コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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当世幻話 1

 「降ってきたな」
 ジャケットの肩を濡らす雨水を指で弾いて神宮寺が言った。だが横にいる相棒の興味は突然降ってきた大粒の雨にはない。暗く先の見えない前方へとその鋭いブルーグレイの瞳を向けている。
 ゆっくりと歩き出すジョーに、神宮寺も一歩足を進めた。デコボコの地面は歩きづらく、それ以上に周りの暗さが気に掛かる。
 「本当にこんな所に武器庫があるのか?」ジョーが言った。
 「場所はここに間違いない。炭鉱の跡のような穴というのもここだけだ」
 先日、チーム1(ワン)が確保した武器密輸団の男からの情報だ。
 日本に陸揚げさせた武器を一時的にこの炭鉱跡に運び込んだという。その仲間を追うチーム1の代わりにダブルJが確認に出張ってきた。
 番人はいないというので大型のライトを持ってきたが、それでも数メートル先までしか照らせない。入り口からゴーという雨の音が聞こえてきた。が、
 「違う・・。雨の音じゃない」
 え?、とジョーが神宮寺を見る。だが何かに気がついたようにその目を前方に向けた。
 闇の中から、そして頭の上から響いてくるその音は─。
 「出るんだ!」
 神宮寺が叫び、ジョーと共に踵を返した。が─、
 突然体に伸し掛かってきた黒い塊に、2人は地面に押し倒された。

 シトシト降り続いた雨が昼になって大粒の本降りになってきた。梅雨でもないのにもう3日も降りどおしだ。天気予報では、今夜には上がると言っていたが、
 「気の毒にな、江川達」コーヒーカップを片手に窓から外を見ていた神宮寺が言った。「2日間の休暇が全部雨だ。確か千葉に釣りに行くと言っていたが」
 「普段の行いが悪いんじゃねーの。江川も安田も中山も」
 コーヒーの自販機のスイッチを入れジョーが言った。彼には言ってもらいたくないだろうな、と神宮寺は思った。
 「で、なんで皆パソコンでゲームしてンだよ」
 ジョーがすぐ横にいる伊藤のパソコンのモニタを覗き込んだ。いや彼だけではない。
 ここ4階の捜査課の休憩室では、持ち込んだノートパソコンで伊藤や樋口、中根、そして西崎までがゲームに興じている。
 もっともこの数日事件を抱えていないJBだ。こんな時こそ交替で休暇を取るのだが、一人身、彼女募集中の彼らは休みの日でもJBに来る事が多い。
 「色気のない奴らだなあ。こんな狭い所に男ばかりでモサ苦しくてしょうがねえ」
 「それを言うなら、むさ苦しいだ。そしてお前もその1人だぞ」
 神宮寺が言うのへ、フンッと顔を背けジョーがコーヒーを一気に呷った。Sメンバーもヒマのようだ。
 「難しいんだ。洸の“国際秘密警察・悪童軍団パート3”」忙しくキーを叩きながら樋口が言った。「コースA・Bは攻略できたけど、Cはどうしてもだめだ」
 「おれも」
 「Cは途中までは行ったんだが、ラストまで辿り着けない」口々に文句を言っている。「ゴール前のこの攻撃が躱せないんだ」
 「へへへー」部屋の奥のソファでは、このゲームの製作者が自慢げに笑っている。「パート3を全クリしないと、次のパート4のソフトは渡せないからね」
 「本当にクリアできるのか、コースC」
 「もちろん」
 「だけど相手の攻撃が早すぎて、キーを叩く手が間に合わない」
 どうやら攻撃を仕掛けてくる相手を撃ち破り突破するゲームらしい。ならば2人で─と、伊藤と中根が1つのゲームに2人に挑んだが、わずかな差でクリアできなかった。では3人─。小さいノーパソではそれは無理だ。
 「あー、やっぱりダメだあ」
 早撃ち自慢(?)の西崎も絶望の声を上げた。
 「平和だな」ゲームには興味のないジョーが呟いた。ふと外を見ると、先ほどより雨足が強くなっていた。「今日はブルーコンドルに乗れないな」
 「一平もアイフルの所に行ってるけど、この雨じゃムリだね」自分のノーパソを叩きながら洸が言った。「でもブルーコンドルは車なんだから、雨でも平気じゃないの?」
 「奴はいいが、コースが滑る」
 ブルーコンドルを預けている結城自動車工業のコースはサーキット用の路面ではない。レース仕様のブルーコンドルが走るには適さないのだ。それでも晴れていればまだいいのだが─。
 「結城さんはサーキット用に改装すると言ってたけど、かなりの費用が掛かるからな。すぐにはムリだ」
 「借金王のジョーはアテにならないしね」スコン!と洸の頭にペンが当たって跳ね返った。「このゲームを売る事ができたら、けっこうなお金になるんだけどな?」
 「こんなの、絶対クリアできないよ」伊藤がため息をつく。「この速さは人間じゃ無理だ」
 「お前ならできるんじゃねーの、神宮寺」ジョーが、モニタのゲームを見ている相棒に言った。「なにせ現実では、バンバンぶっ放してんだからよ」
 「・・・お前にだけは言われたくない」
 ジロリとジョーを睨む神宮寺の、だが口元にはかすかな笑みが見える。何か考えがあるようだ。
 「あーもう!絶対ムリ!100%ムリ!」
 とうとう男達が根を上げた。
 「そんな事ないよ。実はたった1つだけ、スムーズにクリアできる方法があるんだ」
 それは!?と迫る男達に、エヘヘーと洸が笑い返した。
 「今、計算したんだけど」樋口が言った。「相手の攻撃スピードが、おれ達がキーを叩くスピードに対して0、1秒早い。これではこっちがいくら早く叩いても─」
 「叩いてダメなら、叩かなきゃいいじゃねえか」え?と男達がジョーに目を向けた。その向こうで洸が固まっている。「叩いても追いつかないんだろ?だったらそのままでいてみれば?」
 まさか・・・と、男達がコースCの最初に戻った。
 相手の本拠地が見えた時点で攻撃してきた。が、男達はキーを叩かず我慢する。と、激しい攻撃にも関わらず、相手の弾丸はこちらに一発も当たらない。そのまま本拠地へと近づいていく。
 ふと思いついて西崎が応戦用のキーを叩いた。こちらの弾丸が相手に飛び、そのとたん西崎が被弾した。
 「こっちが応戦すると相手の弾丸が当たるんだ!」
 それが証拠に、一発も撃たなかった西崎以外の男達は全員ゴールした。
 「そーいう事か・・・」
 「言っちゃった」
 眉を八の字に、神宮寺が苦笑した。
 「ジョー!余計な事言うなよ!営業妨害だぞ!」
 「営業しているとは知らなかったぜ」と、洸の前に手を出す。「ショバ代」
 「なんでジョーに払うのさ!」パンッ!とその手を打ち払ってやる。「よーし、パート4でジョーをセキさんへの人身御供にしてやる!」
 パンパンパン!と洸の頭が鳴った。
 「他人(ひと)の休憩室に来てショバ代ねだるSメンバーって・・・」
 「平和だな」2杯目のコーヒーを注ぎ神宮寺が言った。「ところでジョー。そのシャツなんとかならないか。男の胸なんか見たくないぞ」
 「女ならいいのかよ」スコン!とジョーの頭でスプーンが跳ねた。「ボタンが跳んじまったんだから仕方ねえだろ」
 見るとブルーのシャツの第2、3ボタンがない。いつもは見えない金のタグネックレスもよく見える。
 「なんか肩もきついんだよな。縮んだのかな」自分が太ったという考えはないようだ。誰もがそう思ったが口には出さなかった。「ここはヤローばかりだしいいじゃん。神宮寺は不満のようだけど」
 「だらしないなあ」ここぞとばかり、洸が言う。「女の子がいたらどうするのさ」
 「全部脱ぐ」
 それはそうだ、と全員が納得した。皆ヒマなのだ。
 「で、パート3は全クリしたんだから、パート4のソフトはくれるんだろ?」中根が言った。
 「それが・・。こんなに早くクリアされるとは思わなかったから、まだプロットの段階なんだ」
 洸の作るゲームは彼のパソコンから直接CD?ROMにおとされたもので数枚しか作成されていない。JB内の限られたメンバーしか使っていないのだ。
 「何かおもしろいストーリーないかな?」
 と、ネタ切れの書き手のような台詞を吐き、タタタ・・・とキーを叩いた。
 「おれ達に彼女ができるっていうのは?」
 「この中の誰かが、実は犯人!というのもおもしろいかも」
 「チーフをめざせ!いやいっその事本部の長官になろう!って─」
 「おいおい」
 西崎が苦笑する。と、“チーム1、2階小会議室へ集合”の館内放送が入った。
 「おれ達休暇中なのに、なんで呼び出されるんだ?」
 「JBにいるんだもん。仕方ねーじゃん」
 他人事(ひとごと)のようにジョーが言う。反論したいがその時間はなさそうだ。ノーパソを終了させ、チーム1のメンバーが出て行った。
 「お気の毒に」
 と、見送るジョーの目は、しかしちょっぴり羨ましげだ。
 事件など起こらない方がいいが、ひまだという理由以上に、やはりあの緊張感の中に自分を置きたい、動きたいと思ってしまう。
 「6階に戻ろう。おれ達にも出動が掛かるかもしれない」
 「そうだな。─あ」
 ジョーの胸元がキラリと光ったかと思うと何かが落下していった。床から拾い上げたそれは金のタグネックレスだった。
 「クサリ、切れちまった」
 「引っ掛けたのか?」だがそれらしい跡はない。「きれいに切れてるからすぐ直るさ」
 「うん」しばらく眺めていたがパンツのポケットに入れた。「つけている時は気にならなかったけど、ないとかえって気になるな」
 珍しく気弱な笑顔を見せるジョーに、神宮寺がかすかに眉をひそめた。
 その2人に出動の指令が下ったのは、長雨の上がった翌日の昼頃だった。

      ×      ×      ×      ×      ×

 「それにしても本当に悪運強いね2人共。あんな事故に遭って、掠り傷だけだなんて」
 「悪運も運のうちだ」洸の横を歩くジョーが言った。「そいつらも味方につけないと生き残れないぜ」
 なっ、と神宮寺に同意を求める。
 その神宮寺もジョーも、傷と言うほど目立ったものはない。頬と手の甲がちょっと赤いくらいだ。
 「でもこっち側に来るのは久しぶりだな。千駄ヶ谷に移ってからはなんとなく新宿へ出ちまうし」ここは駅を挟んでJBとは反対側─代々木1丁目の商店街だ。「あの店まだあるかな─。おー、あるじゃん」
 JBが代々木にあった頃よく行っていた小さなレストラン・バーだ。
 「相変わらず空いているな」
 ちょっと覗き一平が言った。代々木の商店街自体小さい。ましてや道1本入った所にあるこの店は知る人ぞ知るだ。そういう所が気に入っている。
 「それにしても、なんで急にここに来ようなんて思ったんだ?」
 「ん?、わかンねえ。なんでだろう?」
 首を傾げ、ジョーが入り口のドアを引いた。と、
 「おや、2日続けての来店とは珍しい」以前と変わらない気の良いマスターが声を掛けてきた。「それとも昨日のツケを払いに来たのかな」
 「昨日?ツケ?」
 再び首を傾げるジョーに、マスターが1枚の紙を手渡した。
 「請求書・・・?ゲッ!25万!?」ジョーの叫びに神宮寺達も彼の手元を覗き込んだ。「ちょっとまってくれ、マスター!これはおれじゃない!昨日は来てないし─」
 「なに言ってる。間違いなく君だ。その席で散々飲み食いしたじゃないか」
 「おれ1人で?25万も?」
 「VSOPを2杯、ロブトフを1杯、ブラントン2杯にリゼルヴァを3本、パウラナーを5本と─
 「ム、ムリだ・・・」
 大きな声では言えないが、ジョーはあまり酒が得意ではない。最初の1、2杯は付き合うが、後はウーロン茶で誤魔化している。
 「そうだな、お前に25万も飲めるわけがない。ジュースにしても多すぎる」スッと神宮寺がジョーの手から請求書を抜いた。「それにそんなに飲んだとしたら、この店が無事でいるはずがない」
 どーいうイミだ?とジョーが睨む。
 「マスター。ジョーは昨日おれと中野の病院にいて今朝出て来たんだ。ここへ来るのは無理だ。それに」神宮寺の指が請求書の下の方を指した。「これはジョーのサインではない」
 そこにはカタカナで、“ジョー・アサクラ”と書かれている。もしジョーがサインをするならアルファベットを使う。
 「だけど本当に君にそっくりだったんだ。こんな風貌の男が2人いるなんて思えない」
 それはそうだが・・・。
 どーいう事だ、と目を向けてくる神宮寺に、しかしジョーは答えられなかった。

 「逃亡者はあと2名。伊藤と樋口は1階、中根と白鳥は2階へ行ってくれ」
 「この廊下の先は行き止まりだ。おれ達は地下へ行く」
 西崎が頷くのを見て、神宮寺とジョーが暗い階段を地下へと下りていった。ひんやりとした空気が身を包む。
 「この1、2年で、日本に密輸しようとしたり逃亡してくる奴らが増えたな」
 「水際が弱いんだ。やっているんだろうけど手が回らない」
 地下も長い廊下が伸びている。そこにドアが並んでいるが人の気配はない。銃をかまえドアを開けていく。
 「東京や横浜辺りは外国人がウヨウヨいるけど、単一民族の日本に外国人は紛れ込みづらいだろうに」
 それはジョーが1番身に沁みているだろう。
 アサクラ姓を名乗っていても、ジョーに日本人らしい外見はない。それでいじめられる事はないが、彼の独特の風貌も手伝って一歩、間(あいだ)を置けれる事はよくあった。
 「それでも日本は安全な方だから居やすいんだろうな」
 3つ目の部屋にも誰もいない。と、頭上でドドド・・・と走る音がした。
 「どうしたんだ?なぜ急にそんな事を言い出す?」
 「ん?、なんでだろ・・・」次のドアの前に立ち気配を窺う。「親もいないのに、よく他の国に十何年もいたな、と思って─」
 ピッ!とジョーが緊張した。神宮寺の顔つきも変わる。ジョーの目に頷いた。
 「入るぞ」バンッ!とドアを押し開け2人が一気に突入する。が、「─え?」
 体を低くしウッズマンをかまえたジョーの動きが止まった。室内を見回す。
 「・・・誰もいない・・・」
 呆然と神宮寺が呟く。ジョーはもちろん、自分も室内に動く気配を感じたのだ。
 だが隠れる物が何もない室内にはネズミ1匹いなかった。
 「まいったな・・・。鈍っちまったのかな」
 念のため室内の真ん中に立ち、2人は辺りを見回した。そのとたん、周り中からガガガ・・・と弾丸が飛んできた。  
 「!」
 衝撃で2人の体がすっ飛ぶ。
 「神宮寺!ジョー!」西崎と立花が飛び込んできた。床に倒れている2人の体を抱き起こす。「大丈夫だ、2人共。ケガはないぞ」
 「え・・・?」
 ジョーが自分の体を見回す。被弾した痕はない。神宮寺に目を向けると彼も珍しくキョトンとした顔で自分の手や体を見ていた。銃痕はもちろん血の一滴も流れていない。確かに銃声と衝撃を感じたのだが。
 「逃亡者の2名は2階で確保された」西崎が言った。「引き上げるぞ」
 「・・・・・」
 ダブルJはゆっくりと立ち上がり、お互いの顔を見合わせた。


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