コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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つながる想い 2

 「あいつで最後だな」
 銃撃戦の末、確保した容疑者を護送のため西崎達に託し、神宮寺はホッと息をついた。と、目を自分の後ろで瓦礫の上に座り込んでいるジョーに向けた。
 「大丈夫か?」
 その言葉にジョーはかすかに頷く。見ると左の袖口から一筋血が流れ出ていた。
 やがてJBから迎えのエルグランドが着いた。医療部の瀬川が傷の手当てをしてくれる。ブルゾンを脱いでシャツ1枚になっていたのが災いして、掠っただけだがかなりの出血になった。だが
 「出血はハデだけど大丈夫。2、3日で塞がるだろう」瀬川が言った。
 「Danke」
 ジョーはかすかに口を開きそのままエルグランドの後部席にもたれた。
 車が動き出し、ふと今回の現場である廃工場に目をやる。そして初めて実戦で使ったルガーKP512を手にした。
 弾丸が11発装填可能で軽くて使いやすい銃だと思った。が、なぜかその手に違和感を感じ続けた。
 銃好きには珍しくジョーは大きな口径の銃は好まない。ワルサーは9ミリパラペラム弾。このルガーも22口径LR弾だ。神宮寺の使う44マグナム弾に比べ、重量は六分の一もない。しかし動きながらの射撃を主とするジョーにはこの方が使いやすい。だが今回はなんとなく違った。
 走って銃を取り出し・・・手に合わなかった。
 それが続き、一瞬の途惑いを相手に突かれた。それでもとっさに身を躱し、体の中心部への着弾は避けたのだが。
 「なんでだろう・・・」 誰とはなくジョーが呟く。と
 「ワルサーの時よりお前の反応が遅い」隣に座っている神宮寺が言った。「ほんの・・0.0いくつの差かもしれないが、実戦でのその差は大きい」
 「・・・自分ではわからないけど」
 「自覚できないほど小さな差ではないぞ」神宮寺は目だけをジョーに向けた。「何に引っかかっているんだ?何を気にしている?」
 「・・・・・」
 そう訊かれてもジョーにはわからなかった。ふとワルサーを失った時の事を思い出す。あ
 の時自分の脳裏を走ったのは・・・驚愕、悲鳴、苦悩・・そしてその後は・・・。
 (・・・安堵?)
 そうだ。あの時、自分はなぜかホッとしたのだ。曽我部が並べてくれたワルサーのパーツを見ながら・・・悲しい気持ちの中にフワッと湧いた小さな安堵感・・・。
 ワルサーはもう使えない。自分はこれ以上悩み苦しまなくてもよいのだと。
 (それが他の銃を使うおれの動きを押さえている・・・?)
 「ジョー」
 突然、両手で顔を覆ってしまったジョーに神宮寺が声を掛けた。
 「・・・Ganz sicher(大丈夫だ)」
 掴み合わされた両手を額に当て、自分に言い聞かせるように呟く。
 今までにあった色々な出来事の中で、ジョーは自分が強い人間ではない事を思い知らされた。
 だがこの仕事で生きていくには・・・いや、これからも1人で生きていくためには強い人間にならなければ、と思う。
 自分の足で立ち、自分の足で歩ける人間に。だが、そのためには─。

 「戻ったばかりですまないが」森がソファを勧める。そこには一平、山田捜査課長、そして関と彼の部下の木村がいた。「君達も一緒に関さんの話を聞いてくれ」
 「疲れているところ悪いが」関がチラッとジョーの左腕を見た。ブラウンのシャツの袖口から白い包帯が見える。が、「まず、この写真を見てくれ」
 2枚の写真をテーブルの上に置いた。そこには20人くらいの若者が写っていた。もう1枚はその一部分のアップらしい。
 「洸?」一平がアップになっている写真を手に取った。そこに写っている7、8人の若者の1人は確かに洸のようだ。「なんです、この写真。どうして洸が?」
 「やはり洸君かね」関が一瞬木村と顔を見合わせた。「実はその写真は先日うちの連中がある施設に潜入した時に撮ったものなんだが」
 「潜入?そちらの仕事がらみですか?」神宮寺が訊いた。
 「うん、その施設というのは今うちが目をつけているある過激派の組織の建物でね。まだ大きな事件は起こしていないが、うちや警備部が動向に注意している」
 「しかし、そこになんで洸が─あっ!」
 一平が声を上げジョーを見る。
 「ま、まさかあいつ・・・本当に・・・」
 「思い当たる事があるのか?」
 森が訊いた。しかし2人は口籠もる。
 もし彼らが思っているとおりだとしたら、これは明らかに職務違反だ。だが話さないわけにもいかない。
 結局一平が2日ほど前にジョーや西崎達と食堂でした会話を皆に話した。
 「なるほど」森が眉をひそめる。「つまり洸は新宿に立ち、無事スカウトされたわけだ」
 「あのバカ・・」ジョーが舌を打った。「おれの言った事を本気に取りやがって・・・」
 「洸君が自分の意志で入ったとしたら我々が手を出す事はできない。ましてや奴らはまだ何もしていないしな」
 「危ない奴らなんだろ。だったらさっさと潰しちまえばいいんだ」
 「そんな理由で手を出していたら。全国で何万という組織が潰される」ジロリとジョーを睨み森が言った。「とにかく洸の事は我々がなんとかします」
 「お願いします。この組織はもう半年前から内偵しています。今、我々の事に気づかれたらまた姿を変えられ地下に潜ってしまう。もちろん正体がバレたら洸君もその友達とやらも危ない」
 「わかっています。そちらの邪魔はさせません」
 森の言葉に頷いて関が立ち上がった。森がドアを開け見送った。
 「君達も今日は帰りたまえ。私はこれから山田さんや新宿署の左近さんと協議に入る。決まり次第知らせる」と、神宮寺達3人に言った。「君達の手を借りる事になるかもしれない。それまでゆっくり休んでくれ。ジョー、大丈夫か?」
 「掠っただけなんで大丈夫です」
 それ以上何も言わず神宮寺の後について部屋を出た。と
 「ジョー」少し離れた所で関が1人待っていた。「時間取れないか?話したい事が・・・いや、渡したい物があるんだ」
 「・・・・・」
 ジョーがちょっと驚いた顔で関を見る。
 彼や洸を見ると色々とちょっかいを出したりからかったりする関だが、今の彼は違っていた。現場で時々見せる真剣な・・・何かを決心し実行する男らしい表情に溢れている。ジョーの年齢では出せない大人の男の顔だった。
 「・・・どこへ?」
 「おれの家が曙橋にある。そこまで乗せて行ってくれ」
 どうやら木村は車共々帰したらしい。
 関はジョーの返事を待ったが、ジョーが何も言わずエレベータの地下駐車場のボタンを押すのを見てホッと息をついた。

 「そこら辺に座って、ちょっと待っててくれ」
 関はジョーをリビングに通し自分はキッチンに向かった。
 そこら辺と言われてもリビングには1人掛けと3人掛けのソファしかない。ジョーは長い方のソファに腰を下ろすと周りを見回した。
 10畳ほどの広さのここにはソファセットとテレビしかなかった。どこかの家と同じだ、と思った。
 1つ違うといえば、部屋の隅にある小さな本箱だろうか。中には刑法や民事などの法律関係の本がギッシリと詰まっていた。
 「待たせてすまん」
 やがて関がパーコレータとカップを2客持って現れた。が、ジョーの視線の先に気づき、ちょっと照れくさそうに笑うと、
 「公安あがりの弁護士なんてどうかな」
 「えっ」ジョーが驚いて振り返る。「あんた弁護士になるのか?」
 「そういう考えも少しあるんだが、この年になると勉強も辛い。なかなか頭に入っていかないんだ」という事は、実際に勉強しているという事か。「ま、夢で終わるかもしれないが─。コーヒー飲め。顔が?疲れた?って言ってるぞ」
 「・・・・・」
 ジョーはちょっと口元を曲げ、しかしカップを手に取る。コーヒーの芳醇な香りが鼻腔をくすぐる。1口飲むとさっきまで体を締めていた緊張感が解れていく。家だったらこのまま横になってしまいたいぐらいだ。
 ジョーは長く息をついた。そして、
 「渡したい物ってなんだ?」
 「ん・・・。今、持ってくる」
 関は立ち上がり奥の部屋へ消えた。
 ジョーはソファの背にもたれ、目を瞑った。認めたくないが彼は疲れていた。それも肉体的な疲れではなく─。
 「これだ」
 関はすぐに戻ってきた。テーブルに置いたのは古い木箱だった。結んであるヒモを丁寧に解きフタを開ける。と
 「・・・ウッズマン?」
 木箱の中でビロードの布に包まれていたのは1丁のコルト・ウッズマンだった。ジョーのコレクションにもある。しかし彼が持っているのはバレルの細い初期タイプのものだ。
 だが目の前にあるウッズマンはバレルがスライドと同じ太さの、おそらく後期改良型だろう。長さも6インチはありそうだ。おまけにグリップも、ジョーのはウッズマン正統のローズウッドグリップだが、これは全体が銀色に輝く金属製だ。その分、少し重いかもしれない。
 「・・・これは?」
 「12、3年前、おれがアサクラさんから貰ったものだ」
 「え!」
 ジョーは驚いて関を見た。が、またすぐにウッズマンに戻した。
 「タッグを組んだ時、銃撃戦でおれの銃がイカれちまってね。アサクラさんが予備で持っていたこの銃を貸してくれたんだ。ナンブを使っていたおれにはちょっと大変だったが、いい銃でね。気に入った。それを察したアサクラさんがくれたんだよ」と、木箱をジョーに押しやる。「これはコルト・ウッズマン・マッチターゲットといって、ウッズマンの後発タイプだ。元々スポーツ射撃用に作られたもので重量も軽く撃ち続けても疲れにくいらしい。ただこれはアサクラさんがコルト社に頼んで作ってもらったものだから、規定品よりは重さがあるが」
 関の説明を聞きながらジョーは目の前の銃を見つめた。
 「今まで時々出して手入れはしてきた。だが実戦で使った事はない。おれが公安にいる限り、この銃が表に出る事はない。だから君に返す事にした」
 「え・・・」ジョーは思わず関に目を向ける。「だけど・・・」
 「あの事件の後、君が1人残された事は知ってた。だがその時はこれを返そうとは思わなかった。君はまだ小さかったし、国際警察を知って、いつか入隊してこの銃を使ってみたいと思っていたんだ。だが今だ公安にいる」
 ちょっと苦笑して箱の中のウッズマンを布ごと取り出す。そして関に促されたジョーが出した手にそれを乗せた。一瞬、ズシッとした手ごたえがあったが見かけほど重くはない。
 「アサクラさんの手に合うようにグリップが作られているはずだが」
 ジョーがゆっくりとグリップを握る。まるで手の平に吸い付くようにピタリと収まった。
 握った手に力が入る。フィット感が増した。トリガーに人差し指を伸ばす。大きな手の割には細く長い指がトリガーガードに引っかかる事なくトリガーに着いた。
 ジョーは左手をバレルに添えた。冷たい金属のそれが、なぜか暖かく安心感さえ感じられた。だが
 「これは親父があんたにあげたものだし、大切にしてもらってるみたいだから─」
 「だがおれが持っている限りこいつは箱の中だ。モデルガンじゃない。本物だ。使える所があるのなら使った方がいいんじゃないか」
 「・・・・・」
 「もちろんこれを実戦で使うかどうかを決めるのは君だ。だがせめて油をさし、実弾を込めJBの射撃場で使って やるだけでも」
 「それならあんたがやればいい。桜田門よりJBの方がここから近い」
 「ジョー、これでもおれは悩んだんだぜ。これを君に渡していいのかどうか」ジョーが怪訝そうな目を向けてくる。 「これはワルサーと違い、アサクラさんが実戦で使ったのは数えるほどしかないようだ。だが親父さんの物である事は間違いない。君に親父さんの事を思い出させてしまう、と」
 「バカだな」ジョーが苦笑して関を見る。「おれがそんなガキだと思っているのか」
 「ガキだろ?いつまでもワルサーに縛られている」
 「!」
 ジョーは鋭い視線を関に向けた。が、関はそれをしっかりと受け止める。ブルーグレイの瞳が一瞬揺らぎ、再びウッズマンに向けられた。
 「本当にいいのか」
 「君に使ってほしいんだ」
 頷き、関がニッコリと笑う。
 「・・・うん」ジョーも頷き、その口元に笑みが浮かぶ。時折見せる子どものような表情だ。「ありがとう。こいつでもう1度─」
 ウッズマンを手に立ち上がる。
 「え?もう帰るのか?」ドアに向かうジョーに関があわてて声を掛けた。「メシでも食っていかないか」
 「洸の件でチーフから呼び出しがあるかもしれない」
 「今夜はもうないだろう。なんなら泊まっていってもいいぜ。そいつをネタに一晩付きあえ、とは言わないから」
 「あたりまえだ!」
 ジョーはいっそこいつで撃ってやろーかと思った。だがすぐ足がつきそうなのでやめた。代わりに音を立ててドアを閉めてやる。
 「やっぱガキだね」玄関のドアが閉まる音を聞きながら、ふとカラになってしまった木箱に目を向ける。「これでいいよな、アサクラさん」
 寂しげに呟く声がリビングを覆った。


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