」西崎だ。「この頃、ジョーが第2資料室に入り浸りって本当か」
 「ん・・・」
 神宮寺の答えに、洸以外の男達が足を止めた。
 「あんなファイルだらけの所にいて、何が楽しいのさ」
 遅れて洸が立ち止まる。彼は数ヶ月前のあの騒動を直接目にしていない。
 「そんな物見たって辛くなるだけだろうに・・・」立花が呟く。
 彼も子どもの頃に両親を凶行で失っている。心情的にはジョーに最も近い。
 「あいつ、辛い事があっても口にしないからな」エレベータのボタンを押し西崎が言った。「仲間にも友人にも頼らず・・・。そりゃ耐えられるうちはいいさ。でもそうじゃなくなった時、あいつはどうするんだろう」
 「ぼくなんかすぐ頼っちゃうもんね?」洸がゴロゴロと西崎に擦り寄った。「今月ピンチだし?、でも今日おいしい物食べたいし?」
 「・・・こーいうのもヤダけどな」西崎が片手で洸をグイッと押しやる。
 「でも本当に困った時は頼ってほしいな。友達だもん。力になれるかどうかわからないけど─、でも頼っていいよね?辛い事話すだけでも・・いいよね?」
 「─そうだな」
 小さく息を吐き、神宮寺が呟いた。

 「くそォ、千葉県警め。大口叩いたわりにはドジ踏みやがって」車から出たとたん夜風が身に沁みた。海のそばなので風が冷たい。「だから最初っからおれ達に任せておけばよかったんだ。それを─」
 「文句は後だ。行くぞ」
 神宮寺が走り出し、チッと舌を鳴らしたジョーが続く。
 彼らは今、千葉港新浜町の岸壁そばにいた。
 5日前、JBと千葉県警にICPOからひとつの情報がもたらされた。
 世界各国の暴力団やマフィアと取引のある組織が、千葉港で日本の暴力団相手に大量のヘロインの売買を行うという。森チーフはダブルJに内偵と現行犯でも逮捕を指令した。
 ところが、千葉県警が横ヤリを入れてきたのだ。
 最近千葉県警は港専門の捜査及び摘発部門を新設したばかりだ。そこへ今回の情報である。実戦を重ねたいので、こちらに任せてほしいと言うのだ。
 当然、森は異議を申し立てた。実戦を積みたいのはわかるがこれは訓練ではない。まだ経験不足の警官達では不安である。もし失敗して、町に大量のヘロインが流れ出る事になったら─。せめてダブルJとの合同捜査にすべきだと。
 しかし千葉県警はその意見を突っぱね─そして見事に失敗した。
 取引場所を特定し現場を押さえたまではよかったが、主犯格の何人かを取り逃がしてしまったのだ。またヘロインも予想していた量よりは少なかった。
 千葉県警に協力を拒まれても手を引くわけにはいかないダブルJは、遠巻きにその様子を見ていた。このままスムーズに行けば出て行く意思はなかったのだが、現場から逃げ出した組織や暴力団の面々を目にしては放っておくわけにはいかない。2人は暖かい車内から飛び出した。
 「逃走したのは3人だな。残りのヘロインを他に移されると面倒だ」ふと目の前にそそり立つ壁を見上げる。「リサイクルセンターに入り込まれても面倒だな」
 「こんな高い壁、乗り越えられねえぜ。─おっ」
 前方からパンパンと乾いた銃声が聞こえた。駆けつけると10数人の私服や警官がバタバタ騒いでいる。犯人を追っていたものの見失ったらしい。
 「邪魔だなァ」
 悪舌をつく。と、彼の瞳の片隅に何かがチラッと映った。それはあっという間に走り抜けたが、向かう方向はわかる。ジョーはとっさにその後を追った。神宮寺も迷わずついてくる。
 積まれているコンテナの角を曲がると30mほど前に黒いジャンバーの男が見えた。間違いなくさっき見た売人の一人だ。
 ジョー達もだが、男もここの地理には不案内らしい。コンテナや機材に行く手を阻まれ右往左往している。
 「神宮寺、この向こうは海のようだ。分かれて追い詰めようぜ」
 そう言いジョーはコンテナの陰に消えた。神宮寺も反対側に回ろうとして─と、どこをどう間違えたのか、追っている売人の前に一人の警官が飛び出す格好になった。男と警官は縺れ合い地面に転がる。売人が警官の首に腕を回し抑えた。頭に銃口を押し当てる。
 「Stop!」男が神宮寺に向かって叫んだ。「それ以上近づくとこいつを撃つぞ!」
 「チッ」
 神宮寺が小さく舌を打った。自分でなんとかしろ、と警官を見たが彼には逃げる術がないようだ。もしかしたら初めての現場かもしれない。
 神宮寺は立ち止まり男を睨んだ。男はゆっくりと銃口を神宮寺に向ける。と、
 「であっ!」
 鋭い声と共に男の横のコンテナから何かが飛び降りてきた。ジョーだ。
 男はとっさに声の方に向かって銃を撃った。が、弾丸(たま)はジョーの髪を散らしただけだ。
 ジョーが男に馬乗りになり、そのはずみで男の手が離れた警官が転がり逃れた。
 男が、自分の体の上に乗っているジョーに再び銃口を向けた。が、その銃が弾き飛ばされた。後には神宮寺のマグナムの銃声が長く尾をひいた。
 ジョーは男の攻撃を封じるため、カラになった相手の手を掴み自分の膝頭で押さえつけようとしたが、男が体を捻りジョーを跳ね飛ばそうとした。ジョーはとっさに男の胸倉を掴み、勢いのついた2人はゴロゴロと転がった。
 「ジョー!」
 神宮寺が叫んだと同時に2人の姿が突然消え水飛沫が上がった。
 「あ?あ」彼は2人が転がり落ちた海面に目をやる。「寒いのになァ」
 呑気に呟いた時、水面が盛り上がりジョーが顔を出した
 「上げてくれ、神宮寺。こいつ、重い─」
 ジョーが、水を吸って膨れている男のジャンバーを掴み海面に引き上げた。神宮寺と警官が男とジョーを引っ張り上げる。
 「伊勢湾の次は東京湾かよ。泳ぐには早すぎるぜ」
 髪を手で跳ね上げ思わずグチった。

 「ええ、そうです。こちらで確保したのは逃げられた3人のうちの1人です。そしてそちらが1人、つまり後の1人は今だ逃走中で引き続き捜索しています」
 「そうですか」千葉県警の田口と名乗る警部を前に神宮寺が頷く。「それで確保した奴らですが」
 「それは我々に任せてください。今度は油断せずキチンと護送します」
 「─わかりました」神宮寺!と睨むジョーを制し、「ただし報告書を県警本部長経由で警察庁公安課公安3課に上げてください」
 公安3課の第2公安捜査第8係は日本の警察組織では唯一、国際秘密警察と繋がっている部署だ。ここに報告書が上がればJBのパソコンで読む事ができる。
 “はい、必ず”と田口が答えた。
 「では」
 神宮寺が軽く頭を下げ踵を返した。
 ジョーは居並ぶ千葉県警の面々に鋭い視線を向けた。
 全身ずぶ濡れで枯葉色の髪を顔面に貼り付かせ、その間から向けてくるブルーグレイの瞳の迫力に一同息を詰め身動きひとつできない。
 「ジョー」顔をわずかに後ろに向け、神宮寺が呼ぶ。ジョーが振り向き神宮寺の後に続いた。「ご同類を脅すな」
 「最後の詰めをミスるなんて甘い証拠だ。なんでこっちに全部よこせって言わなかったんだよ」
 「市ヶ谷を満員御礼にするつもりか」苦笑して答える。「いいじゃないか。あの部門はまだ動き出したばかりだ。実戦を積んで現場に出てもらえば、それだけおれ達の手間も減る。千葉だけじゃなく港全部に欲しいくらいだ」
 「だけど─」
 「それよりお前早く着替えろ。風邪ひくぞ」
 2人は停めて置いたエルグランドに戻った。
 JBの捜査車両の1台で着替えや毛布などが積まれている。内偵捜査など長期間を必要とする時、時には車内に寝泊りしなければならない。そのために最低限必要な物を揃えてある。
 今回3日ほどで済んだのは、やはり県警の捜査が適確だったからかもしれない。
 「あ?あ、このジャケット気に入っていたのにな。水をたっぷり吸っちまったぜ」
 「明日はJBに出勤前にクリーニングに直行だな」
 神宮寺が気に毒そうに、だが口元に笑みを浮かべて言った。
 現場に少量しかなかったヘロインの残りは、彼らが確保した男が保管場所を白状した。今頃は県警が押収している頃だろう。主犯格が一人逃走しているが、町にヘロインが流れ出るのを防ぐ事はできた。
 神宮寺はタオルをジョーに放ろうと彼の方を向いた。ジョーはジャケットを脱ぎ、シャツのボタンを外していた。ふと、神宮寺が眉をひそめた。
 「お前・・・銃は─」ジョーの手が止まった。「銃を持っていなかったのか」
 「・・・・・」
 ジョーはホルスタを着けていなかった。したがってワルサーも身に着けていない。
 神宮寺はさっきまで感じていた違和感の答えが今わかった。彼は警官が男に人質になった時、コンテナから飛び降りてきたジョーに多少の不自然さを感じていたのだ。
 相手は銃を持っている。飛びつくにしてもその銃を使えなくしてからの方が安全だ。ジョーに腕ならコンテナの上から男の銃を撃ち抜く事くらい簡単だろうに。しかし肝心の銃を持っていないのなら─。
 「なくてもなんとかなるものだな」
 顔を背けたままジョーが言った。いつもの彼の言葉とは思えない。神宮寺が目を見開きジョーを見る。
 「持ってなくてよかったぜ。あいつ(ワルサー)まで海水浴するとこだった」
 「─そうじゃないだろ」声色が硬い。「お前、帰ってきてから実戦で─」
 「う?寒い。ホントに風邪ひきそうだ。熱いコーヒーが飲みたい」
 「ジョー」
 「いいじゃないか。なんとかなってるんだから!」振り返り声を上げた。「それにむやみに銃を使うなと言っていたのはお前じゃないか!それなのに─!」
 「・・・お前はそれでいいのか?」
 「!」ジョーが口を閉じた。不安定な瞳を神宮寺に向ける。
 「本当に、それで・・・」
 「──」
 真っ直ぐに向けてくる神宮寺の瞳をジョーもまた見つめ返す。一瞬そのブルーグレイの瞳が揺れ、色が変わったように見えた。が、確かめる間もなくジョーが瞳を外した。
 濡れたシャツを袋の中に押し込み、別の袋から新しいシャツを出す。そしてそのままエルグランドの後部席に潜り込んだ。
 「─戻ろうぜ」神宮寺を見る事なく言った。「寒いから─」
 「・・・・・」
 神宮寺はゆっくり息を吐き、運転席へと歩き出した。

 ジョーは一人射撃場でワルサーを撃っていた。朝の早い時間だ。他には誰もいない。それを見越してこんなに早くJBに来たのだ。
 (大丈夫)
 両手を伸ばしスタンディングフォームで撃ち出される弾丸(たま)は、30m離れたターゲットを次々と撃ち抜いていく。8発連続で撃ち弾倉を換える。もう何回この作業を繰り返しただろう。
 (大丈夫。いける)
 ジョーは自分に言い聞かせるように心の中で呟く。
 帰国後、すぐに感じた違和感は消えていた。カンも取り戻した。人型のターゲットの急所に正確にヒットする。
 (大丈夫だ。もう)確信している。なのに撃つ手をやめようとはしない。(撃てる。大丈夫だ。撃てる)
 右手のみでグリップを握る。弾丸は正確にターゲットに向かう。
 何かが頭の片隅をチラッと走り抜けた。が、押し込める。
 (やっぱりこいつが1番だ)
 ワルサーより性能が良く扱いやすい銃はたくさんある。しかしジョーにとって、やはりこの銃は格別な存在なのだ。たとえ両親を死に至らしめた凶銃であっても─。
 それでも彼は撃ち続けた。
 この銃を、自分の腕を取り戻したはずなのに。もう大丈夫だと思っているのに─。それでも不安に思う。これはいったいなんなのだろう─。
 「フウ・・・」
 ジョーは息をつきイヤプロテクタを外した。目の前に被さる髪を掻き上げる。
 ブロンドでもブラウンでもない自分の髪を見て、そういえば両親はブラウン系だったなとふと思った。自分もドイツにいた頃はブロンドに近かった。が、年齢が増すごとにだんだんくすんだような色になり、洸曰く、“枯れた葉っぱの色みたいだ”に落ちついている。あと何年かしたら両親のようにブラウンになるのかな、と思い─ふと何かが頭の隅を走り抜けた。
 ─弾丸一致、弾溝─
 え?なんだ?
 ─本人のワルサーP38コマーシャルと─
 あのファイルの内容?なんで今?
 ─セキュリティの一部に不備あり─
 わかってるよ。でも
 ─右胸に二弾。カテリーナ・アサ─
 「う・・・」
 ジョーは壁に体を預けた。そのまま崩れそうになる膝を気力で懸命に支える。熱の塊が全身を包んだ。
 「な・・なんで・・・」
 声が絞り出る。が、その状態はそう長くは続かなかった。
 足に力を入れ体を起こす。スラリとした長身が起き上がった。スッと上がった顔はいつもの精悍なジョーの眼差しだ。
 彼は手の中にあるワルサーを見つめ、今までと同じ動作で弾倉を換える。射撃位置に立ちワルサーを持つ右手をターゲットに向けてスウッと上げた。指がトリガーに掛かる。
 そんな彼の様子をガラス窓で隔てられた廊下から2人の男が見ていた。神宮寺と西崎だ。
 彼らは別々にここへ来た。
 駐車場にジョーのセリカがあったのに部屋にいなかったのでまた第2資料室かと思った神宮寺だが、森がまだ出勤していないと知った。第2資料室には森の許可がないと入れないのだ。
 昨夜の事もあったので射撃場かと来てみると、そこで一人ワルサーを撃っているジョーを見つけた。と、中に入りそこなっている西崎も─。
 “練習に来たんだけど、なんだか入りづらくて”
 連射するジョーの気迫に、どうしてもドアを開けることができないという。
 「なんか・・・辛そうな撃ち方だな」西崎がポツリと言った。「ジョーの射撃って迫力はともかく・・なんて言うか・・、一種の芸術に似ているというか・・。見てて、なんて見事なんだろうって見ている者を楽しませてくれたけど、今は自分の中に置いておけない物を強引に外に追い出しているような・・・、それでもまだ残っていて・・・」
 うまく言えないけど、と苦笑する西崎の言葉を、だが神宮寺は笑わなかった。
 「何をそんなに我慢しているんだろう。辛い事や苦しい事があるんなら君に相談すればいいのに。いやおれにだって立花にだって─。なのにあんなに片意地張って・・・自分に負荷をかけて─」
 「そうしなければ、あいつは立っていられないのかもしれない」
 「時にはイスも必要だろ。立ちっ放しではいられないさ」
 「立つために必要なのはイスじゃない。自分自身の足だ」
 「立ち続けるためには、イスも必要だ」
 「─そういう生き方をしてこなかったんだ」神宮寺の言葉に西崎が口を閉じる。「あいつのイスになってくれる人間は周りにたくさんいる。だけど─」
 以前、鷲尾が言っていた事を思い出した。
 「1人で生きるって決めた時からあいつは─」
 神宮寺の腕のリンクが鳴った。森からで、至急7階のチーフ室にくるように、との事だ。
 「わかりました。今、射撃場なので─」
 ふいに言葉が切れた。射撃場を出て来たジョーと目が合った。彼はそこに2人がいた事に驚いた様子だった。一瞬眉をひそめ2人に鋭い視線を向けた。が、すぐに目を伏せ2人の横を通り抜けた。
 『神宮寺君、どうした?』
 「あ、いえ、なんでも─。すぐ行きます」
 神宮寺は通信機を切り、2人はジョーの後を追うようにエレベータに向かった。


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