コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

ワルサー・嘆(な)く 3

 千葉県警の護送車が到着した。護送人数が増えたので2台になった。道路上では交通課や事故処理班が壊れた車両の片づけをしている。
 ジョーは、負傷した警官と共に病院に搬送されるのを断り、防音壁に寄り掛かったままボウッとその作業を見ていた。
 射撃場では正確に撃てたのに現場ではトリガーを引く事ができなかった。なぜだかわからない。もう大丈夫だと思っていたのに─。
 いや、今はそんな事も考える事ができない。取り戻していた自信が、確信が、自分の中で崩れていく。
 「ジョー」
 さっきまで田口警部と話していた神宮寺が県警から借りたシルビアのドアを開けながら彼を呼んだ。
 壁から体を起こし助手席のドアを開ける。一瞬、神宮寺に目を向けるが結局何も言わず車内に滑り込んだ。
 「では、警部」
 お疲れ様でした、と笑顔を向ける田口に軽く頭を下げドアを閉めた。
 逃げ延びているのは昨夜の1人だけになったが、もう県警の仕事だ。
 シルビアは大栄ICまで行き、一回自動車道を降りると再び登り線に乗った。
 ジョーは田口に声を掛けられても、指定席の運転席を追いやられても何も言わなかった。シートに体を預け、目を瞑ったまま身動きもしない。
 「ジョー」神宮寺が再び声を掛ける。「いつからだ?」
 「──」ふと、顔を上げた。
 「いつからこの状態が続いてる?」
 「・・・・・」
 「日本に戻ってきてから、ずっとか?」
 神宮寺の声はあくまでも穏やかだ。それゆえジョーには何も言う事ができない。
 ふと窓から外を見ると、下り線に置いてきたアテンザを回収しているJBの事故処理班の車両が見えた。すぐに後方に過ぎていくそれをジョーの目が追う。
 「いいかげんに、ちゃんと話せ」
 「・・・・・」
 かすかに唇を開くがすぐ閉じられた。下唇を噛みしめる。
 「同情でも叱咤するつもりもない。ただコンビとして状況を知っておきたい」
 突然ジョーが振り向き神宮寺に目をやった。ブルーグレイの上目使いの瞳が相棒に鋭い光をぶつけてきた。
 神宮寺はちょっと途惑ったように前方に目を向けた。
 東京に帰り着くまで、結局ジョーの口が開かれる事はなかった。

 「よお、一平」
 「久しぶりだな」
 「やっとご帰還かい」
 「ああ、アメリカでも田舎の結婚式は長くていけない」
 チーム1のメンバーに、一平が笑顔で答える。
 彼はここ数週間、故郷のアメリカ、ミネアポリスに帰っていた。3才上の姉の結婚式に出席し、ロサンゼルスの警察局でプロファイリングの研修を受けてきたのだ。
 「で、どんな男なんだ?君の義兄になったのは?」立花が訊いた。
 「うちの牧童頭でね。父さんの右腕さ。でかい奴でさ、柵の中に入ったら、どっちが牛だか義兄だかわからなくなる」
 ひどいなァ、姉さん取られたんだもんな、と皆に笑われた。
 「あ、神宮寺」通りがかった彼に声を掛けた。「留守中事件があったみたいだね。悪かったよ。もっと早く帰ってくる予定だったんだけど」
 「研修が入ったんだろ。仕方ないさ。洸と3人でなんとかなったし」
 「ところで、ジョーは?今日はまだ会っていないんだ」
 「何か用か?」
 「アメリカで発売された銃のカタログを頼まれたんだ。こういうのはアメリカが一番早く情報を出すからね」
 ちょっと複雑な表情になる一平に、
 「銃、替えるのか?ジョー」西崎が訊いた。神宮寺も一平もさあ、と首を振る。「替えた方がいいかもな・・・」
 ここ何週間の射撃場でのジョーの姿を知っている西崎が呟いた。立花も神宮寺を見る。彼も知っているのだろうか。
 「よかったら預かっておくぜ、一平」
 「そう?じゃあ頼むよ」一平がカタロクの入った包みを神宮寺に渡した。
 「で、ぼくにお土産は?」洸が首を伸ばす。
 「子どもじゃあるまいし、なんでお前に土産がいるんだよ」
 「ジョーにはあって、相棒のぼくにはないの?」
 「ジョーからは代金貰ってるよ」
 「冷たいなァ、一平。コンビ解消してやるぞ」
 「土産買ってこないから解消するコンビってどんなのだよ!」
 いつもの2人のやり取りに笑い声が起きた。それを訊きながら神宮寺はエレベータのボタンを押した。
 7階のチーフの部屋へと向かう。

 暑くて寝苦しい。いや、暑いのは部屋の中ではなく─。
 ─2012、アサクラ氏本人の─
 ああ、まただ。なんだって今になってこんな事を思い出すんだ。
 ジョーは体をベッドに預け、もう何時間も同じ時の中にいた。
 もはやどこまでが夢なのか現実なのかわからない。
 体が熱く胸が痛い。ここは自分の部屋だと思うが、はっきりしなかった。
 ふと目を開けた。体を起こそうとしたが咳き込み再びベッドに体を預けた。
 ─ジュゼッペ・アサクラ、左胸に二弾。右足に─
 わかった。わかったからもう眠らせてくれ・・・。
 ジョーの意識は何度目かの闇に落ちる─。

 「3日?3日もジョーと連絡が取れないのか?」
 「はい」神宮寺はソファに腰を下ろしながら言った。「ホットラインも一般回線もスピードマスターにも出ません」
 「切っているのか?」森も神宮寺の前のソファに座る。
 「いえ、呼んでいるんですが・・・」
 うーん、と森がアゴを撫でた。
 ジョーはマイペースで自分勝手なところがあるが、仕事に関しては責任感は強い。たとえ何日も出勤しなくても電話に出ないという事はなかった。
 「この前の仕事の時、ちょっと具合悪そうにしていたんです。海に飛び込んで、その後濡れたままで長い時間いたので風邪をひいたのではないかと」
 「そういえば以前にも同じような事があったな」え?、と訊きかえす神宮寺に、「4年前、ジョーがJBに入隊して一人暮らしを始めた頃だ。射撃場が気に入って毎日熱心に通っていたのにある日3日ほど顔を見せなくなってね。なんの連絡もないし。そこで元麻布に人をやってみると高熱を出して寝込んでいた」
 「誰にも、何も言ってこなかったんですか?」
 「ああ。その3日間の記憶はないそうだ。今回もまた─」
 「でも4年も前の事でしょ?4年経ってもあいつの精神構造は変わっていないと?」
 「・・・変わっていると思うかね?」
 「・・・・・」即答できない。それどころか、有りうるかもと思ってしまう。「とにかく麻布に行ってみます。何かあったらリンクに入れてください」
 「神宮寺君」出て行こうとする彼を森が止めた。「ジョーはワルサーの件をうまく処理できていないようだ。私が訊くより君が訊く方がいいだろう」
 「どうでしょう」ちょっと口元を歪める。「ますます口を閉ざすような気がします」
 「それでも」森が真っ直ぐに神宮寺を見る。「力になってやってほしい。彼は自分から手を延ばすのは苦手だから」
 そうですね、と頷いて神宮寺は出て行った。

    
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