コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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走り続ける者 1

  「もう、こんな時間か」
 ジョーはタオルで髪をカシカシ引っ掻きまわし、そのタオルを首に掛けたまま、パンドウカンパーニュを厚めに切り、トースターに抛り込んだ。
  幸子(ゆきこ)がフランスから送ってきたもので、大きなハムの塊りなど食料品の他に洋服も入っていた。
  仕事が続き、買い物にも行かれなかったジョーにとって、時々届く幸子からの荷物はありがたかった。
  JBに行けば食堂で食べられる。独身者が多いせいか、JBのメニューは和食、洋食、ダイエット食まであり充実している。
  しかし今日のように1日オフの時は、近くに外食に出るのもおっくうになる。
  だが今日は、洸と出掛ける約束になっていて、あと30分もすれば迎えにくるはずだ。いい所に連れて行くと言って、強引に同行の約束をさせられたが、いったいどこに行くのだろう。西崎もくるというし、人数が1人足りないと言っていたから、
   「合コンかな?」 
   ジョーはチラッと思った。場所が横浜というのもソレっぽい。
  コーヒーをカップに移す。こんがり焼き上がったパンドウカンパーニュに厚く切ったハムを乗せて頬張った。
  目は幸子が送ってくれた洋服に向いていた。

  「今日はいつもと違うね、ジョー」洸が言った「デートするみたいだ」
  「・・・こんな事だろうと思った」
  目の前を走りまわっている子ども達を見ながら、ジョーがため息をついた。 
   「洸だもんなぁ、これが一平だったら違ってただろうけど」
  「あれ?ジョーを誘う時、言わなかったのか?」西崎が洸を見た。
  「ん~、どうだったかなァ」洸が唸る「でもいいじゃん。日本代表の国際試合だぜ 。おまけにメインスタンドの1階!ここ取るの苦労したんだから~」
  ここ、新横浜にあるニッサンスタジアムでは、サッカー日本代表の国際試合が14 時04分から行われる予定だ。
  新監督になってまだ間がないチームという事もあり、サッカーファンはその動向を 見ようと、スタジアムに押しかけている。
  約7万2千人入るスタンドのチケットはほぼ完売だそうだ。
  「で、日本代表って、こんなガキ供なのか?」
  「ンなわけないじゃん。これは前試合。横浜少年サッカー大会の決勝だよ。それか らもう1つイベントがあって、そのあといよいよー」
  「まだ2時間もあるのかよ。代表ならともかく、ガキの試合なんか見てられっかよ」
  「そんな事言わないでさあ。子どもといえども、さすがに上手いぜ」
  「子どもを見ているのが退屈なら、ほら、あっちの美人はどうだ?」西崎がソッと ささやく「向こうも君を見てるぜ“格好いいわね”“青い瞳が素敵”だって言ってるぜ」
  西崎は読唇術が得意だ。が、本当にそう言ってるのかどうかは怪しいものだ。
  確かに今日のジョーは少々目立つ。いい所を期待したわけではないが、幸子が送ってくれた服で決めている。決して高価な物ではないが、幸子の選ぶ服はジョーの髪や瞳の色とマッチし、より見栄よく見せる。
  西崎の言う美人ばかりではなく、ジョーに目を向けている女の子はけっこう多い。
  「せっかくの休みなのになァ」
  まだブツブツ言っている。と、ピッチから歓声が上がった。ゴールが決まったらしい。
  「ファンブルしたところをゴールか。キーパーは悔しいだろうな」
  「ヘェ、ジョー。サッカーに興味ないくせに、よくファンブルなんて知ってンじゃん」
  「おれ、中学の時、サッカー部だったもん」ジョーの言葉に、洸と西崎が“えっ!”と大きな声を出した「キーパーとフォワードをやってた。でもキーパーはゴールを守るだけでつまんねェし、フォワードやったら皆ぶち当たってくるから頭きてぶっ飛ばしたら怒られた。で、6ヶ月でやめた」
  「な、なに、それ・・」2人、顔を見合わせ呟く。
  「お前こそ、おれがサッカーに興味ないと思っているのに、なんで誘ったんだ?」
  「だってせっかくチケット3枚取れたのに、一平はアメリカだし、サッカー好きの伊藤や中根は仕事が入ったし、神宮寺は捕まらないし、チーフ誘うわけいかないし」
  「で、仕方なくおれの所に来たというわけか」
  「だってチケットもったいないし~。どーせデートの相手もいないんだろー」
  「ぬかしてろっ」ジョーは洸の後頭部をペチンとはたいた。
  「やれやれ」西崎が立ち上がる「機嫌の悪い子にコーヒーでも買ってきてやるか」
  「ポテチもね~1」
  洸がにこやかに送る。ジョーは舌を打ち、ピッチに目を向けた。さすがに決勝戦だけあり小学生といえどもかなりのレベルだ。
  ジョーも文句をやめ、ピッチを走り回る子ども達を見ていた。が、
  「洸」瞳がチラリと動く「警備が・・変だな」
  「うん・・」洸も頷く。
  まだ正規の試合が始まっていないので場内警備は少ない。しかしだんだんその人数が増えてきた。おまけにウロウロ動きまわっている。
  「確かに変だね。試合後なら移動したりするけど・・」
  「それもスタジアムの警備員だけじゃない」ジョーが通路に目をやる「あれは“私服”だ。耳にイヤホンを付けている。目つきも悪いぜ」
  「神奈川県警の?」洸の問いに、おそらく、とジョーが頷く。
  「ジョー」西崎が戻ってきた「なんか変な雰囲気だぜ。通路や売店に“ご同類”がウロウロしている。しきりに本部と連絡を取っているようだ」
  「・・・・・」
  ジョーはまわりを見回す。
  このスタジアムは1階席と2階席に分かれている巨大な建物だ。彼らのいるメインスタンドからは、向かい合っているバックスタンドはよく見えるが、南北のサイドスタンドの詳細はわからない。が、おそらくそちらにも警備員や私服警官がまわっているだろう。
  「あー」
  突然西崎が立ち上がった。座席横の階段を上がり、すぐ上の通路を通った私服警官らしい男に声をかける。どうやら知り合いらしい。
  少し話をして、ジョーと洸に“来てくれ”と合図する。
  「こちら港北署刑事部の立石警部。おれの教官だった人だ。こっちは同僚のアサクラとひびきです」
  「千駄ヶ谷の?」はい、と西崎が頷く。
  立石がジョーと洸に目をやった。教官というと西崎の警察学校時代の恩師だろうか。50才くらいの目つきの鋭い人物だ。
  「西崎は立派に務めているか?」訊かれたので、2人は“もちろんです”と答えた「そうか。そこに送ったものの、ちょっと心配だったのでな」
  どうやら西崎は、この人の勧めでJBを選んだようだ。
  「ところで何かあったのですか?いつもと雰囲気が違います」
  「気がついたかね」立石は苦笑すると3人を人気の少ない通路の端に誘った「30分ほど前に県警本部に爆弾の予告電話が入ってね。ここを爆破するというんだ。それでうちと警備部の第1機動隊が出場(でば)ってきたのだがー」
  「まだ、見つからないんですね」
  「うむ」立石が頷きピッチ内を見る「予告時間は告げられていない。1分後なのか3時間後なのか。しかしこれだけの人を今動かすのは危険だ」
  代表の試合まであと2時間弱だが、座席はもうすでに70%は埋まっている。ヘタしたらパニックになって死傷者が出るかもしれない。
  「我々は代表の試合中か終了直後だとみている。その方が効果が大きいからな」イヤな話だが、その通りだ「それまでになんとか見つけたいと思っている」
  「サポーターはもちろん、日本代表は日本の宝だ。何かあったら大変だ。それに相手国の選手にケガをさせたとあっては、安全な国、日本の名折れだ」洸が燃えている「ぼく達も手伝います。警部、予備のイヤホン持ってませんか?」
  「しかしー」立石が渋る。と、
  「おれは反対だな」え?と、洸がジョーに目を向けた「形も大きさもわからない爆発物を捜すには、ここは広すぎる。早いとこ観客を避難させた方がいい」
  「それができるなら、疾うにしている」
  立石もジョーに目を向けた。おそらく上層部の考えだろう。
  本当に爆発物が仕掛けられているかわからない今、ヘタに大騒ぎをして観客を危険な目に遭わせ、それによって信用を失いたくないのだ。
  立石の表情からそれがわかったのか、ジョーはもう何も言わなかった。
  「イヤホンは1つだから、ぼくとジョーが組むよ」立石から予備のイヤホンを受取り洸が言った「西崎は警部にくっついて、情報を早く送ってくれ」
  「わかった」西崎の答えに洸がジョーを引っ張るように走っていく。
  「個性的な奴らの集まりだと聞いていたが、そのようだな」
  「そうですね。でも皆いいやつだし、頼りになりますよ」
  西崎が笑って答える。

  1口にニッサンスタジアムというが、ここにあるのはサッカーグラウンドだけではない。
  地上7階の巨大な建物の中には、売店はもちろんスポーツセンターやウォーターパークまである。建物のまわりに目をやればスケボーパークや公園、フットサルグラウンドなども隣接しているのだ。
  どのくらいの規模の爆発物かわからないが、ちょっとやそっとでは見つかるものではない。私服の爆発物処理班も出て探知機などを使っているが、まだ発見の知らせはない。
  「くそォ、広いぜ。なんで7階もあるんだよ」ジョーが悪舌をついた「洸、闇雲に走ったってだめだ。お前、この中詳しんだろ。少し考えろ」
  「そう言われても・・」
  洸は何回かここに足を運んでいるが、爆弾の仕掛けやすい場所までは、さすがにわからない。
  「警備がしっかりしているから不審物を持ち込めるはずないんだ。あとはスタッフ関係だけどー」
  警察も同じ事を考えたのか、そちらは彼らが当たっている。
  こうしている間に観客はどんどん増えてくる。
  ピッチでは次のイベントである、女子大生のチアリーダーの演技が始まっていた“これも見たかったのに”と洸が唸る。
   涼しい季節なのに2人は汗だくだ。ジャケットは疾うに脱ぎ、シャツも袖を捲り上げている。
  ジョーの右腕には、以前仕事で負った傷跡が今だ消えずくっきりと残っている。彼は全然気にしないのだが、たまたまその傷跡を目にした人は、ジョーの風貌と相まって顔を強張らせる。面倒なのでそのままにしておくが。
  「洸、あそこは」
  ジョーが指さしたのは、2階席の上の照明が設置されている所だ。一般の人は入れないが、メンテナンスのために人が入れるスペースはあるだろう。
  「なるほどね。でもぼく達じゃ入れてもらえないから、さっきの警部さんにー」と、階段を登ってくる立石と西崎が見えた。ちょうどいい、と声を掛けた。
  「我々もそう思ってたところだ」立石が答えた「あそこも広いからな。一緒に来てくれ」
  立石に続き、3人も照明フロアに入れてもらう。カギを開けたスタッフは廊下に待たせ、4人は2人づつに分かれ、左右から不審物を捜していく。探知機も何も持っていないが、彼らには今までの体験による鋭い目がある。
  「アップが始まった」
  ふとピッチを見下ろし洸が言った。
  日本代表に続き、相手国の選手もピッチに出てきた。歓声が一段と大きくなる。
   「今日のスタメンはもう出たのかな。フォワードは誰だろう。くそォ、始まるまでには見つけてやるぞ!」
  ブツブツ言いながらも洸は目は確かだ。だが思ったより綺麗な床辺りには何も置かれていないし、照明機にも不審な物は取り付けられていない。と、
  「はい、洸です」
  『西崎だ。今、本部から連絡があって爆発物を仕掛けたとい思われる男が爆破予告時間を知らせてきた。13時55分頃だと言っていたそうだ』
  「13時55分頃?“頃”ってなんだろう?」通信の内容をジョーに伝えながら首を傾げた「とにかくあと30分もないぜ。中じゃなく外に仕掛けたのかも」
  「なあ、洸」唇を撫でながらジョーが訊く「その55分頃って何をしている頃だ?」
  「そうだね。キックオフは14時04分、その10分前だから、もう選手はピッチに出ていて互いに握手して・・そう、試合球を投下する頃かなあ」
  「試合球の投下?」
  「うん、通常は主審が持って選手と一緒に入場するんだけど、今回のような国際親善試合の時はヘリからピッチ上にボールを投下する事もあるんだ。パラシュートを付けてね。確か今日もそうするってHPに出てたっけ」
  「・・まさか」
  「なに?─え?ま、まさか!」
  2人が顔を見合わせる。と、前方に西崎と立石の姿が見えた。双方が半周してきたのだ。
  「立石さん!」ジョーが叫ぶ「試合球投下のヘリはどこから発進するんだ!?」
  「ヘリ?待ってくれ」
  立石がケータイでスタジアムの事務所に問い合わせた。が、なかなか返事がない。スタジアム側も不測の事態に混乱しているのだろう。
  「この辺でヘリポートとして使うとしたら、隣のフィールド小机かな・・」
  「立石さん、そのフィールド近くにいる捜査官を現場に向かわせろ。ヘリの発進を止めるんだ」
  「な、なんだ、いったい?」
  「おれ達も行くぞ。洸、案内しろ」
  場所をよく知っている洸を先頭にジョーと西崎が走り出す。立石がポカンと見送った。と,
  『ヘリはフィールド小机から飛びますがー。もしもし?』
  「お、おい!まさか!」
  立石はケータイを切ると無線のスイッチを入れた。

  ニッサンスタジアムの北側に隣接した日産小机フィールドは、通常ならここをホームにするサッカーチームの練習が行われるのだが、今日はヘリの発着地になっているので立入禁止になっていた。
  立石の無線を受けた捜査員は、ちょうど東ゲートと北ゲートの間にいた。外に飛び出し連絡通路を走る。
  ベンチが置かれている公園風の道の向こうにフィールドがある。小型のヘリが一機、停まっているのを確認した。しかし、かなりの手前で関係者に止められてしまった。私服捜査員は身分を伝え、ヘリの発進を見合わせるよう要求した。
  「しかし、もう試合球投下の時間なので、発進しないと間に合わなくなりますから」
  その言葉と同時に、ヘリコプターのメインローターが回転を始めた。スキッドがゆっくりと地面を離れ、垂直に上昇していく。
  「くそォ!間に合わなかったか!」
  西ゲートから駆け付けた洸達が、悔しそうに声を上げた。と、何人かの関係者が上昇していく ヘリに向かって何か叫んでいる。そのうちの1人が手にしているのは、パラシュートを付けたサッカーボールだ。
  「変だな」捜査員を止めた関係者が呟く「試合球を置いていくなんて」
  「ジョー」
  洸が“やっぱり”という表情でジョーを振り返る。彼らが動きを止めたあとも、バラバラとハデなブレード音を上げ、ヘリの上昇は続く。
  「洸、立石さんに連絡して、さっきの照明フロアの入り口で待っててもらってくれ」
  そう言うと身を翻し、階段を駆け上がり西ゲートに向かった。チケットをチェックしている係員を無視しゲートを飛び越す。すぐ横の階段を一気に7階まで駆け登った。
 そこからは係員専用通路を抜け、照明フロアの入り口に向かう。運よくカギはまだ閉められていなかった。入口で立石が待っていた。
  「ヘリが発進した。爆発物を投下するつもりだ」
  「そ、そんな無茶な」
  時計の針は13時53分を指していた。と、スタジアムを中心に大きく旋回していたヘリコプターが上空に現れた。ゆっくりとホバリング体制に入る。
  スタンドでは観客がヘリコプターを確認し声を上げている。ピッチには両国の選手も並んで空を見上げている。
  「銃を貸せ」
  「え?」
  「早く!」
  ジョーは、立石がとっさに押さえたスーツの胸部を広げ、ホルスタから銃を抜き取った。
  SIG P230─ニューナンブの後続短銃で、今回のような緊急事態の場合、警部補以上が携帯している。もちろんジョーは手にするのは初めてだ。だがグリップを握ったとたん、この銃を把握したような気になった。
  「き、君!やめたまえ!」
  上空に銃口を向けるジョーに、立石が怒鳴る。が、ジョーには聞こえていなかった。
  自分のすべての力を銃に集めている。
  止めようと手を出した立石だが、目の前の男の全身から発せられる威圧感と迫力に、思わず動きを止めた。と、ヘリコプターのドアが開き、黒く小さな物が空中に放り出された。
  サッカーボールよりはるかに小さいそれが爆発物だろう。ジョーの目はしっかりとその物体を捕らえている。しかしSIG P230の射程内にはまだ入らない。いや、たとえ爆発物がジョーの位置の真ん前を落下しても、短銃の有効射程距離ギリギリだろう。だがこれ以上落下し、スタンドやピッチに近づいたらー。
  ジョーは口元を引き締めトリガーを引いた。
  バンッ!─破裂音に続き爆音が空間に響いた。黒い爆風が八方に広がる。
  スタンドの観客もピッチの選手達も、一瞬ポカンと空を見上げたまま動きを止めた。が、次の瞬間、悲鳴と叫び声がスタジアムを埋めた。立石が照明フロアを飛び出していく。
   1人残されたジョーは銃を下げ、壁に背中を預けた。
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