コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

ワルサー・嘆(な)く 2

 「囮?」2人が声を上げた。「昨夜の取引は囮だったというんですか」
 「千葉県警はそう言ってきている」大きなデスクを回り、森は2人が座っているソファの前に腰を下ろした。「奴らが吐いたヘロインの場所に入ってみたが、そこにあったのはとてもヘロインとはいえない、精製に失敗したような粗悪品だったそうだ。そんな物はどこも買わないだろう。そこでもう一度奴らを叩いたら、まったく違う場所でもう一つの取引があったらしい」
 「取引はもう終わってしまった、と」神宮寺の問いに森がそうだ、と頷く。
 「チェッ、つまり千葉県警はうまく騙されたというわけだ」前髪を掻き上げ、ついでにカシカシと掻き回しながらジョーが毒づく。「道理で奴らを見つけるのが早いと思ったぜ。最初っから騙すつもりなら向こうから情報を流してくれる。いいツラの皮だ」
 「県警は今、逃走した一人と、本当の取引相手の捜査に入っている」
 ヤレヤレ、と舌を打つジョーをジロリと睨み森が続けた。
 「この事件はすでに我々の手を離れている。後は千葉県警が始末をつけるべきだが」言葉を切った森に2人が目をやる。「そうも言っていられないので、協力する事になった」
 ジョーが不満そうな顔を向けてきた。もちろん無視する。
 「ただし捜査ではなく、奴らの護送を受け持つ。千葉港署から成田空港までだ」
 「護送も自分達がやるって言ってたぜ」
 「まだ確認が取れていないのだが」森が再び鋭い視線をジョーに向ける。ジョーは口をへの字に曲げて黙った。「この護送車を奴らが襲うという情報も入ってきている。そこで君達にも協力してほしいそうだ」
 「千葉港から成田までなら40キロくらいですね。空路を使った方がよいのでは」
 「県警の狙いはこの時の襲撃者の確保にもある」なるほど、と神宮寺が頷く。「奴らは成田から直接アメリカに送られFBIが引き取る。もちろんこちらも間違いがあってはいけない」
 「欲張りなこって─」ゴホンと咳をしジョーが呟いた。
 「護送車が港署を出るのは午後の2時だ。すぐに向かってくれ」はい、と2人は立ち上がり部屋を出て行こうとした。と、森がジョーを呼び止めた。「銃は携帯するように」
 「!」
 ジョーが体ごと振り向き森を見た。その目をチラッと相棒に移す。だが神宮寺も驚いたように森を見ていた。
 「わかったな」
 「─はい」小さく返事をし部屋を出て行った。
 「チーフ」
 「頼むぞ。行ってくれ」
 さっきまで厳しい目付きでジョーを見ていた森だが、神宮寺に向ける視線はいつもの穏やかな彼の目だった。
 「はい」
 再び返事をし神宮寺はジョーの後を追った。

 千葉へは捜査車両の一つ、アテンザセダンで向かう事にした。
 ジョーはセリカで行きたがったが、護送という仕事柄あまり目立たない方が良いと神宮寺が押し切った。それに対していつもなら何か言うジョーも、今日は何も言わず運転席についた。が、何か問いたげに神宮寺をチラと見る。しかし結局口にはせずアテンザはJBの地下駐車場をゆっくりと出た。
 「本当に護送車が襲われると思うか」ポツリとジョーが言った。
 「どうだろう。確保している奴らの中には幹部もいるようだから、取り戻すためならやるかもしれないな」神宮寺がPCナビを入れ渋滞状況を確認する。「そうだ、食堂で昼食用にサンドイッチを作ってもらったんだ。食べるか?」
 「いや、今はいい」
 「ヘタすると昼を食いっぱぐれるぞ」ガサガサと包みを開ける。が、その手を止めて、「お前、少し顔色が悪いな」
 「そうか?」
 思わず顔に手をやる。が、触って顔色がわかるわけはない。
 「咳もしていたし・・・。大丈夫か?」
 「大丈夫さ。なんせチーフと相棒から銃を使えとお墨付きを貰ったんだからな。たっぷり使わせてもらうぜ」
 「チーフも知っていたとは・・・。さすがというか恐ろしいというか」
 「フンッ」
 ジョーは鼻を鳴らし前方を睨みつけた。
 彼らが千葉港署の裏門に着いたのは1時40分頃だった。
 打ち合わせは車内で済ませてある。指揮官は田口警部だ。
 ダブルJは護送の車列には入らず、少し離れた位置から見守る事になった。
 港署の裏口には護送車がピタリとつけられている。確保された容疑者は全部で12人と聞いていた。
 「あと15分で出発だ」ふと、ジョーに目をやる。「本当に大丈夫か?」
 「・・・ん」かすかに返事をするジョーは、ステアリングに腕を乗せ体を前に倒し、短い呼吸を繰り返していた。「ちょっと眠いだけだ。走り出したら目が覚める」
 「代わるか?護衛が居眠り運転なんてシャレにならないぞ」
 「大丈夫だって言ってるだろ。─おっ」裏口からゾロゾロと男達が出て来た。「奴ら、乗り込んだぜ」
 エンジンを掛けて待つ。
 やがて大型の護送車とその前後に2台づつのパトカー、さらにその後ろにカローラがついて裏門を出た。
 「目が覚めたぜ」
 距離を置き2人の乗るアテンザも後ろについた。
 千葉バイバスの穴川ICから宮野木JCTを経由して東関東自動車道に入る。ここから成田までは一本道だ。交通規制はしていないが都内の高速道路に比べれば交通量は少ない。
 「成田ICの手前1キロくらいで渋滞が見られるな。後はスムーズだ」
 ジョーの返事はない。いつもの運転スタイルでカローラとの間を一定に保っている。時々ギアを繰る手が途惑う。オートマはやはり運転しずらいようだ。
 「神宮寺」チラッとバックミラーを見て、「20m後ろのオデッセイだが」
 「ん・・・」もちろん神宮寺も気がついていた。「穴川ICからずっと後ろにいるな」
 だからといって奴らの仲間なのかどうかわからないが、Sメンバーとしてのカンが2人に注意を促している。
 「それとその横のストリームも気になるんだが・・・」
 「え?そうか?」緊張のせいかジョーの声がかすれた。「気がつかなかったぜ」
 が、意識の中に捕捉しておこうと思った。
 なぜかしきりに喉が渇く。ミネラルウォーターのキャップを口で開け、半分ほど飲んだ。が、むせたのかゴフッと水を吹き出した。
 「お、おい」激しく咳き込むジョーの手からペットボトルを取り、背中を叩いた。「なにやってるんだ。あ?あ、またジャケット濡らしちまって」
 「わ、悪い」喉をゴホンと鳴らし、手で口を拭う。「あ?、びっくりした」
 「こんな時にお前が落ちつかないのも珍しいな」苦笑する神宮寺にジョーは口元をまげてそっぽを向く。「と、言っているうちに富里だ」
 道際の標識が見えた。。この次が成田ICで、そこで車列は右折して新空港自動車道に入り成田空港─新東京国際空港に向かうのだ。
 「─え?」
 突然、もの凄いスピードで2人の乗るアテンザを2台のトラックが追い抜いていった。5トンくらいのドライバンだ。2台はパトカーも追い越し護送車を左右から挟み込もうとしている。
 「くそォ、どこから湧いてきやがったんだ!」
 「オデッセイに気を取られすぎたな」
 と、彼らの後ろを走っていた2台のカローラがアテンザを追い抜かした。先行しているカローラと同じ、港署の車だ。
 3台のカローラがトラックに迫った。クラクションを響かせる。だが護送車を左右から挟んだトラックはビクともしない。
 やがて護送車の前後に2台づつ付いていたパトカーのうち1台づつが前方と後方にむかう。緊急の事態に備えるため交通規制を行うつもりらしい。
 「このままでは右折できないな」
 神宮寺が呟いた時、3台のカローラがトラックのタイヤ目掛けて発砲を開始した。だが彼らのSIG?P230では威力が小さくなかなか当たらない。
 「ジョー、トラックの後ろに付けてくれ」
 「ラージャ!」
 ジョーがアクセルを踏み込みアテンザが飛び出す。あっという間にカローラを追い越した。
 「邪魔だ!どけ!」
 叫ぶと同時に車をスライドさせカローラとトラックの間に入り込む。とっさにブレーキを踏んだのか、1台のカローラが後ろに下がった。アテンザの勢いに後の2台もわずかに後退する。
 「キープだ」
 神宮寺が窓から半身を出し、マグナムで前方のトラックの後輪を撃ち抜いた。キキーッ!とハデな音をたて護送車のそばから外れた。
 「下がれ!邪魔だ!」運転席側の窓を開け、ジョーがカローラに向かって叫ぶ。「わからねえのかよ!くそっ」
 ジョーが強引に車をカローラに寄せた。ぶつかりそうになりやっとカローラが下がった。その位置に、つまりもう1台のトラックの後方にアテンザが付いた。
 「まずいぜ、神宮寺。成田ICが見えてきた」
 「もう少し、寄せてくれ」神宮寺のマグナムがトラックの後輪を狙う。と、「うっ!?」
 「わっ!!」
 2人が同時に声を上げた。なんとトラックの荷台のアルミの壁がこちらに向かって倒れてきたのだ。
 ジョーはとっさにブレーキを踏みアルミ板の攻撃を避けた。が、後方に下がっていたカローラは反応が遅れ、減速なしでアテンザの後部に突っ込んできた。
 「うっ!」弾みで車は押し出され防音壁にぶち当たった。エアバックが作動した。「なんてドジだ!」
 ジョーがエアバックに八つ当たりする。
 「出よう」シートベルトを外し神宮寺が車外に出る。見ると道路には2人の車を止めたアルミ板が落ちていた。「トカゲのしっぽだな」
 「感心してる場合じゃねえぜ。護送車が成田ICを通り過ぎた」
 右側をピタリとトラックにつけられている護送車は右折できず、そのまま直進していく。
 ジョーは道路の真ん中に飛び出し、難を逃れたもう1台のカローラを止めた。
 「降りろ」
 車内の私服警官を引きずり出し自分が運転席に着いた。助手席に神宮寺が滑り込むと同時に発車する。今、護送車に伴走しているのはパトカーが2台と田口警部が乗る白いカローラのみ。早く追いつかなければ。
 「このまま行くと鹿島だな」神宮寺が言った。「奴ら鹿島港に船でも待たせておいて、そこから逃走するつもりなのか」
 「港?なんかイヤな予感がするなァ」
 ジャケット脱いでおこうか、とジョーが呟く。
 2人はもちろんだが、港署も奴らを鹿島まで行かせるつもりはない。
 田口達の乗るカローラが、並んで走るトラックと護送車の前に出た。よく見るとトラックの助手席から男が銃を護送車の運転手に向けていた。少しでもスピードを上げるか下げるかしたら連射されるだろう。
 トラックの前に出たカローラは後輪を滑らせ横向きになり、トラックを止めようと車体をぶつけてきた。
 「無茶な奴だ!」
 トラックのスピードは衰えない。しかし車体が左右に揺れ、わずかに安定感を失っている。そのトラックの後輪を神宮寺が撃ち抜く。トラックはさらに車体を揺らし、左側の護送車にぶつかって横転した。と、その勢いでズーと横滑りした護送車もハデに横転し、ひしゃげた後部から何人かの男達が飛び出してきた。
 「奴らが逃げる!」
 2人は銃を手に車を降りた。
 交通規制が遅かったせいもあり、道路にはまだ一般車両がいた。2台のパトカーが先導して現場から遠ざけようとしている。高架道なので大怪我を覚悟でなければ飛び降り逃げるのは難しいだろう。
 現場は車を盾にした銃撃戦になった。
 だが奴らの襲撃を予想していた港署は、田口警部と共にカローラを降りた機動捜査員とが奴らの集まる所に催涙弾を撃ち込んだ。パムッ!と破裂音が響き白い煙が噴き出した。奴らが口や目を押さえ右往左往している。と、そこへ突然オデッセイとストリームが飛び込んできた。護送車から逃げ出した男が1人、オデッセイに乗り込み発車した。ストリームはその場に残り応戦にまわるようだ。
 「ジョー!」
 神宮寺が呼ぶ。ジョーは彼がエンジンを掛けたカローラに飛び乗った。
 交通規制の効果がやっと出たのか一般車両はみな路肩に寄っている。
 オデッセイとカローラはスピードを上げ爆走する。
 ジョーの腕ならこの速さでも前車のタイヤを撃ち抜く事は難しくない。だがヘタをすると相手はコントロールを失い防音壁にぶち当たるかもしれない。
 「仕方がない。奴らの手を使わせてもらおう」神宮寺がグッと前方を睨みスピードを上げオデッセイの右側に着こうとする。「ジョー」
 「わかってる」
 彼の意図を察したジョーが胸のホルスタからワルサーを取り出した。口元を引き締め一瞬目を眇めた。が、すぐに前方を向く。
 オデッセイとの距離がみるみる縮まり横に並んだ。そのまま左にスライドさせる。オデッセイを防音壁に追い詰めて止めるつもりだ。
 オデッセイの車体がキキキ・・・と鳴り火花が飛んでいる。しかし止まる様子はない。ジョーが窓を開け両手で握ったワルサーの銃口をオデッセイの運転席に向けた。
 「Stop!Halten!Sarreter!(止まれ)どれが通じる!?」
 思いつくまま叫ぶがオデッセイは止まらない。と、後部席の窓が開き男が銃を撃ってきた。カローラの車体に当たる。
 「神宮寺、かまわねえからぶつけちまえ!」
 「─そうするしかなさそうだ。見ろ」
 え?、とジョーが前方を見た。パトカーの赤い回転灯と一般車両が止まっているのが見えた。渋滞か、まさかここまで来るとは思わなかったのか。
 「あの中に突っ込むわけにはいかないな」
 神宮寺がステアリングを大きく左に切った。オデッセイの車体に当たり、左の防音壁へと押し付ける。
 普段は安全運転の鏡のような彼だが、いざという時はジョーより荒っぽい手を使う。
 壁に押し付けられたオデッセイのバンパーやライトが壊れすっ飛んでいく。と、タイヤがバーストしたらしく、オデッセイのスピードがわずかに落ちた。ガクンと車体が下がり、後部が右に振られた。その勢いで、ピッタリくっついているカローラの車体が跳ねる。
 「ちっ!」
 神宮寺はそれから逃れようとしたが、オデッセイはカローラを巻き込んで二つ巴のようにクルクル回転した。こうなればどんな腕を持っていてもカローラを止める事はできない。せめて一般車両に突っ込まないようにブレーキを踏みしめ、少しでも前で止めようとした。
 ガシャンガシャ!とハデな音をたて─やがて2車は止まった。
 ひしゃげたカローラの助手席のドアの間からジョーが放り出された。が、予想していたのでうまく道路に転がる。
 「あいつ、人の事言えねえぜ」
 ジョーが唸る。と、オデッセイから銃を手にした男が1人出てくるのが見えた。護送車から乗り移った男だ。男はジョーを見ると走り出した。
 「神宮寺!」
 声を掛け、男の後を追う。途中オデッセイの中を見たら、あと2人乗っていたがのびていた。
 「Stop!Do not come!(くるな)」
 と、言われてもそういうわけにはいかない。
 パトカーの警官が向かってくる男に気がつき銃を抜いた。と、男は警官に銃を向け発砲した。1人倒れる。続いてもう1人が腕を押さえた。
 「ヤロウ!」
 ジョーは両手でワルサーを握り男に狙いをつけた。
 ─パラベラム弾─
 え?
 ─登録番号─
 な、なに?
 ─本人のワルサーP38コマーシャルと─
 や、やめろ。なんでこんな時に
 ─右腕に一弾─。
 「つっ!」
 男の撃った弾丸(たま)がジョーの腕を掠った。が、トリガーに掛かる指を引く事ができない。
 ジョーが撃ってこないと見ると、男は体を翻し一般車両が止まっている方へと再び走り始めた。事の成り行きを車外で見ていた人が一斉に車に乗り込む。が、固まって止まっているので発進させる事ができない。
 「だ、だめだ。あのまま行かせては」ジョーがもう一度ワルサーを向ける。─が、その時、辺りに轟音が響いた。 「神宮寺・・・」
 かすかに顔だけを向けると、マグナムをかまえた神宮寺が立っていた。足を撃たれた男が倒れ、残っていた警官が取り押さえる。
 「・・・・・」
 神宮寺は銃をホルスタに収めジョーに目を向けた。彼は神宮寺を見つめ、やがて顔を少し上げるとまぶたを閉じた。


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