コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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ワルサー・嘆(な)く 完

 洸と通信課の2人、そして公安3課から関の部下の木村が千葉県警に出向き、ゾンビファイルが送られたと思われるパソコンを調べ、修正プログラムが完成したのはもう夜明け近かった。
 県警のパソコンはサーバドによりバックドアが作られていてそこからコントロールされ、公安にそしてJBにゾンビファイルが送られたらしい。
 「公安もJBのセキュリティも完全なものじゃないね」洸が言った。「もっともあまり固めちまうと入るものも入らなくなるし・・・。いたちごっこって奴?」
 「迷惑メールとかスパイウェアとか、一般家庭のパソコンにも入り込んでいるし」木村がモニタを見ながら言った。「日にいくつ作られ送られているんだろうね。─ん?」
 「来た!」
 パソコンへの不正アクセスを監視するプログラムにサーバドが引っかかった。ゾンビファイルと発信元が同じなので間違いない。3課を経由してJBまで繋がるはずだ。
 「もう来ないかもしれないと思ったけど、JBに潜入した連中の連絡がないから途惑っているのかも。でもこれ以上メインコンピュータを自由にはさせないぞ。不便でしょうがない」
 「スタンバイOK。送ります」通信課の鈴木が修正プログラムを送信した。「うまく乗ってJBまで行ってくれよ?」
 鈴木も洸も木村も、送信のダイヤログを見つめる。
 一方JBでは急造で修理したメインコンピュータがサーバから送信を受け、修正プログラムを取り込み始めていた。
 “やった!”“間に合った!”と声が上がる。
 そのPC室の光景をジョーは壁に体を預けぼんやりと見ていた。
 修正プログラムがうまく送られてきた事を医療部で手当てを受けている神宮寺や西崎に知らせてやりたかったが、この埃だらけの姿で病室に入るわけにもいかず、寝る事もできず、ジョーは喜び合う管理課のメンバーの様子をただ眺めていた。
 実は少し前、狙撃部の曽我部部長に呼ばれ、東館の部室まで出向いた。
 曽我部は机の上に分解したワルサーのパーツをきれいに並べて言った。
 『バレルやシーバーなど大きなパーツは回収できた。だが小さなピンやバネなどは全部回収できなかった』ジョーはパーツを見つめ黙って聞いていた。『組み立ては出来る。しかしこのままでは実戦で使用するのは無理だ。ワルサー社に連絡してパーツを取り寄せなければ』
 『・・・いえ』ジョーが静かに首を振った。『ここにあるパーツだけで組み立ててもらえますか。こいつには休養が必要だと思います』
 『・・・そうか』曽我部がスライドを手に取った。『使い込まれよく手入れがされ、とても味わいのある深い色合いになっている。風格さえ感じる─。元の姿で残してあげたい』
 はい、とジョーが頷き?ワルサー?に目を向ける。
 1つ1つの細かいパーツになってもこれは父の形見であり、ジョーにとって何ものにも変られないものだ。だからこのままで置くわけにはいかない。元の姿になって自分の手元に戻ってきてほしい─。
 ジョーは一瞬唇を噛んだ。が、すぐに頭を上げた。
 彼のブルーグレイの瞳が透き通る湖の輝きを映し出す。
 そう、自分の足で立つためには前を、未来を向いていなければならない。ジョーの目のように真っ直ぐに─。
 『Sメンバーに連絡』復活したスピードマスターから森の声が響く。ジョーは我れに返り左手首を見た。『動ける者は至急私の部屋まで来てくれ』
 「ラジャ」
 通信を切りPC室を出て行こうとするジョーに、管理課のメンバーが手を上げてエールを贈っていた。ジョーはちょっと驚いたように彼らに目を向けたが、やがて口元にかすかな笑みを刷き、顔を上げ確実な一歩を踏み出した。

 「イシイ産業の青梅工場だ。木村の報告ではゾンビファイルの発信元はあの工場のコンピュータらしい」神宮寺、ジョー、一平が乗るアテンザの後部席に体を滑り込ませながら関が言った。「本社は練馬にあるんだが、実は以前に一度うちの警備部企画課がその本社を調査しているんだ」
 「サイバーテロ関係ですか」
 前方の工場を視界に入れつつバックミラーで関を見て神宮寺が訊いた。助手席にはジョー、後部席には一平がいる。
 「うん。だがその時は何も出なかった。工場では電子機器のパーツを作っている」
 公安3課に送られたサーバドと名乗る男達はなかなか口を開こうとはしなかった。が、洸や木村達がサーバからサーバに慎重に渡り調べて、ようやくゾンビファイルの本元の発信先を探し当てたのだ。それがこの工場内のコンピュータで、関達公安3課が出張ってきた。捜査令状が取れ次第踏み込む予定だ。
 神宮寺達は関達には同行せず、他の3課のメンバーと待機して変事に備える。
 「それにしても今回はずいぶん早く令状が発行されるなァ」一平が言った。「いつもは慎重に、というか、なンだかンだと理由をつけて発行に時間が掛かるのに」
 「千葉県警、公安そして国際警察にまで被害が及んでいるんだ。日本の警察組織としての名誉と威信がかかっているからな」
 「そんなもの、破いて東京湾に流してやる」
 舌を打ちジョーが言った。
 「海洋汚染になるぞ」笑えない冗談を言い、関が笑う。と、まじまじとジョーを見て、「・・・お前さん、なんか雰囲気が変わったな。何かあったのか?」
 ジョーがプイッと顔を背ける。
 「少し見ないうちに大人びたというか・・・。どうだ、そろそろ大人同士の付き合いなんぞ─」
 いきなり後ろからシートごとジョーの胸に手を回し抱きしめた。
 「な、なにしやがる!」
 助手席でジョーが暴れる。と、
 「関さん」窓越しに部下が呼んだ。「令状が取れました」
 「ヤボだねぇ・・」羽交い絞めにしている両手を離しドアを開けた。「行ってくる。もし何かあったら助けに来てくれよ」
 「やられちまえ!」
 ジョーが叫ぶのを、ハハハ・・・と豪快に笑い飛ばした。
 「やれやれ・・。完全に遊ばれてるな」
 ため息をつき、神宮寺はフロント越しに工場へ入っていく関達に目を向けた。
 「くそォ、いつかこっちが遊んでやる」
 毒づくジョーの言葉に、それって危ない発言かも、と2人は思ったが口には出さなかった。
 ジョーはふと自分の胸を押さえた。
 今、彼はその胸にワルサーの代わりにブローニング・ハイパワーを収めている。JBにストックされている銃で、大きさや重さはワルサーとそう変わらない。が、いつもと違う感触にここにあるのはワルサーではない事を思い知らされる。と、突然、空気が震え工場から小さな爆発音が聞こえてきた。屋根の一部を吹き飛ばし煙が立ち昇る。
 「主任!」「関さん!」
 待機中の部下が口々に叫び車から出て来た。が、命令のないまま工場に飛び込んでいいものかと迷っている。
 「行こう」
 神宮寺を先頭にジョーと一平が工場の敷地に入る。
 彼らは公安とはまったく別の指揮で動いている。いや彼ら1人1人が自分で判断して動く事が許されているのだ。それが公安を含む一般警察とSメンバーとの違いだ。
 工場内は工程別のいくつかの部屋に分かれていた。事務所は奥の2階だと聞いている。
 3人は左右に部屋を見ながら廊下を進んでいった。と、突然、右のドアが吹き飛んできた。1番後ろについていた一平が体を前に投げ出し避けた。と、今度は前方の壁がバンッと弾け崩れた。煙も流れてくる。
 「奴ら、ここを爆破して証拠隠滅を図るつもりか」
 床から体を起こし、一平が言った。
 「民間企業だろ。そんな乱暴なやり方するか?─おっ」
 前を見ていたジョーが声を上げた。煙の中、誰かがこちらに歩いてくる。
 「関の部下─」3人の目の前に膝をついた男は関の部下の1人だった。「いったいどうしたんだっ」
 「じ、事務所を捜索しようとしたら、所長が拒んで押し問答しているうちに事務所のコンピュータや工場内の機械が爆発し始めて・・・。関主任達は所長達を追って奥へ。私は他の部下に知らせに─」
 「一平、一緒についてやれ。行くぞ、ジョー」
 おうっ、と返事をするジョーと共に2人は建物の奥へと向かう。と、すぐに広い空間に出た。3階分の吹き抜けになっていて、クレーンやフォークリフトが何台か置けれている。荷物をトラックに積み込む場所らしい。
 そこへ足を踏み入れたとたん銃声が響く。関達3課と工場の所長達数人とが荷物を盾に撃ちあっていた。
 「なんで民間企業の連中が銃なんか持ってんだ?」
 「さあね」2人は木箱の陰に身を置いてそれぞれ銃を取り出す。と、横の壁が激しく吹き飛んだ。「これだけの爆発物を持っているんだ。銃の1丁や2丁持ってても不思議じゃない」
 2人はタイミングを合わせ、だんだんと前に進んでいく。誰かが2人に気づいたらしくこちらにも弾丸(たま)が飛んできた。
 前方には関の部下が何人か、やはり木箱を盾にしているのが見えた。遠くで小さな爆発音がした。
 「どっちにしろ、あまり時間はないな」
 「関!」
 黒煙の向こうで関が男と揉み合っているのが見えた。接近戦なので誰も銃での援護はできない。
 ジョーが彼の元へ走ろうとしたその時、
 「ジョー!上だ!」
 2人に気づいた関が叫んだ。ジョーが顔を上げる。吊り下げられているクレーンが爆発のせいで不安定に揺れていた。ガシャンと音を立て2人の頭上で傾く。
 「神宮寺!」
 叫んで左右に分かれて飛ぶ。空いた空間にクレーンは音を立てて落下した。
 2人が着地した場所に弾丸が集中した。再び転がり避ける。爆発が起きた。
 「うわっ!」
 ジョーが爆風で飛んだ。体の上にバラバラと破片が降る。
 「ジョー!」
 神宮寺のマグナムが相手を黙らせていく。
 「大丈夫だ」ジョーはすぐさま起き直り、関の方を向いた。「あ─」
 なんと関は男に羽交い絞めにされ、頭に銃口を押し当てられていた。
 「ドジだな。いや、天罰かも」
 「そう言うな。一応おれ達を助けてくれたんだ」
 神宮寺がジョーの横に移動してきた。
 関よりわずかに小さいその男は何かの武術の心得があるのか、片手で関の首の横を押さえて彼の体を盾にしている。
 「頚動脈抑え、か」
 片手だからまだいいが、もし両手で締められたら頚動脈が圧迫され頭部に血が上がらなくなるのでたちまち気絶させる事のできる部分だ。
 関の部下達も油断なく男に銃口を向けているが男の体が関の体の陰にほぼ全部入っているので撃つ事ができない。残るはあの男1人だというのに─。と、意を決したように神宮寺が立ち上がる。が、
 「待て」男を睨んだままジョーが止めた。「おれがやる」
 「・・・・・・」
 神宮寺がジョーと彼の手の中のブローニングに目をやる。
 「大丈夫だ」グルーブレイの瞳を向け、口元にかすかな笑みが見える。「お前のマグナムじゃあ、関のダメージが大きすぎる。ここはおれに任せてくれ」
 「おれが失敗すると思っているのか」
 「まさか」
 口元の笑みが広がる。だが、瞳の輝きはそのままだ。自信のオーラが全身から溢れ出ている。
 神宮寺も唇をキュッと上げ、座った。代わりにジョーが立ち上がる。右手に持つブローニング・ハイパワーをスッと上げ銃口を関に、いや関の陰にいる男に向ける。
 「──」
 関の目が何かを伝えようとしている。ジョーは気がついた。
 男に後ろからピタリと貼り付かれている関が、右腕を少しづつ自分の体から横にずらし始めた。つまり関の脇腹と右腕の間にわざかな空間が出来る。その向こうに男の体がかすかに見えた。
 そこを狙えという事か─。ジョーの喉が小さく鳴った。
 「銃を捨てろ!」
 警告を発する。もちろん男が言う事を聞くわけはない。関の頭に押し当てられていた銃をジョーに向けようとする─が、それより早く、ブローニングを両手で構えたジョーが関の作ってくれた空間へ9ミリ弾丸(たま)を撃ちこんだ。と、同時に右手を上げた関の体がストンと落ちた。
 男の撃った弾丸は関の頭頂部を掠る。男は脇腹を撃たれ転倒した。すかさず関が抑える。
 「いい腕だな」
 フッと息をつくジョーに神宮寺が声を掛けた。振り返りジョーはかすかに目を細め、小さく口元を歪めた。

 「コンピュータ乗っ取りの実験を警察相手に行うなんて」洸がパソコンのキーを叩きながら言った。「度胸があるというか、無謀というか」
 「おまけにうち(JB)を公安の関連施設と間違えるなんて・・・。うちのメンコンが欲しかったらしいが」一平がモニタを覗く。「奴らのプログラムも穴だらけで、だから完全には乗っ取れなかったらしい。公安もJBもセキュリティの見直しをするようだ」
 「作ると使ってみたくなるんだよね。ぼくみたいにゲームでも作ってればいいのに」
 洸の作る?国際警察悪童軍団?はJBの内部のみ流通しているゲームだ。森や佐々木が知っているかどうかは不明だが。
 「しかし奴らも相手が悪かったな。公安とJBなんて」
 「ホント。千葉県警だけにしておけば良かったのにな。お気の毒に」
 「気の毒と言えば、神宮寺・・・」
 洸は眉を寄せたが、すぐニヘッと笑った。

 「野菜スープ、持って来たぜ」突然、中野の神宮寺のマンションを訪れたジョーの言葉に神宮寺は眉をしかめた。「フランスからのだ。安心しろ」
 キッチン借りるぜ、と部屋を出て行くジョーに
 「缶ごとレンジに入れるなよ!」と、声を掛けた。
 いくらジョーでもカップに入れてから温めると思うが不安だ。なにせ車や飛行機などの精密機器はいじれるくせに、電子レンジや洗濯機といったスイッチ1つ2つでなんとかなる機械は苦手なのだ。
 以前、お土産に持ってきてくれたピザを温めてやるとレンジに入れたまではよかったが、?動かない!?と大騒ぎした。プラグが入っていなければレンジとしても動きようがない。
 「あいつ、器用なのか不器用なのかホントわからん」
 ジョーの出て行ったドアに目をやりため息をつく。が、彼が思ったより元気なので安心した。
 ジョーの手から弾け落ちるワルサーを、神宮寺は目の前で見ていた。
 その瞬間ワルサーは震え、まるで自ら決心してその身を弾け散らしたように見えた。
 今までワルサーを撃てなかったジョーが、自分と西崎を助けるためにトリガーを引いた。それはジョー自身も待ちに待った瞬間だっただろう。
 再びワルサーを使える喜び─のはずだった。─なのに─ジョーは泣いていた。なぜかはわからない。
 ワルサーの中には彼のあらゆる想いが詰まっている。そのワルサーを撃つ辛さと苦しさ─。出口のない彼の想いが涙を流させているのか。
 ワルサーが嘆(な)いた。
 ジョーにそんな想いをさせたくない。自分(ワルサー)を使うたびにジョーの辛さや苦しさが倍増していく。やがてそれは彼の全身に広がり、収めきれなくなった時に彼は─。
 そんな苦しさにジョーを追い込んではいけない。ならばいっそ自分が─。
 (まさか、そんな・・・)神宮寺が我れに返る。(それじゃあ、まるでマンガだ)
 ゴホンと1つ咳をして思いなおす。こんなふうに考えてしまうのは─
 「あったまったぜ、野菜スープ」ノックもせずジョーが入ってくる。「飲め」
 カップを神宮寺に押し付けた。どうやらレンジはうまく動いてくれたらしい。
 ジョーがじっと見つめているので神宮寺はスープを1口飲んだ。ジョーがニッと口元を歪める。
 「さあ、なンでもしてやるぜ。おれの風邪うつしちまったんだもんな。看病してくれる女(ひと)もいないんだろうから、おれが面倒見てやる」と、好意とはほど遠い目で神宮寺を見る。「少し熱があるな。石丸さんじゃなくて榊原さんを呼んでやろうか。シューして針刺して楽しい─あ、いや、そうすりゃ早くラクになるぜ。こういう時は水分摂らなきゃいけないんだっけな。水を点滴してやろうか。それともスープの方がいいかな」
 紙袋から新たなスープの缶を取り出し、
 「さあ、なんでも言ってくれ!」
 「・・・なにもしないでくれ」
 掠れた声で神宮寺が言った。

                                              完

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