コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

つながる想い 7

 翌日の午前、鷲尾はルイスと伴って千駄ヶ谷のJBを訪れた。新築移転してから初めての訪問である。
 規模はパリ本部とは比較にならないが、現在の最新技術と設備が備えられたJBを鷲尾は飽きる事なく見て回った。
 以前パリ本部の協力の下、作動させた通称?裏街道?もJB側から入ってみた。
 ひと通り見て回り佐々木がコーヒーでもと応接室に案内しようとしたが、鷲尾は高木に会いたいからと、彼が作業をしていた射撃場奥の調整室へと1人向かった。
 ルイスには事前に伝えてあったのだろう。彼は鷲尾を見送ると佐々木にもう一度情報管理について話をしたいと申し出た。
 鷲尾は調整室の窓から顔を覗かせ中に高木がいるのを確認するとノックした。振り返った高木が驚いて立ち上がる。すぐさまドアを開けた。
 「仕事中すまないが、ちょっと邪魔させてくれ」
 「はい、どうぞ」高木は作業台に広げてあったパーツを片付けようとした。が
 「ウッズマンだね、アサクラの」
 そう問う鷲尾に高木が?はい?と頷く。
 鷲尾がグリップにソッと触れる。銀色に輝く金属なのになぜか暖かさを感じた。そしてグリップの下の方に入っている?J・A?という飾り文字のイニシャルを─。
  「ああ、間違いない・・・。これはアサクラのマッチ・ターゲットだ」
 「ジョーが関さんから受け取ったと言っていました。関さんはとても大事にしていたようです」高木が小さなパーツを1つ手に取る。「今朝コルト社に頼んでおいたパーツが着いたばかりなんです。これで組み立てれば使えます。ジョーに渡せますよ」
 「作業を続けてくれ。ジョージが待ちわびているだろう。私はここで見ていていいかな?」
 「もちろんです」
 高木は微笑み、組み立て作業に戻る。
 1つ1つのパーツを磨き、ていねいに正確に組み立てていく。
 やがて、銀色に輝くコルト・ウッズマン・マッチ・ターゲットの完品が高木の手の中から現れた。その姿は鷲尾から見ても当時とまったく変わらない輝きを放っていた。
 「試射を行いますが、ご覧になりますか?」
 鷲尾が頷き2人は調整室から射撃場に出た。と、
 「ジョー」
 2人が立ち止まる。そこにはジョーがいた。
 少し横向きの体を、しかしブルーグレイに輝く瞳を真っ直ぐに2人に向けている。その瞳は自分が新たに手にするものに対しての期待に満ち、使いこなす自信に溢れている。彼はもう迷っても恐れてもいない。
 爆風により焼かれた前髪も、その間や顔のあちこちに見えるキズさえも今のジョーには強さの現われのように見える。
 「もう、いいのか?」
 高木の問いに頷くとジョーは彼の手の中のウッズマンに目を移した。高木が手渡す。
 ジョーはグリップを握りイニシャルを確かめた。目を細め、ふと子どものような表情を見せた。
 再びグリップを握る。冷たい金属のそれが手にピッタリ吸い付くように収まった。
 ジョーはイヤープロテクタをつけずに射撃位置に立ち、ウッズマンを握る手を真っ直ぐに前に突き出し片手撃ちのスタンスをとった。
 「──!」
 鷲尾を思わず息を呑んだ。10年以上前の、コンビを組んでいた頃のアサクラがそこにいた。
 顔の向け方、手の上げ方、少し体を捻る独特の立射スタイル。
 アサクラは大きな男で、188cmの鷲尾が向き合うとわずかだが視線が上を向いた。ジョーもJBでは大柄だがまだ父親には追いついていない。
 しかし鷲尾の目の前にいるのは確かにアサクラだった。
 父親の射撃姿など見た事もないジョーが、その父とまったく同じスタイルで銃を構えている。父と同じ空気を身に纏っている。
 ビシッ!と空気が裂けた。
 ウッズマン・マッチ・ターゲットから発射された弾丸は30m先に的の中心を見事に撃ち抜いていた。続けて2発目、3発目・・・だが的にはたった1発の着弾痕しか残らない。
 前のワルサーのパラベラム弾より威力の低い22口径ロングライフル弾を使用するウッズマンだがフィット感といい使い心地といい、まるで何年も使ってきたような安心感を覚える。
 ビシッ!
 10+1の装着弾が次々と撃ち出される。長年、眠り続けていた銃がその本来の姿を取り戻していく。そしてジョーもまた。
 (だが、なぜアサクラはこの銃を関さんに─)
 Sメンバーの記念の銃だが、アサクラが日本に来た時にはコンビは解消していた。
 2度とSメンバーとしてコンビを組むつもりはなかったのか。それとも─。
 (ジョージの言う通りかもしれない・・・。いや、ジョージに残したくなかったのかも・・・)
 過酷なSメンバーの任務、退官したらすべて忘れたかったのか。息子にはこんな危ない仕事には就いてもらいたくないと願ったのか。
 だがジョーは国際警察のメンバーとしてこの銃と出会ってしまった。アサクラの願いは断ち切られた。
 (そうしたのは、私だ)
 何度思った事だろう。今さらどうしようもないのに─。
 だから私はジョージを見守ろう。自立していく?息子?のこれからを今までと変わりなく─。
 ふと気がつくとジョーが自分を見ていた。髪を乱し、少し上気した顔を鷲尾に向けて。
 「いい銃だ。君が使うのが1番よいのだろう」ジョーの手の中のウッズマンに目を移す。「きっとアサクラもそう思っている」
 再びジョーに目を向けると彼は小さく、しかしはっきりと頷いた。その表情は鷲尾がよく知っているジュゼッペ・アサクラそのものだった。
 この日、鷲尾は午後からの会議を終え、成田空港から帰国した。

 「くそォ。ここも違うかっ」
 一平は最後の1人を床に倒して舌を打った。
 捜査課と共に洸の行方を追っている一平達は、公安が把握している日本各地にある組織がちょっと怪しい動き─例えば、急に人の出入りが激しくなった、活動が活発になったなどの情報を得るとすぐさま現地に飛び調査した。
 時には乱闘になる事もあったが、その中に洸はいなかった。
 彼らはK4─ゾンタークと名乗る奴らがこのままおとなしくなるとは考えていない。またどこかで必ず事を起こすはずだ。奴らの破壊活動を軌道に乗せてしまったら、今度は親玉のザーツが日本に乗り込んでくるかもしれない。ザーツは名前こそよく聞くが、その実体は国際警察でさえ掴めていないのだ。
 「こうなったら・・・」
 ヘロインを密造していた男達を連行する高浜や伊藤達の姿を見ながら一平が呟いた。

 「なんですって、一平が」神宮寺が声を上げた。「1人でですか?」
 「そうだ。1人で新宿のスカウトを捜しているそうだ。今朝から連絡が取れない」珍しくもムスッとした表情で森が言った。「JB2も勝手な行動をするなんて・・・。いったい誰の影響だ?」
 ジロリと目の前に並ぶ2人を睨む。神宮寺は横目でジョーを見て、2人の視線を受けたジョーは口元を曲げてそっぽを向いた。
 「しかしこう手掛かりがなければ、一平のやり方も1つの手だと思いますが」
 「そんな事はわかっている。問題は私の指令の前に一平が動き出した事だ」
 「スネてンですか?」ジョーがニヤリと笑い、また森に睨まれた。「つまりおれ達も新宿を当たってゾンタークのスカウトをとっ捕まえろって事でしょ」
 「スカウトをとっ捕まえても仕方がない。その先が肝心だ」
 「潜入・・・ですか」
 神宮寺の言葉に森が頷く。
 「そんなまどろっこしい事してねえで、スカウトを捕まえて叩けばいい」ジョーがデスクの向こう側の森に迫る。「おれがやります」
 ジョーの瞳が森を捕らえる。彼独特の押しの強さと自信に溢れた輝きに、森は一瞬圧倒され口を噤んだ。
 「・・・・・」
 神宮寺も無言でジョーを見る。ここ数ヶ月の間、時々見せていた不安定な表情が消え、以前の不敵で強引なジョーの貌がそこにあった。
 「洸も一平も見つけますよ」
 森の返事を待たずジョーが踵を返す。そのまま部屋を出て行った。
 後に残るのは彼の熱い想いと凝縮された空気と─。
 「神宮寺君」呼ばれてハッと森に目を向けた。「行ってくれ」
 神宮寺は無言で頷き、ジョーの後を追う。森がホォと息をついた。
 「やれやれ・・・、困ったSメンバー達だ」
 本当に、いったい誰の影響だろう?と、森は首を傾げた。

 翌日、ジョーはセリカで新宿に向かった。駐車場に預け、街中をブラつく。
 平日だが相変わらずの人通りの多さだ。この前と同じ東口に出て歌舞伎町方面に向かう。
 夜をこの街で過ごし、これからの予定もないような男達がブラブラ歩いてくる。
 そのうちの1人がかなり前からジョーに気づき、かすかに薄笑いを浮かべ近づいてくる。が、すぐに足を止めてしまった。
 長身の、ガッチリした体格、素肌にレンガ色のシャツを着、その上にレザーのハーフコートを羽織りゆっくり歩を進めてくるジョーの迫力に圧倒されたのだ。
 男に近づいたジョーがチラッと目を向けてきた。
 短くなった前髪がサラリと流れ、その下から青い眼光が男に向かう。
 自分達の手に負える相手ではないと判断したのか、男達は硬くなった体を無理矢理動かしジョーの前から消えた。
 「そんな怖い顔をしていたら、誰も声を掛けてくれないぜ」
 いつの間にか神宮寺がそばに来ていた。が、ジョーは顔を背け再び歩き始める。
 「掛けてくれないなら、こっちから掛ければいいだろ」
 クッとアゴをしゃくる。その先には以前ジョーに声を掛けた若い男がいた。今日も営業中のようだ。
 「あれ、あんた達」男も2人を覚えていたようだ。「電話待ってたんだよ。君なら─」
 「この中にあんたの知ってる顔はいないか?」
 ジョーが、洸と一平を含む5枚の写真を出した。いずれも20代の若い男達だ。男は、え?と・・と首を傾げた。
 「あんたが声を掛けた奴の中にいなかったか?」
 「自分が声を掛けた奴の顔は覚えているけど・・・この5人はいなかったな」
 うそをついているようには見えなかった。
 ジョーは神宮寺を見た。彼も小さく首を振っている。
 「なら、いい」
 ジョーが行こうとしたところへ
 「なに?あんた達、ケーサツ?まさかねえ」ケロケロ笑い出した。が、枯葉色の髪の間から射る青い刃に身を竦ませる。「な、なんだよ。?その筋?の奴らか・・・」
 男の呟きにジョーがふっと口元を歪めた。
 当たらずとも遠からずだ。目つきの悪さは自分の中に流れているマフィアの血のせいかもしれない。
 だがそれがどうした。利用できるものはなんでも利用してやる。どうあがいてもこれがおれだ─。
 ジョーは男にきつく笑いかけた。が、それはかえって男の恐怖心を増しただけだった。
 神宮寺とジョーはこの日1日西新宿や反対側の東口、歌舞伎町界隈を中心にスカウトらしい男に声を掛け写真を見せたが、なんの情報も得られなかった。
 もちろん相手がうそをついている事も考えられるが、神宮寺が見た限りでは?ない?と思った。
 「奴らのスカウトはもうここにはいないのかもしれないな」2日目に入り神宮寺が言った。「洸達と一緒に移動してしまったのかもしれない」
 だがジョーは歩みを止めようとはしなかった。彼のカンが奴らの仲間がまだこの辺りにいると告げていた。いや、正直言うとそうあってほしいと願っていた。
 チーフに大口叩いた手前、手ぶらでは帰れない。結局あの日から一平もJBには現れないので、どこかに潜入しているはずなのだが。
 「こうなったらちょっとやばい手を使うしかないかな・・・」
 「何をする気だ?」
 「そんなに大した事じゃない。あっちこっちぶっ叩いてゾンタークのスカウトに来てもらうのさ。うまく奴らの中に入り込めたらこっちのものよ」
 「それを?潜入?っていうんだぜ、ジョー」
 呆れる神宮寺に、そうか、とジョーが眉をひそめた。
 「ま、どっちでもいいさ。要は奴らの─」
 ふいに言葉が途切れた。2人の前に6人の大柄の男が立ち塞がった。みんな一癖も二癖もありそうだ。殺気を体中から発している。が、ジョーも神宮寺ももちろん大歓迎だ。
 「誰かを捜しているようだな」短髪の男が言った。「そいつになんの用だ?」
 「誰だい、あんた達」ジョーが凄む。「なんでそんな事を訊く」
 「おれ達はそいつを知っているからさ。あんたとそいつの関係は?」
 「友人だ。金貸しているんだが、バックレやがったから捜しているんだ」
 「金?いくらだ」
 「─50万」
 ジョーが答えると短髪の男は笑い出した。
 「なんだ、それっぽっちか」そう言い、男がジョーに近づく。「もっと金が入るいい仕事があるぜ。ちょっと遠くへ行くが帰る頃には抱えきれないくらいの金を手にできる」
 「ヘェ・・」ジョーの目が輝く。「で、何をするんだ?」
 「その前に、なっ!」
 男がいきなりジョーの顔目がけて拳(けん)を繰り出した。が、右手でバシッ!と止められた。ジョーは男の手を掴んで後ろに捻り上げる。
 「て!ててっ!」
 「なんのまねだ」
 ジョーが男を睨めつけ、神宮寺が他の5人を牽制する。
 「わ、悪かった!ちょっとあんたらの腕だめしをしただけだ!」
 男がわめく。ジョーが手を放してやると、素早く2人のそばから離れた。
 「ケ、ケンカ慣れしているな。どうだ、おれ達の仕事を手伝わないか?」
 男の言葉に2人は顔を見合わせた。
 この男達がゾンタークのメンバーだという確証はない。行ってみて違いましたというのでは時間の無駄だ。2人は決心した。そして
 「そいつはゾンタークの仕事か」
 ジョーが言った。とたんに男達の表情が変わった。ヒットだ!と2人が確信する。こいつらを全員ひっ捕まえて─。
 「お前達、何者だ」我れに返った男が叫ぶ。「いや、かまわん。やっちまえ!」
 それを合図に男達は3人づつに分かれて2人に向かってきた。
 「1人も逃がすな。面倒な事になるからな」
 一平はおそらくゾンタークに潜入しているのだろう。その一平の友人と名乗ってしまった。もし1人でも逃げられたら一平が危なくなる。
 「わかってるよ!」
 1人に回し蹴りを食らわせジョーが答えた。左右から迫るのを、1人の腹を蹴り上げもう1人に手刀を入れる。が、相手もテロリストとして訓練を積んできた男達なのだろう。一度は地面に転がるものの、またすぐ起き上がって向かってくる。
 「少しはできるな」
 神宮寺は相手が正面から突いてくるのをその外側に入り、体を転換させ捌いた。そして相手の手首を取り外側に反して投げる─合気道の技の1つ、突き小手返しだ。
 基本的に合気道は空手のように自ら攻撃を仕掛ける武道ではない。相手の攻撃を間合いと体捌きで無力化してしまうものだ。
 だから次に相手が横に回り込んで打って来たら、その動きに合わせて自分も回り込み腕を取り後ろに反して投げる。
 だが裏通りとはいえ、真昼間の新宿での乱闘に次第に人が集まりだした。
 一般人にケガ人が出たらまずいな、と思った瞬間、ジョーの脇腹に蹴りが入った。
 「うわっ!」4日前、爆弾でやられたところにヒットした。手で押さえ転がる。キズが裂けて血が飛んだ。「くそォ、お気に入りのコートだぜ!」
 ジョーはすぐさま起き上がり、蹴りを入れた男の正面に打ち込んだ。が、その時、ピリピリ・・・という笛の音と共に警官が走ってきた。
 「何してる!おとなしくしろ!」
 3人の警官が息込む。しかし、その時にはすでに男達は神宮寺とジョーに倒され地面に転がっていた。2人の警官と後からパトカーで到着した4人の警官が次々と男達を引き起こしパトカーに乗せていく。
 「君達もくるんだ」
 私服が2人に言った。ジョーが何か言おうと口を開いたが、
 「一緒に行った方がいい。彼らは新宿署の警官だ」
 神宮寺が言った。
 新宿署にはJB直属の特別課がある。2人にとって優位に動くはずだ。と、パトカーに乗せられる寸前だった男が警官の手を振り切り走り出した。
 「まずい!」
 神宮寺はとっさに、近くにあった路上看板を取り男の足元に投げつけた。男がひっくり返る。
 「たまには、こっちから仕掛けたいぜ」
 男の襟足を掴み警官に引き渡した。私服が目をパチクリさせて2人を見た。


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