コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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ワルサー・嘆(な)く 4

 元麻布2丁目の12階建てのマンションの10階にジョーの自宅はある。
 古いマンションなのでありがたい事にオートロックではない。
 色々なケースを考え、コンビはお互いのマンションのキーを持っている。だが一応インターフォンを鳴らしてみた。が、応答はない。
  「ジョー」
 ドアを開け声を掛ける。廊下の突き当たりにあるリビングには誰もいなかった。もう長い間使っていないような寒々しさを感じる。が、人のいる気配はある。
 「ジョー、いるのか?」ベッドルームをノックして、一呼吸置いてから静かにドアを開けた。室内は暗く、だが人の気配はあった。「ジョー」
 彼はベッドで体を丸めようにして寝ていた。が、気配を感じたのだろう。ハッと顔を向けてきた。
 「神宮寺?」目を瞠る。「どうしたんだ?」
 「どうしたもこうしたも─。お前こそ3日も連絡取れなくて─」
 「3日?まさか─」
 驚いて上半身を起こそうとした。が、そのとたん咳き込みベッドにうつ伏せになった。神宮寺が手を掛けると体も息も熱かった。
 「風邪をこじらせたようだな」
 4年間、進歩がないのか、と思う。
 しかしお互い風邪をひく事はあるが、ここまでひどい症状の彼を見た事はない。
 「連絡ぐらいしろよ。メールでもいいし」咳の収まった体をベッドに戻してやる。「とにかく石丸さんを呼ぶよ」
 「ま、まて。風邪くらいで石丸さんに来てもらわなくても─。薬のんだし、大丈夫だよ」
 ベッドの横のテーブルには確かに風邪薬が転がっていたが。
 しかしなぁ・・と渋る神宮寺に、
 「呼んでみろ。マンションの管理室に連絡して、入れないようにしてやる。不審者情報で警察に通報されるぞ」
 「・・・・・」
 神宮寺は呆れてジョーを見た。が、気持ちはわかる。
 男は皆見栄っ張りだ。自分の格好悪い姿を他人には見せたくない。病気なのに見栄も何もないだろうと思うが、もしこれが自分だったとしたら・・・やはりジョーと同じ様に考えるだろう。
 「わかったよ。呼ばないからおとなしく寝てろ」ジョーがホッと息をつく。「その様子じゃ、ロクに食ってないな。何か暖かいものでも作ってやるよ」
 「いーよ、別に・・・」
 「今のお前に拒否権があると思うか?」
 口元を曲げるジョーを見て、神宮寺は部屋を出るとキッチンに向かった。
 食材があるとは思わないがスープぐらいなら・・・と思い、驚いた。冷蔵庫にも棚にも食材が詰まっている。が、ほとんどが冷凍食品か日持ちのする物だ。幸子ママから送られてきた物だ。
 もう成人した息子なのに、母親というものはそれでも心配なのだろう。神宮寺の所にも時々和美から荷物が届く。
 「野菜スープか」
 彼は“Soupe ovx logrmet”と書かれた缶詰を開け、暖めてベッドルームへ持っていった。が、ジョーは寝てしまったようだ。仕方なくまたキッチンに引き返す。
 「そうだ。一応チーフに」
 リビングの電話は一般回線だが、JBのホットラインはベッドルームにあるので、こちらを使い森にジョーの様子を伝え、“しばらくこちらにいます”と言うと─、“4年前と一緒か”と、苦笑された。“進化していないな”とも。
 「ほんとですね。石丸さんにですか?いえ、今はあいつ意地張ってますから逆効果になります。ええ、大丈夫ですから」
 最後に森が、先日の千葉での事件の報告書が公安3課に上がってきた、と言い電話は終わった。
 ふうっと息をつきソファに腰を下ろす。ふと周りを見回した。相変わらず何もない部屋だなァ、と思う。
 20畳近い広いリビングだが、大きな物はテレビとテーブルとソファしかない。テレビは最近買い換えたと言っていた42インチの液晶テレビだが、後は4年前と変わらない。
 ジョーは物には無頓着で使えればいいと思っている。
 唯一こだわって揃えているのは、日本はもちろん世界各国の銃だ。ここで一番広い部屋にコレクションされている銃の数や姿は圧巻だ。
 “おれに何かあってこの部屋に誰か入ったら驚くだろうな。ああ、やっぱ危ない奴だったんだって思われるかもしれない”
 いつだったか、そんな事を言って笑っていた。
 “形見の品が全部銃だったなんて、鷲尾さんいやだろーなあ”
 まるで他人事のように言う。
 ばかな事言うな、と神宮寺は諌めたが、それはジョーだけではなく彼自身にも起こりうる事だ。だから彼もジョーほどではないが自分の周りはシンプルに収めている。
 形見の品なんて、本当は残さない方がよいのでは、と思う。
 受け取った方はいつまで経ってもそこから抜け出せなくなる。それが親だったら余計に辛い思いをさせる。その姿を想像するのは悲しいし胸が痛む。それでなくても、こんな危険な仕事を選び、散々心配させているのに。
 (あれ?)ふと違和感を覚えた。(薬って・・・、あいつ、いつ飲んだんだ?)
 まさか3日前?
 神宮寺は再びジョーの様子を見に行った。
 ドアを開けたとたん、妙な熱さを感じた。暑がりのジョーは冬のこの季節でも暖房を入れる事は少ない。なのに─。
 ベッドに近寄るとジョーはさっき同様仰向けのまま寝ていた。が、その様子は一変していた。
 顔が赤く汗で前髪が額に張り付いている。短い呼吸は荒く、時々咳をして胸に手をやった。息苦しいのかしきりに顔の向きを変えていた。
 「ジョー」
 額に手をやる。熱い。つく息も熱を帯びていた。と、ジョーが目を開けた。眠れていないじゃないか、と思ったが、
 「お前、薬っていつ飲んだ?」だがジョーは答えず、かすかに首を傾げた。「覚えていないほど前か?だったら効いてないって事じゃないか」
 思わず舌を打った。ジョーの言う事を鵜呑みにしてしまった自分に腹が立った。
 「やっぱり石丸さんに連絡するから」ジョーが小さく首を振った。が、「却下だ」
 枕元のホットラインを取ろうとした。と、ジョーがその手を掴んだ。熱い塊を押し付けられたようだった。瞳を神宮寺に向けているが、熱のせいかぼんやりしていて焦点が定まっていない。荒い息遣いをなんとか押さえようとしている。
 神宮寺はその手を剥がし叩きつけるようにジョーに返した。
 うっ、とジョーがベッドに倒れこむ。が、神宮寺は見向きもせずホットラインの受話器を取りJBの医療部へ繋げてもらった。そして直接石丸にジョーの様子を説明する。石丸は2、3訊き返し40分ほどで行けるだろう、と言って電話を切った。
 受話器を置きジョーに目を向ける。彼はベッドの上に倒れたまま横を向いて肩で息をしていた。ちょっと乱暴に仰向けに直してやる。
 神宮寺は今、無償に腹を立てていた。ここにいるのはジョー1人ではない。自分もいるのだ。なのになんでこんな苦しいだろう状態になっているのに何も言ってこないのだ。声が出ないのなら何か蹴飛ばして倒せばいいのに。そんなに自分は頼りにならないのだろうか、と。が、彼はすぐに思いなおした。
 ─こいつは人を頼る生き方をしてこなかった─
 自分でそう西崎に言ったではないか。2年間コンビを組んで、よくわかっていたはずなのに─。
 神宮寺の心の中には、あの時自分達に何も言わずフランスへ行ってしまったジョーに対する怒りと無念と悲しさがまだ残っているのかもしれない。だから─。
 「す・・・」かすかに、ジョーが口元を動かした。「・・すまない・・・」
 「・・・いや」汗で貼りついた前髪を払ってやる。「もうすぐ石丸さんがくる。2人一緒に怒られようぜ」
 ジョーがかすかに口元を綻ばせた。
 40分もしないうちに石丸は到着した。
 ジョーの様子を目にし眉をしかめると、同じ医療部の部下である南医師に熱を測らせ自分は聴診器を取り出した。そして、
 「気管支に炎症を起こしている。なんでこんなになるまで放っておいたんだ。肺炎の手前じゃないか」ジョーに厳しい目を向けたが、当人が自覚したかどうかはわからない。「南君、気管支拡張剤の吸引と抗生物質の点滴だ」
 「病院へは搬送しないんですか?」神宮寺が訊いた。
 「君の話から予想はついたので薬や器具は持ってきた。病院に行っても行う治療は同じだ。それなら無理に動かさず早い方がいい」口を動かしながらも石丸はネブライザーを準備し、南に指示を出した。「まったく君達は自分の管理機能は弱いようだな」
 ついでにお説教まで繰り出される。はあ、すみません、と神宮寺が頭を掻いた。
 「腕の掠り傷もキチンと手当てしていない様だが─」
 「体温は39度7分です」南が言った。
 「40度近いのか。子どもなら案外ケロッとしているが大人の40度は辛いな。南君、抗生物質の点滴より輸液を先にしよう。抗生物質は使わなくても済むかもしれない」はい、と南が答える。「水分をほとんど摂っていないようだね」
 「おそらく・・・」
 「医学の基礎講座の時間を設けてほしいね」
 まったく、とため息をつきつつ、吸引用のマスクをジョーの口元に掛けた。
 シュッと霧状の薬がマスク内に噴出されると、ジョーは顔を背けて手でマスクを外そうとした。その手を石丸が抑える。ジョーが目を開けた。
 「・・いしま・・・・胸が痛い・・・」
 「そうだろうとも。気管支肺炎を起こしかけているんだからな」手をマスクから遠ざけた。「できるだけ大きくゆっくりと吸って、後はおとなしくしていたまえ」
 相手が石丸ではどうしようもないらしい。ジョーは諦めて言う事を聞いた。
 「拡張剤が効いてくれば呼吸もラクになるだろう。後は安静にして何か暖かいものを食べさせて─」
 「わかりました。手間を取らせてすみません」
 「南君を残していってやりたいが、今日は医療部も休みが多くて人がいないんだ。夕方にはまた来るが、それまで大丈夫かね、君は」
 「おれはいいです。それにジョーが石丸さん以外の人の言う事を素直に聞くとは思えませんし」そうかもしれんな、と石丸が苦笑する。「チーフには石丸さんから報告していただけますか?おれは泊まるつもりでいますけど」
 「わかった」
 石丸は気をつける点を2、3追加し、南と共にJBに戻った。

 「おかしいな・・・」パソコンのキーボードを叩きながら森が呟く。「ネット状態が悪いのかな」
 と、ドアがノックされた。返事をすると入って来たのは佐々木だ。
 「チーフ、?裏街道?の点検終わりました。2機共異常なしです」
 「なんだい、その?裏街道?って」森が笑う。「いったい誰が名づけたんだ?」
 「さあ」佐々木も口元を綻ばせながら、「いつの間にかこの名称で呼ばれていましたからね。私は洸か、案外伊藤達辺りではと思ってますが」
 洸も伊藤もJBでは年が若い方だ。よく、つるんでいて“JBの悪童共”と呼ばれている。ここに年の近いジョーが加われば“JBの最強悪童共”、さらに神宮寺が加わったとしたら、もう手がつけられない。
 「あれ?ネット・・ですか?」
 「うん、なんだか調子が悪そうだ。すぐ切れる」砂時計が出たり時々画面が動かない。「サーバかな?しかしそんな報告は来ていないが」
 「確認しましょうか?」
 「すまないが頼む。先日の千葉の報告書を公安3課に行って読みたいんだ」
 わかりました、と佐々木が快諾した。


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