コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

つながる想い 1

 完全分解されたブローニング・ハイパワーの各パーツを、ジョーはケースの中にきちんと並べて摩擦や欠損の確認をする。さらにレシーバやスライド、マガジンも分解し状態をチェックすると、また丁寧に組み立てていった。
 JBのストック用の銃だが、ブローニング社を代表する銃だけに扱いやすくパワーもある。大きさもワルサーとそう変わらないので違和感も少ない。だが・・・。
 (いつもまでも借りているわけにもいかないな)ジョーの手の中でバラけてしまったワルサーの代わりの銃を早く手にしなければ。(だけど・・・)
 ジョーは今でも考える。なぜあの時、ワルサーは突然分解してしまったのだろう。
 手入れもきちんとし、各パーツに欠損などなかったはずだ。
 撃てなくて、苦しんで、でもあの時やっと撃てたのに─。
 もしかしたらワルサーは、ジョーの苦しみを文字通り肌で感じていたのかもしれない。自分を大事にしてくれる持ち主の、しかし自分を使う事によって与えられる彼の混乱と苦悩を。
 持ち主にそんな想いをさせたくない。彼の苦しむ姿を見たくない─。だから・・・。
 (まさか)ジョーが我れに返る。(マンガじゃあるまいし)
 彼はオイルを少し含ませた布で銃身を拭いていく。

 「神宮寺の奴、遅えなァ」
 何度か呟いた台詞と共にジョーは駅の方に目を向けた。
 土曜日の新宿は人通りも多く、東口から繋がる階段も人通りが絶えない。だがその中に待ち人神宮寺の姿はまだない。もっとも約束の時間までまだ10分あるのだが。
 「電車がこんなに速いとは思わなかったぜ」
 新宿での駐車場確保と酒が入る事を考え、車は置いてきた。だが普段車で自宅とJBを往復し電車にはめったに乗らないので時間がよくわからず早く着いてしまったのだ。
 ジョーは駅などの人ごみは苦手だ。だから公共の交通は使わない。が、実はもう1つ理由がある。
 (またか)
 ジョーはフッと顔を背けた。少し離れた所で立ち止まった女の子のグループがジョーにケータイのカメラを向けてきたのだ。
 電車に乗っていても同様にカメラを向けられる。大抵は事前に気がつき、ひと睨みすればは驚いてやめるのだが、相手は女の子なのでこの手は使いづらい。なんだかこっちが脅しているような気になる。
 しかし仕事上、無差別に写真を撮られるのは好ましくない。
 ジョーが今立っているのは正面にアルタの大画面を仰ぎ見る東口の広場の端だ。待ち合わせの人が多くいる。人通りも多く、ここに立っている10分間の間にジョーは何度カメラを向けられただろう。
 確かに長身で日本人とは違う風貌は万人の中においてもかなり目立つ。
 新宿は外国人も多く行き交う街なので、枯葉色の髪にブルーグレイの瞳のジョーの風貌はそう珍しくもないのだが、その身に纏う独特の雰囲気が人々の目を向けさせるのだ。
 さらに今日のジョーは薄いオレンジ色のシャツに黒いレザーのジャケット、下は濃い色のジーンズと完全に遊びモードだ。胸には、シャツの下に収められている写真の入ったタグネックレスの他に、2重の細い金のネックレスが時々光を受けてキラキラ輝いている。
 そんな男がもう15分も浮かない顔をして立っていればやはり気になる。そして─
 「君、ちょっといい?」
 掛けられた声にジョーの眉がビッ!と寄る。目だけを向けるとブランド物らしいスーツを来た若い男がニコニコしていた。
 「君、いい雰囲気だしてるね。体も大きいし格好いいなあ。何かスポーツしてるの?それともモデルかい?」
 「・・・・・」
 ジョーは寄せた眉をそのままに、しかし怒るより呆れたように男を見る。これももう何度目だろう。
 ここに立ったとたん自衛官募集のチラシを渡された。外国籍でも日本の自衛隊に入れるのかなあ、と思っていると、さらに“ホストで稼がないか?”とか、よくわからないサークルや怪しいビデオの俳優募集。スポーツジムやタレント事務所の勧誘、なんていうのもあった。
 そんな連中は、“Ich verstehe nicht、dab Sie uberre vptsagen(あんたの言ってる事はさっぱりわからない)”と、不機嫌そうに言ってやればすぐさま引き下がった。だが、
 「日本語じゃ通じないのかな。えーと、キャンユー アンダスタンド イン ジャパニーズ?」
 「Wie bur etuas?(なんだって?)」男のジャパニーズ・イングリッシュに、ジョーは何を言われたのかわからなかった。「Sage ich etuas?(なに言ってんだ?)」
 「英語じゃないのかな。ボンジュール?イッヒ リーベ リッヒ」
 「・・・・・」
 ジョーは思わず目を見開いた。どう見ても純粋な日本人ではないジョーをナンパするのだから英語の1つ2つ覚えて来い、と思う。
 「ま、いいや。事務所には英語のうまいスタッフもいるし」自分を見つめるジョーの目を良い方に解釈したらしい。「とにかくその気になったらここに連絡してよ。あ、今から来てもらってもいいぜ。カメリハできるし」
 そう言いながらジョーの手に名刺を押し付ける。?ナントカ企画?という文字が目に入った。
 「日本語、少しはわかるんだろ?おれの言葉に反応してるし。でも話すのは外国語っていうのはいいねェ。カメリハもたぶんOKだろう。君ならすぐにでも売れるぜ。大金稼いで─」
 「っるせー!自衛隊もAVもホストも興味ねえよっ!」
 「
 粉うことない日本語で怒鳴られ、男は目をパチクリさせた。と
 「あははは・・・」
 軽やかな笑い声が響く。
 「遅れてきて笑うなんていい根性だな」
 笑う主を確かめる事なくジョーが凄む。
 「なに言ってる。ジャストだぜ」
 時計を掲げ神宮寺がにこやかに笑っている。
 普段はニヒルで通している彼だが笑うととても可愛い。この笑顔にまいってしまう女性も多い。が、大声で笑う事はめったにないし、たまたま目撃しても普段の表情とはあまりの格差に、?神宮寺が大声で笑うと天変地異が起こる?といわれているとかいないとか・・・。
 「映画までまだ30分あるし─」
 「ヘェ、友達?」男の目が神宮寺に移る。「君もいいねえ。しなやかで敏捷そうで・・・。そうクロヒョウみたいだな」
 ボキャブラリは少なそうだが男の言う事も当たっている。
 神宮寺は黒いシャツにざっくりと編んだ長めのベージュのマフラーをゆったりと掛け、黒いブレザに黒いパンツ姿だ。細身だが、ガッチリタイプのジョーと並んでも決して見劣りはしない。ちょっと細い目も理知的な光を宿している。
 「君なら女はもちろん、男にも人気が出るかもしれないな」
 「ぶっ!ハハハ・・・」今度はジョーが吹いた。「そりゃそうだ。なにせ本場のヨーロッパで─」
 いてっ!と突然スネを押さえた。
 「なにすンだよ!」
 だが神宮寺は何も言わず、クルッとジョーに背を向け歩いていく。仕方なくジョーが後を追う。
?あ、君!?と男が声を掛けたが、振り向きざまに向けてくるジョーの眼光にそれ以上何も言えなくなり、ジョーは少し溜飲を下げた。

 「そりゃあ、新宿を歩いていれば誰でも一度は声を掛けられるさ」わけ知り顔で一平が言う。「特にいい男はね。声を掛けられすぎてなかなか進めないくらいさ」
 「チェッ、おれは一平と同列か」
 ジョーが呟き、一平に睨まれた。
 「でも原宿でスカウトされて大スターになったって話はよく聞くなぁ」伊藤だ。
 「原宿はわかるけど、新宿はなんか怪しいよなァ」
 最後のピザの一片を口に入れ高浜が言った。
 彼らはヒマでたむろしているわけではない。たまたま昼食の時間が同じになり、ここJBの食堂の一角を占めているのだ。
 「ま、AVデビューしたら応援するぜ、ジョー」
 高浜の頭がゴンッ!と鳴った。
 「普通のAVならまだいいけど・・・」西崎の呟きにジョーが目を向けてくる。「いや、実は新宿や渋谷で若者に声を掛けて芸能界入りを誘い、だけど本当は過激派やテロリストの組織に送られるというケースがあるらしいぜ」
 「日本で?そんなに大っぴらに?」一平が訊いた。「すぐに警察の手が入るだろう」
 「あ、でもぼくも聞いた事ある。ネットのBBSでも読んだ事あるよ」
 「ホント?伊藤」珍しく、今まで黙っていた洸が訊いた。伊藤が頷く。「ジョー、その声を掛けてきた奴ってどこの奴?事務所の電話番号は?」
 「え」ジョーが目をパチクリさせる。「知らねーよ、そんなの」
 「名刺とか貰ったんだろ」
 「そんなのは映画館のゴミ箱の中さ」そんな?、と肩を落とす洸に、「お前、興味あるの?JBの傍らAVデビューってのはマズイぜ」
 「そんなんじゃないよ。実は─」ちょっと言いよどむ洸だったが、「バイト先の友人がやっぱ新宿で声掛けられて・・・。そいつ結構いい男で誘われるのは初めてじゃないけど、今回は条件がすごく良くて、どうしようって言って来たんだ」
 洸は旅行代理店でコンピュータのデータ入力のバイトをしている。
 「ところがそいつ急にバイトに来なくなって、電話しても出ないし、アパートにもいないらしいんだ」
 「新宿の方に鞍替えしたんじゃねえのか」
 「それならいいんだけど、ケータイにも出ないのはおかしいよ。何かあったのかもしれない。ジョー、もう1回新宿に立ってよ。誰かが声を掛けてくれるかもしれない」
 「やだよ、チーフからの指令も出てないしよ。立ちたかったらお前が立てよ。洸だっていい男だ。絶対声を掛けられるぜ」
 ジョーの言葉に、だが洸は何も言わず考え込んでいるようだった。

 射撃場にいくつかの銃声が響く。
 30レーンほど並ぶ1番奥で、ジョーが立射に構え銃を撃っていた。手にしているのはルガー・モデル22/45KP512だ。
 22LR(ロングライフル)弾薬を使用しプラスチック製のグリップフレームとステンレス製のヘビーバレルが組み合わされた軽量タイプだ。
 大きさや重さはワルサーP?38コマーシャルよりわずかに大きいだけだ。だがプラスチック製のグリップに、ジョーはやや違和感を感じていた。
 「扱いには問題ないな」
 記録用紙にジョーの銃の扱いや射撃結果を書き込みながら高木が言った。彼は狙撃部の副部長で、ジョーが入隊し狙撃部に配属されたその日から彼に付いて銃の扱い方や手入れなどイチから指導してくれた人物だ。
 スポーツ射撃の全国チャンピオンだったジョーは銃の扱いに自信を持っていた。だから最初は高木の言う事などまともに聞いてなどいなかった。それでも高木は根気良くジョーに接し、その思いが通じたのかジョーも高木の言う事には耳を傾けるようになった。
 「グリップの違和感はすぐに慣れると思うが」
 「そうですね・・・」
 イヤープロテクタを外し、ジョーが手の中のルガーを見る。新しいモデルなのでワルサーよりスマートだ。弾丸の装填数も11発と多い。だが─
 「まあ、ゆっくり見つけていけばいい」ジョーの様子を見て高木が言った。「手に合わない銃を無理して使うのは、君達の場合命取りになるからな」
 「はい」ジョーは頷き、胸のホルスタへストンとルガーを入れる。と、「関」
 「やあ、ジョー」公安3課の関がこちらに歩いてくる。「いつもながら良い腕だ」
 「こんな時間にJBに用か?」
 「この前の事件の後始末の報告がてらにちょっとな」
 時計はそろそろ夜の9時を回る。普通の会社ならもうあまり人も残っていないだろう。だが24時間営業のJBでは昼間とあまり変わらない人数がこのビルの中にいる。時間に関係なく仕事をするのは関も同様なのだろう。
 「ふうん・・」
 ジョーはちょっと不信気に関を見たが、それ以上追求せず頭をひと振りし髪を後ろに流すと再びプロテクタをし、ルガーの射撃に入る。
 さっき高木が、“手に合わない銃は命取りになる”と言ったが、ジョーは大抵の銃器を使いこなす自信があった。現に弾丸(たま)は的の中心に集まっているし動作もスムーズだ。技術的にはなんの問題もない。
 もしあるとしたら・・・父の形見の銃を使えなくなってしまったジョーの、心の内に秘めた想いと、今だ割り切る事のできない感情、途惑い、尽かない踏ん切りと─
 「その銃にするのか?」
 連続射撃を終え、プロテクタを外すジョーに関が訊いた。まだいたのか、とジョーが彼を見る。が
 「まだわからないけど、ハイパワーより使いやすいかな」
 「・・・そうか」いつになくはっきりしない関の態度にジョーは再び不信気な目を向ける。「いや・・・あれからどうしたのかと、ちょっと気になってね」
 「・・・・・」
 ワルサーが分解してしまった時、関はその場にいなかった。誰かから聞いたのだろうか。
 ワルサーが使えなくなった事も?どうしてそこまでおれに構うんだ。
 ジョーは苛立ちを感じた。だから、
 「あんたが気にする事じゃない」
 あの時の事を思い出したくないジョーが冷たく言い放つ。自分の倍の年齢の大人を睨めつける瞳も容赦がない。
 「そうだが・・・」
 口籠もり、ジョーとルガーに目をやると、“邪魔してすまない”と呟き、高木にかすかに頭を下げ行ってしまった。
 眉をひそめジョーが見送る。と
 「相変わらず、若いのが気になるんだな」高木が呟いた。
 「彼を知っているんですか?」
 「うん・・・。10年くらい前になるのかな。ある事件で公安とタッグを組んでね。その中に彼がいた。彼はその時、当時まだ小学生だった一人息子を亡くしているんだ」
 「息子?彼に子どもがいたんですか?」
 「奥さんも早くに亡くして、父1人子1人だったがその息子も亡くして・・・。健在ならちょうど君くらいになるのかな。だから彼は若い者が危ない目に遭ったりケガをしたりするのをとても気にしていて─」
 「・・・・・」
 だからおれや洸にちょっかい出してくるというのか?その息子の代わりに?
 だが一方的にそう思われても困る。おれは関の息子じゃないんだ─。
 ジョーは再びルガーのマガジンを入れ替え銃口を的に向けた。
 他の事を考えるゆとりなどなかった。


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