コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

ワルサー・嘆(な)く 8

 「?裏街道?を使ってJBに入る」
 リビングに集まる男達を見回し神宮寺が言うと、“そうか、その手があった”と、声が上がった。が、
 「確かにあれは独立システムだからメンコン(メインコンピュータ)が停止しても動くけど」西崎が神宮寺に目をやる。「それでも内部からの操作が必要だ。外からは開かないぞ」
 「いや、一つだけ方法がある」神宮寺がジョーに目を向けた。「パリ本部から動かしてもらう」
 「なるほど」
 ジョーが呟き、西崎もそうかと頷いた。
 「おれ達が裏街道のパネルを操作し、パリ本部のコンピュータが承認すれば入り口は開くはずだ。ただ双方同時に操作しなければいけないからケータイ連絡になるが。ジョー、ソーに電話をして長官を捕まえてくれ」
 「もう出てるかもしれないぜ」時計を見、ジョーが答える。「本部に入られたらこの電話じゃ繋がらねえ」
 パリ本部はJBより強固なセキュリティシステムで守られている。パリ本部に直接電話が繋がるのは登録されている番号のみだ。それ以外は撥ねられる。長官の息子同様のジョーも例外ではない。
 「いつもJBから掛けているからな。ここから本部に掛けるなんて思わなかったし。くそ、セキュリティもやりすぎると不便だぜ」
 そう言いながらソーの鷲尾宅の番号をプッシュした。
 「Allo─ママ?ジョージだけど─、ああ、元気だから。それより鷲尾さんは?」ジョーが神宮寺に顔を向けた。「だめだ。やっぱりもう出たって。─うん、なんとか鷲尾さんと連絡が取りたいんだ。この電話は本部には繋がらないから」
 『こっちの電話は大丈夫だけど・・。直接あなたが話した方がよさそうね。パパのケータイの番号知ってたかしら?』
 「え?持ってるの?」ジョーはちょっと驚いた。「確か嫌いだって聞いたけど」
 『以前はね。でもあなたがこちらに来た時に買ったのよ。あなたがいつでもパパと連絡が取れるように・・・。電話なら本音を話してくれるのではないかと思って─』
 「・・・・・」
 『でも本当は聞くのが怖くて、結局番号は教えなかったって。困ったパパね』幸子がかすかに笑ったようだ。そして鷲尾のプライベートの電話番号を教えてくれた。『これなら本部にいても引っかからないで繋がるわ』
 「・・・ありがとう、ママ」電話を切ろうとし、あっと思いつき、「・・あの・・・野菜スープ、おいしかったよ」
 そう言うと、じゃあと相手が何も言わないうちに電話を切った。そして番号を描いたメモをクッと神宮寺に押し付け、自分はソファに座り込む。見ると唇を噛みしめ眉をしかめ、ちょっと俯き加減の瞳に激しい光を映している。
 洸や西崎はジョーが怒っていると思い、神宮寺は泣いているように見えた。が、彼は何も言わず、メモに書かれた数字をプッシュしていく。
 鷲尾は移動中の車の中だったが、神宮寺の話をひと通り聞くと、これからやる事を的確に指示した。ジョーは鷲尾と話す神宮寺を口元を曲げたまま見ていたが、自分は話そうとはしなかった。
「わかりました、長官。お願いします」電話を切ろうとしたが、
 『ところで・・・ジョージは元気か?』
 「はい」チラッとジョーを見る。「今、ちょっとスネてますが」
 ギッ!とジョーが神宮寺を睨んだ。が、彼は何事もないように電話を切った。ジョーに体を向ける。
 「─余計な事言うな」
 「長官の質問に答えただけさ」サラッと躱し洸達の方を向く。「パリ本部からもJBのメンコンを診てくれるそうだが、おれ達は先にJBに入る」
 「市ヶ谷に行っている立花やオフのメンバーを呼ばなくていいのか?」
 「あまり大人数で動きたくない。4人で充分だ」
 「お、おい、神宮寺─」
 「裏街道の入り口に着いたらここへ連絡する。ジョーは鷲尾さんに連絡しておれ達と長官との中継をしてくれ。タイミングを合わせてシステムを作動させる」
 「神宮寺、おれはもう─」
 「3課から御苑に連絡を入れてもらってくれ」
 神宮寺がリビングから出て行く。洸、西崎、中根が後に続く。
 ジョーも行きたかったが、彼らのケータイは国内仕様なのでパリまでは掛けられない。誰かがここで中継しなければならなかった。
 「くそォ・・」
 ジョーは歯軋りして、ソファにボンッと腰を下ろした。
 一方神宮寺達4人はエレベータで地下駐車場に降り、神宮寺のポルシェと西崎達が乗ってきたJBの捜査車両のアテンザセダンに分かれて乗ろうとした。が、
 「しまった」神宮寺が立ち止まる。「通信機がないんだ。承認できないぞ」
 「承認番号を持つのは課長クラスだ」西崎が言う。「おれ達は持ってない」
 「そうだ、ジョーのスピードマスターを借りよう。洸、すまないが借りてきてくれ」
 「え?、ぼくが行くの?」
 「おれが行くと、連れてけ!と食い下がられそうだ」
 「ぼくが行くと、連れてけ!と投げ飛ばされそうだ・・・。中根、一緒に来てよ」
 「・・・・・
 中根は一瞬不安そうな表情を見せたが、洸と一緒にまた上がって行った。
 「中根はよほどジョーが怖いんだな」西崎が苦笑する。
 「あいつだけじゃない」神宮寺がちょっと口元を歪める。「おれだって怖い」
 「まさかァ」
 「本当さ。次は何をやらかすか・・・一緒にいてドキドキする」
 「?期待?でか?」西崎の言葉に、まーね、と神宮寺が微笑む。と、ポンとエレベータが鳴りドアが開いた。洸だ。「借りられたか?」
 「まあね」洸がチラッと後ろに目をやる。「中味も一緒だけど」
 「ジョー」
 見るとエレベータから降りてきたのは確かにジョーだ。少し痩せた体を茶色のジャケットに包み、だが冴え渡る青空のような瞳を真っ直ぐにこちらに向け、確実な足取りで進んでくる。
 「お前─」
 「スピードマスターだけ連れていかせねえぜ。保護者はおれなんだからな」駐車場にジョーの低めの声が響く。「連れていかねえならJBの正面から突っ込んでやる」
 「─ったく」ため息をつきポルシェのドアを開けようとして、「中根はどうした」
 「えっ─あ─」洸が口籠もる。
 「あいつはおれの代わりに本部との中継ぎをしてくれるそうだ」ジョーがニッと口元を歪める。「快く代わってくれたぜ。もちろん公安への連絡もだ」
 「・・・・・」
 ふと洸を見ると、ブンブンとすごい勢いで首を横に振っている。ジョーの奴、また脅したなと思ったがこれ以上何を言っても変わらないと思い、諦めて車に乗り込む。と、ジョーが助手席に乗ってきた。意外に思ったが車は少ない方が目立たない。
 ポルシェとアテンザが地下駐車場から出て新宿方面に向かう。
 「神宮寺」渋谷区に入いった辺りでジョーが口を開いた。「ワルサーを持って来たんだ」
 胸を押さえる。神宮寺がちょっと気掛かりそうにジョーを見た。
 「もしかしたらこいつの最後の仕事になるかもしれない」
 「・・・そうか」隣に座るジョーの心内が伝わってくる。これが最後かという途惑い。まだいけるのでは、という期待。どちらが良いのだろうという迷い。「気を入れて、やろうぜ」
 神宮寺の言葉にジョーは彼を見て、それから小さく頷いた。
 やがて2車は千駄ヶ谷門から新宿御苑に入る。
 徳川家康が内藤清成に授けた屋敷の一部を公園として公開している広大な緑の地だ。JBはこの御苑の管理ヤードと呼ばれる立入禁止区域を背に建っている。そしてこの一画に彼らが言う?裏街道?への入り口があるのだ。
 誰が名づけたかわからないその呼び名の正式名称は「バックロード・システム」という。JBの地下駐車場横の隔離された一画から2人乗りの小さなエレベータが建物内部に通じているのだ。
 設置場所は建物の東西の端、停止階は2、4、6階のみで、廊下の一角にある喫煙コーナーの奥にその出入り口が設けられている。しかしちょっと見ただけではわからない。つまり秘密の出入り口なのだ。
 システムを動かすコンピュータはメインコンピュータの管理外なので、今回のような場合でもこのシステムを動かす事ができる。だがそれには自己のコールナンバーの他にバックロード・システム用の承認番号を入力しなければならない。その番号を持っているのは森と佐々木、Sメンバー、後は各部課長のみだ。
 本来ならこのシステムを使う時は管理課に連絡して作動させるのだが、今回のように内部と連絡が取れない場合─つまり緊急時という事だが─は、パリ本部を経由して動かす事ができる。ちなみに本部にもこれと同じものが設置されている。
 神宮寺達4人は、管理ヤードの一画に建っている小さな事務所用の建物に入った。室内の金庫の扉のような分厚いドアの横に入力パネルがある。
 ジョーが自分のコールナンバーと承認番号を入力し、カメラにスピードマスターの文字盤部分をピタッと当てる。と、同時に神宮寺が“入力完了”とケータイで中根に知らせた。中根はパリ本部との中継をする。と、カメラの下のライトがピッと鳴り青く点灯した。入力パネルもオールグリーンだ。
 カチッと音がしてドアが開いた。
 「うわ・・・」
 洸が思わず声を上げた。ドアが開くと同時にライトが点いた。人が2人並んで通れるくらいの通路が真っ直ぐに前に伸びている。
 「こーいう風になってるんだ」
 洸に続き3人も通路に足を踏み入れた。
 このシステムは旧JBにはなかった。新しい建物になってからまだ半年余りだ。説明は受けていたが、実際に入るのは4人共初めてである。
 「これが地下駐車場近くまで続いているんだ」壁面を撫でながら西崎が言った。
 50mほど進んだろうか。やがて前方に小さなホールとエレベータのドアが見えてきた。
 「洸」ふと思いついたように神宮寺が言った。「一平に連絡を入れてみろ。ここはもうJBの敷地内だ。もしかしたら繋がるかもしれない」
 「了解」洸がケータイでJB2室へ直通電話を掛ける。「あ、一平!」
 『え?洸?どうして?今どこだ?』
 「思ったとおりだ」神宮寺が小さく口元を歪める。「有線が繋がらないのはわかるが、無線のケータイが繋がらないのはおかしいと思っていたんだ。どうやらメインコンピュータの異常と共に電磁波が発生して、それがJBを包む形になっているらしい。一平、そちらの状況はどうだ?侵入者はいるのか?」
 『確認しただけで8人だ。ゲートチェックがアウトになる一瞬に侵入したらしい。今、食堂と管理課に立て籠もっている。食堂に5人、管理課には7、8人の─』
 「一平」ジーとノイズが響き通話が切れた。「電磁波の発生に強弱の波があるらしいな。─そうか、だから公安3課のコンピュータが─」
 「なにブツブツ言ってンだよ」ジョーがイラつく。「早いとこ上がろうぜ」
 「侵入者は食堂と管理課室で人質を取って立て籠もっているようだ」
 「中の連中はなんで動かねえんだ。捜査課の奴らは何してる」
 「オフと外に出ているメンバーがほとんどで、ここ1、2日は最小人数しかいないんだ」
 「人質と、おそらくメインコンピュータを抑えられているのだろう。ヘタには動けない」
 言葉を切った神宮寺がふと顔を上げた。天井を見つめる。そしてジョーに目を移し無言で問う。ジョーが小さく、だが力強く頷いた。
 「よし、2手に分かれよう。ジョーと西崎は食堂へ。おれと洸は管理課のメインコンピュータを取り戻そう。一平の連絡を受けてそろそろチーフが動く。捜査課も食堂と管理課に向かっているはずだ」
 まるで見えているようだ。だがその言葉を誰も疑わない。
 「食堂ならもう一機の、東側のシステムを使った方がいいか?」
 「それだともう一度ヤードに出なければならない。JBの4階で降りて突っ切れ」
 「わかった」ジョーと西崎が頷く。「エレベータを動かすぜ」
 ジョーがスピードマスターでさっきと同じ手順を繰り返す。
 「なんでもコンピュータに頼って・・・。便利で安全だが1つぶっ壊れると全部ダウンしやがる。セキュリティシステムがしっかりしているほど厄介だ」
 「今度はアナログキーと階段にしてもらおうね」
 ポンッと音がしてエレバータのドアが開いた。中は大人2人がやっとの広さだ。まずジョーと西崎が乗り込む。
 「体重減っててよかったぜ」ジョーが笑う。「これで重量オーバーしたら格好悪い」
 「気をつけて行け」
 神宮寺が言うのに、ああ、と答えドアが閉まった。
 「ミスター、ゾンビファイルはどこから入ったと思う?」
 「公安3課のコンピュータもダウンしているという事は、3課からかあるいはそこを経由しているのか・・・。3課のネットが時々繋がるというのも不可解だ。外部のコンピュータから影響を受けているとしか思えない」
 「3課がどこからかゾンビ付きファイルを取り込んで、それをJBがダウンロードした─」
 「それが一番ありそうだ」エレベータのランプが4階で止まった。「ログを調べてゾンビ付きファイルが特定できれば中味や出所がわかる。後は修正プログラムを入れる方法だが」
 「早いとこカタをつけなきゃ晩ご飯食いっぱぐれちゃうよ」
 自称育ち盛りの洸がちょっと情けなさそうに言った。


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