コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

当世幻話 2

 「西崎から聞いたけど、それって悪運がどうのって話じゃないよね」
  「だけど本当に被弾のショックはあったんだ。なのに─」
 ジョーが確かめるように神宮寺に目を向けた。しかし彼にしては珍しく曖昧な貌をジョーに返す。
 あの後2人は西崎や立花と共に地下の部屋を全部見て回った。だが銃はおろか、人っ子一人いなかった。もちろん床にも銃弾の跡もない。
 「西崎達だって銃声は聞いているんだ。なのにいったいどうなっているのか─」
 「本当に不死身だとは思わなかった」茶化す洸をジョーが睨みつけた。「でもぼくは信じるよ。ジョーだけならツケで飲みすぎたんだと思うけど、神宮寺もとなると─いてっ!」
 洸が路上の置き看板にぶち当たった。ジョーが尻を蹴飛ばしたのだ。
 「なにすンのさ!信じるって言ってるじゃないか!」
 「だったら黙って頷いてろ!一言多い!」
 「君は一蹴りも二蹴りも多いよ!」
 「もっとサービスしてやってもいいぜ」
 「イタタタ・・・。洸ボレーキック!」
 「おわっ!
 「なにやってんだか・・・」
 2人の後を歩いている一平がため息をついた時─、
 「おっ、あいつだ!」「このやろう」と、5、6人の若い男達が彼らの前に立ち塞がった。「昨夜はうまく逃げられたが、今日は逃がさないぞ」
 「昨夜?」
 「逃げたって・・」
 目をパチクリさせ、ジョーと洸が顔を見合わせた。お互いに?君だろ?と言っている。その間に男達が2人を囲んだ。その目はジョーに向けられている。
 「おい、人違いだ。おれは昨夜は・・・ずーと仕事してたんだ。あんたらに会った事は─」
 「デタラメを言うな!こんな風貌の奴が2人もいてたまるか!」
 どこかで聞いた台詞だ。
 「で、なにしたの?彼」
 目的はジョーだとわかり、他人事のように洸が訊いた。
 「食い逃げだ」「おれ達の店で12万も─」
 「く、食い逃げ?!?」洸はもちろんジョーも目を見開いた。「12万も・・・。なに食べたの?」
 「おれじゃねえ!食い逃げだと?殺人や恐喝とかの方が格好つくのに」
 「つかない!」
 「とにかく払ってもらうからな。おっ─」男の1人が神宮寺を見た。「お前、こいつを迎えに来た奴だよな。代わりにお前が払ってくれてもいいぜ」
 「・・・・・」
 神宮寺の細い目がまん丸に見開かれる。もちろん覚えはない。
 「それともうちの店で働くか?」大柄の男が神宮寺に近づき、その肩をスッと撫でた。「細いがしなやかないい体だな。あんたならすぐに客がつく。12万なんてアッという間に返せるぜ」
 男の言葉に神宮寺以外の3人がヒッ!と声を上げた。思わず一歩下がる。
 「─ジョー、こいつらの店で何を食ったんだ」
 チラッと向けられた相棒の目に、ジョーが思わず首を振った。洸と一平はもう2歩後ろに下がる。
 「それとも─食われたのか」
 「く、食っても食われてもいねえ!昨夜はお前と仕事だったじゃねえか!」
 確かにその通りなのだが、まだ睨んでいる神宮寺にさすがのジョーも固まるしかない。
 「こっちの奴(ジョー)とペアを組んで売り出してもいい─」
 男の手が再び神宮寺に伸び─たかと思うと、次の瞬間、男の体が回転し地面に伸びていた。残りの男達が息を呑む。
 「ジョーとペアだと?」その男達に細く鋭い目を向ける。「おれが食われる役か?」
 「・・・・・」
 時々とんでもない事を言う神宮寺に、ジョー達がさらに下がる。
 気がつくと男達は全員地面に転がっていた。と、神宮寺が再びジョーに目を向ける。ビクッと体が跳ねた。
 「お、おれ・・・食いかたねえし・・・ホントにこいつら知らねえし・・・」
 「─フン」
 踵を返す相棒にホッと息をつくジョーだが、なるべく近寄らないようにして後に続く。洸と一平はその2人よりさらに数メートル空けていた。

 「君達の偽者?」コーヒーを飲む手を止め西崎が言った。「それは・・・ちょっと無理がないか?」
 1人でも個性的な彼らだ。それが2人揃うなど皆無に等しい。
 「だけど2人にバケて何か大きな事を計画しているとしたら─」
 「でもさ、今までした事といえば、ツケと食い逃げだ。それより大きな事って─」
 それもそうだ。第一2人に代わって何か仕出かすとしたら、それは2人の正体を知っているという事だ。立花も高浜も首を傾げた。
 「どうかしたのか?ジョー」
 神宮寺が、ずっと無言のままのジョーに言った。
 「いや・・・。なんだかさっきから誰かに体を突っつかれているような・・・」
 と、腕を上げてみせる。
 「あいつらの店で食ってきたのに、欲求不満か?」
 「だからおれじゃねえって!」
 「言い掛かりにしても、わざわざジョーや神宮寺を狙わないよな」
 チラッと見ただけでも素直に金を渡してくれそうには見えない。という事は?本当?だったのか─。
 「え?」
 ふと、神宮寺が振り向いた。誰かに呼ばれたような気がしたが、声のした方は窓だ。誰もいるはずがない。
 「さ・・とし・・・」
 口が3つの音を刻む。
 さとし─智─死んだ弟の名だ。なぜ急に─ 誰かが自分の体に何かを当てている。冷たい─

 「─あ」
 目が開いた。ガバッと体を起こす。
 薄暗い部屋のベッドの上に神宮寺はいた。奥のベッドにはジョーが寝ていた。ダブルJ室の仮眠室だ。
 西崎達と食堂で話をしていたはずだが・・・夢か?
 神宮寺は何かを当てられていた胸に手をやった。もちろん何もない。
 「・・・欲求不満はおれの方かな・・・」
 このところJBに泊まる日が続いている。さすがのおれも疲れているのか・・・。
 ふとジョーに目を向けハッとした。彼が寝ているベッドの向こう側に何かがいた。
 ボォと白く浮き上がるそれは明らかに人間の形をしている。ブランケットの上に出ているジョーの腕を取り─
 「ジョー!」
 「うわっ!なんだ!?」突然、自分の上に降ってきた相棒を見てジョーが飛び起きた。「じ、神宮寺?─おれを食うつもりか?」
 「なに言ってる!そこに─!」
 神宮寺の声が空(くう)に消えた。ベッドの向こう側は壁だ。誰も立てるわけはない。もちろんここには2人しかいない。
 「今・・・そこに誰か・・・」
 「いるわけねーだろ。なに寝ぼけてんだよ」
 「本当なんだ。白い服を着た男で・・・、お前の腕に何かを刺そうとしていた」
 「・・・刺そうとしたのは、お前じゃねーの」ゴンッ!とジョーの頭が鳴った。「なんだよ!先に襲ってきたのはそっちだろ!おれをどうするつもりだ!」
 だが神宮寺はジョーの言葉に乗ってこない。惚けたように一点を─壁を見つめている。
 「お、おい・・」
 「・・・いるわけないよな・・。塗り壁にしてはおかしいし・・・人の形していたし・・・」
 「ぬ、塗り壁って・・・。どうしたんだよ、神宮寺」
 さすがのジョーも神宮寺の様子がいつもと違うのに気がついた。自分を襲ったのではなく、本当に何かから守るために─。
 突然リンクとスピードマスターが鳴った。文字盤に字が走る。
 「─え?」
 「なんだこれはっ」
 神宮寺も声を上げた。そこには?オレタチヲツカマエテミロ?の文字が。
 「なんでリンクにこんなものが入るんだ!?」
 リンクを通信機能に切り替えた。だが依然として文字が流れ続けている。
?オレタチヲツカマエテミロ?─。
 「・・・こいつがおれ達の偽者・・?だけどなんでこんな事ができる?」
 ジョーも、彼に目を向けた神宮寺も、しばらく呆然と互いを見つめていた。

          ×     ×     ×     ×     ×

 “ジョージ”
 柔らかく、少し高い声が彼を呼んだ。
 (・・・ママ?)
 ジョーが辺りを見回す。乳白色のその空間に人影はない。
 “ジョージ”
 今度はバリトンのよく響く男の声だ。ふと大きな影が浮かんだ。
 (パ・・パ・・)
 声のほうへジョーは手を伸ばす。だが何も触れない。
 “ジョー”
 違う男の声がした。白い影が近づいてくる。
 ジョーは目を瞑った。

          ×     ×     ×     ×     ×

 「リンクもスピードマスターにも異常はないよ」通信課の機器担当の城田が言った。「君達が言っている文字のログも残っていない」
 「やはり・・・」リンクを受け取り神宮寺が呟いた。「そんな事だろうと思った」
 「ちなみにここと管理課のサーバにも、外部からのアクセスの記録はないそうだ」
 「でもおれ達は確かに見たんだ。?オレタチヲツカマエテミロ?って」
 「君達がウソをついているとは思ってないよ。でも─」
 城田が肩をすくめた。どこにも記録が残っていないのだ。丸ごと信じろというのも無理な話だ。
 「手数を掛けました」
 頭を下げ神宮寺が踵を返した。不満そうな顔のジョーも後に続く。エレベータに乗ると、そのまま壁に寄りかかった。
 考える事はたくさんあるのに、それが口から出てこない。と、リンクが鳴った。神宮寺は一瞬動きを止め、ジョーは壁から体を起こした。が、相手は森だった。ジョーと共に公安へ行くように、との事だ。
 「関の所へ・・」ジョーが顔をしかめた。「いい話じゃなさそうだな」
 それでも行かなければならない。
 2人はハリアで霞ヶ関の警察庁へと向かった。

 「やあ、わざわざ済まないな」
 5階へ上がるとエレベータの前で関が待っていた。そのまま2人を連れ、自分のデスクの向こうにある小部屋へと案内した。
 完全防音の部屋で中には木村がいた。ドアが閉められる。
 「実は見てもらいたいテープがある」
 「警察庁の中で、AVの鑑賞会か?」
 「それならいいんだが」
 関の合図で木村がパソコンのキーを叩いた。モニタに街中の様子が映る。夜だろうか。
 広い歩道を3人の男が歩いてきた。と、画面の左側から別の男が2人飛び出してきて3人の男に殴りかかった。あっという間にのしてしまう。
 2人の男は歩道に倒れた男達からサイフを奪った。その時、車のライトが男の1人を照らし出す。
 「お、おい・・」ジョーが引きつったような声を出した。「こいつは・・・」
 「そう、?君?だ、ジョー」モニタに映る?ジョー?から、目の前のジョーに目を移し関が言った。「借金があるとは聞いていたが、そんなに金に困っているとは知らなかったぞ。ジョー、おれが食わせてやるからヨメに来いっ」
 固まっているジョーを関がガバッと抱きしめた。
 「バカ言ってンじゃねえ!これはおれじゃない!」ジョーは関を引き剥がし殴ろうとしたが、その手を神宮寺が掴んだ。「お、おい。こいつは例の─」
 「殴り方がそっくりだ」神宮寺が言った。「本当はお前じゃないのか」
 「こいつが?おれ?だったら、もう1人は?お前?だぞ!」
 ジョーの言葉に神宮寺は思いっきり眉をしかめた。昼間、身に覚えのない事で男達に絡まれた事を思い出す。
 「この映像は赤坂5丁目の路上カメラのものだ。木村が警視庁に行っていて偶然見つけた」掴まれた手首をクキクキさせ関が言った。「いったいどういう事だ?何かの捜査の一環か?」
 そう問われてもジョーはもちろん神宮寺も答えられない。この一連の出来事は、まだ森にも報告していないのだ。と、ポンッとチャイムが鳴った。木村が関に確認しドアを開ける。とたんにピー!という甲高い音が入り込んできた。
 「なんだ!抜き打ち訓練か!」
 「係長!入り口を突破して庁内に入り込んだ者がいるそうです!」山本の言葉に関達は小部屋から出た。「侵入者は男2人。階段を上階に進んでいます」
 「ここに入り込んだ・・・」一瞬呆然となった関だが、「室内に侵入させるな!固めろ!」
 そう叫び自分は3課を飛び出し階段へと向かう。と、階下から上がってきた警備員達と鉢合わせになった。
 「侵入者はどこにいるんだ!」
 「そ、それが足の速い奴らで─あっ!」年配の警備員が関の後ろを指差す。「いつの間に!」
 え?と振り返る関、そこには神宮寺とジョーが立っていた。
 「この2人です。確保─!」
 「ち、ちょっとまて!え?彼らなのか、侵入者は?」関と木村が、神宮寺とジョーを取り囲もうとする警備員との間に入った。「彼らは違う!私の知人だ!」
 「しかし確かにこの2人です。服装はちょっと違いますが・・・」と、
 『侵入者は7階のフロアを西側に向かって逃走中─』
 と、館内放送が入った。ここは5階だ。
 「とにかくこの2人は違う。私は公安3課の関だ。責任は私が持つ。7階に行ってくれ」
 『侵入者は8階に移動─』
 と、また放送が入った。渋々と警備員が階段を上がっていった。
 「君達は騒ぎが収まるまで3課から出るな。じっくり話を聞かせてもらうぞ」
 そう言い、関は2人の腕を取ろうとした。が、その手をすり抜け2人は階段を駆け上がった。
 「神宮寺君!ジョー!」
 関と木村も後に続く。
 「こっちだ」
 8階に着いたとたん銃声が聞こえてきた。神宮寺が先に立つ。
 廊下の突き当たりに溜まっていた警備員や警察官が一斉に散った。どうやら侵入者はその奥の部屋に入り銃を撃ってきているようだ。
 神宮寺とジョーが警官達の間を抜け、その部屋へと向かう。
 彼らを見て?あっ!??と声をたてる者もいたが、2人の迫力の前にそれ以上手を出させなかった。
 2人が入り口の左右に分かれた。中を窺い、
 「行くぞ」
 スッと体を滑り込ませ─が、すぐに伏せた。ピシッ!と2人の後ろの壁を銃弾が跳ねた。
 「いい腕してるな」
 嬉しそうにジョーが言う。
 2人はそれぞれの銃をハリアに置いてきているので、3課を出る時木村から借りた小型のコルトしか持っていない。弾丸(たま)も1発しか入っていないそうだ。
 いつもの彼らならこの不利な条件でも臆する事はないのだが─。
 「─おい」
 「ん─」
 2人はすぐに気がついた。相手の気配がまったくないのだ。なのに弾丸は飛んでくる。それも四方八方から─天井からさえも─。
 「・・・どうなってるんだ」
 「くそォ!」
 ジョーが机が並ぶ向こうにある、唯一人が隠れる事ができるパテーションの後ろにまわり込もうとし─何十発の銃声が響いた。
 ジョーの体が吹っ飛ぶ。
 「ジョー!」
 神宮寺が走り寄った。パテーションの後ろに銃口を向けた。が、
 「・・・いない?」そこに人の姿はなかった。「・・バ、バカな・・・」
 銃口を上げたまま呆然と見つめる。が

           ×     ×     ×     ×     ×

 「意識レベル、低下しています。─サチュレーション値が─」
 「─を、10cc─」
 「─血圧が─」
 「こちらも同じ状態で─」
 「挿管準備─」

           ×     ×     ×     ×     ×

 「ジョー!」
 関の声に、神宮寺は我れに返り振り向いた。
 「しっかりしろ、ジョー!」床に横たわるジョーを、関がしっかりと抱きかかえた。「じ、人工呼吸を─」
 「なにしやがる!」ジョーの拳(こぶし)が関のアゴに炸裂した。「どさくさに紛れてミョーな事するな!」
 「ジョー・・・」目を見開き、神宮寺が訊いた。「お前・・・なんともないのか?」
 「あ?あ─、そうみたいだな」ジョーが自分の体を撫で回した。弾丸が当たった形跡はない。「またかよ。本当に不死身になっちまったのか?ちょっと苦しかったけど・・・」
 そう言い立ち上がるジョーが、まだ呆然としている相棒に目を向けた。


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